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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 二章
33/46

 作られた命

 ノワルがつまらなそうに言った。

 「そこのやかましい失敗作を作った」と……


 「エルフ?」

 「黙れ!」

 「ハンソンから手に入れクローン培養技術。

 なぜ、あの男は再生医療にしか使わなかったのか不思議でたまりませんね。

 この技術を利用すれば、無から完全に忠実な奴隷を無尽蔵に生み出すことができるというのに。

 が、まぁ理解が足りなかった時期に思い上がって作った個体がいてねぇ。

 それはそれなりに生体実験用サンプルとして活用していたんですけど、逃げられちゃいましてね。

 ほら、実験体。主人が目の前にいるのにいつまで剣を向けているんだ?」

 「黙れ!」

 「帰ったら実験の続きだ。

 お前が脱走したせいで取りたいサンプルデータが溜まっているんだ」

 「黙れ!」

 「やれやれ、やはり失敗作だな。

 人の話を聞く脳すら持ち合わせていないとは……ね」


 ノワルが片手で拳銃をエルフに向けて立て続けに引き金を引いた!

 次々に吐き出される凶弾をエルフは“バーニア”で凌ぐ、四発、五発目を避けると同時に一気に突進する。


 エルフの経験上、拳銃はどんな形状でも六発も撃つと弾切れになっていた。

 ノワルの銃は回転するシリンダーこそないが、他は見慣れた拳銃だ。

 最初の一発その後撃たれた計五発を合わせると、銃は弾切れになる。

 そう確信して“バーニア”で突っ込んだ。

 だが、ノワルは慌てた様子もなく銃口をエルフに向け続けていた。

 「エルフ、ダメ!」

 「愚かだね」

 ノワルが七発目を撃った。

 弾丸は咄嗟に足を引いたエルフの右頬を掠める。

 八、九、十発。

 動きが止まったエルフをなぶるように、弾丸がエルフを襲う。


 「殺しはしないよ、一応大事なサンプルなんでね」

 「あたしも黙ってみてる気無いわよ」


 十一発目を撃とうとするノワルにコトミが“エアーショット”を射った。

 “エアーショット”は当然のようにバリアに阻まれたが、驚いたノワルの銃撃が止まった。

 「自動拳銃なんて随分マニアックな銃ね」

 「おっと、躾のなっていない実験体に気を取られて失念していたよコトミ嬢。

 君もすぐ僕のサンプルになるんだ。

 大人しくしてくれるかな?」

 「断るわ、と言いたいけど一つ質問。

 あなたはなぜあたしを実験サンプルに欲しがるの?」

 「ふむふむ、自分の存在意義知りたがるとは、そこの失敗作と違って優秀なようだ––––––––」


 コトミは魔法を発動した。

 “水伝話”が音の伝達力を高めた水で会話を可能にするのであれば、逆に音の伝達力を弱めた水で相手に気付かれる事なく耳栓を作る事も出来る。

 コトミはエルフの聴覚を一時的に奪った。


 「––––––––短時間であの数のホブゴブリンを殺す戦闘力。

 そのデータを利用して最強のクローン兵士を培養するのさ。

 光栄だろう、君の能力がより精練されて量産されたクローンが天才である僕に活用されるのだから」


 キザに髪の毛を振り回しながら熱弁したノワルをコトミは冷め切った目で見ていた。

 ごく僅かな安堵とある種の嘲笑が混ざった目だ。


 「なんだその目は!」

 「ノワル、あなたはあたしの価値の一端にも気付いてない。

 あたし自身は欠陥だらけだと思ってるし、こんな身体一度も望んだ事もないけどね。

 それでもその価値に気付いたら世界中が黙ってないかもね。

 もしあたしの真の価値に気付いた上であたしを狙ったのであれば、あたしの目的のために捕まってあげてもよかったけど、無理そうだわ」

 そこで言葉を切ったコトミは左手を真っ直ぐにノワルへ向け、エルフに掛けていた耳栓の魔法も解除した。


 「あなたは捕らえる。

 ネリダさんの事とエルフについて全部吐かせてやる」

 「ネリダ?なんのことだい?」

 「とぼけても無駄よ。

 証拠は上がってる、あなたの家をガサ入れしたら終わりでしょうね」

 「では、ますます研究サンプルを放置するわけにはいかな––––––」

 だらだらと口上を述べようとするノワルを遮ってコトミが“エアーショット”を射った。

 当然のようにバリアがそれを阻む。


 「無駄だよ、この生体魔石の防御魔法は巨砲の直撃にも耐えるのだからね」


 弾倉を詰め替えたノワルが銃をコトミに向けた。

 それを見たエルフが撃たれて痛む身体を押してコトミに駆け寄ろうとした。

 コトミは銃に対して有効な対処方法を持っていない。

 

