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竜侯の赤石

 ベルンス山からは特別モンスターに遭う事もなく帰って来ることが出来た。

 道中、イロリナとシスイが仲良く話していて、シスイの尻尾が機嫌良さそうに揺れていた。シスイとはまだ二度しか会った事がないが、尻尾に態度が出ちゃうタイプなんだろうな。

 そうそう、帰りがけに、昨日、菓子パンモドキを捧げた簡易祭壇にお祈りをするのも忘れない。昨日は貧乏神サマサマだったからな。貧乏神様の言う通り、菓子パンモドキは綺麗さっぱり無くなっていた。今度材料が揃ったら、また美味しいものを捧げるとしよう。

 端から見れば、妙な木箱に祈祷している俺は不審者に見えただろうな。シスイが怪訝な目を向けていたが、イロリナが何か説明せてくれていたみたいだ。特別何か言われる事も無かった。



「とりあえず戻ってきたけど、アンタらもまだ朝食べてないやろ? アンちゃんもこんなに早く帰って来るとは思ってないやろうし、ご飯食べてから行こか?」


 シーボの町に着くと、シスイはそんな提案をしてきた。勿論、俺は賛成だ。別に急がなくても良いだろう。


「それなら、先に宿に荷物置いてきても良いかな?」


 賛成の意を告げると、イロリナから待ったがかかった。確かに、テントやら何やらを持ち歩いて食事に行きたくはないな。ちなみに、昨日戦うときは地面に投げといた物だ。野営用に購入したが、あんな使い方が続くとすぐ駄目になりそうで不安だ……


「せやな。したら、荷物が片付いたらギルドで合流しよか。ウチは先に行ってるから、アンタらはゆっくり来たらええ」


 そう言うと、シスイはギルドの方向を指差した。

 そういやギルドで軽く食べ物も頼めるなんて言ってたな。宿以外の外食なんて初めてだし、ちょっと心踊るな。さっさと荷物片付けてこよう。


「悪いな。ちょっと行ってくる」

「じゃ、あとでね」


 二人でシスイに声をかけ、宿に戻った。幸い、町の入口からそんなに離れてはいない。手短に荷物を整理して、シスイの待つ定食屋に向かう。討伐品の爪と牙は『収納』してあるから大丈夫だな。

 『竜侯の赤石』だけは、もう『収納』出来るスペースが無かったので手持ちだ。爪と牙の空いた空間に入りそうなもんなのに、どうやっても仕舞いきれずこぼれ落ちてきてしまっていたからだ。まぁ、かさ張るもんじゃないし、気にならないけどな。





「来はったな。ほな、行こか」


「待たせてごめんね?」


「そんなん気にせんでええわ。いきなり誘ったんもウチの方やし、ステータス確かめてたらすぐやったわ」


「そう言って貰えるとありがたいな」


「エエてことよ。さ、早よ食べよ」


 シスイに促されてギルドの一角にあるテーブルにつく。初めてシスイと出会った場所だ。そう言えば、荷物持ちに雇われてたオッサン達がいないな。


「なあ、あの人達は何処行ったんだ?」


「あの人……? ああ、持つ荷物も無いから、早々に解散したで」


 おぉう……結構ドライなのな。飯食うってわかってるなら、一緒しても良いだろうに。そんな思いが伝わったのか、シスイとイロリナからそれぞれフォローが入った。


「ま、ちゃんと報酬は払ったから、大方、次の仕事でも探しとるやろ」


「そ、思ったより早く仕事が終わったし、違う仕事するか、今日は休みにしちゃうか。よっぽどウマが合えばご飯でも、ってなるかなぁー」


「そういうもんか……」


「ま、冒険者なんて明日がどうなるかわからん仕事やしなぁ……あんまり気にせんでええのよ」


 明日どうなるかわからない、か……

 確かに、昨日のは強烈だったもんなぁ……

 もしかしたらここに帰ってこれない可能性だって十分あった。それは冒険者なら皆同じだ。あんまり仲良くなりすぎて、情が深すぎると辛い事もあるんだろうな。もしかしたら、二人ともそういう経験をしているのかもしれない。

