表は魔物の災厄で、裏は人の醜さと
「な」
「何が」
「起きて」
「いるんだ」
二足歩行のウルグに後ろから攻撃されながら街に走った土魔導士とメリ、ケン、サックは目の前の光景に言葉を失った。
北門は破られ周辺には焼け焦げた死体が散乱している。
それだけでも受け入れ難い光景ではあったが、それ以上に不可解なものが眼前に広がっていた。
無数の魔物が同士討ちを起こしている。
ウルグとゴブリンが争っているだけならまだ分かる。
だが、目の前ではゴブリンがゴブリンに拳を振りかざし、エイプコングがエイプコングに牙を立てていた。
どちらも災厄で気が立っているにしても、周りに他の種族がいる環境で同族同士で争うほど知能が低い魔物では無い。
「くそ、前も後ろもアウトだな」
「いや違う、前はまだセーフだ」
「そうだな、後ろは––––「三人分の台詞が長い!早く伏せろっ!」
サックであろう人物の台詞を遮って土魔導士が両腕ジャンピングボディアタックで三バカを強引に倒し、自身も勢いのままに伏せた。
直後彼らの頭上を無数の“エアーショット”が通過した。
サックであろう人物の台詞を待っていたら多分四人は死んでいただろう。
倒れた四人の元へ門の内側にいたエイプコングが迫る。
「くっ……アースショット!」
土魔導士が倒れたまま苦し紛れに“アースショット”を放った。
エイプコングはその“アースショット”を倒れた四人ごと飛び越えて避け、その後ろの二足歩行のウルグに向かって飛びかかった。
二足歩行のウルグ達は四方からエイプコング取り囲み一斉に飛び掛かる。そのタイミングで、土の塊が大量に撃ち込まれた。
二足歩行のウルグもエイプコングも見境なしに土の塊が命中し、破壊されて行く。
二足歩行のウルグは血肉を撒き散らし、エイプコングは文字の塊となって消えた。
「みんな無事ですか?」
「リディアか。これお前がやったのか?」
「えぇまぁ。
それより門が破られてるし……他のみんなは?」
「いや、生き残ったのは俺たちだけだ」
「そう、とにかくここを守りましょう」
『ソーサリースペル.スリープミスト』
薄水色の霧がハクシキの書から流れ出てリディア以外のウケビトの意識を奪った。
「リーナ、何をするの?」
『足引っ張りは邪魔だから。
早くこれを片付けてエルフを探しに行くよ』
リディアの頭の中でリリーナの声が響いた。
「なぜエルフに拘るの?
魔力源なら私だけで足りるでしょう?」
『あぁ、ディアは知らなかったね。
エルフは––––––––」
*(๑^. .^๑)۶ 〜
北門が破られ戦火が広がる中、ロジーナが睨んでいたホテルは火の手を上げていた。
サラマンドラと呼ばれる炎を纏うトカゲが大量発生したのだ。
元からウケビトの人手が不足している上、北門から少し離れた場所にあるそこには当然護衛などいない。
火の手に追い立てられたその日唯一の宿泊客は、ホテルの最上階へと逃げ込んだ。
「くそ、何故こんな所に魔物が出るんだ!ウケビトは何をしている!こういうときに市民を守らないで何故存在する!
衛士もだ!なぜ真っ先にここに来ない?」
「お客様、ご安心ください。
間も無く助けが来ます」
「お前らもお前らだ!
なぜウルガが殺された報せがここに入らなかったんだ!警備もまるで役に立たない!
おかげで俺は今、燻製にされそうだ!」
「申し訳ございません」
ホテルスタッフは淡々と答えて防火用バケツの水を火に向かって掛けた。
火は消えるどころかゴォオと勢いを増した。
「おい、何をしている!」
「消火です、お下がりください」
スタッフは新たなバケツの水を掛けたが、やはり火の手は強まった。
「やめろ!火が強まっているぞ!」
「消火です、お下がりください」
三つ目のバケツを持ったスタッフを客が後ろから蹴倒した。
頭から水を被ったスタッフは跳ねた火の粉を浴びると瞬く間に火だるまになった。
「なんだこれは……燃える水?」
炎に巻かれたスタッフよりも、バケツの水に驚きを上げながらその客は周囲を見渡した。
屋根の上に通じる梯子を見つけ、それを登ろうとして、途中で確かに上まで繋がっていた梯子の足が無くなった。
「は?」
重力に従い倒れた客の頭に水が掛けられた。
「ぶはっ……」
「目の前で人が死んだのにまるで気にもしないのね。
ま、あれは人ではなかったみたいだけど。
コマースさん」
「誰だ?」
「私はとある依頼を受けたウケビト。
敢えて呼称するならラフラ」
コマースは視線を走らせたが、周りには誰もいない。
「残念、貴方に私は見えないよ。
早速なんだけど、貴方は今全身液体燃料まみれになってるの」
「液体燃料?」
「貴方がいうところの燃える水よ」
それを聞いたコマースは火事に炙られて上がりっぱなしの体温が一気に冷え上がるのを感じた。
さっき液体燃料を頭から被ったスタッフは小さな火の粉一つで燃え上がったのだ。
「た、助けてくれ!」
「いいけど、条件があるよ」
「な、何が目的だ。金か?いくらだ!」
「条件は簡単。
二年前、ネリダの裁判で貴方が関わった不正の公表よ」
