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退治に向けて

「いやいや、ちょい待ちぃや。アンちゃん、それはどういうことやねん」


 アンバーレッドの発言を受けてシスイが声を荒げている。いや、俺もびっくりなんだが……


「取りあえずは説明を聞いてください。今度、町の付近に住み着いてしまったドラゴンを退治する話が出ていたでしょう? ボクがキミに依頼した、あれですよ」


「ああ、覚えとるで。まだ危害が出ていない、今の内にとっちめよう言うてたやつや」


「そう。その討伐に彼を混ぜてほしい」


「そこまではわかるわ。せやけど、そのココロはなんやねんな? 正直、まだ駆け出しの冒険者やし、競合になんてならへんで……まぁ、イロリナがおるから戦いは出来るかもやけど」


「単純に、興味ですかね……そう、少し彼に興味が湧きました。シスイ、キミと競わせることでどんな反応を起こすのか見てみたい」


「……そこまで言わせる何かがあるっちゅーんやな?」


「ええ、そこはアンバーレッドの名にかけて、断言します」


「そこまで言うならしゃあないか……アンタ、あまり足引っ張るんやないで? 傷ついても放っぽっとくからな?」


 真剣な表情で話している二人に全くついていけなかった。というか、シスイの尻尾の毛が完全に逆立っていて、明らかに怒気を含んだ姿勢に気圧されていた。ようやく元の空気に戻った所で、俺に話が振られていることに気付く。

 あ、あれ……?

 統合すると俺も戦うってことだよな?


「ちょ、ちょっと待った! それは俺がドラゴン討伐に参加するってことになるのか?」


「ええ」

「せやな」


 快い二つ返事が重なって返ってきた。

 いやぁ……スケルトンの後がドラゴンって……どんだけ飛び級するんだよ。シスイの言葉通り、俺は駆け出しの冒険者だぞ?


「ちょっと荷が重すぎると思うんだが……大体、俺がそれを受けてアンバーレッドさんに何のメリットがあるんだ?」


 そう、彼女にメリットが無さすぎる。いくらドラゴンとはいえ、『エレファン』通りの強さならシスイが隊を率いれば十分だ。俺は必要ない。ただ『鑑定』をするのなら金貨を対価にさせるべきだし、それが無料になるなんて理由がわからない。『審眼』なんて二つ名を持つくらいの商人なら、なおさらメリットも無しに話を出さないだろう。


「メリットですか? ……あんまりないですね。強いて言えば、ボクの好奇心が満たされるくらいかな」


「まあ、依頼主はアンちゃん、アンタや。そんな話でもウチは文句は言わんで」


 いや、良いのか? 一言くらい文句があっても良いだろ?

 そういやイロリナは静かだな。彼女も冒険者としてやってきてたんだし、何かしら思うことがあるだろう。


「イロリナはどう思う? ドラゴンは厳しいと思うんだが……」


「そうね、やるべきだと思うわ」


 イロリナは腕を組みながらはっきりとそう言った。


「ドラゴンは確かに脅威だけど、ユウゴの武器は七ツ星。上手くやれば退治は出来ると思う。ただ、あたしが気になるのはその競合、って条件の方。シスイよりも先に退治しろって、一緒に戦いに行くの?」


「そうですね、予定では三日後。シスイは隣に見えているあの山――ベルンス山へ向かう予定です。精々半刻もあれば着く距離ですから、そのままドラゴンを捜索し、退治。上手くいけば三日後に全ては終わるでしょう。ボクとしては、どちらでも構いません。一緒にベルンス山へ向かって貰っても、先に討伐へ向かっても。結果としてシスイと競合してどういう結果になるのか。それが知れれば、過程はどちらでも」


