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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 三章
39/46

 災厄前の準備時間

S.「前回までのあらすじ。

 お見合いを邪魔する仕事をしてたら魔物の群れに襲われてショウタとグレンが病院送りになった。

 依頼がお見合いの邪魔から護衛と犯人確保になったが、リディアが魔物を呼んだと冤罪を掛けられそうになったので戦線離脱。

 エルフと姐貴は犯人確保に向かうもエルフが殺されて姐貴もお腹を貫かれて左脚を捩じ切られる重傷を負わされる。

 また、別の場所ではウルガが殺されて災厄が始まろうとしていた。

 そんな事情を知らず、護衛に残ったコバルド達はメイズのバカが壊した壁を修理していた」

 災厄はウルガの死から始まる。

 二年前の災厄は凄惨な物だった。

 ウルガの死を発見するのが遅れた結果、気が付けば平原の肉食獣や魔物がほぼ全滅し、草食の獣が街の農村部を襲ったのだ。

 その襲撃は一度では済まず、断続的に規模を増して農村が襲われ、半年分の食糧が食い荒らされた。


 違和感を感じた[レザルボアマギカ]が、ウルガの捜索を命じ、矢で心臓を射抜かれたウルガの死体を発見したのは、最初の草食獣の襲撃から二ヶ月後で白骨化していたという。

 司法解剖で死亡時期や死因となった矢の出自を探った結果捜査線上に上がったネリダが処刑されて事件は終わった。


 ウルガの死を経験したビルカの街は、ウルガの生息するビルホト平原に詰所を設置して、ウルガが万が一殺された際は出来るだけ早く察知して、街の防衛体制を作る用意をしていた。

 

 と言っても、そんな事態早々起きるはずもなく詰所は実質変わった所にある山小屋と化して、ビルホト平原に出向いたウケビトや行商人の休息地となっていたが、この日初めて本来の役割を果たす事になった。

 

 ––––––––グルヴゥオゴボォロァガー


 雄叫びが詰所に響いた。

 詰所にいた[レザルボアマギカ]職員は大型冷蔵庫程のサイズの電話機に手を伸ばした。


 「無数の獣の雄叫びがしました。

 念のため街の防衛態勢と、こちらにウルガ捜索用の人員を手配して下さい」

 

 職員はその後もたまたま詰所に居合わせていたウケビトに協力してもらいながら周辺の魔物の様子を逐一[レザルボアマギカ]へ報告した。

 どうやらかなりの数の魔物がビルカへ向けて移動を始めているらしい。

 偵察に向かったウケビトからも怪我人が出始めたので、職員はウルガの捜索を断念した。


*(๑^. .^๑)۶ 〜


 建前上謹慎処分中のリディアは、ロジーナの執務室で、暇そうにしていたウケビトに頼んで中央大図書院から借りてきてもらった本を読んでいた。


 不意にベルが鳴り、たまたま居合わせた職員が電話機を手に取り表情を険しいものにした。

 短いやり取りを重ねて電話を切ると、ロジーナと短いやり取りをした。

 二、三話し込むと職員は弾かれたように外に出た。

 

 「何かあったんですか?」

 「今に分かるさね」


 『緊急連絡。

 たった今、多数の魔物がこの街に進行中です。

 ウルガが死亡した可能性もありますが詳細は調査中。

 手の空いてるウケビトは至急[レザルボアマギカ]に集合をお願いします。

 繰り返します––––––––』


 「ウルガが死亡?あの生態系のバランスをとってるウルガがですか?」

 「あぁ、だとしたら妙だけどね。

 ウルガが死ぬと確かに魔物達は碌でも無い事をし始めるけど、まずは魔物同士、次に街という順番さ。

 詰所の奴らが無能でなければ、昨日はウルガの生存を確認している。

 小さい群れが街に迷い込むなら話は分かるけどかなりの数が来てるみたいだね」

 「何者かに意図されていると?」

 「現段階では何とも言えない。

 私は前に出て情報収集と現場の指揮を執る。

 あんたは謹慎中だけど裏で働いてもらう。

 北へ向かいな」

 

 そう言ってロジーナは部屋を出て行った。


 ロジーナの指揮の下、門は閉鎖され防壁の外に出ていた人々はウケビトが保護して街に引き戻した。

 

 そうこうしている間に戦端が開かれウケビト達と魔物が衝突した。


 「やっぱり妙だね……」

 「ロジーナさん?」

 誰にも聞かれないだろうと思っていた独り言は、いつの間にか隣にいたビルに聞かれたようだ。

 「いつからそこに居たんだい?」

 「ずっと居ましたよロジーナさん!」

 「そうかい。で、配置はどうなってる?」

 「魔物が特に密集してる南門は既に手練れで固めています。

 が、人手が不足してますね。

 北門は魔物がほとんどいないと聞いていますが、集められたウケビトは十人そこらです。

 コバルド達を呼び戻さなくていいんですか?