「不正とはなんの事だ?話が見えないぞ」
立ち上がって乞うような視線を走らせるコマースのお腹に衝撃が走った。
「がっ、何を!?」
透化したままコマースのお腹を殴ったラフラは姿を現し、コマースの首根っこを掴み壁に押し当てた。
「命と口と頭だけあれば私としては問題ないからさ。
荷物を軽くしたいから邪魔な手足は切り落としていいよね?」
空いた手にグルカナイフを握り左肩に押し当てた。
刃がじわじわと服の繊維を切り裂き、皮膚に触れていく。刃はそれでも止まらず赤い線状の痕を付け、更に深く食い込むと–––––
「や、やめてくれ!言う、俺が知ってる事は全部話す!だからやめてくれ!」
「そう、じゃあ決まりね。
因みに私は君の親類縁者、金を流してる愛人その他色々詳しく知ってるよ。
あんたが賄賂で買い取った衛士も全員、病院で寝かせてある。
絶対私に勝てないと調教した上でね。
下手に嘘を吐けば分かるよね?」
「ひっ、やめてくれ。俺は頼まれただけなんだ」
「信念も無い癖に頼まれたら罪も恨みも無い人を殺せるんだ。最低だね」
この声は聞くに堪えない。
それに信念があるからといって、人を殺していい訳でも無い。
最後の一言は余計だった。
無意識に許しを求めての言葉だったとラフラは自戒した。
まだ、鬼になりきれていない。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
ウルガの死による災厄から数日が過ぎた日、ショウタは一人でハンソンの屋敷に来ていた。
「よぉ、ショウタ。生きてたか」
「寝込んじまってたけどな。お前らは?」
「……俺らは無事だ」
門前でコバルドとメイズに合流した。
コバルドは左手足に包帯を巻き付けていて、表情は暗い。
メイズは傷らしい傷もなく、ピンピンしていた。
「依頼はどうなったんだ?
ウルガが殺された事は聞いたが碌な情報が無い。
一緒に仕事してた姐貴とエルフはどうなったんだ?なぜ帰ってこない?」
「ハンソンさんが待ってる。早く行こうぜ」
「あとで全部話す。今は黙ってくれ」
壁が壊れた部屋に、ミリーの姿は無くハンソンさんがひとりで待っていた。
「来たか、街の防衛ご苦労だったね」
「まぁ、実質俺らは何もしてないけどな」
「街の被害がほとんど無かったのはウケビトの尽力の賜物だろう。
話は変わるが僕の護衛の報酬がある。
受け取ってくれ」
報酬が入った袋を差し出した。
メイズが嬉々として受け取ってた。
「ハンソンさん。やはり俺は報酬を受け取れない」
「なぜ?僕と君達は依頼者とウケビトだ。
報酬のやり取りは当然の事だし、それが終われば縁が切れる。
そういうものだろう、受け取ってくれよ」
ハンソンさんの言葉にショウタは頭上にハテナを浮かべたが、コバルドは合点がいったのか、小さく頷いた。
「そうだな、依頼者が望まないなら以後は関わらない。
だが、俺なりのやり方で償いはさせてもらう。売れ取れとも言わない。
俺は俺の自由の元行動するだけだ」
「代わりなんて要らない。本当に大事なものはもう……」
「あぁ」
ハンソンさんが、コバルドを静かに睨みつけた。
コバルドはその怒りを黙って受け止めて、謝るでもなく、頭を下げるでもなく、何か言い訳や弁明を口にする事も無く、部屋を出た。
ショウタとメイズも後に続きハンソンの屋敷をあとにした。
人が行き来する街に、外にいる目的を失ったショウタは酷く浮いている気分になった。
[レザルボアマギカ]もウルガが殺された一件の後始末で慌ただしく落ち着かない。
「[キャラバン]に行こう」
「やめた方がいい」
「なぜだ?[レザルボアマギカ]は今、災厄の事後処理でゴタついてるし、俺とメイズは宿無しだ。
残るのはお前のとこだけだろう」
「うっ……仕方ないか」
何故か乗り気でないショウタを先頭に一同は[キャラバン]に着いた。
何故か店側の出入口から入るように促された二人が訝しんでると、ショウタが袋から赤い砂を取り出して、それを店内に撒いた。
「なにしてんだ?」
「お祓いだ」
「お祓い?悪霊にでも取り憑かれてるのか?」
「あぁ、姿の見えない痴女に取り憑かれた」
どこか疲れた表情のショウタが、魔法で赤い砂を全て回収して袋に収めた。
「安心してくれ。断定は出来ないが多分おそらくきっとそう思ったら大丈夫な気がすると考えたい」
「全く安心出来ないんだが……」
「出たらそのときに対応しよう」
疲労を宿したショウタの目にコバルドとメイズが揃って怪訝な顔をしたが、ショウタ以外に異常なものはなかった。
そのまま接客用の椅子を適当に並べて三人は向き合い、まずコバルドが口を開いた。
「俺が把握できてる範囲で護衛任務の顛末を話す。
俺がミリーを殺した」
Rf.ラフラ
Rf.「え、私も予告するの?わかったよ。
とりあえず自己紹介からだね。
私はそうだね、敢えて呼称するならラフラ。
よろしくね」
Rf.次回“ミリーの正体”
Rf.「え、最後に一言?うーん。
私の名前の由来は裸の女だよ」




