機嫌の悪いエルフ
「チームを分けましょう」
ハンソンの話が終わってから、コトミが言った。
「何を目的に?」
「ネリダさんのクローン体がハンソンさんとミリーを襲ったって事は、多分ノワルが弱みを握られたって確信があって口封じに動いたって事になる。
それが失敗したら、次はどうなると思う?」
「より本格的な戦力を送り込むか、逃亡。或いはその両方か」
「そうなる。
だから、ここは危険だけど二手に分かれる。
ロズルとノワルを確保するチームと、このままハンソンさんとミリーの護衛をするチーム。
チーム分けは–––––」
「オレはノワルを捕らえに行く」
コトミの発言を遮り、エルフが言った。
異論は認めない断定口調。
「分かった。
じゃああたしも確保に向かうわ。
あたしとエルフなら近距離と遠距離でバランスも取れるし、動きやすいから。
コバルドとメイズは護衛をお願いしていい?」
「妥当な配置だな」
「チームを分断するなら……そうなるが、リスクもある。例えば別れた誰かにクローンが成りすましてくる可能性はないか?」
「それは多分ないだろう。
クローンは万能では無い。作るのにそれなりに時間が掛かるから」
コバルドの不安をハンソンが否定すると、コバルドは、短く頷いた。
「こんな感じになりますけど、いいですか?」
おおよその方針が決まったところで、コトミが依頼人に確認した。
「あぁ、どうかノワルを捕らえてくれ」
*(๑^. .^๑)۶ 〜
エルフ達は、ノワルの住居に着いた。
そこは、ハンソンの家よりも大きな屋敷だった。
「一気に中に踏み込む?」
「まさか、オレ達は野蛮な賊じゃない。
ノックくらいはするさ」
最早門と読んだ方が良さそうな玄関にエルフは仁王立ちになった。
ドンドン、と強く扉を叩く。が、これだけ大きな家だとそもそもノックが聞こえるとも思えない。
「エルフ、そこにドアホンがあるわ。
そのボタン押して––––」
ドンドン…ドガァン!
ノックのモーションそのままに、“裏拳ブロウ”を扉に叩き込んだ。
扉が吹き飛ぶ。
「野蛮な賊じゃないんじゃ無かったの?」
「無視する礼儀知らずには無礼で答える」
「そう。怒ってない?」
「かも知れないな。
あのクローンとかいう話が本当なら……」
「エルフ?」
「いや、何でもない。ノワルの部屋に向かおう」
頭を振って思考を切り替えてからエルフは、ハンソンから聞いたノワルの部屋を目指した。
驚いた事に屋敷は無人で、二人はあっさりと目的の部屋に着いた。
「一気に踏み込む?」
「オレは野蛮人じゃないぞ」
ドン……ドガシャンッ!
「……ノック?」
「反応しないのが悪い」
再び“裏拳ブロウ”で吹き飛ばしたドアを踏み越え、部屋に入った。
その部屋は無人で、エルフが想像してたよりもずっと広い部屋だった。
多数の本やファイルを収めた本棚が壁一面に並び、診療目的のベッドと何かの医療道具を並べた台がある。他は机の上に書きかけのノートと、飲みかけのコーヒーが置かれていた。
ざっと室内を駆け回ってみたが、ノワルはいなかった。
「いないのか」
「出て行ってまだそんなに時間が経ってないみたいよ」
まだ湯気を立てているコーヒーを指差しながらコトミが言った。
「この屋敷燃やそう。
そしたら炙り出されるだろ」
「一緒に証拠物も燃えるわよ。
そしたら、賄賂渡してる衛士が適当に揉み消しておしまいよ。
身柄確保と誰の目から見てもわかりやすい決定的な証拠の確保は必須だわ」
コトミは目を閉じて神経を集中させた。
コトミが普段隠している魔法、索敵魔法は三通りの物を媒介にする。
一つは水分。
これは単に水の場所を特定する。生物の持つ血などの体液のパターンを読み取ることで、索敵に応用できる。
二つ目は空気。
これは空気の微妙な流れの変化を読み取ることで、生物の存在や、壁の隙間といった物を見つけることができる。