 うん、あんまり他人に気にしないで朝飯に集中しよう。あくまで、パーティーメンバーやその友人、あとは俺が気に入った人間だけと深い仲になっていけばいい。今は、それでいい。


「じゃ、ウチはナカトリの香草焼きとパンを頼もうかな。イロリナは?」


「あたしは魚にしようかな。川魚のバターソテーにパンで。ユウゴは?」


 気付いたら二人ともメニューを決めていた。慌ててメニュー表を見ようと思ったが、何か聞き慣れないフレーズが合った気がする。


「ちょ、ちょっと待て。川魚はわかるけど……ナカトリってなんだ?」


「ナカトリ知らんの!? どんだけ田舎におったんよ……」


 いや、知らんもんは知らんよ。名前からして、鳥の一種だろうけど……聞いたこともない。


「ほな、食べてみたら? 香草焼きと特製ソースとあるけど、どうする?」


「じゃあ特製ソースで、それにパンかな」


「大丈夫? ちょっとクセ有るよ?」


 心配そうにイロリナが見つめてくる。ただの鳥じゃないんだろうか?

 まあ、食べれない程じゃないだろう。大丈夫、と返してオーダーを頼んだ。


「さて、料理が来る前に……イロリナ、ちょっーとお願いしてええ?」


「あたし? なに?」


「いやな、あそこの掲示板にウチへの依頼が無いか見てきて欲しいんよ。自分で行ってもええんやけど……ウチが掲示板におると色々頼まれる事が多くてな」


「ああ、七ツ星だもんね。依頼探してるならーって頼まれちゃうこともあるんだ?」


「そやねん。せやから、名指しのものだけ選択しよ思うてな。書面ならまだ選んで断りやすいやろ?」


「そういうことなら、良いよ。難しくないし」


「悪いなぁ……料理が来るまででええからな」


 イロリナは席を立つと、掲示板に向かって歩いていった。掲示板にはそこらに貼り紙がしてあって、パッと見ただけで結構時間がかかりそうだ。

 シスイと二人、残されるがあんまり話せる話題がない。どうしてイロリナに頼んだ……


「さて、単刀直入に聞こか。アンタ、イロリナに何したん?」


「何って……特に何もしてないぞ?」


「ホンマ? その割にはアンタの事ばっかり話すねんな。てっきり、何ぞ仕出かしたんかと思っとったわ」


「それは……『百花繚乱』がよっぽど嬉しかったんじゃないか?」


「そらそうやろけどなぁ……まぁ、まだ何にもしてないならそれでええわ。せやけど、イロリナを泣かすような事があったら、タダじゃおかんで?」


「肝に命じておくよ……というか、本当に仲が良いんだな」


「まあ、色々あったんよ……」


 そう言ってシスイは口を閉ざしてしまった。瞳は所在無さげにギルドの喧騒を見つめていて、これ以上の返答は期待できなさそうだ。何があったのか、めっちゃ気になるけど、今は聞いても答えてくれないだろう。仕方なく、黙って掲示板の方を見る。イロリナは何も知らずに依頼を探しているようだ。実際、そこにあるかわからないのに。


「でも、アンタとつるむようになって、良いこともあったみたいやな」


 不意に、黙りこくっていたシスイが口を開いた。先程とは違い、しっかりとその瞳が俺を捉えている。


「良いこと?」


「ああ、以前のイロリナなら、何があっても自分から竜と戦おうなんて言い出さなかったやろ。アンタと関わって、少ーし自分で動こうゆう気になれたんちゃうかな。それは、前のイロリナを知るウチからしたら、大成長や」


