ミリーの正体
エルフ達がノワルの確保に向かった後、コバルド、メイズ、ハンソン、ミリーの四人はメイズが壊した壁を応急処置していた。
メイズが角材を崩壊させた壁に打ち付けるのを尻目に、コバルドは瓦礫を集めていた。
ミリーは一人、壁際に椅子を寄せて頭を抱えている。
コバルドは掃除を続けながら、さり気なくハンソンの側を陣取った。
「なぁ、ハンソンさん。
クローン体で人を作るにはどれくらい時間がかかる?」
「成人一体は最速で二週間で形にはなる。
それがどうかしましたか?」
「……いや。
ここの片付けが終わったら、衛士詰所を目指そうと思う。
今ある証拠物を提示した後、ノワルの家をガサ入れしたら色々埃が出るだろ」
「ん?ノワルの身柄と一緒に行った方が早くねぇか?」
「あの手のやつは言い訳が上手いんだ。
物証揃えて先にこっちの口から説明した方が早い」
「なるほど……確かに衛士詰所に入れば、僕とミリーを狙う刺客も手を出しにくくなるし、いい手かもしれない。そうしよう」
「待って、お父さん。
その前に話したい事があるの……」
ずっと椅子に座っていたミリーが立ち上がった。
「今は急ぐんだ。
それに襲われる可能性もゼロじゃない。
今ここで話してくれ」
「あの、あんまり人に聞かせたくない……ノワルの事なんだけど」
「コバルドよ。
年頃の女の内緒話に首突っ込むのは野暮だぜ」
「内緒話ついでに、その懐の拳銃でハンソンさんを殺す算段だろ」
「っ!?」
ミリーが驚いた顔をしたが、それも一瞬。
すぐさま真顔になり、懐から自動拳銃を抜きざまにハンソンに向けた。
が、拳銃をコバルドが蹴り飛ばし、遅れて反応したメイズがミリーを組み伏せた。
「おいおい、ミリーちゃん。
落ち着けよ、何してんだ」
「メイズ、こいつはミリーじゃない。クローン体だ。しっかり抑えとけ!」
「そんなバカな!?」
「ハンソンさん。
成人を作るのに二週間かかるって言ったよな。
時間をかければどんな外見の人間だろうと作れるよな?」
「不可能じゃない……が、調整は難しいだろう。
そう簡単には……」
「たとえばなんだが、ミリーの髪の毛やら、細胞の一部があればどうだ?」
「それは……できる」
そう答えたハンソンはへたり込むように座り込んだ。
「ミリーは無事なのか?」
ずっと暴れていたミリーがクローン体とわかるとすぐさま気絶させたメイズが誰にも分からない問いを呟いた。
「さぁな……
兎に角予定通りに衛士詰所に向かう。そこでハンソンさんを保護してもらう。
その後で俺達はノワルの屋敷に向かう。
俺達の仕事はミリーの救出だ」
「いや、僕も同行する。
証拠物は僕の分の他にコピーして信頼できる人に預けてる分がある。万が一があっても大丈夫だ。
人を探すなら目は多い方が良いし時間も惜しいだろう」
「その腕で大丈夫か?多分荒っぽくなるぞ」
「あぁ、僕は医者だ。身体の限界くらい把握している。
痛みも引いた問題ない」
「俺は反対だ。敵はホブゴブリンを配下に置く力を持っている。敵陣のど真ん中では俺とメイズだけで守り切れる保証がない」
「……それでも、僕は医者だ。
ミリーが怪我をしていたら治療は早い方がいい!頼む連れて行ってくれ」
ハンソンが自分の子ほど歳の離れたコバルドの目を見据えて言った。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
ミリーのクローン体を縛り上げて倉庫に監禁したコバルド、メイズはハンソンを連れてノワルの屋敷に着いた。
何故か門が破壊されている事に首を傾げたが、荒事になったのだろうと気を引き締めた。
「俺は一人で右回りを行く!
