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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 二章
31/46

 クローン体

 「なぜ、護衛依頼なのに銃声がした現場に二人しか来なかった?

 なぜ敵を逃した?」


 と、問うハンソンに各々はこう答えた。

    


・コバルド

 「コトミの頼み事に応えたあと、適当に屋敷を散策していたら、銃声がした。

 銃声の場所へ向かうと、依頼主とその父親が銃を持った女に襲われていたので、依頼者達を保護。そのまま襲撃者を捕獲しようとしたが、突如乱入したメイズのせいで逃げられた」


・メイズ

 「屋敷の庭でノーブルに作ってもらった機巧を試していたら銃声がした。

 方角は分かったが、位置的に走って間に合うか自信が無かったので、機巧をフルパワーで使って跳躍した。

 窓を突き破るはずが、壁ごと壊して俺自身一瞬意識が無い。

 目が覚めるとコバルドに殺されそうな目を向けられていた」


・コトミ 

 「大切な同居人が撃たれたはずなのにピンピンしていたので、一度ちゃんと診たいと思い、コバルドに協力を頼んで密室を作りエルフを診ていました。

 銃声が聞こえて現場に駆け付けようとしたけど、ドアと窓がそれぞれ氷で封鎖されていて、どんなに頑張っても外に出られませんでした」


・エルフ

 「コトミに監禁されていた。

 今回の不手際に関して、オレは完全に被害者です」


*(๑^. .^๑)۶ 〜



 「君達、全員減俸」

 コトミの手を借りながら撃たれた腕の処置を終わらせたハンソンが、四人からの話を聞いてからそう言った。

 弁明の余地もない。

 強いて言い訳するなら、ミリーがコトミの同行を拒否した一点くらいか……

 「ハンソンさん。無礼を承知で聞くがあの女は何者だ?

 写真で見たネリダさんと瓜二つだった」

 

 悪びれた様子ではあるが、それでも疑問が収まらなかったコバルドが口を開いた。


 「そうだな……

 結論からいうと、あれはおそらくクローンだ。

 ネリダの遺伝子情報を基に培養したのだろう」

 「クローン?」

 「あぁ、僕の専門は再生医療。

 より踏み込むと、クローン培養。

 千切れ飛んだ腕やダメになった内臓を培養して拒絶反応無く接合、移植するのが僕の家系の医術なんだ。

 それを応用すれば、新しい命を生み出すことも出来る」


 「命を作る技術……」

 エルフが言葉の意味を確かめるように言った。


 「あぁ、昨日君たちが倒したゴブリン達の遺体を調べてみたら、クローン体特有の反応が出た。

 さっきのネリダも恐らく……許し難い事だ」

 というハンソンの声音は押し殺した怒りに満ちていた。

 あの日、死刑になったはずの自分の最愛の人がいきなり現れて自分を殺そうとしたのだ。心中穏やかでは無いだろう。


 「お父さん。

 クローンは確かに再生医療の応用として人体の一部を復元できるけど、命を作るのは不可能だって言ってませんでした?」

 「倫理的な問題でタブーにした。というのが正しい。知識のある人間が本気で研究して設備を整えれば不可能ではない。

 誰も想像しないような話だから衛士に取り締まられる事も今の所はないだろう」

 「それでも、なんでお母さんが私達を襲うの?

 そんな––」


 「クローン体であるとしてだ。

 犯人の目星は付くのか?」

 同じく実の母に殺されかけた上、それが故意に作られた母の偽物だと知らされて激情に駆られたミリーを遮り、コバルドがハンソンに質問を重ねた。


 「この街に限って出来るとしたら、僕かノワルしかクローン体は作れないだろう。

 ロズルが僕の書いた本を他に読ませていなければ……という前提だが」

 「やけにあっさり言うんですね。

 ノワルはあなたが無理矢理ミリーに見合いさせた相手ですよ?」

 「そのことに付いては、謝らなければならない。

 ノワルとロズル達の完璧な隙が欲しかったんだ。

 そのタイミングでノワルがミリーとの見合いを望んでいると聞いて、この気を逃さないと、勢いで引き受けてしまったんだ」

 「隙?」

 「ノワルがネリダを殺した証拠を探していたんだ」

 「……なんて言ったの」


 父の言葉を信じられないというようにミリーが聞いた。

 