「まあ、自分で腰巾着って言ってたもんな……」


「腰巾着……? ハハッ、そら違いないわ。なんや、自分でもようわかっとるやないの」


 そう言って楽しそうにシスイは笑いはじめた。これだけ笑う彼女は初めて見たな。つい、釣られて俺も笑ってしまう。


「ちょっとー! 二人で何楽しそうにしてるのよ!! シスイ宛の依頼なんて全然無かったわよ!!」


 と、頬を膨らませながらイロリナが戻ってきた。その様子を見て、二人して更に大きな声で笑ってしまう。

 感じが悪いとは思うが、こんな風にグループで話すのは久々なんだ。少しだけ、大目にみてほしい。


「もうっ! 何なのよ! ほらっ!! ユウゴ、ナカトリの特製ソース来たわよ。食べてみなさいよ!!」


「お、ありがと……う?」


 どうやら料理も到着したようだ。イロリナが俺に皿を渡してくる。見た目はただの鶏肉だけど、異様に赤い。大丈夫か、コレ?


「ほらっ!! 早く食べてみなさいよ!!」


 ちょっと怒ってるみたいだ。今更突っ返す訳にもいかず、恐る恐るナカトリを口に入れる。うん、鶏肉だな。


「って、辛っ!! なんじゃこりゃ!!!!」


 水、水、と慌ててウェイトレスに頼む。その様子を見ている二人に大爆笑された。さっきの意趣返しか、こんにゃろう。







 あの後、水を何杯もがぶ飲みしながらどうにかしてナカトリを食べきった。あの辛さは某蒙古タンも裸足で逃げ出すレベルだった……二度と食べたくない。

 そんな辛い思い出と共に、向かった先はアンバーレッドの館だ。相変わらず、館の主までの道のりは遠い。だけど、これで『鑑定』してもらえると思えば、自然と足も軽くなる。ようやく七ツ星装備の真価がわかるなんて考えていたら、あっという間に彼女の元に着いた。


「アンちゃーん!! 帰ったでー!!」


 そう叫びながら、シスイが勢いよく扉を開いた。


「……何度も言ってるでしょう。その呼ばれ方は好きじゃありません。それと、入るときはノックを」


 案の定、アンバーレッドにお小言を貰っている。多分、これはわかっててやってるんだな。


「しかし……随分と早いお戻りですね。貴女が出ていったのは、今朝の日が出る前とは言え、もう竜を退治して来たんですか?」


「それがなぁ、アンちゃん。ごめんなぁ、ウチ負けてもうた」


 ちっとも悪びれていない様子でシスイが事の顛末を説明しはじめる。最初は驚きの表情を浮かべていたアンバーレッドだったが、少しずつその顔に笑みが混じってきていた。な、なんか怖いです……


「やっぱり、ボクの見立てに間違いは無かった!!」


 シスイからの説明を全部聞き終えると、唐突にアンバーレッドが叫び出した。そして、こちらに顔をくるりと向けると、


「ユウゴ君だったね。いや、短期間でこれだけの成果をあげているんだから大したものだよ。君も天才と言われる部類の人間なのだろうね。ああ、わかってる。いや、わかっていた。ボクの眼は誤魔化せやしない。何かしら君が『持っている』人間なんだとは最初から気づいていたさ。そもそも………………」


 と、早口で捲し立て始めた。まだその早口は続いている。だけど、早口過ぎて所々しか意味が理解できない。今までクールなイメージがあったが、これだけ熱く語られるとびっくりするな。その視線に気がついたのか、アンバーレッドはコホン、と咳払いを一つすると


「すまない……少し熱くなりすぎた……」


 と、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに謝った。

 いや、ボクっ娘に興味は無かったんだが、これは中々……


「とにかく、君は天才で、それに気付いたボクの眼も凄いと言うことだよ」


 んー……別に七ツ星の装備を持っているって知っている人間なら、そこそこ予想出来そうな気もするが……まぁ癇癪を起こされて、約束を反故にされても困る。適当に同意しておこう。