「ま、死なない程度にやりや? さっきはああ言うたけど、怪我してたら町まで引っ張ってくるくらいはしてあげるわ」


「……そうだな。仮に、ドラゴンを討伐出来たら『鑑定』してくれるんだな?」


「ええ、約束しましょう」


「わかった。イロリナもこう言っているし、やれるだけやってみよう」


 そうと決まれば、早速町に戻って準備だな。ドラゴンがどれほどのものかわからないが、備えあれば憂いなしだ。まして、格上が相手になるだろう。この二日間でできるだけ準備をしておかなければ。


「決まりですね。どう退治したかは問いませんが、その証としてドラゴンの牙を持ってきてください」


「ドラゴンはちゃんと証が残るもんね。それじゃ、あたしたちは一旦町へ戻ろうかしら」


「せやな。一応、競合相手になるんやし。ああ、入り口までは送ってあげるわ。流石に迷うやろ」


 それは素直に有難い。アンバーレッドへの挨拶もそこそこにして、俺達は屋敷の入り口へと戻ってきた。



「ま、成り行きやけどウチと争うことになったんや。いくらイロリナが可愛いとはいえ、手加減せえへんよ?」


「望むところよ! こうなったら、絶対ドラゴンを退治して『鑑定』してもらうんだから!!」


 いや、イロリナさんよ。パーティ組んだなら知ってるだろ?

 その人、アタッカーの中でも最もぶっ壊れって言われてた人だぞ?

 駆け出しのペーペーで相手できるわけないだろ……


「ま、精々頑張りや。ウチが出発するんは三日後や。それまでにどうするか対策練っとくんやな」


 そう言い残すと、シスイは屋敷へと戻っていった。多分、アンバーレッドが依頼人ってこともあって、宿も屋敷が手配されているんだろう。ちょっと羨ましいな。




「実際、勝算はあるのか?」


 町の繁華街の方へと戻り、宿を探しながらイロリナに尋ねてみる。

 ついでに言うと、シーボの町は石造りの建物が多い。所々に燭台があり、暗くなったら火が灯せるようだ。道も石で整備されていて、パーシェスの村と比べると、大分発展しているな。風景は異世界情緒溢れているんだが……使用されている文字が日本語で、店と思われる建物の看板に思い切り『肉』なんて書かれている。

 ちょっと残念だ。スマホゲーそっくりだからって、看板の文字はもうちょっと雰囲気を感じたかった。

 まあ、さっきも読み書きに困らなかったし、メリットの方が多いんだろうけどな。


「そうね……この二日間でどれだけユウゴが強くなれるかがカギかなぁ」


「え!? 完全に俺頼り!?」


「そりゃ、あたし戦う能力低いもの。その代わり、『踊り』でサポートはするよ?」


 ああ、そうだよな。イロリナは所謂バフ要員、直接攻撃を仕掛けるタイプじゃないもんな。


「そうなると……商人からまた戦闘職に転職か?」


「そうね。それも必要だし、転職にお金も稼がないとね」


「クランの為の金も必要だしなぁ……」


 一気に金銭難に見舞われている気がする。『鑑定』に金貨二十枚って……それが相場だとすると、今後星が多い装備を揃える度に金欠になるな……流石、貧乏神様。


「そう言えばレベルも20超えてたもんね! あとはお金かぁ……今どれくらいあるの?」


「今日は転職に使っただけだからな。銀貨が八枚に銅貨が九十六枚だな」


 腰に下げた硬貨用の袋を見ながらそう伝える。


「そうかぁ……金貨は銀貨百枚分だから……大分遠いね」


「ま、仕方ないさ。取り合えず、今日は宿に泊まって英気を養おう。明日から、みっちり鍛えようぜ」


「そうね。思ったよりアンバーレッドの家に長居しちゃってたみたいだし」


 気付けば日が傾いてきており、先程の燭台に火を灯そうと出てきている人たちが、ちらほらいる。イロリナの言う通り、アンバーレッドの屋敷では思った以上に長くいたようだ。


「宿は……ここそうじゃないか?」


「あ、そうみたいね……ちゃんと別の部屋取ってよ?」


 久々のあの冷たい目です。ありがとうございます。

 って、最近変な癖になってる気がするんだよな……



「いらっしゃい、お二人さん。部屋はどうする? 一つ? 二つ?」


「ひ……二つで」


 宿についた途端に主人に話しかけられて、普通に返事しようとしたのに、後ろから物凄いプレッシャーを感じた。決して、一つと言おうとしたわけではない。だからそのプレッシャーをやめてください、イロリナさん。


