現在進軍中
「オラオラオラオラ」
ショウタが相棒で嵐の如き乱れ突きを放ち、目の前のさながら骨の壁と化したスケルトンの群れを蹴散らす。
ショウタが先頭に立ち活路を突き広げ、グレンが両脇に火線を走らせ確かな道にし、コトミが背後に回るスケルトンを“エアーショット”で打ち砕く。
倒した魔物達はいずれも文字の塊と化して霧散して行く。
場所は、エルフとグレンが中央大図書院に向かって行った道幅の狭い通りだ。
因みに道を確保すると言っていたメイズはこの場に居ない。
なにがあったかと言うと––––––––
最初、メイズをはじめとした臨時パーティーを先頭に中央通りを進んでいたが、四方から巨大化したモッチョの群れに襲われた。
「くそ、戻ってくると分かってて準備していたな」
モッチョ達は四方から触手を伸ばし襲いかかる。
「モービルファイアウォール」
前に移動する炎の壁をグレンが展開し、なんとか触手による最初の攻撃を逃れた。
モッチョの巨体を避けるために細い路地に入ったら、今度はプールヘッドの群れに襲われた。
無理やり路地に入ろうとするモッチョをグレンとショウタが迎え撃つ。
一方前方、五体横並びになったプールヘッド達は頭を大きく膨らませ、口を窄める。
「エアーショット」
コトミが前に出て魔法を射るのと、プールヘッドが高水圧の水を撃ち出すのは同時だった。
五体のプールヘッドが放った“疑似アクアショット”を、同じく五射同時に放った“エアーショット”で相殺した。
水頭内の水分が減るのも構わず、プールヘッド達は再び“疑似アクアショット”の構えを取る。
コトミも再び“エアーショット”を構え–––プールヘッド達がうつ伏せに倒れた。
「!?」
一瞬酸欠を疑ったが、すぐに甘い考えだと思い知らされた。
五体同時に倒れたプールヘッドの真後ろに、倒れる前までの五体と同じ姿勢を取ったプールヘッドが五体横並びに“疑似アクアショット”を構えていた。
一気に二倍になった攻撃に、コトミは反応しきれなかった。
かろうじて七射を同時に撃ち相殺したが、残った三発がコトミに襲いかかる。
コトミは“エアーショット”を射った直後に身を丸くしてなんとか水の弾丸を耐えた。
プールヘッド達は三度“疑似アクアショット”を構え–––––
「そっちばかりに気を取られていいのか?アームスパーク」
いつの間にかプールヘッドの背後に回り込んだメイズが、手に電流を迸らせプールヘッドを殴った。
手足に頭突きと言った、およそ攻撃に使えるあらゆる部位を使い、プールヘッドに襲いかかるメイズ。
“疑似アクアショット”の衝撃から立ち直ったコトミもすぐに参戦し、プールヘッド達は直ぐに倒された。
後ろのモッチョは、粘液を飛ばしショウタ、グレンの動きを封じようとするが、ショウタは相棒を伸ばし、地面や壁を利用した軽快なステップでそれらを回避し、グレンは、自分に向かってくる粘液を全て“ファイアボール”で撃ち落とした。
今度は頭上からガラゴラと音がした。
巨大化したモッチョ相手に有効手段がないショウタが上を見ると、スケルトンが数体掛かりで大岩を落としてきた。
普通なら真下にいるショウタは大岩に押し潰される所だ。
しかし、ショウタは自然界にある砂や岩に対してのみ有効な魔導士だ。
空中で大岩を受け止め、モッチョに向けて投げ飛ばしてやった。
運良く核に命中し、モッチョは粘液を路地内に撒き散らしながら息絶えた。
再び頭上を見上げると、スケルトンが直接飛び降りてきた。
ショウタは特に慌てずその場から飛び退り、着地の瞬間に相棒で突こうと構えたが、その必要はなかった。
スケルトンが飛び降りた途端、身体が砕け散ったのだ。
「?」
怪訝に思い、再び頭上を見上げると残ったスケルトン達も一斉に飛び降りてきた。
「ちょっ、見てなかったのかよ」
仲間が同じ高さから降りて死んだのを見ても、スケルトン達に迷いは無かった。
それどころか、受け身も考えず少しでも下の人間に当たるように手足を広げて落ちて来る。
狭い路地内であの数は避けられない。
そう判断したショウタは、頭上に相棒を突き込んだ。
魔力を込め、一瞬で10mを超えて伸びる棒、まず真上の一体を砕き、引き戻し再び伸ばす。
その動作を高速で繰り返し、自身とグレンに向かってバンザイダイブしてきたスケルトンを全て蹴散らした。
勢いの弱まった小さな骨が降り注ぎ、モッチョの粘液をバチャバチャと飛ばした。
「なんなんだ、こいつら」
「昼もそうでした。プールヘッドがモッチョを巨大化させる為にわざと水頭を破られに行ってました。
この魔物達はおかしいです」
昼間のプールヘッドと、さっきのスケルトン、岩が通じないと判断した途端のバンザイダイブを見て疑念を確信に変えたグレンが言った。
「ショウタっ」
