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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 二章
30/46

 油断

 「どひゃあ……医者ってのはお金持ちなんだね」

 「デカいが外は荒れ放題だ」

 「昔はそれなりに成功していましたから。

 外の手入れはあんまりですけど中は問題ないです」

 コトミと合流したエルフ一行は、ひとまずミリーの家に向かう事にした。

 そして、そのあまりのデカさにエルフとメイズがそれぞれ漏らした感想に、ミリーが答えた。

 そこは家というよりは屋敷や邸宅といった規模だった。

 ハンソンが医者としての全盛期には、数人の入院患者を受け入れたりもしていたので部屋数も多い。

 

 「では、私は父の元へ向かいます。

 お見合い会場での騒動は父の耳にも届いていますので、色々話す必要もあると思いますから一人で向かいます。

 皆さんは部屋でくつろいでください」

 「あたしもついて行くよ」

 「ごめんね、込み入った話になるから待ってて」

 

 応接間に全員を通したミリーは、一人で扉の向こうへ消えた。

 「庭で体動かしてくる」と、メイズも部屋を出て、エルフ、コトミ、コバルドの三人が残される。


 「コバルド」

 「周りに誰もいない」

 コトミとコバルドは、さっと窓の外やドアの付近を確認すると、コトミはエルフに詰め寄った。

 コバルドはコトミに目配せしてから無言で外に出ていった。


 「エルフ、服を脱いで」

 コトミがそう切り出し、頭にハテナを浮かべていたエルフが「嫌だ」と答え真顔になった。


 「お願い、エルフ。

 何も言わずに脱いで」

 真剣さと緊張が混ざった眼差しのコトミ。

 身体は微かに震えている。

 いかなエルフが記憶喪失でも、男女が服を脱いでする事は想像が付く。

 一緒に過ごしていてコトミが素敵な女性だとも思う。

 が、いくらなんでも唐突にそういうことをする様な関係ではない。

 さらにエルフは自分の身体にコンプレックスを抱えている。

 

 「絶対に嫌だ。

 今のは聞かなかった事にするから一度冷静になれよ」


 何かの気の迷いだと強引に結論付けたエルフは、そう言って回れ右して部屋を出ようとした。

 が、外開きのドアは開かない。

 「は?なんで開かないんだ?」

 ノブを下ろして体当たりしてみると、何か硬いもので抑えられている手応え。そして微かに感じる冷気。

 外からつっかえ棒でもされているのか。

 だとしたら今外に居るのは……

 「コバルドテメェ!」

 ごく僅かに開いた隙間から怨嗟の叫びを放った。


 「逃げないでエルフ。

 あんまり酷いことしたくない」

 一方背後ではコトミが無造作にバタフライナイフを取り出していた。

 ヒュンヒュンと小慣れた動作で刃を出し、ゆっくりとエルフとの間合いを詰める。

 「コトミ、それは洒落にならない。

 冷静に話し合おう」

 「洒落に見える?あたしは真剣だよ」

 

 既にパニック寸前のエルフが辛うじて出した提案も、聞く耳持たないといった調子だ。

 エルフはドアから逃げるのを諦めて部屋に視線を走らせた。

 コトミの後ろに窓がある。

 コトミの得意魔法は遠距離戦や、追撃に向いているが、“バーニア”を併用して一気に突っ切れば何とかなる。

 それに、コトミは魔法を使うときはいつも両手を手ぶらにしているが、今は片手にバタフライナイフを握っている。精度も落ちるだろう。

 そう考えるやエルフは、全力で“バーニア”を使った。

 右拳を握り、コトミが避ける事を祈りながら大振りに振った。

 元々当てる気もなく、姿勢を崩す事を狙った一撃だったのだが、コトミは避けなかった。

 その場に立ったままエルフの拳を左手で掴み、“バーニア”の勢いに任せた足を払ってそのままエルフの腕を極めながら片手片膝だけで地面に抑え込んだ。

 ずっと握っていたバタフライナイフがエルフの手の甲を切る。


 「あたしが見たいのは昨日撃たれたはずの腕。

 選んで、今この場で服を脱ぐか、あたしにナイフで服を裂かれるかを。

 安心して、替えの服は用意してあるから」

 血の付着したナイフを目前の地面に突き立てながら、あくまで穏やかな口調でコトミが言った。

 「どちらも嫌だと言ったら?」

 「このまま気絶するまで頭に“エアーショット”を射ち続けるわ」

 散々ごねた末、エルフは上着を全て脱いだ。

 

