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スキルを使おう

 ベルンス山へ向かう道中で、延々と魔物退治を繰り返す。山の麓へと続くこの道は、草木が所々に見受けられるが魔物の姿が隠れるほどではなく、不意を突かれずに戦いやすかった。

 依頼を受けてきた対象はスケルトンにウルフ、ストレイイーグル、エンチャントビー、それからシェルリザードと多用だが、一度に現れる魔物の数はそう多くなかった。多くても、三、四匹が複合して現れる程度で、大体がスケルトンとウルフの組み合わせだ。イロリナの『踊り』と組み合わせれば、そんなに脅威には感じず戦えた。

 注意が必要なのが、ストレイイーグルとエンチャントビーの組み合わせだ。

 鳥と蜂の組み合わせだけに、どちらも宙を舞っていて、中々打撃が通らない。加えて、エンチャントビーは特殊能力として『速度上昇』を使っているようだ。別に蜂の言葉がわかる訳じゃないが、ただ、時々エンチャントビーの体が光ったと思うと、敵の動きが素早くなるのだ。イロリナが言うには、エンチャントビーは『速度上昇』を自分か、仲間にかけることがあるらしい。名前の通りの蜂だ。

『速度上昇』をストレイイーグルに使われると、益々攻撃が当たらなくなる。最終的に、『紅蓮の煙管』の最大火力で焼き払うことが多かった。

 シェルリザードにはまだ出会えていない。なんでも、硬い鱗に覆われたトカゲらしいが……どこにそんなトカゲがいるのか。もう少し情報が欲しいところだ。

 始めはスケルトンとウルフの複合パーティに面食らったが、多分レベルも上がっているのだろう。そんな雑念を考えながらでもゆとりを持って倒せるようになっていた。


 今もウルフと相対しながら先程までの戦いを振り返る余裕がある。相変わらず素早い動きで突進してくるが、その速さにはもう慣れた。落ち着いて『百花繚乱』で突進をいなし、空いた胴を袈裟斬りにする。小さく一鳴きするとウルフは赤い光に包まれていった。


 ん?

 今、倒したウルフの光り方がいつもと違った気がしたが……

 注意して光に消えていったウルフの辺りを調べてみると、一塊の肉が落ちていた。御丁寧に毛皮が皿になっている。


「なあ、コレなんだ?」


「えぇ? 何って……お肉よねぇ……ウルフって塊肉とか残すの? 初めて見たよ」


 いや、俺も初めて見たが……生肉そのままの赤い肉だ。焼けば食べられそうな気もする。流石に生肉じゃ食べたくないな。


「とりあえず、食べてみるか。まだ何も食べてなかったもんな」


「え、魔物だよね?」


「まあ、元魔物だな。今は美味しそうな赤身の肉、だろ」


「えぇ……魔物が時々何か残すって聞いたけど、初めてがお肉って……しかも食べられるのかしら……」


 まぁ、色々と思うことはあるだろうけど、シェルリザード以外は依頼以上に退治している。ちょっとご飯休憩しても罰は当たらないだろう。


「とりあえず、いったん休憩だな。退治依頼で残ってるのもシェルリザードだけだし、少しくらい休んでも良いだろう?」


「まあ、お腹は空いたし、それはいいんだけど……」


 どうもこのウルフ肉が気に入らないみたいだ。まあイロリナが言うには、弱い魔物の残骸は残らないって話だったしな。得体が知れないから不安になるのもわかるが……

 見た感じ牛ブロックみたいな感じで上手く焼けば美味しいと思うんだよ。あ、『鑑定』してみたらわかるかな?

 商人のランクは低いし、今は戦士だけどスキルは忘れたりしていない。試しても良いだろう。


「よし、『鑑定』」


 不安気に眺めているイロリナを横目に、おもむろに両手をウルフ肉に差し出して『鑑定』を行ってみる。

 んー……お、なんか見えてきた。


Name:ウルフ肉

ウルフが稀に残す肉。食用。高蛋白、低カロリー。筋肉を付けたいときに。STRが上がりやすくなるかも?


 お、食用だって。名前がまんまウルフ肉ってのも捻りが無いが……STRが上がりやすくなるかも?

 かも、って……『鑑定』がもっと上手ければしっかりわかるのか?


