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魔法戦士の真価

 巨大な赤竜と対峙してから、何発ほどあの熱線を躱しただろうか。先ほどから凄まじいレーザービームが体の近くを掠めていっている。

 初発のレーザーを退けてから、すぐにイロリナの『踊り』は効果を発揮してくれた。しっかりとステータスに補正がかかっている今、あれだけ溜めが大きい攻撃なら発射のタイミングがわかるし、効果範囲の狭いレーザーを躱すことはそう難しくはない。

 流石に速度はかなり速く、何発か羽織に掠っているが……六ツ星は伊達じゃ無いようだ。そこから焦げ付いたり、穴が開くことは無いようだ。とはいえ、真正面からあの砲撃を受け止める勇気はない。


「ユ、ユウゴ!! 右に避けちゃダメよ!!」


 時折、後ろからイロリナが避ける方向を指示してくれている。イロリナにビームが当たらないよう、出来るだけ後方に離れた位置で踊ってもらっているが、それでも同じ射線上にいたらイロリナにも被害が及ぶ。彼女も俺が受ける気が無いのはわかっているのだろう。同一線上に並ばないよう、声掛けをしてくれている。


「ああ! 悪いけど、後ろの方向までは気を使えない!! 逐一教えてくれ!!」


「ええ!! あたし、踊りながらじゃ避けきれないからね!! 絶対近づかないで!!」


 再度巨竜の口が開き、その周囲の熱が高まっていく。見た目にも、赤い光を放ち始めるからわかりやすい。それが橙色から徐々に白色の光になってきたら発射の合図だ。

 わざと止まり、狙いを定めやすくしてやる。こちらに向けて一際大きく口を開いた時、全速力で左右どちらかに体を動かしてやればいい。今度は羽織を掠めることなく避けきれた。


「グルルルゥゥ……」


 巨竜はというと、恨めしそうにこちらを睨んでいる。自分の必殺の一撃が当たらないことに苛ついているのだろうか。竜からしたら、俺達は周りを飛んでいるハエにでも感じるのかもしれない。ハエ叩きの要領で、その巨大な尻尾を振り回された方がよっぽど困るんだけどな。


「ユウゴ!! 攻撃して、攻撃!!」


 イロリナが後ろから捲し立ててくる。勿論、俺も相手の攻撃を避けてそのままって事はしていない。その都度反撃を試みているが、『紅蓮の煙管』による打撃は、先の戦闘でわかっているように効果が薄い。避けられるとはいえ、レーザーは間隔が短く、『アイススピアー』を使う間が無かった。必然的に、膠着状態に陥っていく。


「このままじゃ、不味い……なぁ……」


 イロリナの不安を煽りたくはないので、小声で愚痴る。巨竜のレーザー攻撃がどれくらい続くのかはわからないが、ゲームなんかだと、ああいうブレス系の攻撃って無尽蔵だったよな。それに対して、俺の体力は有限。インターバルがあると言っても、その間に攻撃もしているし、少しずつ疲労は溜まってくる。

 それに、『アイススピアー』が発動できたとしても、一撃で倒せるかはわからない。倒せなかった時は、間違いなくMPが切れて戦闘継続は困難だろう。


 お互い、決定打がない……いや、余力があるのは巨竜の方か。もしあの爪や尻尾を含めたコンビネーションで襲いかかってきたら、流石に捌ききれないな。

 そうなる前に、何か打開策を見つけないと……


 ちらり、とイロリナへ目をやる。『百花繚乱』ならあの鱗を貫いてダメージを与えられると思う。イロリナのSTRで前の赤竜をバラバラにしたんだ。俺が使えば目の前の巨竜にも効果がある筈。


 けど、どうやって『百花繚乱』を受け取りに行くか……


 レーザーを避けて、次のレーザーが放たれる前にイロリナから剣を受け取る。後方に離れている分、彼女に辿り着いた瞬間に、次のレーザーが飛んできて貫かれるな。下手したら受け取る前に後ろから射抜かれる。却下だ。


 そんな考えを繰り広げている間にも、巨竜からレーザーは飛んできている。慣れも出てきて掠めることも無くなったが、いつまで保つかわからない。躱せている今の内に考えをまとめないと……


 結局、今ある『紅蓮の煙管』で殴るか、魔法でどうにかするしかない。Jobが魔術師だったら、もっと初歩的な魔法でも威力があったのかもしれないが……


 ん?


 今のJobは魔法戦士、だったよな?


 イメージだと、魔法も使える戦士、が先に来ていたが、それこそゲームなんかだと魔法を武器に纏わせて戦ったりもしてなかったか?