三つ目は音。
“水伝話”の応用で広範囲に音の伝達力を高めた水分を配置する事で、音源を探知できる。
この方法は鼓膜に大きな負担がかかる欠点がある。
これらの魔法を勘がいい、たまたまだと普段から誤魔化しながら使っている。
以前中央大図書院で、地下通路を発見したときもコトミは、空気を媒介にした索敵魔法を使っていた。
今コトミは、三つの索敵魔法を同時に行使した。
一片の違和感も逃す事なく探知する。
その結果、壁一面の本棚群に違和感を感じた。
「エルフ、右端から三つ目の本棚動かせる?」
「これみよがしに一つだけ赤い本棚だな。
分かった」
「……え、えぇそうよ。お願い」
エルフがその本棚を動かそうとしてみたが、押しても引いてもピクリとも動かなかった。
一度中の本を抜いて軽くしようと、本に手を掛けると、その本もそこに固定されているように動かない。
そのままなんとなく押し込んでみると、赤い本棚が下に沈み込んで隠し部屋が出て来た。
その部屋には小さな魔法陣が置いてあった。
「これは……転移魔法陣ね。
陣に入ると自動でワープするタイプね」
「ワープ?」
「転移魔法。
一瞬で物質を移動させる魔法よ。
利便性の高さと悪用された際の脅威度から管理規制が厳しいはずだけど、こんな所にあるという事は––––」
「奴がこれで逃げたって事だな」
エルフは躊躇いなく魔法陣に入ろうとした。
「待って、ノワルはあたし達が追ってくるのは分かってるはず。
罠が仕掛けられてるかもしれないわ」
「転移と同時に“ボンバーマン”でまとめて焼き払う。
戻って来なかったらコトミも来てくれ」
エルフは返事も待たずに魔法陣に飛び込んだ。
「普通安全確認したら一度戻ってくるよね……」
以前の酒場のときとは違う形でエルフのスイッチが入ったようだとコトミは思った。
エルフが転移魔法陣に飛び込んでしばらくした後、コトミは全力の索敵魔法と、いつでも“エアーショット”を使える体制を整えてから魔法陣に入った。
転移早々に、金属を尖った物で強く引っ掻くような轟音に、索敵魔法で強化された耳を襲われた。
「いっああぁっ!」
コトミは慌てて索敵魔法を切り、両耳を抑えながら、状況を確認した。
場所は外だった。街中ではない。木々が生い茂るどこかの山か森だろう。
こちら側に転移魔法陣が見当たらないので、あの魔法陣は一方通行だったようだ。
そして、音の出所は、エルフの剣とそれを阻む目に見えない何かだった。
エルフがノワルに向かって剣を振り下ろし、見えない壁に塞がれている。
二撃、三撃、角度や速さを変えても見えない壁に塞がれる。
一度距離を置いて“ファイアボール”を投げた。
同時にエルフ自身も“バーニア”で加速して、“ファイアボール”が着弾した場所に寸分違わず剣を叩き込んだが、それでも見えない壁は破れない。
「無駄だってそろそろ分かっただろ。
この試作型の生体魔石のバリアは完璧なんだよ。
役者も揃った事だし、話を始めたいんだよなぁ」
見えない壁の向こう側で、一体のホブゴブリンを従えた白衣姿の男がコトミを見た。
「やぁやぁ、はじめましてコトミ嬢。
僕はノワル。
君の身柄を僕の研究サンプルとして頂きたい」
「黙れ!こっちを無視すんじゃねぇ!」
「はぁ、黙りなよ……失敗作」
ノワルは懐から自動拳銃を取り出して、剣を振りかぶるエルフを撃った。
エルフは驚異的な反射神経でその弾を回避して一度間合いを取った。
「では、改めて。
僕はノワル。そこのやかましい失敗作を作った化学者だ」
K.コトミ
E.エルフ
K.「失敗作を作った……エルフ?」
E.次回“作られた命”
K.「ちょっとエルフ!タイトルコールはまだ早いよ」
E.「知るか、さっさと話を進めろ!オレは、オレは……」




