討伐準備
長くなってしまったので投稿します。
次回こそ戦闘……する……
シーボの町に戻ると、まずは冒険者ギルドに向かうことにした。討伐報酬を貰うのと、ステータスの確認だ。結局、使いこなせるまで魔法を使い続けたが、体の不調は起きなかった。現在、どれくらいのMPを保有しているのか、感覚的には全然わからない。しっかり数値で確認したいところだ。
「じゃ、まずは識石ね」
イロリナはそう言いながら受付から離れ、識石に近づいていった。帰りにも貧乏神様にお供え物――今度は備蓄の中から簡単に調理した干し肉にしておいた――をしたし、極端にはLUKが下がっていないと思う。
「じゃ、どうぞ」
イロリナに促されて識石に触れる。彼女も自分のステータスを調べるみたいだ。隣に並んでいる識石に触れている。
「よし、ステータスオープン」
Name:ユウゴ
Age:20
Level:40
Job:魔術師 ☆☆☆☆
Type:人族
HP:322
MP:512
STR:48
VIT:60
DEX:51
AGI:40
INT:95
CHR:22
LUK:755
うーん……前のステータスをはっきり覚えていないが、HP、MP以外は平均的だ。INTだけは確かに高い。魔術師っぽいもんな。それと、大事なLUKは三桁ある。これなら貧乏神様は、そこまで不機嫌になってないだろう……と思う。
「う、うぇ!?」
なんて、自分のステータスを吟味していたらイロリナが声をあげた。どうした? LUKが下がったか?
「な、なんかレベルが上がってる……」
イロリナの識石を除くと確かにレベルは上がっている。確か前に見たときは5だった。それが今は9だ。上がっているが……それくらいで驚くことか?
「だってあたしのレベルって全然上がらなかったんだよ? それがこんな短期間で上がるなんて……」
思ったことをそのまま訊いてみるとそう返事をされた。それはイロリナが直接戦う事をしていなかったからだろう。あ、それとクランの効果か。確か経験値が分配されると言っていた筈だ。その分イロリナのレベルが上がったのか。俺は二つしか上がらなかったけどな。
「他のステータスも高くなってるし……これであたしの踊りがさらに光るってものね」
「いや、踊りだけじゃなくて戦闘にも活かしてくれると嬉しいんだけど」
「わ、わかってるわよ! でも魔術師も星が四個あるの? 職石も見ていく?」
そうだな。何か新しい職業が開かれてるかもしれない。まあ、どちらにせよ魔術師でドラゴンに挑むのは避けたいところだし、一度見ておこう。識石を後にすると職石へと向かう。この石に触るとなれるJobが出てくるんだよな。軽ーい気持ちで、ポチっとな。
選択可能Job
戦士 魔術師 商人 旅人 冒険者 格闘家 魔法戦士
お、なんか増えてるな。格闘家に魔法戦士か。いかにも上級職っぽいのが一つあるな。ドラゴンと戦うなら少しでもイメージが良い奴がいいだろ。この魔法戦士に決めた。
魔法戦士を選択し、職石に銀貨を三枚入れる。うん、こんな簡単な事で転職できるって素晴らしいな。銀貨は現在三十三枚だ。後で討伐報酬を貰うとして、どれくらい貯金ができたかな。
転職しても、特段変わった感じはしない。体を巡る魔力は感じ取れるが、動きが機敏になった感じもしない。ちょっと不安になるが……イメージ通りなら魔法も使える戦士、でSTRやらVITやらが高くなる分INTやMPは魔術師より低くなってる、と思う。ちょっと後で確認しておこうかな。
「魔法戦士かぁ……なんかカッコ良さそうなJobだね」
「そうか?」
「魔法も打撃も、なんて憧れる人多いんじゃない?」
「あー、確かにな」
考えてみればゲームの勇者って魔法も打撃も使える戦士だもんな。
言ってみれば今の俺は疑似勇者?
いや、むしろ勇者そのもの?
これは……スーパーヒーロー爆誕しちゃったんじゃないか?
「ヒーローと呼んでくれても良いのだよ?」
「何を言っているのかよくわからないけど、取りあえずそういう風には呼ばないから安心して」
精一杯クールな顔をして言ってみたが、さらりと流された。うん、あんまり調子に乗るなって事だね。わかります。
「さ、馬鹿なこと言ってないで、受付で報酬を貰おう? 明日、ベルンス山へ行くんでしょ?」
「ああ、そうだな。さっさと準備をして、ドラゴンに備えよう」
受付で討伐報酬を確認すると、銀貨が五十七枚だった。倒した数も少ないし、シェルリザードには遭遇できなかったから、先程よりも少ないが、十分だ。今現在、銀貨は九十枚だ。今日の朝には銅貨三枚しかなかったことを考えると、十分稼いだだろう。毎回こう上手くいくと良いんだけどな。
宿に戻り、夕食を取ると案外疲れていたようだ。部屋に戻り、気づけばベッドに倒れ込んで眠ってしまっていた。夢を見ることも無く、目を開ければもう朝になっていた。
さて、取り立てて準備するものは多くない。山へ入る前に祈願する用の供え物、それから回復用の道具も必要だな……そういえば、あるのかな?