「とりあえず、食べられるみたいだ。カロリーも低いみたいだし、良いんじゃないか?」


「へぇー、『鑑定』役に立ったね」


「ああ。じゃ、取り合えず火を起こすか。生肉は流石に嫌だ」


「あたしも生はちょっと……」


 イロリナからの同意も得られたし、せっせと周りから木の枝を集めて焚火を起こす。『紅蓮の煙管』の炎を使っても良かったが、煙草がそろそろ無くなりそうだったので素直にマッチを使った。

 パチパチ、と炎が立ってきた辺りで、ウルフ肉を一口大に簡単に捌いてフライパンで炒めてみる。いや、フライパン買っておいて良かったな。直火だと焦げるだろ、これ。


「意外と手馴れてるね」


「まあ、一人暮らしだったからな」


 そう言いながらウルフ肉を煽って出来上がり。ソースなんかはまだない。塩だけのシンプルな味付けだ。


「じゃ、頂きます」


「おう、召し上がれ」


 そう言いながら自分の分も食べてみる。うん、美味い。久々に塊肉を食べた気がする。ここの所、貧乏生活だったからなぁ。文句を付ければ塩以外の味付けが欲しいけど、肉そのものが美味いんだろう。あるいは久々の肉だからか。十分美味い。イロリナは……泣いてる!?


「ど、どうした!?」


「いや、魔物のお肉がこんな味になると思ってなくて……柔らかくて下の上で溶けるみたい」


 そ、そうか。美味いなら良いんだ、美味いなら。しかし、まだ残ってるけどどうするかな。ウルフはさっきから十五匹以上は倒したと思うが、落としたのはさっきの一回だけだ。

 十五分の一程度ならそんなに稀じゃないか?

 どうせなら焼いてしまうか、とフライパンに肉を入れようとした時だった。ウルフ肉からそーっとピンクの物体が伸びている。

 いや、ウルフ肉に向かって伸びているのか。びっくりした。

 ピンクの物体を追いかけて見ると、ホタテ貝を背負ったトカゲがいた。貝殻から手足と頭、尻尾が出ている感じ。なんか、可愛くない。

 しかしこいつ……俺の前で肉を盗もうとは太い野郎だ。良いだろう、全面戦争だ。


「イロリナ! 変なトカゲがいる! 肉が狙われてるぞ!!」


「なに!? 絶対渡さないわ! ってああ!! あれ、シェルリザードよ!!」


 お、そうなのか。そりゃラッキー。これで依頼も達成できる。思い切りしばき倒してやろう。『百花繚乱』に手を掛け、トカゲに向かって駆け出すと即座に剣を振るった。

 しかし、トカゲはその貝殻に手足、頭を隠すと『百花繚乱』の剣戟を弾きやがった。


「な!? は、弾かれた?」


「シェルリザードはその固い貝殻が自慢なの。ああなるとなかなか攻撃が通らないわ」


 トカゲの分際で亀みたいなやつだな。ん……亀?

 亀の甲羅と同じ印象で良いなら、斬撃よりむしろ打撃か?


 俺は『紅蓮の煙管』に武器を持ち替えて、シェルリザードを思いっきり上から叩きつけた。

 カンッと音を立てたが、特にダメージは入っていないようだ。シェルリザードは頭だけ出してこちらを見ている。馬鹿にしてんのか。そうだな、この野郎。


 もう一度、『紅蓮の煙管』を振りかぶり打ち据えようとしたが、何となく力の入り方が違う感じがする。何だろう、こう身体の使い方が違うというか、上から下に振り下ろすだけじゃダメな気がする。

 思いつくまま、斜めから踏み込み『紅蓮の煙管』を振り下ろす。お、こんな感じ。

 振り抜いた衝撃が風を巻き込み貝が浮き上がった。浮いた貝をめがけバットの要領で再度振り抜く。ガチンッと大きな音を立ててシェルリザードの貝殻が割れた。と、同時に中に入っていたトカゲが伸びて出てきた。多分、貝の中は相当大きな音が響いたんだろう。

 貝殻から出てくるとかなり小さい。ホントにトカゲの大きさだ。見つけにくいのと倒しにくいのが、報酬が良い要因なんじゃないだろうか。ま、仕事は済ませないとな。

 もう一度、『紅蓮の煙管』でシェルリザードを叩くと光に包まれて消えていった。うん、これでよし。


「そんなに強くなくて良かったな」


「いやぁ……そんな力押しで倒すのユウゴだけだと思うわよ」


 普通は魔法で倒すらしい。いや、それ早く言ってよ。

 ともあれ、依頼は全て済ませた。後はレベルアップとお金稼ぎだが……魔法も覚えておいて損はないかなぁ……

 そう言えば、さっきの感覚は何だったんだろう?

 何かの技かな?


「でも、戦士のスキル『戦技』が使えてたし、戦ったかいはあったんじゃない?」


「『戦技』?」


「うん、さっきの、風がシェルリザードを浮かせたでしょ? あれ、戦技の一つよ。前に戦士の人が使ってたもん」


 ほえー……スキル、覚えてたんだ。


「ちなみに、なんて技なんだ?」


「ええっと、『戦技・団扇』って言ってたかな」


 う、うちわ?

 もうちっと、こう、心をくすぐるネーミングが良かったなぁ…… 何か考えついたら違う名前で使っちゃおうかな。

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