「二つな。したら、銀貨一枚、二部屋で二枚だ。しばらくいるんだろ? 一週間をそれでいいぜ」


「ちょっと安いんじゃない?」


「ああ、ちゃんと飯もつけてやる。ここは商売が盛んだからな。サービスが悪いと食っていけないんだよ」


「そりゃ有難いな。じゃ、コレ」


 そう言って袋から銀貨を取り出し渡す。イロリナも同様に自分の袋から出していた。そういやクランを組んだらお金どうするんだろう。


「じゃ、部屋の鍵な。食事は食堂がそこにある。食事代も宿代に含んでいるし、もう飯も出せる状態になってるから、腹が減ってたら行ってくれても構わない。」


 そういや何も食べてなかったな……


「じゃ、荷物置いたら飯食うか」


「そーね。気づいたら食べてなかったわ……お腹空いた……」


 イロリナと別れて与えられた部屋へと向かう。宿の部屋はまあ綺麗だった。そんなに広くはないがベッドのシーツはシワ無く伸ばされているし、嫌な臭いもしない。うん、まあ、一週間この状態なら悪くないだろう。荷物を部屋に纏めて食堂へ向かうことにした。


「で、ユウゴはどうしようと思ってるの?」


 イロリナが切り身魚を口に運びながら尋ねてくる。先程の続きだろう。あ、意外とこの魚旨いな。


「ああ、取り合えず、ガチャしようと思う」


「なるほど。今の装備は『百花繚乱』に『紅蓮の煙管』、ドラゴン相手に防具無しはきついもんね」


「そう、今の装備だと攻めは良いけど守りが心許ない。明日から依頼を受けて金と石を稼ぐ。そして、得た石でガチャをしていい装備でドラゴンへ向かう。それが今の方針かな」


「うん、悪くないんじゃないかな。そしたら、今日はこれでお休みかな?」


「そうだな。何だかんだ動き回っているし、今日は早めに休もうか」


 そう言って、パンを口に入れた。パーシェスの村よりもしっとりとしたそれは、俺の腹を優しく満たしてくれた。




 久々に満足のいく食事後、イロリナと別れて部屋に戻り、すぐ眠ってしまった。多分、あの満足感が眠気を誘ったんだろう。気づいたら、また見覚えのある空間に俺はいた。


「どうも、貴方のエンジェル、貧乏神様よ」


 やっぱり、そこには白い布で豊満な胸に『貧乏』と書かれた神様がいた。が、なんだか今日は顔色が悪い。


「な、なんか今日暗いな……」


「暗くもなるわ……キミ、どうして私をしっかり祀らないかな?」


 ん? ちゃんと祀ってると思うけど……


「大分間が空いてるわよね? ちゃんと、毎日、祀りなさい?」


「いや、そうは言うけど……」


「大仰にやれとまでは言わないけど、心の中で感謝するとか、できるでしょう?」


 まぁ、そう言われればそうですが……


「どうも私はキミに甘かったみたいね。仕方ない。今回、キミに軽い天罰を与えます。キミがしっかりと私を祀れば天罰はすぐ消えるわ。しっかり、気持ちを見せなさい?」


「え!? 明日から必死にやらないと……」


「それも私を蔑ろにしたツケよ。キミは女心がわかってなさそうだし、少しヒントをあげましょう。ちゃんと私が喜ぶように祀りなさいよ? じゃ、起きたら自分の身にどんな天罰が下るか確認してみてね」


 そう言って、意識はさらに白く落ちていった。


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