考えをまとめながら食堂へ向かうと、イロリナは既に目玉焼きを食べ始めていた。ここの食事は悪くない。この間の魚もそうだったし、目玉焼きも美味しそうだ。俺も自分の分の食事を貰うと席に付いた。
「おはよ、元気そうね?」
「おはよう、まあよく寝たからな」
簡単に挨拶をして目玉焼きを頬張る。うん、俺好みの半熟だ。そう言えば卵料理なんて久々だな。オムライスとか、ケーキなんかも作ろうと思えば作れるんだろうか。なんて、どうでもいいことを考えていたらイロリナが手を止めてこちらを見ている。
な、なんだ? 寝癖か?
これはただの癖っ毛だぞ? アホ毛とか言うなよ!?
「今日はドラゴンと戦うんだよね」
「あ、ああ。そのつもりだ。何かあるのか?」
全然関係なかったことを考えていたとバレないよう、平然を装って返す。
「ううん、回復薬とか、準備しないとなって」
「お、回復薬って売ってるのか?」
「うん、普通に売ってる。っていうか、今まで買わなかったのが不思議なくらい……」
あー、目立ってダメージ受けなかったもんな。今回、強敵が相手になるとわかって初めて気が付いた。
「あたしも何個か持ってるけど、ユウゴも買っておいた方が良いよ? ドラゴンってやっぱり強敵だし……」
「ああ、俺も起きた時に思ったんだ。売ってるなら良かった。買っていこう」
「うん、討伐報酬もあるだろうし、出し惜しみしないで買ってね? それと、今日寝癖凄いよ」
「こ、これは癖っ毛なの! こういう髪型なの!!」
フフッ、とイロリナは笑って食事を再開した。まあ、髪型は前から見ていただろうし、からかわれているだけだ。これから強敵と戦うことになるんだし、少しくらい和んでもいい。無事に、帰ってこれるようにしないとな。
町の道具屋で回復薬を五個買い、ベルンス山へと向かうことにした。イロリナの忠告通りちょっと質の良い中級回復薬だ。少し値段は張ったが、HPを大きく回復してくれるらしい。一つ銀貨十枚、まとめ買いの値引きは無く銀貨五十枚持っていかれた。それと、貧乏神様のお供え用にパンと卵とボール、それに砂糖を買っておいた。こちらは銀貨一枚だ。砂糖は高級品らしく内訳のほとんどが砂糖の分だった。
「それ、何に使うの?」
「ん? 貧乏神様にお供えしようと思ってな。卵と砂糖があれば美味しい菓子が出来るんだよ」
「美味しいお菓子? あたしにもくれる?」
「余ったらな」
まあ、女子は好きだよな、甘い物。卵一個で十分な量が出来るだろうし、イロリナの食べる分も作れるだろう。
ベルンス山への道中、貧乏神様の簡易祭壇へ着いたところで小休止を取る。中間地点と言う訳でもないが、ここで祈願しておくことが重要だ。LUKが生存率を上げてくれるかもしれないしな。
卵を割って黄身と白身に分ける。黄身の方はフライパンに避けておいて……白身はボールに入れ砂糖を加えた。ちなみに、撹拌用のホイッパーは買っていない。売っていたのかもしれないが、探し出す時間が無かった。
「それでどうするの?」
休憩中のイロリナが興味津々に覗き込んでくる。あんまり洋菓子の文化は無いのかな。
「まあ、見ててくれよ。『ウインドクロー』」
前回覚えた風魔法の応用技、『ウインドクロー』を発動させる。指先から螺旋回転した風が巻き起こってきた。範囲は極小、戦闘に使用するなら近接限定になる魔法だ。実戦で使用した時は魔物の身体が抉れて少し可哀想だったが……相手は生卵、容赦はいらない。ボールを破壊しないよう距離を取りながら手を揺らしていく。簡易ハンドミキサーだな。『ウインドクロー』の螺旋回転は凄まじく、あっという間にメレンゲが出来上がった。
「凄く……風魔法の無駄使いです……」
イロリナのボヤキが聞こえるが気にしない。
「これを本当はオーブンで焼き上げたいところだが……今回はそんなものは無いので簡単に仕上げる事にする」
出来上がったメレンゲをパンに乗せて簡単にデコレーション……と言えるほど格好の良い物ではないが、見栄えを少し良くして貧乏神様に供えることにした。
貧乏神様、今回もどうぞよろしくお願いします。無事に帰ってこれますように! っと。
「よし。準備は出来たし、ベルンス山へ向かおう」
「えっと、あたしもパン食べたいな……」
「…………パンを食べたら向かうか」
出来上がったパンは好評だった。生クリーム代わりにメレンゲで味付けをした菓子パンモドキだが、砂糖が高級品でもあり、物珍しかったのだろう。あっという間に平らげてくれた。ここまで綺麗に食べてくれると、作った甲斐もあるな。この食べっぷりなら、貧乏神様も満足してくれると思う。しっかり御加護を貰えることを願っておこう。