 「……傷らしい傷がないわね」

 注射を怖がる子どもみたいに腕を突き出しキツく目を瞑ったエルフの右腕を、コトミは肩の付け根から指先まで、視覚と触覚を総動員して調べてみた。

 その日エルフが着ていたタキシードは、自己の魔法で煤け、肘のあたりに銃で撃たれた跡とべっとりと血が付いていたが、エルフの腕には銃創や骨折の痕跡どころか、かさぶたすら無かった。

 コバルドの話でも、エルフは確かに右肘をホブゴブリンに撃たれていた筈だ。

 少なくとも、コバルドがエルフに氷盾を持たせた時点では腕が不自然な角度に曲がっていたとも聞いた。

 それが、コトミが合流した時点で、問題無く右腕を振り、ショウタを運び出すのを手伝っていた。

 あのときは、ショウタとグレンの怪我が心配でそれどころではなかったが、思い返すまでもなく、それは普通のことでは無い。


 「ここを撃たれたのよね?」

 肘の外側を突きながらコトミは聞いた。

 「あぁ、撃たれたときは確かに痛かったんだけど、気が付いたら傷が治ってた」

 「普通骨折は、1時間で治らない怪我よ。

 エルフ、何か隠してない?」

 「隠すも何も、オレには記憶が無い」

 「本当に何も覚えてないの?」


 エルフは少し考える素振りを見せた。

 記憶の底にあるものを探るように、宙に視線を彷徨わせる。

 「顔も名前も思い出せないけど、大切な人を守りたくて、剣の稽古をしたりだとか。

 地面なんてものはないあおい世界で、太陽の光が気持ちよかった……そんな夢を見たり。

 目が覚めて最初の方もぼんやりしてるよ。

 ロジーナと話す前にも一度目覚めてる気がするんだ。危険な場所だと漠然と察して逃げたような、他の記憶や寝てる間の夢とかが混ざってるのかもしれない。

 昔を思い出そうとしても、見る夢にも法則性みたいなのを感じないし、デタラメだよ」

 エルフは一瞬、寂しそうな目をした。


 「エルフ?」

 「大丈夫……。

 オレが訓練もせず剣を振れるのは多分、昔争いに巻き込まれた剣士だったからだと思う」

 「あおい世界出身の戦場の剣士って謎の前世ね」

 「自分でもそう思う」


 エルフは疲れた顔でため息を吐いた。吐いてから、コトミの視線に気付いた。

 「エルフっておへそも無かったのね」

 「おい!見るなよ」

 エルフは反射的にコトミを突き飛ばた。

 コトミのシャツには揉み合ったときに切られた手の血が、小さなシミになった。

 

*(๑^. .^๑)۶ 〜

 

 バァンッ!

 扉が叩かれる音が響いた。

 中でエルフが逃げようと暴れているのだろう。

 だが、扉は氷で完全に封じた。

 コトミに頼まれたからだ。

 あのお見合い会場でホブゴブリンに重傷を負わされたグレンを助けたのはコトミだった。

 どうやってか屋外からエルフに“水伝話”を繋いだコトミが、会場にミリーを連れて戻ってきた。

 グレンの怪我の具合を確認すると、見事に処置を施したのだ。

 その中には、コバルドの放った魔法に巻き込まれて出来た傷も含まれる。

 コバルドにできた事は精々腫れた箇所を氷で冷やすくらいだった。

 同時に手持ち金が無かったコバルドに、本格的な治療費を用意したのもコトミだった。

 初めは礼をすると申し出たコバルドに「気にしなくていい」と、応えたコトミだったが、会場内で起きた話を聞くと急にこう言い出したのだ。

 「出来るだけ近いうちにあたしとエルフの二人だけの状況を作って」

 と。

 魔法を使えば簡単に実行可能だったので、コバルドは二つ返事で引き受けた。

 

 「さて……やる事がない」

 事が終わってすぐエルフと顔を合わせるのも面倒なので、「コバルドテメェ!」という声を背中に聞きながらコバルドは屋敷を散策する事にした。

 

