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孤影燦然

本日二回目の投稿です。

 イロリナを寝かせたまま、ボーっと焚火を見ていた。勿論、火が消えないよう、その都度余らせていた枯れ木をくべてはいたが。

 幼竜が襲い掛かってきたら危ないとは言え、四六時中警戒しておく必要もないだろう。時々、巣があった方を見て変化が無いか確認してはいたが、何の変化もないまま時間だけが流れていった。


 気付けば、空は薄っすらと白澄んできていて、朝が近いことが伺える。夜は少し曇天だったが、幸い雨も降らずにやり過ごせたみたいだ。


「竜は……変化なし、っと……」


 何度目になるか、幼竜の方向を目視し、何もないことを確認する。かなりの数がいた様に思えたが、取り越し苦労だったのかもしれない。あるいは、逃げ去った竜が一緒に連れて行ったとか。だとしたら、この場に留まる意味は益々無くなる。貧乏神様は俺に何をさせたいんだろうか。


 そんな実が無い事を考えていると、山のの方から音が聞こえてきた。幼竜の巣があったのは山頂方向。頂まで行かなくとも、中腹辺りではあったはずだ。逃げるときに山を降ってきている訳で、当然、麓の方から聞こえる音はの何かだ。


「一体何が……?」


 聞こえてくる音は徐々に近づいてきている気がする。それも、単体じゃない。何個か複数の音が重なり合って聞こえてくる。だけど、竜の様に重量感は感じなかった。


 登山者? こんな時間に……?


 とりあえず、一度イロリナを起こしておこう。何か、動き出してる気がする。



 イロリナに声を掛けると、彼女はすぐにテントから出てきた。昨日は比較的早く休んでいたし、起きるのも早かったんだろう。まぁ、いつも俺より早起きだが……


「おはよ、随分早いね。交代する?」


「ああ、おはよう。交代じゃなくて、麓の方から何か近づいてる気がするんだ。少し、探ってみてくれないか?」


「麓……?」


 イロリナも不思議に思ったのだろう。だが、多くは聞かずに気配を探知してくれているようだ。幼竜がいる方向とは逆方向を向きながら、感覚を研ぎ澄ましている。


「…………あぁ、なんだ。人間よ。ユウゴも知ってる人」


 俺も知ってる……?