 コトミは拳銃を撃たれても慌てず“エアーショット”を射った。

 コトミはその場に棒立ちしたままだが、ノワルの弾丸はコトミに傷をつけることは無かった。

 お腹に当てる気だったノワルは、一瞬訝しげな顔をしたが、すぐに切り替えて連続で撃った。

 コトミもノワルが撃った弾と同じ数だけ“エアーショット”を射る。

 結果、ノワルの弾丸もコトミの“エアーショット”も互いを傷つける事もなく散った。

 「驚いたよ、まさか銃弾に魔法をぶつけて相殺するとは……

 やはり捕らえる価値があるサンプルだ」

 「あたしはそんな高度な事やってないわよ、自称天才さん。

 こんなの、種が分かれば誰にでも出来るわ」

 「なにおぉ!

 実験サンプルが生意気な口を叩くな!」


 激昂したノワルが撃った。

 真っ直ぐにコトミの頭を捉えている。

 コトミも“エアーショット”を射った。二つの弾道がすれ違う、まさにそのタイミングでバリアが作動した。

 その結果、コトミの“エアーショット”とノワルの弾丸この二つはバリアに阻まれた。

 

 「っ!なぜ当たらない!」

 ノワルが続けて引き金を引くが、弾は出ない。

 それを見たコトミが左腕を頭上に上げた。


 「アクアボム」


 水のエネルギーを着弾と同時に爆発させる魔法だ。

 一度に四射、弓形の軌道で射った。

 その四射は、ノワルの前後左右の地面に着弾し、泥を盛大に巻き上げるが、当然のようにバリアに阻まれる。

 

 が、この泥はエルフの“ファイアボール”やコトミの“エアーショット”とは違う、自然界に存在する普通の泥だ。

 泥は全方位にボール状に展開されたバリアに貼りついて落ちない。


 「おい、この無能。

 前が見えないだろ!バリアを解け!」

 

 泥に隠れたノワルの喚く声が響き、バリアが解かれた。

 中には弾切れの銃を持ったノワルと、生体魔石と呼ばれていたホブゴブリン。

 頭から被った泥で視界が悪い。

 はっきり言って隙だらけだ!

 「バーニア!」

 

 背中全体から爆発エネルギーを発生させ推力としたエルフが特攻する。

 “バーニア”の加速エネルギーに“ブロウ”を重ねた一撃をノワルに叩き込む。

 拳銃を放り出して倒れるノワルには見向きもせず振り向きざまに剣を抜き、一連の状況を静観していた生体魔石と呼ばれていたホブゴブリンを斬り伏せた。

 

 「これでチェックメイトね」

 「いや、手遅れだよ」


 ––––––––グルヴゥオゴボォロァガー

 突如地響きと無数の生き物の雄叫びが響いた。

 

 「懐かしいなぁ。二年前と同じだ。

 なぁ、そうだろ」

 「やめろ言うな!」

 「懐かしいだろ、二年前もお前がウルガを殺したんだよ。

 今僕が作ったクローンが、ウルガを殺したんだ。あの街にもう用はない。街を壊せば僕を裁く人間もいない。

 これが最後の実験だ!

 せいぜい楽しませてくれモルモット共」


 「ナユタ、僕は君について行くよ」

 

 ひとしきり笑い終わったノワルが、真顔で言った。

K.コトミ

E.エルフ


K.「つまりエルフに乳首やおへそがない理由は中途半端な知識と技術で適当に作ったからなのね」

E.「それだけじゃねぇぞ、欠陥だらけの身体にしやがって。

 絶対ぶっ殺してやる」


E.K.次回“エルフ死す”


K.「……」

E.「おいこら、どういう事だ!

 ふざけんな!」

K.「落ち着いてエルフ、どんなに頑張ってもその“ブロウ”はどこにも届かないから!」

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