 この街にいるんでしょう?」

 「私の勘だがコバルド達の追ってる山は色々面倒を呼ぶよ。

 早めにカタを付けさせたい。

 北門には魔物が行かないと祈るしかないね」

 「神頼みですか……」

 「神はこの世に居ないよ。

 なすべき事を成し遂げたとき、人こそが真の神たり得る存在となるのさ。

 あたしの故郷に流行っている戯言さ。

 これが片付いたらまた馬鹿共に不味い焼肉を食わせてやるかね」

 「その台詞は北門にまともな人員を配置してから言うべきでは?」

 「保険はかけてあるよ。

 どうしても不安なら今から腹に爆薬括って盾になるかい?」

 「遠慮します」

 

 適当にビルを追い払ったロジーナは先遣隊が遭遇した魔物リストを確認した。

 ウルグをはじめとした肉食系の獣や魔物に混じってゴブリンの群れやエイプコング等の雑食系の魔物が多い。


 「前の奴らはゴブリンとウルグが食い合ってるのを見たかい?」

 「いえ、そういう報告はありません。それがなにか?」

 「前の奴らに伝えな。

 戦線維持に支障が無い範囲で魔物の生捕もしくは死骸を回収しろ。ただし深追いはするな」

 「了解です」

 

 「全く、自分を天才だと勘違いしたアホ程始末に負えないね」


 エルフ達の報告と、ある筋から入っている情報からロジーナは既にこの災厄が仕組まれたものであると見抜いていた。

 だとしたら、今向かって来る魔物達の一部、或いは全部がノワルの支配下の存在だろう。

 普通に考えれば南門から入ってすぐにあるノワルの屋敷の物的証拠隠滅が目的だろうが、これは多分フェイクだ。

 北はノワルの父ロズルが管理しているお見合い会場にもなったホテルがある。

 そこには現在、ノワルの裁判に関わった人間が宿泊している事もある筋から確認してある。

 事故に見せかけて、そいつの口を封じるのが本命と見ていいだろう。

 

 「ま、分が悪い賭けだけどリリーナを起こすにはこれくらいしないと厳しいだろうからね」


 北門は危ないだろうがこちらも人手が厳しい……というのも一応事実だ。

 最悪北に甚大な被害を出そうとも、手元に置きたい鍵に手を伸ばそう。


 「頼むよ、リディア」


 この独り言は誰の耳にも届かなかった。


*(๑^. .^๑)۶ 〜



 北門は南と比べて落ち着いていた。

 一度ギヤの群れがやって来たが、大した脅威では無い。

 ギヤは普通の男が武器を取れば余裕で追い払えた。

 奴らが来るまでは……


 門の外、最前線に少数派遣されていたウケビトが草竜を見つけた。

 災厄の影響なのか凶暴化した草竜を半円に囲んだウケビト達は、銃や魔法で一斉に攻撃した。

 「くそ、びくともしない」

 「鱗は盾に出来るくらい硬いからねっ」

 「ブレスも魔法もない。

 近付きさえしなければ、押し切れる!」


 そんな矢先、この街では希少な自動拳銃を撃っていた一人が弾を詰まらせた。

 

 「そんな変わった武器使うからだろ」

 「すまん、下がるわ」


 自動拳銃は、リボルバー拳銃と比べると構造上の違いから弾詰まりが起きやすい。それでも手で薬莢を抜くだけなので、大きな隙にはならない。

 一度草竜から目を離した彼は、自分達を扇状に囲む魔物を目にした。

 ……二足歩行のウルグ?

 今までに見たことのない魔物だった。

 手に石斧を持ち、今まさに投げようとしている!

 「みんな逃げろっ!」

 「はっ……ぎゃあっ!!」


 ほとんどのウケビトは反応出来なかった。

 死人は出なかった。周到に狙った不意打ちとはいえ小さな打製石器の威力はたかが知れていた。それでも後頭部を割られたり、背中に裂傷など、小さいでは済まない怪我を負う。

 だからこそ……惨劇が起きる。

 「ぐっうわあぁ!!」

 「来るな、やめろ!」

 

 大きな傷を負うと、当然動きが鈍る。

 –––––ぐじゅがぁ

 二足歩行のウルグ達が大怪我を負ったウケビト達に迫る。

 鋭い爪で一人また一人と倒されていく。

 動けなくなった仲間は強靭な顎門で貪られた。


 辛うじて“アースウォール”で石斧による不意打ちを防いだ土魔導士が、“アースショット”で二足歩行のウルグを牽制しつつ、弾を詰まらせた故に不意打ちに唯一無傷で済んだガンマンの元へ走った。


