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イロリナの舞

 一応、森に行く前に冒険者ギルドに行って、祭壇作りの合間に出来るクエストが無いか確認しに行く。今のところ、俺が森でも受けられるクエストはゴブリン退治、ゴブリンロード討伐、オーク討伐、の三種類があった。ゴブリンの巣散策、ゴブリン殲滅、なんて仰々しいものもあったが、まだ星が足りなくて受けられない。とりあえずゴブリンロード討伐を選択しサントスにお願いすることにした。


「なんだ、またゴブリンか? この間楽勝だったんだろう? その上のオークにすりゃ良いのに」


「今回はクエストは一緒に出来たらいいな、ってくらいなんだよ。森の散策が主目的なんだ」


 まさか祭壇を作りに行くとは言えない。


「ほーん……ま、片手間でもしっかり仕事してくれりゃ文句はねえけどよ。期間は特別ないからゆっくりやんな。討伐数は同じく五体だからな」


 ありがとう、と礼を言って村を出る。イロリナも自前の装備をしっかり身に着けて準備万端だ。ややもするとすぐに昨日の森に辿り着いた。


「さて、どうすればいいのかしら?」


「そうだな。まずはお社を建てるところかな」


 そう言って近くの適当な木の枝を集めていく。いくつか集まった所で大体長さが同じものを昨日買ったロープで一括りにし、一つの束にした。


「意外と器用ね。DEX高かったっけ?」


「イロリナの方が高いと思うよ? こういうのは男の子だったってことだな」


 そう言いながら木々を集めて束をいくつか作る。小さいころにボーイスカウトだとか、秘密基地づくりだとか、無駄に自然と戯れた経験がここで生きるとは思わなかった。


「ふーん。で、何やってんの?」


「お? わかんない? この束をさらに束ねて釘で固定すれば……どうよ?」


 木の束でできた簡易な箱を作る。ちなみに、長さが不揃いで余った部分は『百花繚乱』で切って見栄えも良くしておいた。もちろん、ロープを切るときも使った。イロリナに不満げに睨まれたが気にしない。ナイフを買うムダ金は無いのだ。


「箱ね」


「箱だな」


「いや、その箱がお社とどう関係があるわけ?」


「えーっと、これに輝石を入れてお祈りすれば少しはお社みたくなるかなーって」


 イロリナは大きく溜息をつくと頭を抱えながら呟いた。


「それ、昨日の石で作ったのと同じレベルよ……」




 結局、イロリナも本格的なお社の作り方なんかはわからず、俺の箱を少し立派に飾ることで妥協してもらった。


「ただの四角だから箱に見えるのよ。屋根を付けるとか、空洞を開けるとか、そういう家みたいにしたらいいんじゃないの?」


「おー! いいかも!! やってみよう!」


 こうして苦戦すること二時間。一つの社が完成した。神棚には程遠いし、どちらかと言うと小鳥箱みたいなもんだが……これは社なんだっと。


「それで、これをどうするの?」


「ああ、ここを開けば中に物が入るから、よっ……と」


 中に輝石を一つ入れておく。お供え物にしてはちゃちかもしれないけど、今の金銭的にはこれが十分豪華なものだ。


「で、これをこの木の枝に括り付けて……よし、完成」


「へー、案外に器用ねぇ」


 こんなんでも森の雰囲気に合って立派なものに見えるから不思議だよな。

 さらに余った枝を集めて焚き木を組んでいく。組み終わった所に葉っぱを集め、マッチで火を入れると即席のキャンプファイヤーの出来上がりだ。


「……何で火を焚いたの?」


「ん? 神事って火とセットじゃない?」


「……何か納得しちゃう自分が嫌だ」


 とりあえずお膳立てはこんなものだろう。あとはイロリナ様の出番だな。


「じゃあ、お願いします」


「うーん、なんかスッキリしないけど、まあいいでしょう。祈祷の踊りで良いのよね?」


「ああ、神様に捧げるような踊りがあればそれで」


 そう伝えると彼女は焚火の前に立ち、目を瞑った。

 両手を胸の前で組み、肩の力は自然と抜けている。なのに、背筋はしっかりと伸びきっていてとても綺麗な姿勢だった。


 シャラン、と音がしたかと思うとイロリナが舞い始めた。


 これは、なんていうのかな?

