詰問
ギルドから出た後、村の雑貨屋で遠征用の道具を買い揃えた。今まで持っていたローブに加えて、冷えたとき用のマントや野営用のテント、毛布、薪など。それに簡単なフライパン。『百花繚乱』を何度も包丁代わりに使うのも嫌だったので、小さなナイフも買っておいた。保存食用の干し肉も売っていてラッキーだったな。調味料なんかは塩と香りづけのハーブがあったから買っておいた。ホントは七味みたいなのが欲しいんだけど……シーボの町にはあるといいなぁ……
マッチは残っていたので、煙草だけ追加して買っておいた。いや、煙が欲しいわけじゃ無くて、丁度いい間接攻撃だしね。消耗品になるけど威力は高いし、直接攻撃が効かないような奴が出てきたときの為に揃えておいてもいいだろう。
結局、煙草を含めても銀貨三枚だった。残りの銀貨は十一枚、銅貨が九十六枚。まあ、事前にイロリナが言っていた通り、銀貨二枚で道具が揃えられたんだし、良しとしておこう。それにしても、前に報酬として貰った袋に別々に分けているが、銅貨は多すぎるな。そんなに大きなものじゃないが、数えるのも手間だし、どうにかなんないものか。普通、こんなにジャラジャラ持ち歩いてたら邪魔な気がするんだけど……ゲームの中と現実はやっぱり差があるな。
買い物を終えたら早々に宿に戻り、眠ることにした。イロリナに今日は踊らないのか尋ねてみたが、明日出発と考えたら夜更かしできないのよ、ともっともな事を返された。残念、また見たかったんだが……
翌日、俺たちは朝早い内からシーボの町へと向かった。パーシェスの村から荒野を抜けた先に街道が広がっているそうで、その街道を通ってシーボの町へ到着できるそうだ。
道中、何度か魔物に襲われたがいずれも『紅蓮の煙管』の打撃攻撃で一発だった。ゴブリンの他に骸骨の魔物――ゲーム的にはスケルトンか――も出てきていたが、有効な攻撃方法だったからか全く苦にならなかった。それと、たまにスライムなんかとも遭遇したが、やっぱり炎を吹けば一瞬で消し飛ばすことが出来ていた。防具は通常の物なので、必ず『紅蓮の煙管』か『百花繚乱』で受けるようにしていたが、幸いいずれの魔物もそこまで動きは素早くなく、しっかりと攻撃を受け止められていた。何だかんだLevelも上がってるしな。
今のところ、直撃だけは注意しなければならない……が、この調子なら順調に進めそうだ。
それより、気になるのはイロリナの様子だった。明らかに昨日と様子が違う。服装が違うのはわかる。いつもの踊り子の服で、あれだけ露出が多かったら旅には向かないだろう。今日はマントを羽織って素肌を隠していた。
だけど、それ以外にも大きな変化があった。
早めに眠る、なんて言っていた割に目の下に隈が出来ているし、会話も少ない。それどころか、話そうとすると大きく手を振りながら、あからさまに視線を逸らして道案内を始めてしまう。いや、道案内は嬉しいんだけど、今さっき聞いたばかりの道をもう一度言わなくてもわかるって。
俺、なんかしたかなぁ……
気まずい雰囲気は感じたがそれでも俺達の進路は順調そのもので、荒野から次第に岩が減っていき、徐々に整地された道が見えてきた。どうやら街道にでたらしい。イロリナは、相変わらず視線を合わしてくれないが、半分進んだくらいと教えてくれた。
今日はこの街道に出たあたりで野営をすることにした。テントの設置が終わる頃には辺りは薄暗くなってきていた。
ちなみに、テントは今回俺の物を使うことにした。新品だし、初めて使うから慣らしたかったのもある。イロリナのテントは彼女の道具袋の中だ。といっても、一緒にテントで寝るつもりはないぞ。交代で火の番をして、ちゃんと別々に寝ます。
テントの設営が終わり、イロリナに自分の道具を整理してもらっている間に、薪をくべて火を付けた。火を付けるのに手っ取り早いから『紅蓮の煙管』で楽をしたのは内緒だ。
ついでに保存食の干し肉をナイフで切って、フライパンで軽く炙ることにした。干し肉だし、塩っ気が強いと嫌だから塩は振らない。ちょっと好奇心でハーブを振る程度にしておいた。
「何してるの?」
振り返ると、自分の道具の整理が終わったイロリナがこちらに来ていた。今度は視線もちゃんと合っている。
「いや、火は割と簡単に起こせたし、ちょっと夜食の準備でもしておこうと思って」
「それは見ればわかるけど……何を干し肉にかけてるのかなーって」
「ああ、雑貨屋で香草みたいなのが売ってたからさ、試しに煽ってみようと」
「それ、美味しいの……?」
イロリナは不思議そうにフライパンの中を眺めながら尋ねてくる。
「あんまり使わないのか?」
「干し肉をあえてもう一度調理しようとはしないかな」
燻製してあれば、それもそうか。精々、温めなおすくらいだろうなぁ……俺だって日本じゃ一々ハーブで炒めるなんてしたこと無いし。
「まあ、どんな味か気になったからさ。毒見ってことで」
「ほんとに毒だったらどうすんのよ……」
「まあ、死にはしないだろ……よっ、こんなもんかな。一口、味見して……おっ、案外いけるぞ」
「えぇー……」
口では嫌がっているが、その目は案外期待してそうだな。ちょっと勧めてみよう。
「よかったらどう? それこそ味見ってことで」
「んー……じゃ、一口だけ……って、ホントだ。案外いけるわね」
「だろ? やっぱ温かいものは温かい内に食べなきゃな」
「それだったら、別に香草いらないじゃないの」
フフッとイロリナが笑っている。良かった。やっと笑ってもらえた。つられてこっちも笑顔になってしまう。
「はぁ……やっぱりユウゴは不思議ね。何でそんなことするのかしら。これは干し肉で、燻製した物よ。そのまま保存食で食べられるようにしてあるのに、わざわざ一手間かけるのは何でなの?」
「さあ、美味しそうだと思ったからだけど」
「ふーん、記憶が無いけどそう言うのは覚えてるのかしら?」
急に、キッと睨まれて心臓が飛び跳ねそうになった。いや、きっと何回か飛び跳ねてたな。一瞬、息が止まった。
「ねえ、教えて? どうしてユウゴは記憶が無い振りをしているのか……どうしてユウゴはそう簡単に七ツ星装備を手放せるのか……」
あ、嘘だってばれてた?