 「ネリダは冤罪だ。証拠不十分のままウルガを殺した事にされて、強引に死刑になった。

 だが、証拠物の一部が改竄されていたんだ。

 ネリダがその日弓で放った矢は二射。

 二本ともギヤ狙って射たものだと、ネリダとパーティーメンバーは証言した。

 一射は回収したが、二射目はギヤごと崖下に落ちたので回収を諦めたとも言っていた」


 ここまでの話に、ウケビトでは無いミリーを除く全員が納得顔で頷いた。

 ギヤは別名横取りヤギとも呼ばれ、薬草や花を採集しようとすると、横からそれを盗み食いするのだ。

 採集前に追い払うのは普通の事だ。

 実際それを知らなかったエルフは結構な量の薬草をギヤに盗み食われた。


 「妻がウルガ殺しの犯人として、囚監場に呼ばれた日に、僕はその日妻と行動していたパーティーメンバーに依頼して二射目の回収に向かわせたんだ。

 すると、現場には矢で射られた傷のギヤの死体が転がっていたけど、矢そのものは見つからなかった。死体周辺を徹底的に探し回ったら、折れた矢の上部分が見つかったんだ。

 そこで囚監場に聞きに行くと、ウルガの死体に刺さった矢も折れて上半分が無いそうだ。

 折れた矢の両端はピタリとくっついたよ。

 矢の上部の発見場所とギヤの遺体を証拠物として誰かが妻を嵌めたんだと訴えたけど、話にもならなかった。

 結局ネリダを助け出す前に…………」

 

 そこで一度言葉を区切り天を仰いだ。

 何かを堪えるように全身が強張ってから、力を抜いた。


 「妻の命は救えなかったけど名誉は取り戻したい。

 そう思って苦心していたある日、裁判に関わっていた衛士と、ノワルが話し込む声を耳にしてね。

 なにか、お金の事で揉めているようで、立ち聞きしたんだ。

 そして、聞いてしまったんだ」

 『証拠を隠滅するのは楽じゃ無い––』

 

 その後のハンソンの話は、ひたすらノワルがネリダへ冤罪を掛けた事を裏付ける内容だった。

 ハンソンは、いわゆる透視の魔法を使える魔導士だ。

 ハンソンが自身の知識を本に記し続けたのは、ノワルやロズルと接触する機会を多く持ち、自身の透視魔法で探りを入れるためだった。

 さらに視界情報を画像として保存する機巧を組み合わせる事で、お見合いの日に衛士との金銭のやり取りや、証拠を揉み消した事を裏付ける資料も手に入った。


 「ミリー、僕はロズルには感謝している。

 だが、彼がどこまで関わっているか分からないけど、ノワルのした事は断じて許さない。

 これまで証拠を掴むために道化を演じてきたけど、ついにネリダの無念を晴らす事が出来るんだ。

 事情も話さず嫌な事をさせてすまなかった」


 ハンソンはそう言って撃たれた両手でミリーの手を握った。

K.コトミ

E.エルフ


K.「エルフ大丈夫?なんか考え込んでるみたいだけど」

E.「オレの出自ってどこなんだろうな。

 何も思い出せない理由は、もしかしたら元から何もなかったからかもしれない。

 誰かに作られた命ならそれもありえるのかもしれないと思ってね」


K.E.次回“機嫌の悪いエルフ”


K.「今は目の前の仕事に集中して。

 不安になるのは分かるけど、今のエルフはあたしとショウタとみんなで過ごしたエルフだから。仮に作られた命でも、エルフはエルフだよ」

E.「……そうだな、ありがとう」

K.「そう、嘘偽りだったとしても、私はあたしだから……」

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