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転職

 次の日、特別出発が遅れることもなくテントを早々に畳んでシーボの町に向かっていった。

 ちなみに、朝食はイロリナが自分の食糧から分けてくれたパンと目玉焼きだ。食事しながら聞いてみたが、この世界でも米は出回っているらしい。主食がパンなだけで、米だろうが醤油だろうが行くところに行けば売っているとのことだった。


「で、どうしてそんなに隈を作るまで交代を言い出さなかったの?」


「男の子の見栄だよ、気にすんな」


 正直に言えば、テントの中とはいえ、自分のタイプの子がすぐ目の前で無防備に寝ていると考えたら、眼が冴えて眠れなかった。幸い、夜襲を警戒して火を絶やさずに番をしていたから、隈があること自体は不思議じゃないだろう。ふーん、とイロリナも追及はしてこなかった。


 


 若干、眠気はあったが街道は整備されていて歩きやすかった。魔物もほとんど出てこないし、進路はやっぱり順調だ。

 しばらくすると、街道沿いに石壁が広がっているのが見えてきた。多分、あれが目的地だろう。


「もうすぐシーボの町だよ」


「お、あの石壁のところ? もう着くのか?」


「そうそう、大きな町だからね。魔物が突っ込んでこないよう、周りを石の壁で囲ってるのよ。出入り口には関所があるから、ちゃんと冒険者ギルドの登録証見せてよ?」


「わかった。思ったより早かったな」


 たしかパーシェスの村を出て二、三日は歩くと言っていたはずだ。一日野宿をしたものの、まだ日は高い。


「ユウゴが魔物をなぎ倒すからでしょ。普通、もう少し手間取ると思うんだけどねぇ……」


「さすが、七ツ星ってか」


「自分で言わないっ! というか、ユウゴ自身はまだ三ツ星でしょ!」


 まあそうなんだけど。でも、七ツ星装備は伊達じゃないみたいだな。半日時間を短縮できたと考えれば、戦闘効率も良いと思う。今後討伐を主体にするにしても、効率の良さは重要だろう。なんせ、貧乏神を祀らないとすぐにLUKが下がっていくんだからな。


 なんてイロリナと雑談をしていたら町の関所まで辿り付いていた。門番に話しかけられる。


「はい、止まってくださいね。本日はどこから?」


 いかつい槍を持っているが柔和な男性だ。この会話も世間話みたいなもんなんだろう。素直にパーシェスの村から来たことを伝える。


「ああ、パーシェスから。そりゃ何もないところからよく来たね。何か身分を証明できるものある?」


「これで良いか?」


 門番に冒険者ギルドの登録証を渡した。この登録証だが、金でも銀でも胴でもない、何かの金属でできたコインの形をしている。大体五百円玉くらいの大きさだ。そのコインにギルドの看板である羽付帽子が刻まれているのだが……正直無くしそうで怖い。どうにか穴を空けてドックタグみたいに首にかけられないかなぁ……


「お、二人とも冒険者なんだな。それなら問題ないよ。盗賊やなんかは町に入れるわけにはいかないから見張っているけど、冒険者ギルドの一員なら安心だ。ゆっくりしていきな。ここはパーシェスの村より活気があるし、クエストも多いぜ」


「ありがとう。お兄さんもご苦労様、頑張ってね」


 イロリナが別れ際に門番を労っている。美人に優しくされたもんだからって鼻の下伸ばしやがって……しっかりこのまま仕事続けろよ、この野郎!


 しかし、盗賊は入れないのか……え、Job盗賊だったらどうすんのよ。門から離れながら町へと入っていく道すがら、イロリナに尋ねてみた。


「なあ、もしJobが盗賊だとどうなるんだ?」


「え? ああ、門番さんの話? 別に識石にステータスを出すわけじゃないし、普通に入れるんじゃないかしら? 冒険者ギルドって、それくらい大きな組織なのよ」


「そうなん? 初耳ですけど?」


「言ってなかったかしら……全大陸に情報網を持ち、『ガチャ』を行う拠点を作り上げたのが今のギルドなのよ。だからその規律を破ろうものなら即破門よ、破門」


 規律なんてサントス話していたかなぁ……


「ちなみに、規律って……?」


「聞いてなかったの……?」


 ジロリと睨まれる。打ち解けてきたとはいえ、その視線はやめてほしい。なんか、こう、惨めになる。


「ま、平たく言えば常識のある行動をしなさいってことよ。人の物を盗まない、とかむやみやたらに殺生をしない、とか」


「それ、半分アウトじゃない?」


「え? 何が? 殺生なら魔物は別よ? 人間同士の話だもの」


「いや、人の物を盗まない、ってやつ。イロリナ、抵触してないか……?」


「し、し、してないわよっ! あくまで、お願いしてもらった形なんだからっ!!」


 まあ、俺も良いって言ったから大丈夫なんだろうけど。そんなのが原因で別れることになったら困る。まだ、大丈夫よね……なんて、小声で言っているあたり少し不安が残るが、俺も良いと言っているし当事者同士で問題無ければいいだろ。