「ふふん……では、討伐した証拠を見せてくれるかな?」


 何も言わずに頷いたのを見て気を良くしたのだろう。小さな胸を張って討伐品の提出を求められた。素直に爪と牙を出し、最後に赤石を見せる。


「これは……確かに竜の牙と爪だね。それと、この赤石……まさか……」


 竜の牙と爪は一瞥して終わりだったが、赤石の方は黙って見つめている。竜侯なんて名前付いてたもんな。きっと貴族の持ち物なんだろ。


「これ、本当に倒した竜が落としたのかい? 山に落ちていたとかではなく?」


「ああ、巨大な竜を倒したら赤く光って……残っていたのをイロリナが拾ってくれた」


「えへへ……目ざといでしょ」


 急に振られて驚いたのか、イロリナがはにかんで笑っている。うん、やっぱ可愛い。


「巨大な竜……間違いないだろうね……これは、『赤竜侯の秘石』だよ」


「なんやて!?」


 おや?

 名前が少し違う。それにシスイがかなり驚いている。そんなにビックネームなのか、赤竜侯氏。


「ピンと来ていないようだから説明するとね、これは竜の貴族の宝物だ。これ一つを見せつけるだけで、小さな冒険者ギルドのマスターになれるだろうね。それくらい、腕の立つ冒険者という証明になる物だよ。それに、美術的価値も高い。赤く鮮明に透き通っていて、それでいて力強さを感じさせる渋みを持っている。相反するような言葉だけど、成立させているのは竜の魔力かな? 同じ赤い宝石のルビーにはない力感がある。売買すれば、金貨では足りないだろうね。その上か、あるいはさらにその上……」


 おぉ……流石、シスイが驚くだけはある。金貨の上って何だろう? 金塊とかそう言うのかな?

 思った以上にビックネームでした、赤竜侯氏。


「恐らく、これを売買するとなれば商人の星なんて簡単に上がるだろうね」


「ん? 商人の星……?」


「ああ、商人は大きな商いを成功させることで星が上がるんだ。そういう意味では、地力がある商人と、ポッと出の商人じゃスタートラインに差がある職業と言えるね」


「ま、マジか!! なら早くギルドに行って商人に転職しないと……」


「そう焦らなくても良いよ。今、商人になった所で、ここで売買は成立しないから」


 そう言って、アンバーレッドは俺の足を止めた。

 え? だって売買をしたら商人の星が上がってめっちゃハッピーじゃん。何で駄目なん?


「ここに秘石を買う必要がある人間がいないんだよ。イロリナは同じクランのメンバーなんだろう? シスイはそもそもそんなの必要ない。七ツ星だしね。実力は既にみんなが知る所だし、宝石の類は持ち歩かない。ボクの方はと言えば、まず冒険者じゃないし。宝石商でもなければ、美術品にも余り興味が無い。不要だね」


 と、指折り数えるアンバーレッド。

 あー……マジかー……せっかく商人の星が上がって『鑑定』も『収納』もやりたい放題だと思ったのに……


 あれ、待てよ?

 がっかりしているとあることに気付いた。


「そういえば、商人の星が上がる方法。そんなに簡単に教えて良かったのか?」


 そう、元はと言えば商人の星上げにいくら値段を払うか、ってところから始まった。なのに、値段も取らずに教えてくれたのには何か裏があるんじゃ……


「ん、構わないよ。だって、ボクがユウゴ君のクランに入るからね」


「え?」


 何を言っているのか、急すぎて理解が追い付かない。周りを見るとシスイもイロリナも同じ顔をしている。多分、俺も同じ顔をしているんだろう。鳩が豆鉄砲を食ったって奴。


 アンバーレッドの方はニコニコとこちらの返答を待っているようだ。

 いや、有難いんだけど……ちょっと動機を教えてくれませんかね……?

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