コトミの声にショウタが振り返ると、今度はウルグの群れがやって来ていた。
ウルグは背にスケルトンを乗せ、背中に乗ったスケルトンは、リボルバー銃を構えている。
さながらスケルトンカウボーイと言ったところか。一斉に銃をコトミとメイズに向ける。
「まずっ」
「はっ、」
コトミが“エアーショット”を撃ち、ショウタが牽制に相棒を伸ばし、グレンが渾身の力で“ファイアウォール”を張る。
前方に居た数体がバランスを崩し銃撃を外し、残りの銃撃はなんとかグレンの“ファイアウォール”が防いだ。
ウルグは爪を伸ばし、それをスパイクにして壁面を走り、“ファイアウォール”の死角を狙う。
散発的に撃たれるリボルバーに追い立てられ、四人は狭い路地内の僅かな遮蔽を奪い合う様になんとか逃げ回る。
「くそ、ウルグにあんな力あったか」
「そもそも、スケルトンは簡単な鈍器を使う事はあるって聞いたことはあるけど、銃なんて扱えるほどの脳は無いはずよ」
「そもそもあるのは骨だけだしな」
「そこどけ、そのファイアウォールの陰は俺の場所だ」
「これを張ったのは私です。
だいたい銃撃を防ぐ壁を作るには膨大な魔力を使うんです!」
スケルトンは弾切れになると、リボルバーからシリンダーを丸ごと抜き取り骨の隙間に器用に仕舞い込んでいた弾を込めたシリンダーを装填し、再び発砲した。
さらにウルグ達も“エアーショット”を撃ち、弾幕の密度が上がる。
たまらずショウタは先程モッチョの核を叩き潰した大岩を呼び戻し、“ファイアウォール”と挟んで身を隠すスペースを作った。
「待たせた大岩だ、遮蔽が増えるぞ」
「さんきゅ、ショウタ」
「お前は戦えよ」
「俺は飛び道具ないんだよ」
我先により安全な奥に入り込もうと飛び道具を持たないメイズが、コトミを押し退けて遮蔽に飛び込もうとした結果、モッチョの粘液で滑りやすくなった地面に足を取られ、コトミが転けた。
「あ、姐貴……」
全身に薄青いネバネバを纏い、恨めしそうにメイズを睨むコトミと、何を思ったのか真剣な表情である意味危ない事になっているコトミを見つめるメイズ。
ショウタはその二人の間に身を割り込ませて、メイズの視線からコトミを庇おうかと思ったが、コトミの牽制射撃が無くなり勢いを増したスケルトンカウボーイに、僅かでも抵抗すべく、身を隠しながら相棒を伸ばした。
グレンは後ろの空気を察しつつ、目の前のスケルトンカウボーイに“ファイアボール”を撃っては躱される不毛な撃ち合いをしていた。
一方真剣な顔でコトミを見つめていたメイズは今度は路地全体を見渡していた。
地面も壁も一面、先程ショウタが倒したモッチョが撒き散らした粘液で濡れている。
「俺が合図したら一斉に跳べ。
全力で電気を流す」
その一言でショウタ他二名はメイズが何をする気か理解した。
メイズは至近距離にしか魔法を出せないので、電気を手足に纏って直接殴るような攻撃をしている。
しかし、魔力で生み出された物は、基本的に物理法則に従う。
だから、炎は紙に燃え移るし、水は火を消す。
電気は周りに通電する。
そして自分達の足元は今、モッチョの粘液で濡れている。
この限られた条件でなら、メイズは電気を遠くに飛ばす事が出来る。
「いくぞ、さん––––––」
誰もが、スリーカウントで来ると思った。
だから三人はそれぞれの方法で、身を守ろうとした。
まず、ショウタは相棒を地面に突き立てて上に逃げようとした。
相棒はほとんど通電しないのだ。
次にコトミは足場に魔力を放出しようと考えていた。
コトミが操る空気そのものは絶縁性だ。粘液ごと吹き飛ばしてしまえば感電する心配はない。
最後にグレンは、近くの電信柱に飛びつこうと考えていた。
目についた電信柱は木製だ。
木は電気の抵抗が強いので、それで対処できるはずだ。
「いくぞ、さん––––––はいっ!」
「「「はい?」」」
メイズがありったけの魔力を腕に込め、地面を殴った。
三人はまだなんの準備もなく粘液に濡れた地面に足を付けていた。
三人を巻き込んだ電撃は、狙い違わずスケルトンカウボーイを全滅させた。
––––––––意識を取り戻したショウタ達がメイズに、この場で派手に暴れて囮になれと事実上の首宣言をし、そのまま路地沿いに進軍した。
粘り強い進軍を続け、三人は遂に中央大図書院に辿り着いた。
因みに他のウケビト達は、最初モッチョに囲まれて、ショウタ達が路地に逃げ込んだとき分断こそされたが、持参した火炎放射器を使って対抗し、それなりの戦果を上げていた。
S.ショウタ
K.コトミ
G.グレン
S.「あががががが……」
K.「あががががが……」
G.「あががががが……」
S.K.次回“あががががが……”
G.「次回は“とある夢想家の手記”というタイトルです」




