幕間――憂鬱――
冒険者ギルドから出た後、ユウゴの使う日用品を買って宿に戻ってきた。スライム退治で得たお金があったから、いくらか余裕を持って買えたみたい。
宿に戻ってから、仕事に行く振りをしてあたしは自分の部屋に戻った。なんだか今日は踊る気分になれなかった。というのも、全部ユウゴのせいだ。
そもそもの発端を思い出す。
彼を見かけたのは荒野だ。はじめは、不審者にしか見えなかった。石に向かって体を揺すっているおかしな人間、そう認識して警戒していた。けど、言葉が通じたから話をよく聞いてみたら記憶喪失です、なんて言い張る。その時は可哀そう、と思ったけど、絶対に何か隠してる。でなければあんなにおかしなことが起こる筈がない。
LUKが五桁?
初めてのガチャで七ツ星?
はっきり言って、異常だ。あたしだって一応、五ツ星の冒険者になっている。知り合いには六ツ星や七ツ星の冒険者だっている。でも、七ツ星の装備を持っている人間はほとんど見たことが無かった。それを、一回で出す?
何かの不正でもなきゃ信じられないわ。
そりゃ、打算的な面もあったわよ?
借りた物は返す、それがルールだと思っているし、あたしの中では受けた恩も返してほしいものに入っている。
元々孤児で、生きる為に必死だった。戦闘能力の弱いあたしは、誰かを支援することでここまでやってきた。冒険者になりたての頃は、そうすることでようやっと生計が成り立っていたんだ。
見る人が見れば、コバンザメと馬鹿にされてもおかしくは無いと思う。でも、そのコバンザメでも、『踊り』が出来た。『踊り』の支援効果は需要があったし、おかげで臨時でパーティメンバーに雇われて、星も増やすことが出来た。
でも、あたしが得られる報酬は少なかった。魔物の討伐はほとんどパーティメンバーが行っていて、達成報酬は功績が高い者が多く貰う。それがギルドの暗黙の了解になっていた。当然、魔物討伐のクエストなら討伐数が功績に直結していて、あたしの取り分は雀の涙ほどだった。だから、パーティを組んだことがあるみんなには、自分が楽になったと思う分を『貸す』ことにしていた。
利子は無し、あたしが困っているときに何か助けてくれればそれでいい。そういうルールだった。もちろん限度はある。自分の許せる範囲で助けてくれれば良い。身を切ってまで助けられてもこっちが困る。自分が『借りた』分を超えてまで返してもらおうなんて思ってはいない。
もちろん、今回も最初はそう思ってた。
あのLUKの高さだもの。何かしら良い装備が出るんじゃないか、なんて誰でも思うじゃない。その装備を使って高ランクの冒険者になったら、あたしが困ってるときに助けてくれればそれでいいよ、と言うつもりだった。
ところが、出てきたのは七ツ星、しかもあたしが欲して止まない『百花繚乱』ときた。思わず理性が飛んでいた。貰えるはずもないと思いながらも、口は止まらなかった。
結局、気付いた時にはその武器が欲しい、なんて言っていた。自分でもどうかと思う。装備できない武器、それも所有者認証があるから売ることも碌に出来ない。どこかのコレクターの目に留まって、はじめて価値が出るだろう。当然、所有者の許可が無く売ろうとしたら危ない仕事が付きまとうだろうし、流石にそこまでは許可しないと思う。後ろめたい稼業にあたしはツテが無い。貰っても、使いこなせないんだ。あの時は誤魔化すのにクランに入るつもりだ、なんて言ったけど、マーシャが助け舟を出していなかったら思い出していなかっただろう。
普通なら、そこで相手に拒否されて終わりだ。なのに、どうしてすぐくれることになっちゃうのよ。
ユウゴが何を考えているのかわからない。さっきの記憶の件もそうだ。何かしら隠しているのはすぐにわかる。神様にお祈りすることだけ覚えている記憶喪失なんて、都合が良すぎる。でも、何を隠しているのかは見当もつかない。それどころか、恩を売って『貸し』を作ろうとしてもすぐに現物で返してくる。このままじゃあたしばっかりが『借り』を作ることになっちゃう。それは、なんか嫌だ。
「あたしのわがままなんだろうけどなぁ……」
いや、客観的に見ればわがままを言っているのはわかるし、八つ当たりしているんだってのもわかる。もやもやして踊りたくない気分なのを、ユウゴに当たっているだけなんだ。悪いとは思うけど、本人に直接言っていないんだし、ずっと欲しかった物を横から搔っ攫われたと考えたら、愚痴だって零しても良いでしょう?
「だいたい、その後のガチャも六ツ星ってなんなのよ……」
そう、それだけで終わりじゃないのだ。森に祭壇を作って祈りを捧げたらLUKが上がった。その後ガチャをしたら今度は六ツ星装備が出た。そんなの聞いたこともない。高レアリティの装備が出過ぎよ。しかも、その使い方も魔物退治にしっかりハマった使い方をするし。火炎攻撃ができる装備なんて、滅多に見たこと無いわよ。
「結局、嫉妬なんだろうなぁ……」
この夜だけで何度目になるか、深いため息をついてしまう。さっきから、愚痴を零しては自己嫌悪、そして嫉妬していると気付き、また愚痴を零す。その堂々巡りだった。いい加減、寝ないと。明日はシーボの町に向かう予定なのだ。野営になると十分に眠りにつくのは危険だ。特に、何を考えているのかわからない相手の前では。
「ユウゴは、何を考えているんだろ……」
どうして、あんなに簡単に『百花繚乱』を手放そうと考えられるんだろう?
どうして、何かを秘密にしているんだろう?
考えても答えは出なかった。これ以上悩んでもどうしようも無いし、わからないものはわからない。明日、直接聞いてみよう。答えにくいようなら、あたしが無理を通さなければいいだけの話。『百花繚乱』は惜しいけど、怪しすぎて怖い。今ならまだ、AGIと土地勘がわかっているあたしに分がある。変な事をされそうになったら、大急ぎで逃げれば間に合う。
変な事と言えば、ユウゴの上半身見ちゃったんだよね……
意外と胸板が厚くて、ちょっとびっくりした。
……なんか、寝る前にユウゴの事ばっかり考えてるって、おかしくない?
恋する乙女みたいじゃない。ヤメヤメ!!
明日、ちゃっちゃと答えを出して悶々とするのはやめにしよう!
それで、納得できるならそのままクランを組めばいいし、納得できなければ消えればいい。そう決めた!
妙に冴える目を無理矢理閉じて、布団をかぶって眠った。