 この世界に来て、知り合いはそんなに多くない。なおかつ、今日この山に来る予定がある人間は一人しかいない。


「シスイ、か?」


「そう。でも、随分早いわね……もう少し余裕を見てきても良かった筈なのに」


 そうイロリナと話していると、徐々に山を登ってくる人間の輪郭が見えてきた。

 目に入ってくるのは朝日を浴びて綺麗に反射する銀髪。そしてそこから黄色く主張しているケモ耳。間違いなく、シスイだな。


「あら、アンタら、もう来とったんか。えらい早いなぁ」


 シスイは俺達に気付くとそんな事を話しかけてきた。


「いや、それはこっちのセリフだ。今日、山に登るとは言っていたが、こんなに早朝から登ってくるものなのか?」


「そら、アンタらに先越されたら困るし? ウチか負けてしもたら七ツ星が泣くわ」


 そりゃあ、七ツ星の冒険者が駆け出しの冒険者に負けたとあったらなぁ……


「ま、アンタらも出し抜こうと思うたからこそ、今ここで野営しとるんちゃうん?」


「そうだな……間違ってない。けど、一つ教えておくぞ。竜は退治した。残っているのはその子供と思われる幼体だけだ」


「は?」


 シスイは口をぽかんと開き呆けている。こらこら、イロリナと言い、どうして若い女の子がそんなはしたない恰好をするかね。


「ん? 聞こえなかったか? 竜は退治した。残っているのは――」


「ああ、ええわ。聞こえとるよ? せやけど、その証拠となる牙はどこにあんの?」


「俺は一応商人も経験してる。『収納』で無理矢理入れた」


 あったー…………と額に手を当てながらシスイが項垂れている。これだけ早起きして登山して、無駄になるのも辛いだろう。俺だったら嫌だ。


「ホンマに倒してしまったんかいな……まさかそんなに早く成長するとは思わなかったわ……」


「まあ、かなり厳しい戦いだったけどな」


「ホント、ホント。だから、ここで野営して休んでたのよ。昨日は倒し終わったらぐっすりだったんだから」


「はぁ、まあ済んだことはしゃあないな。ウチらはくたびれ損の骨折り儲けっちゅう訳や。ほな、帰るで」


 シスイはそう言いながら、連れてきた仲間連中に声を掛けている。仲間の連中はどれも屈強な肉体をしており、見た目だけで比べると明らかに俺よりも強そうだ。


「あ、待って。シスイ、実はさっき幼竜がいるって言ったでしょ……? あれ、見てきてくれないかなー……なんて」


「はあ? なんでやねんな。アンタら、成竜を倒したんやろ? せやったら、幼竜の一匹や二匹、大したことあらへんやろ」


「それが、一匹や二匹じゃないと思うんだよな……」


 そう答えると、シスイの目が鋭く光った。


「……どういう事やねんな」


 俺とイロリナは、簡単に竜を発見した時の状況をシスイに伝えた。成竜は全部で四体いたこと、幼竜の群れがいたこと、巨大な竜がボスで巣くっていたこと、成竜は三匹まで倒したが一匹は逃したこと。そこまで伝えると、シスイはニヤリと笑った。


「つまり、成竜はもしかしたらまだ残っとって、間違いなく幼竜の群れがこの先におるっちゅうことやな?」


「あ、ああ。多分成竜は飛び去って行ったから残ってないと思うけど……」


「それはそれでええわ。どっちにしろ、そんな大群がこのまま成長したらシーボの町はエライことになるわ。せやったら、今の内に危険の芽は摘んでおくに限るわな」


「シスイ殿、行かれるのか?」


 屈強な男の一人がシスイに話しかけた。話しぶりを見ると、仲間って言うより部下みたいな感じなのかな。


「ああ。ちょっと今のこの子らには荷が重いやろ。たまにはウチもガス抜きせんとあかんしな」


 そう言って、シスイは一人で山の頂へと歩き始めた。


「お、おい! 一人で行くのか!?」


「アンタらはここで待っとったらええわ。というか、付いてきても邪魔や。多数を相手にすんのに、ウチは一人の方が都合がええねん」


 待て、と言うのも聞かずに、シスイは駆け出すとあっという間に姿が見えなくなってしまった。この間の追いかけっこも、本当にこっちに合わせてゆっくり走っていたんだな。


「多分、任せちゃって大丈夫だと思うよ。囲まれた時ほどシスイは強かったし、『孤影燦然こえいさんぜん』は伊達じゃないって」


「そうなのか? っていうか、どういう意味なんだ? その『孤影燦然』って」


 ゲームの二つ名になっていたが、意味までは調べていない。なんとなく、語呂が恰好良いとは思ったけどな。


「孤影は一人きり、燦然は輝く様子、だったかな? つまり、一人だけでも十分輝けるってことよ」


 とイロリナに説明される。ふーん……凄い名前だなぁ。


「そりゃ凄いなぁ……誰がそんなの付けてるんだか……っていうか、あんた達は行かなくて良いのか?」


 残されたシスイの部下達に尋ねてみる。いくら何でも、ここまで来たのに置いてけぼりは可哀想だろう。


「我々は牙を持ち帰るのに雇われただけだ。戦闘には手出ししない……」


 と、肩を落としながら言われた。おおう。そんな強そうなガラしてんのに、荷物持ちかよ……






 体感で三十分ほどして、シスイはニコニコしながら帰ってきた。


「いやー、ごっつおったわー。久々にあんなに暴れたわー。たまにはああゆうのもええなー」


「ちなみに、どれくらいいた?」


「せやなぁ……五十を超えたあたりで数えるのやめたわ」


 ご、五十!?

 あの狭いスペースにそんなに群がれるもんなのか?


「ああ、奥の方に洞窟があってな。そっからわらわら湧いてきたわ。ちゅうても、人間よりちょい小さいくらいのもんやったからな。ささっと、な」


 そう言って腰の小太刀で抜刀、納刀を繰り返した、んだと思う。っつーか、見えない。キン、と鍔鳴りが聞こえたからそう思っただけだ。こんだけ早ければ、そりゃ相手にもならずに一方的に斬りつけられるだろうよ。


「で、アンタらもうこの山に用はないやろ? ウチも降りるし、一緒に帰ろうか?」


「お、良いのか?」


「いい獲物紹介してくれたからなぁ。勝負はアンタらの勝ちでええよ。戻って、アンちゃんのとこに一緒に行こか」


「やった。シスイ、色々話したい事あったんだよねー」


 元々仲が良かったイロリナは笑顔を浮かべている。考えてみれば、あんまり話す機会が無かったもんな。戻りがてら、ゆっくりと話をしてもらおう。


 とりあえず、ベルンス山の竜退治は一段落したかな……『鑑定』するためだけにこんなに苦労するとは思わなかったぞ……

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