*(๑^. .^๑)۶ 〜


 エルフ達を部屋に待たせた(実際部屋に留まったのはエルフとコトミ、エルフに関しては監禁されたとも言える)ミリーは、ハンソンの部屋の前で何かが倒れる音を聞いた。


 「お父さん帰ったよ。なんの音?」


 そう聞きながら扉を開けると、ハンソンにフードを深く被った誰かが馬乗りになっていた。

 ハンソンはその誰かを退かそうと手足をバタつかせているが、その誰かは全く意に介さず両手でハンソンの首を絞めている。

 ハンソンは手をバタつかせ、偶然手に握ったボールペンを襲撃者の腕に突き立てた。

 首を絞める手が緩んだ隙になんとか突き飛ばす。


 「お父さん、大丈夫?お父さん」

 「ゴホ……あぁ」

 喉に爪の痕を残したハンソンはゼィゼィと息をしながら、娘に応えた。

 ハンソンがミリーに支えられて立ち上がると、襲撃者も立ち上がっていた。手には小さな拳銃が握られていた。

 拳銃がミリーを捉える。

 だが、今まさに自分に向けて引き金を引かれる拳銃以上に、ミリーが目を見張るものがそこにあった。

 「……お母さん?」

 発砲。

 乾いた銃声が響いた。


 ミリーは固く目を閉じた。それしか出来ない。銃声がして、血にぬれる感触があるのに痛みを感じない。

 目を開くと、目の前で肩から血を撒き散らし倒れる父の姿が映った。

 「いや……お父さんっ!」

 ハンソンは撃たれた反対の手を地面に付いて転倒を阻止した。

 なんとか立ち上がり、ミリーを庇うように無事な腕を広げた。

 「ミリー、ウケビトを呼んできなさい」

 「待って、なんでお母さんが?え?どうなってるの?」

 「行–––––」ダンッ!

 二人のやり取りが終わるのを待つほど襲撃者も親切では無かった。

 二発目が、ハンソンの無事だった腕に当たる。

 「ぐがあぁ」

 

 ミリーは、撃たれ倒れた父に見向きもせず、棒立ちになり、目の前の襲撃者を見つめた。

 目の前にいるのは、今まさに父を撃ったのは死んだはずのネリダなのだ。

 もう居ないはずの母が目の前にいて父を撃ったのだ……

 ハンソンは、なんとかミリーを連れ出し逃げようとしたが、撃たれた両腕が激しい痛みを訴え、体が言う事を聞かない。

 

 「ミリー!伏せろっ!」

 開けっ放しになったドアの向こうから声。

 ミリーは動かない。

 目の前の襲撃者が拳銃をミリー……の後ろのドアの向こうから走り寄る誰かに向ける。

 射線上にいるミリーが撃たれる!

 「ぬおぁあ––––––––」

 ハンソンが撃たれた両腕に鞭を打って、ミリーを地面に伏せさせた。


 ダンッ––––– バスッ–––––


 二発の銃声が重なる。

 襲撃者の銃弾は真っ直ぐ、ドアの向こうのコバルドへ飛んだ。

 しかし、袖口に隠し持てるような小さな銃から放たれた弾丸は、コバルドの撃ったグラセランセの大口径氷弾に弾かれ、氷弾はそのまま襲撃者の拳銃を持つ手を撃ち抜いた。

 「ギリギリ間に合ったか」

 レバーを操作し次弾装填しながら部屋に駆け込んだコバルドは、襲撃者が銃を拾い上げるまでの隙に、扉と窓を氷で封鎖した。

 「…………」


 襲撃者が片手で拳銃を振る。コバルドに向いた銃口が伏せたままのミリーとハンソンへ向かう。その引き金が引かれるより先にコバルドが撃った。

 グラセランセは散弾銃をベースに作られているが、撃ち出す弾丸の形や威力はコバルドの裁量次第だ。

 今度は正確に拳銃を撃ち砕かれ、襲撃者はその場に立ち尽くした。

 「今のは脅しだ。次は片足から撃ち抜く。

 逃げ場は無い、おとなしく投降しろ」


 「…………」

 「ぐぅああぁあぁぁ––––––––」

 「ぐあぁ?」

 ドガシャーンッ!


 突如飛来したメイズが壁ごと窓を突き破り部屋に飛び込んだ。

 窓際に立っていたコバルドを巻き込んで……

 コバルドはメイズの体当たりに巻き込まれ、メイズの下敷きになっている。

 逃げ場が出来た。

 「…………」

 襲撃者がメイズが崩壊させた窓から外へ飛び出した。

 「ガハッ!何があった?無事か!?」

 「重い、どけ!

 お前のせいで全部ぶち壊しだ!」 





Co.コバルド

E.エルフ


Co.「メイズに機巧師を紹介したらその機巧で封鎖した窓を壁ごと壊されるし、グレンが世話になった恩を返せば、結果的に敵の襲撃の対応が遅れる。

 俺の義理と恩返しは全て仇になって帰ってきた。

 ていうかコトミとお前二人きりでなにしてたんだ?」

E.「服を剥かれて嫌がるオレの体を無理矢理まさぐられた」


E.Co.次回“クローン体”


Co.「お前とコトミってそういう関係だったのか」

E.「違う、コトミだけが変態でオレは真人間だ」

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