 「今の戦力では持たない。

 お前は門まで下がって体制を整えろ」

 「はぁ、俺一人逃げろってか!」

 「お前がこの状況を一人で覆せるならこんな事言わん。俺は薄壁程度の仕事は出来るが、奴らを倒しきれん。

 分かるだろ、このわけ分からん魔物を後ろに伝えなきゃ全滅だっ」

 

 二足歩行のウルグが牙を剥き出しガンマンに迫る。

 地を這うような低い姿勢たが、二本の脚で地を駆ける。

 土魔導士がガンマンを突き飛ばし身代わりになった。

 

 「ぐっ……アースウォールッ」

 

 二足歩行のウルグに腕を噛みつかれたまま、土の壁を張り、満身創痍になったウケビト達と魔物達からガンマンを分断した。

 

 「行けっ!お前が街を守れっ!」

 「絶対助けを連れて戻る、死ぬなよっ!」

 

 自身の無力さを悔やみながら走るガンマンの背中に、悲鳴や命乞い混じりの悲壮な雄叫びが刺さった。

 

*(๑^. .^๑)۶ 〜


 仲間を見捨てて逃げ帰ったガンマンは、前衛のウケビト部隊が崩壊した事を伝えた。

 

 「ひとまず俺達は先遣隊を助けに行くぞ」

 「あぁ、やってやらぁ」

 「お前らはなんか策を練ってろ」

 

 報せを聞いたメリ、ケン、サックの三人がそう勇んで飛び出すのを見送ると、残ったウケビト達は口々に不満を上げた。


 「やってられねぇよ!

 こっちは魔物が出ないんじゃなかったのかよ」

 「ロジーナさんへ使いっ走りを出そう。

 今は俺たちで持ち堪えるしかない」

 「気休めでも、門前にバリケードを作ろう」


 メリ、ケン、サックを除くと、まともに戦えるウケビトは四人。後は事務処理役のギルドスタッフくらいだった。


*(๑^. .^๑)۶ 〜


 メリ、ケン、サックの三人が現場に駆けつけると二足歩行のウルグが一体、ウケビトの死体から武器を剥ぎ取っている所だった。


 「てめぇごら!」

 「俺らの仲間に」

 「何しやがる!」

 三人が雄叫びメリケンサックで武装し、三人同時に一体の二足歩行のウルグへ殴りかかった。

 奇跡的に不意打ちが成立し、三対一の構図をとり数の暴力を味方につけ、三人がかりで一体の二足歩行のウルグの討伐には成功した。


 「なんだこいつ」

 「聞いてたより弱いじゃん」

 「土魔導士がいないな……食われたのか?」

 

 三人が周囲の様子を改めて確認すると、その場にいたのは事切れたウケビト達とたった一体の二足歩行のウルグだけではなかった。

 

 –––ぐじゅがぁ……

 

 「無理だ、二十体はいる。一度門まで下がろう」

 「いや、俺らが下がったら素人集団しかいないぞ!」

 「ちくしょ、俺らがやるしかねぇ!

 俺たちは三人いるんだ、三人でかかればこんな野郎っ」

 「「「行くぜっ!」」」

 

 馬鹿丸出しの虚勢を張り、三バカが新種の魔物と草竜に挑んだ。

 

 「バカだろお前らっ!」

 

 堪らず死んだふりで土に潜っていた土魔導士が突っ込んでしまった。

 ––––ぐじゅがぁ?


 「あぁ、くそ見つかった。

 お前らが来たって事は伝令はうまく行ったんだな。

 だったら逃げるぞ」

 

 「他の奴らは置き去りかよ」

 「みんな死んだって仲間だろ」

 「–––「三人分の台詞待つ時間が惜しい!」


 サックが何か言おうとしたのを遮り土魔導士が目眩しの煙幕を張ろうとして、サックが土魔導士の魔法を強引に止めた。

 

 「何をする!」

 「みんな門を見ろ!」

 

 「……おいおい」

 「嘘だろ……」

 「飛竜……だと」


 サックポジションで土魔導士が思わず呟いてしまった。

Ly.リディア


Ly.「災厄について本で調べてみたわ。

 基本的には生態系崩壊から派生して人にも被害が被る感じよ。

 一旦落ち着いても次のウルガが決まるまでは獣も魔物も殺気立つから護衛の仕事が増えてウケビトは喜んだりもするそうですけど、不謹慎だと街の人の反感を買ったり、ギルドも事務仕事が増えるので、歓迎しない事態みたいね」


Ly.次回“白色は博識に塗り替わる”

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