どう答えた物かと黙っていると、イロリナはさらに質問を繰り返してきた。
「記憶、ホントに無いの? それとも、記憶喪失の振り?」
ん?
まだ完全にはばれてないみたいだな。しかし、どうして、か……理由は言っても信じて貰えないからなんだよなぁ……思い切って話してみるか。
「……俺の話、信じてくれるなら話す」
「そう、とりあえず聞いてから考えるわ。何か理由があるんでしょ?」
一応、聞く耳は持ってくれているようなので、事情をしっかりと説明してみた。転生してこの地に辿り着いたこと、貧乏神が守護神として憑いていること。ただ、この世界にそっくりなゲームがあることはまだ言わないでおいた。システムが似通っているとは言え、全く知らない土地ばかりで、すっかり『エレファン』と同じとは言い切れなかったからだ。
「……それ、信じられると思う?」
「いいや、信じないだろうね。だから言わなかったんだ」
もし俺が相手なら信じない。いきなり転生してきましたー、なんてどこのラノベの主人公だ。
「……そう。じゃあ、もう一つ、どうして七ツ星をあたしにくれる、なんて即答できたの?」
いや、あの時は七ツ星装備がそんなに出ないものだと思わなかったからな。
最高レアリティでも、『エレファン』と同じだったなら、明確にされていないにしろ、確率がいくら少なくても一万分の一程度だろう。それなら一万人に一人は持っている計算だった。実際、狙った装備やキャラ以外の七ツ星はそれなりに獲得の報告が出ていた。『エレファン』でガチャ運を試されるのは明確に一点狙いをした時だ。酷いときは狙いとは別の七ツ星がダブることもある。
それがこの世界だとそんなに希少性が高いとは思わなかった。
一万分の一どころか、云十年に一度出れば良いだって?
そりゃ誰だって訝しがるよなぁ……ただ、今更やっぱ駄目です、って訳にもいかないし。
「そりゃ、イロリナが可愛かったからだなぁ……」
暫し沈黙して出した答えはそれだった。
結局、そうなるんだろうな。いや、出ないものだとわからなかったってのも理由だけど、それはあげる理由になってない。あげない理由にはなるけど、あげる理由ならそれが一番だ。
「そ、それだけ……?」
顔を真っ赤にしながらイロリナが尋ねてくる。お、怒ってらっしゃる……?
「それだけって……可愛い子がいたら気を引きたくなるのが男心ってもんでしょう。取り下げるのもカッコ悪いし」
イロリナはさらに顔を真っ赤にすると
「そ、それにしちゃ贈り物がグレートすぎるのよっ!!」
と、怒声をあげてきた。いや、確かにそうなんですけど、相場がわかっていなかったので許してほしい。
「そ、それで! ユウゴはあたしに『百花繚乱』をくれる見返りに何を求めてるのっ!?」
「いや、別に? しいて言えば一緒にいて案内してくれればそれで」
そう、一緒にいてくれれば良いのだ。そりゃあわよくば彼女になってくれたりしたら万々歳だけど?
ただでさえ土地勘のないこの世界だ。ナビゲートしてくれるだけでありがたい。それが求めて死ぬことになった要因のイロリナなら尚更だ。
「そ、そんなこと……」
イロリナの顔からは赤みがいくらか引いてきている。少し落ち着いてきたんだろう。そして、冷静になって今までの話を振り返っているみたいだ。それなら、答えはすぐに出てくる。
「まぁ、信じられないよな……」
しょうがないよな。結局、俺にはイロリナに縁が無かったんだろう。前世でも、今世でも。
だけど、イロリナの返答は違った。
「……ううん、信じるわ。でないと、あの祭壇に説明がつかないもの」
「し、信じてくれるのか?」
「ええ。でも、勘違いしないでよっ!? べ、別にずっと一緒にいるって言ってる訳じゃないんだからっ!! 『百花繚乱』の分働くだけなんだからっ!!」
なんか、ツンデレみたいな言葉だな……
事前情報がほとんど入っていなかったせいで、イロリナのキャラまで掴めていないが、実はツンデレだったのか?
「ああ、でも『百花繚乱』を使う間は一緒にいてくれるんだろ? 嬉しいよ」
「な、何よっ! もうっ!! 先に寝るからっ!! 火の番、しといてねっ!」
そう言うと、彼女はテントの中に早々に戻ってしまった。
ちょっとすると、小腹がすいたのか罰が悪そうに干し肉をつまみに来たが、それも含めてやっぱりイロリナは可愛いと思う。
ちゃんとわかってもらえたみたいで良かった。これからも、イロリナとは一緒にいられそうだ。