「そ、それで! どうするの? 今日転職するの?」


 そうだった。この町には商人に転職しに来たんだよな。早いところ用事を済ませてクエストを受注しないと、貧乏神様に祟られたらえらいことになる。


「えーと、ステータスが問題無ければ転職できるんだったか?」


「そうよ、後はお金がかかるわ。初めての職業なら銀貨三枚、二回目以降は五枚。あんまり頻繁に職業を変えるのはオススメしないかな」


 金取られんのかよ……なんか、貧乏神に憑りつかれてるせいで毟り取られてる気がするんだけど……


「銀貨三枚ならとりあえず大丈夫か……どこで転職するんだ?」


「ギルドよ。識石と同様に、職石があるから、そこでお金を入れてなりたいJobを選ぶの」


 まあ、元がスマホゲームだからな。本来金はかからないんだが……なりたいJobを選んでタップする感覚に近いんだろ。パーシェスの村でできないのは規模が小さすぎて職石が無かったってことか。


「じゃ、とりあえずギルドに行くか」


「ん。じゃ、こっちね」


 そう言うとイロリナはずんずんと町の奥へと進んでいった。五ツ星だし、何度か来たことがあるんだろう。『エレファン』だとシーボなんて町は無かったけどな。もし俺がやっていないところで存在していたとしても、こんなに町中まで作り込んでいなかったし、今の町の詳細な地形はわからなかったな。イロリナが仲間になってくれて良かったよ、ホントに。


 しばらくイロリナについて進んでいくと、見覚えのある羽付帽子の看板が見えてきた。冒険者ギルドだ。パーシェスの村よりもかなり大きい建物で出来ている。見た感じ、三階くらいはありそうだ。広さも三倍くらいあるか?

 全国各地にある最大規模のギルドで、大きな都市のギルドだと思うとなんだか物怖じしちゃうな……まあ、一介の冒険者がそこまで注目されることもないか。


「はい、着いたよ。流石大きな都市だね、パーシェスとは大違い。まだ昼間なのにこんなに冒険者がいるわ」


 扉を開きながらイロリナが呟く。確かに、これだけの人はパーシェスにはいなかったな。夜になってもこの半分くらいだったと思う。人口との兼ね合いもあるだろうが、流石大都市だな。


「よし、じゃあとりあえず職石に触ってみようかな。どっち?」


「ステータスは良いの?」


「んー……今回は商人って決めてるし、大丈夫だ」


「そう。じゃ、こっちよ」


 人が多く、職石の所に着くまではぐれない様に手を引いてくれる。何だかんだ優しいんだよな、イロリナ。マジ俺の中でイロリナ株が急上昇している。元々インフレし放題だったけどな!


「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い。ほら、職石だよ? とりあえずこの列に並びなよ」


 おっと! 見られていたようだ。気を付けよう。まだ本気で嫌がってはいないようだ。その証拠にちゃんと職石まで案内してくれている。軽いジョークみたいなもんだ。だからその視線をやめてください。お願いします……


 涙目になりながら職石を待つ順番の列に並ぶ。流石に人が多くすんなりと、とはいかなかったが、みんな転職はスパッと決めているようで、すいすいと自分の番になった。職石は識石と同じような形の石だが、一番てっぺんに窪みがあり穴が開いている。多分、ここに銀貨を入れるんだろう。


「なんか掛け声いるの?」


「別にいらないよ? 触ったら今なれる職業が出てくるから、それを触ってお金を入れるの」


 ふーん。じゃ、軽い気持ちでポチっとな。

 職石に触れるとステータスの時のように文字が表示されてきた。どれどれ……


選択可能Job

戦士 魔術師 商人 旅人 冒険者


 今選べるのは五つか。それで、今冒険者だからその部分は黒く中抜きされている。選べない様になってるみたいだ。魔術師が凄く気になるんだけど……今回はまず商人で。


「また簡単に転職できるんだよな?」


「お金があればギルドで転職できるよ? 大体みんな星がある程度増えたら違う職業になるわ」


 なら大丈夫だな。とりあえず、商人になって『鑑定』と『収納』を覚えよう。商人を選択し銀貨を三枚入れる。ガコッと音がして商人の文字が中抜きになった。ずいぶん簡単に転職するんだな。なんか、こう、もうちょっと演出はないのか……


「はい、これでユウゴは商人になったよ。商人の星が上がれば『鑑定』も『収納』も使いたい放題だね」


 ふむ。特別何か変わった気もしないけど……


 あ!

 不味いことに気付いた。

 貧乏神に憑りつかれてる商人って、やばくね……?

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