 踊りの種類はわからないけど、緩やかにステップを踏んでターン、ところどころ手首に着けている腕輪が重なり合ってシャンシャンと鳴っている。とても幻想的だった。よく音楽もないところでこれだけ舞えるものだ。


「――――」


 時々、ハミングの様な音が聞こえる。自分の頭の中で音楽が流れているのだろうか。表情は常に笑みを浮かべていて、それでいて次の動きが予想できない。ついつい食い入るようにして見入ってしまう。


 シャン! と一つ大きな音が響き、イロリナは腰の剣を抜いて剣舞を始めた。これもまた見事だ。剣が生きているかのように滑らかに動き、それでいて自身を傷つけていない。何よりも、美しい。俺が貧乏神なら間違いなく加護を与えているだろう。


 キン、と鍔鳴りが聞こえた。イロリナが剣を鞘にしまった音だ。どれくらいの時間だっただろう、おそらくそんなに長い間は踊っていないと思う。だが、短い時間でなかったことはその汗の量が物語っていた。


「こんなもんで、どうかな?」


「いや、もう最高だよ。ありがとう!」


「へへ、ありがと。さっき見惚れてたでしょ?」


 ウインクをしながらそんなことを言ってくるこの子は、ほんとに天使なんじゃないかと思う。めっちゃ可愛いんだけど!


「そ、そんなことは!!」


「残念、バレてまーす。まぁ、あたしの踊りがよかったって言ってくれるのは素直に嬉しいし、ありがとね」


「ああ、こちらこそ。素晴らしいものを見せてもらったよ。ありがとう」


 二人してクスクス笑いあった。




「で、何か変化ある?」


 焚火が消えるまで休むことにしていたが、所詮は小さな枝を集めてきたもので程なくして火は消えた。休憩も終わりにし、出発しようとしたときにイロリナにそう尋ねられた。


「いや、特には何も……」


「ふーん……踊り損ってわけ?」


「ど、どうでしょう……帰ってLUKが上がってなかったら御飯でも御馳走しま――」


「あ、じゃあ酒場で一杯奢ってよね? いやー識石のチェック楽しみだなぁ!」


 なんて現金な……さっきまでの胸のときめきを返せ。


「冗談はここまでにして――来るよ?」


「ん?」


「前、茂みの方から」


 イロリナがそう言うか否か、目の前の茂みがガサガサと音を立て、ゴブリンの群れが飛び出してきた。

 全員が何かしら武器を持っている。ゴブリンロードだったようだ。全部で五体、討伐に必要な数が揃っている。

 早速貧乏神を祀った効果が出ているのか?

 単純に偶々か?


 いずれにしろこいつはラッキーだ。サクサクっとやっつけて、討伐報酬も貰っておこう。


 そう考え、百花繚乱を振るう。まず一体、悲鳴を上げる間もなく光になった。それを見て飛び出してきたゴブリンロード達の表情が変わる。一瞬怯んだ隙を逃さずもう一体。あっという間に仲間が減り、混乱している奴等を葬るのに時間はかからなかった。


「いやー貫禄さえあるね。ゴブリン退治はお手の物、ってやつ?」


「昨日も戦ってたし、数が多かったから油断してたんじゃないかな?」


「ま、その剣の力が大きいけど、ユウゴもレベル上がってるしね」


 確かにその通りだ。ただの木剣だったり、鉄の剣だったらこんなに成果は出ていないだろう。七ツ星の装備だからこそ、これだけの威力が出て安全に戦えているのだ。あれ……?


「イロリナさん?」


「ん? なあに?」


「俺、この剣上げたら何で戦えば良いんですかね……?」


「え?」


 何その想定外みたいな表情。俺もすっかり忘れてたよ!

 冒険者になっちゃったのにどうすりゃいいのよ!

 ああ、LUK上がってますように!!

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