告白
簡単に濡れた雑巾で体を拭き取った後に、ローブを着なおして気付いた。結構傷んでいる。一日で結構動き回ったからな……雑巾も宿に言って銅貨一枚で借りた物だ。日用品を買い揃えた方が良いだろう。
それから、貧乏神の祭壇か。あの言い様だと良い素材を使って豪華に祀ってやれば良いようだが……素材を買うのにも金がかかるしなぁ……貧乏神たる由縁を感じる。
とりあえず、今日の所はこのローブでやり過ごそう。そう決めて朝食を貰いに食堂へ行くと、イロリナが既に食べ始めていた。
「おはよう。その分だとよく眠れたみたいね。まだ眠たい?」
「おはよう。ぐっすり眠ったからもう大丈夫だ。仕事はもう済んだのか?」
踊り子だし、夜通し踊っていたとしたら今帰って来たのかもしれない。そんな思いとは裏腹に、そんなに長く踊るわけないでしょ、と返された。まあ、ゲームの中と違って生身の人間だしな。そんなに体力が持たないだろう。
「それで、今日はどうするつもりなの? また何かクエストをクリアする?」
「それもやりたいところなんだけど、まずは日用品を買い揃えたいかな。ローブがボロボロになっちゃって」
「ああ、それ、普通のローブだものね。じゃあまずは肌着とか、そういうのからかしら」
普通の……?
普通じゃないローブってどんなん?
「ガチャから武器以外の装備も出てくるのよ。あたしの踊り子の服なんかはガチャから出てきた装備品だから耐久性もバッチリよ! 三ツ星だけど……」
LUKはそんなに高くないもんな……
「ってことは、運が良ければ防具なんかも良いのが出るかもってことか?」
「そうね、普通にローブを買うよりも良い物が出ることもあるわ。ただ、鎧なんかだとずっと着てるのは大変だし、二、三枚は買っておいても良いと思うけど?」
「じゃ、それで。まずは日用品を買って、その後クエストかな」
「この村だとあんまり物は無いけどね……」
その後、村で唯一の雑貨屋で肌着やローブ、道具袋なんかを買い揃えた。田舎のせいか品質はあまり良くない。着心地は麻百パーセントをそのまま着ているって感じでざらざらしている。現代社会の化学繊維に慣れた俺からするとちょっと頂けないが、欲を言っても仕方ないだろう。全部で銀貨一枚で買えた。
肌着が三枚、ローブが二枚、道具袋が一つ、マッチ、作業用の厚手の手袋、とんかち、十メートルほどのロープと釘のセットを二つずつ、それからごつめのブーツ、全部合わせて銀貨一枚だ。相場はわからないけど、宿に泊まるのに銅貨二十枚――イロリナには朝返しておいた――と考えればまあ、こんなもんなのか?
そうそう、銅貨は百枚で銀貨一枚、銀貨が百枚で金貨一枚、と言う貨幣レートらしい。イロリナに銅貨が足りないから銀貨を渡したら、めんどくさそうに八十枚数えて渡してきた。何でも、商人なんかはささっと貨幣を数えられる魔法が使えるらしいが、彼女は踊り子であり覚えていないとのことだった。
現在、手元の金は銀貨が一枚、銅貨が八十七枚と既に心許なくなっている。
これで貧乏神の祭壇を作るとしたら素材は質素なものになってしまうだろう。先にクエストをクリアして金を貯めるべきか……
「さて、日用品も買ったし、今度こそクエストね?」
イロリナはとても張り切っている。早く『百花繚乱』を自分の手で使いたいんだろう。そのためにクエストをこなし、レベルを上げてクランを組みたい……それはよくわかるのだが……
一つ、懸念を抱いた。
イロリナに全て話しておいた方が良いのではないか、と言う事だ。
と言うのも、LUKを上げるためには貧乏神の祭壇を作る必要がある。その上で祀らないといけない、となると流石に彼女に知られずに行うのは無理だろう。また怪訝な眼を向けられたくはない。それに、神様を喜ばせる踊りなら、イロリナほど適任者はいないはずだ。なんたって舞姫だからな。
しかし、いきなりそんなことを言われて信じて貰えるだろうか……
俺が相手だったらまず信じない。一笑に付して終わりだ。信じさせるにはそれなりに根拠が必要になる。そのためには祭壇を作って祀る姿を見せなければいけない……
駄目だ……堂々巡りしている……
「ん? どしたん? クエスト、しないの?」
沈黙している俺を不審に思ったのか、イロリナが再度問いかけてくる。
いつまでも黙っていてもしょうがない、転生してきたということは隠して、LUKに関わる部分だけを伝える事にした。
「あのな、イロリナ。LUKが下がった原因が分かったんだよ」
「えぇ!? そんなにすぐわかるものなの!? で、原因は何、なに?」
驚き目を丸くして反応するイロリナ。一々反応が可愛いな。
「実は……出会ったときに変な踊りしてただろ? あれが俺の神様のお社なんだ。そこで祈ると御利益としてLUKが上がるらしい。でもって、その効果が夕方には切れていた、と」
そこまで言って、またあの冷たい視線が襲ってくる。まるで腐った玉ねぎを見る目だ。今の彼女には俺は異物としてしか捉えられていない。お願い、もうやめて。
「……で?」
つ、冷たい……苦しいがここは乗り越えなくては……
「だ、だからもう一度神様に祈りを捧げればLUKはまた上がると思う」
「……で、またあの変なものをあたしに見せようとしてるわけ?」
「いやいやいやいや!! あれだと逆に神様に祟られちまう。今度は舞姫であるイロリナに踊ってほしいんだよ」
何とかそう振り絞るとようやくイロリナは機嫌を戻してくれた。
「ふーん……まあ、あたしが踊ることでユウゴのLUKが上がるなら別に構わないけど……またあそこまで行くの?」
確かにあそこまで行って帰ってくるのに二時間近くかかる。毎回あんなに遠くまで行くのは骨が折れるし避けたいところだ。
「どうも神様はあの場所が気に入らなかったらしい。もう少し参りやすいところはないか?」
自分で言ってて新手の新興宗教の詐欺にしか聞こえなくなってきた。イロリナ、信じてくれるかな……?
「それなら昨日の森の近くが良いんじゃないかしら? そこに祭壇があれば旅人も何となく祈るんじゃない?」
お、それは名案かもしれない。森なら社があっても不思議な気はしないだろうし、ひょっとしたら、何だかわからなくても祈祷する人間が通ってもおかしくないだろう。あくまで、日本人の感覚だが。
「それじゃ今日も森に行って祭壇を作るってことでもいいか?」
「ま、構わないわよ。その代わり、ユウゴは絶対に踊らない事。わかった?」
最後にまたあの冷たい目を向けられ、俺は「はい……」と絞り出すのがやっとだった。