 俺は巨竜の攻撃の合間に、『紅蓮の煙管』の火皿を見つめた。先程吸った煙草がまだ滓となって残っている。もう一度火を点ければ煙くらいは起こるかもしれない。勿論、優雅に一服をする余裕はないが。


 思いついたことは試してみるに限る。魔法をまとった武器、のイメージだ。『紅蓮の煙管』と相性の良さそうな火の魔法にしよう。

 指先からの魔力をさらに細く、長く、煙管の吸い口から羅宇らうを通り、雁首、火皿の先の煙草まで渡していくイメージ。

 赤褐色を放っていた『紅蓮の煙管』は徐々にその赤色を増し、鮮やかな紅の朱へと変色していった。


 いける……なんとなく、そんな気がする。


 魔力を通している間に、再度放たれたレーザーを躱す。今度は横方向にではなく、斜め前方へ滑り込むように。

 巨竜との距離を詰めて、戦技を繰り出す。Jobが戦士だったときに、再三、練習したあのタイミングだ。強く踏み込み、斜に煙管を一閃する。


「ギャウ!?」


 巨竜が驚いた声をあげたが気にしない。打撃だけでは効果は薄いんだ。魔力が篭ったこの攻撃が突破口になるよう、休まずに技を繋いでいく。逆袈裟からの返す袈裟切り、勢いをそのままに回転し横薙ぎ、止めに振り下ろしの一撃……今、体が覚えている限りで最大の連撃を叩きこんだ。


 そこまでやって、『紅蓮の煙管』から業火があがった。今まで煙草を使って放っていた火炎の倍以上、あの巨竜の体をしっかりと包み込むほどの巨大な炎だ。火に巻き込まれないよう、慌てて後ろに下がっていく。


「ギャアァアアアアアッ!!」


 火炎攻撃を得意としていた赤竜のボスとはいえ、流石にノーダメージとはいかないのだろう。苦しそうな悲鳴が聞こえてきた。炎に包まれていてその挙動は見えない。この状況でレーザーを吐かれたら不味いな。予測が出来ない分、避けられないと思う。今の内に距離を取って、イロリナから『百花繚乱』を受け取っておこう、とさらに後方へ下がっていくと、


「す、凄いじゃん!! やっつけた!!」


 と、イロリナが駆け寄ってくるのが見えた。『踊り』も解いて完全に安心しきっている。


「お、おい!! まだやっつけたとは……」


「平気よ、あの炎だもん。流石に生きて……」


 そう返答が返ってきた瞬間だった。


「グルアァァァァァァ!!!!!!」


 火炎を振り払って、強烈な咆哮と共に巨竜が再度姿を現した。その双眸にはありありと怒りが灯っている。幸い、距離を取ったのにまだ気づいていないようだ。イロリナが近寄っている今が『百花繚乱』を受け取る最大のチャンスだ。


「おい!! 『百花繚乱』、貸してくれ!!」


「え? うそでしょ……あれでも……」


 イロリナ自身は驚いて身を固めてしまっている。俺は半ばひったくるように『百花繚乱』を手に取ると、巨竜へと向かって駆け出した。


「うおおおぉぉぉ!!」


 自然と、声が口から洩れた。奇襲なら静かに襲う方が理に適っている。勿論わかっているが……

 気合、ってやつなのか。口を裂いて出た音は、自分を奮い立たせてくれるのに十分だった。この一撃で、今度こそ終わらせる。


 『百花繚乱』の刀身に魔力を篭めていく。先程の煙管と違い、構造が管状になっていないせいかイメージが湧きにくい。だけど、その剣先に水が滴るイメージぐらいはできる。魔力が刃を通って滴り落ちるように、水の魔法を通していく。十分魔力が篭ったと感じると同時に、巨竜の首目掛けて飛びかかり、一息に切りつけた。



「ギャオオオォォォンン………………」




 ズン、と地面が震える音と、何かが飛び立つ音がした。

 ふと、後ろを見ると、先程まで戦っていた巨竜が伏せっており、頭が無くなっている。傍らには首が少し繋がった頭が残されていた。飛び立つ音は、残っていた赤竜が逃げる音か。赤竜がいた方を見ると、既にそこには何も残っていなかった。


「やった、な……」


 淡く、赤い光に巨竜が包まれていく。今度こそ、討伐成功だな。何か残してくれると良いんだけど……


「は、はは……ユウゴ、凄すぎ……」


 小さく声がしたので、イロリナの方を見ると、へたへたと座り込んでしまっている。


「大丈夫か?」


「あはは……びっくりして腰抜けちゃったよ……腰巾着だけじゃダメだねぇ……」


「でも、イロリナがいなかったら確実にやられてた。『踊り』の効果があったからこそ、あの巨竜をやっつけられたんだ」


 そう言いながら、手を貸してやる。


「そう言ってくれると有難いよ……でも、ちょっと今ムリ。立てない」


「ま、しばらくは休んでも大丈夫だろ。さっきのがボスだったんだろうし、残ってた一匹もどっかに飛んでいったみたいだ」


「そーなの。良かった……もう一戦は踊れないよ……」


「俺も、ちょっと疲れた……安心したら一気に疲労が……」


 イロリナの隣に乱暴に腰かけた。座ったら、倦怠感を伴った疲労感を覚える。こりゃMPも切れたな……

 ゆっくりと、背中を地面につけて空を見上げた。


「あー……今日はこんなに晴れてたんだなぁ…………」


「何よそれ」


 フフッ、と小さくイロリナが笑った。やー、やっぱ可愛いわ。ストライクゾーンにドンピシャだもん。疲れてるから余計素直に思えるのかもな。


 ともあれ、一段落だろう。少し休んで、戦利品の確認といこうかな。

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