この機巧スゲーんだ!めちゃくちゃ早く走れる!コバルドはハンソンさんと一緒に左側を頼むぜ」
「おい待て!」
メイズは静止するコバルドを無視して機巧に魔力を流し、目に付くドアを開けながら廊下を疾走して行った。
尋常じゃない早さにとても追いつけないと判断したコバルドは舌打ちを堪えてハンソンを連れて屋敷の左側の散策を始めた。
コバルドとしては万が一のとき素早いメイズにハンソンを任せて逃がし、殿を勤めればなんとかなるだろうという考えで渋々ハンソンの同行を認めていたのだが、初っ端からそれを台無しにされた。
脳のないバカがいない方が動きやすいと無理矢理自分を納得させた。
「無茶な頼みを飲ませてすまない。
しかし君は落ち着いているな、クローン体という話を聞いてそんなにすんなり理解して順応できる人がいるとは思わなかった」
いくつかのドアの中を確認したハンソンが口を開いた。
「[レザルボアマギカ]で殺したはずの人が蘇る所を見たら自分の常識を一から疑うようになるさ。
実際この街ビルカは昔、魔法と化学の複合実験都市だった頃の名残で妙な凝り性が多いんだろう。
それより今はミリーの救出が最優先だ」
「それはもちろんだ」
『やあハンソン。無断で人の家に上がり込むとは礼儀知らずだったんだな』
急に二人の会話に別の声が割り込んだ。
「誰だ!?」
コバルドがハンソンを背中に回し、グラセランセを油断なく構えた。
声は天井に設置されたスピーカーからのようだ。
『君の可愛い愛娘たちが中庭で待っているぞ』
それだけ言ってスピーカーは沈黙した。
「間違い無く罠だが……行くしかないか。メイズのバカが気付けばいいが……」
「ここでじっとしていれば、娘に何があるか分からない。行きましょう」
「わかった」
二人は中庭へ走った。
中庭にはクローンの実験体でも閉じ込めているのか、大きな檻が置いてあった。
柵の部分は黒い布が掛けられていて中が見えない。
そしてその前に実験衣とでもいうのか、シンプルな服を見にまとったミリーが猿轡を噛まされて十字架に縛められていて、その横にはネリダが立っていた。
「あなた、会いたかったっ!」
ネリダがそう叫び、走り寄る。
コバルドはネリダとハンソンの間に割って立ち、躊躇いなくグラセランセを撃った。
いくつもの氷の散弾に身体を穿たれたネリダはボトリと、その場に倒れ伏した。
ハンソンはその惨状に顔を引き攣らせながら現実を飲み込んだ。
ネリダは二年前、処刑された。今目の前にいるはずがない。
「やれやれ、君の飼い犬は待ても出来ないのかい?」
そんな口上と共に、一人の男が檻の後ろから姿を現した。
ロズルだ。
「胸クソ悪いお遊びに二度も付き合う気は無い」
「ロズル、僕は貴方に多大な恩がある。
だから穏便に済ませたい。
まず娘を返してくれ。その後に衛士詰所で君の息子がしでかした事を全部話して欲しい」
「穏便に……ねぇ。
悪いけど、もうそんな事言ってられる状況じゃない」
「何を言っている?」
「俺はさ……ネリダが大好きだったんだ。
それはもう気が狂いそうな程にね」
その言葉にハンソンは目を見開いた。
ハンソンが問いの声を出すより早く、ロズルは言葉を捲し立てた。
「でもネリダはお前を選んだ。
なぜだ、なぜなんだ!
俺はお前を親友だと思っていた。
だから金をやったしコネも使ってやった。
なのに、お前はネリダと結婚して娘が産まれて、俺に振り向きもしない。
お前の成功は俺のおかげなのになっ!
腹いせに出資を辞めてお前らが金に困ればあの事故だ!
お前みたいなネクラな貧者を選ばなかったらネリダはウケビトになる事はなかった!
死なずに済んだよ!」
泣きそうな顔で喚くロズルは自分こそが真の被害者であるとでも言いたげなヒステリックさを見せていた。
「ネリダを殺したのはお前の息子だろ。
被害者面するな」
「あぁ、そうだな。
あのバカ息子め……奴は最低な提案をしてきたよ。
脳医学の天才だったあいつは、身体をつくる技術を求めていた。
お前の持つ知識が必要だったんだ。
そのためにネリダを冤罪に掛けたバカ息子が提案してきたんだ。
『僕ならネリダの偽物を作る事も出来る。
記憶も性格もいくらでも偽造できる。
偽者を本物にする為に、あのネリダを殺そう。
そうすれば、ネリダは父さんのものだよ』
とな!
俺は二つ返事でバカ息子の策に共謀した。
そうすれば、ネリダが俺のものになるからな」
「呆れ返るな。偽物はどこまで行っても偽物だろう」
ロズルの話を聞いていたコバルドが不快さを隠さず吐き捨てた。
「俺達の用事はクズで愚かで胸クソ悪い思い出話を聞くだけじゃない。
ミリーを離せ」
コバルドはグラセランセの銃口をロズルへ向けた。
「あぁ、いいよ。解放してやる」
ロズルが檻に掛かった布を引き剥がした。
「ロズルっ……お前っ!」
「そうだ、面白いだろう」
檻の中にいたのもミリーだった。
十字架に縛められたミリーと同じ顔、同じ服を着ている。
それが檻の中に何人も折り重なるように立っている。
「さっき、偽物どこまで行っても偽物だとか言ったなぁ?
だったら、本物を当ててみろよ」
ロズルのどこか勝ち誇った声は、乾いた響きを持っていた。
Co.コバルド
Co.「腐り切った富豪の胸クソ悪い思い出話を聞かされた俺達に苦難が始まる。
考える頭と言葉を奪われたミリーが多数のクローン体と共に実の父にナイフを振りかざす。
自身の最愛の人物の悲壮な最後を聞かされ、実の娘は薬で壊された。
打ちのめされたハンソンが立ち上がるきっかけは一発の銃声か、娘の悲鳴か……」
Co.次回“それぞれの畑”
Co.「俺の撃つ氷弾がかけがえの無い命を奪う凶弾へと変わる……」




