途中精算
「目が覚めた?」
焦点の定まらない視線を宙に向けていると、短い人生の中で一番聴いた声が聞こえた。
その声を頼りに意識が少しずつはっきりしていく。
「ここは?」
「[キャラバン]、あたし達の家よ」
ショウタの問いに、コトミが答えた。
全身を襲う激痛を堪えながら身を起こすと、そこはよく知った自分の部屋だった。
「寝てて大丈夫、あたしが側にいるから安心して」
そっと肩を押されてショウタは枕に頭を預けた。
一瞬、なにかとても懐かしくて大切だったはずのものが頭をよぎった。あの時聞いた声と、今の声は……
思い出そうとする思考は痛みに流されてしまった。
「何があった?俺はホブゴブリンとやり合って……」
「酷い状況だったよ。
側には、ホブゴブリンが首を斬り落とされた状態で倒れてた。
ショウタ自身、あたしが駆けつけた頃には死ぬ寸前で、なんとか手当てして治療院に運んで……あと少し遅れてたらと思うとゾッとする。
見つけてくれた人に感謝しないとね」
「誰だ?エルフか?」
「違うわ、あの日あなたが惚れてた人よ。もしかしたら本当に運命の人かもね」
ナナシが俺を助けてくれたのだろうか?
だとしたらほとんど無傷だったホブゴブリンを倒した事になる。
あの女は一体何者なんだ?
「OK、俺の身に起きた事は理解した。
エルフ達と姐貴はどうなったんだ?」
「あたしはミリーを連れ出そうとした男達に追いついてなんとか誘拐を阻止した。
けど、実行犯の人達は金で雇われただけで何も知らないの一点張り。
ロジーナさんにお願いして聴き取りしてもらうけど、大した情報は得られないと思う。
エルフとリディアは、たまたま居合わせたグレンとコバルドの四人でパーティー会場の人を全員避難させた。
最後にホブゴブリンの襲撃を受けてグレンが重傷を負った他に人的被害は無し。
魔物が出た原因も不明。多分あの剥き出しの骨組みにでも隠れる場所があったんだろうけど憶測の域を出ないわ。
ただ、ノワルには逃げられたみたい」
「あの状況じゃあ仕方ないだろ。
むしろミリーを連れ戻して人的被害をゼロにしたんだから上出来だ。
対して俺は何も出来なかったな」
包帯だらけの体を見下ろしながら呟いた。
「あれからどれくらい時間が過ぎた?」
「一日も経ってないわ。
ひとまずミリーにはエルフとリディアと一緒にロジーナさんの所に行ってもらってる。
一応、見合いを失敗させる依頼自体は成功してるから報酬取引と、追加の依頼。
今度は護衛になるわ。
ただ昨日の魔物騒ぎの件でリディアの身柄はしばらくロジーナさんが預かる事になると思うから、実質戦力はあたしとエルフだけになる」
「護衛……か。この身体じゃ」
「ショウタは参加させない」
「だよな……」
真っ直ぐな目で見られてショウタは直ぐに口を閉じた。
ショウタにだけ向けられる寂しさと慈愛が込められた目。
昔から姐のコトミにこの目で見られると、ショウタは何も言えなくなる。
「姐貴は状況をどう見てる?」
「ミリーを拐おうとした人の事?」
「あぁ、個人的な理由でエルフには口止めしてたんだが、敵の刺客らしい奴と一度やり合ってる」
「……なんで黙ってたの?」
「言いたくない理由があるから伏せてた」
「そう」
コトミの最もな疑問は、ショウタの開き直った正論に阻まれた。
コトミは重傷を負ったショウタにしつこく問い詰める気もなかったので、あっさり引き下がった。
「結論から言うと取り逃した。
が、正規の依頼と言い難い内容の依頼を受けたウケビトだと言っていた。
ノワルが個人的に雇った用心棒かなにかだと推測している。
それと––––––––」
ショウタはそのままナナシから聞いた話もまとめてコトミに話した。
「付き纏う勢力が一つじゃ無い……か。
普通に考えるなら、あたし達の勢力、そのラフラって女の人の勢力の二つになるね。
ありがとう、その情報だけでも助かるわ。
後はなんとかする。
エルフ達が戻り次第ここを離れるから看病はビルに頼んでるね」
「お、おう……」
エルフと一緒にビルから借りていたタキシードは二着ともボロボロだ。どうしよう……
*(๑^. .^๑)۶ 〜
ショウタが目を覚ました頃、エルフとリディアは、ロジーナに見合い会場で起きた事の顛末を報告し、ミリーから再度依頼を受領した所だった。
「概ね事情は把握した。
互いに了承しているなら私から止める謂れはないよ」
「では、改めてお願いします。
依頼内容は、私の護衛。可能なら私の身柄を狙う何者かを特定、排除です」
「あぁ、引き受けた」
「分かってるとは思うけど、しばらくリディアの身柄は私が預かるよ」
「私は何もしていません。自分で呼び出した魔物に襲われるなんておかしいと思いませんか?」
「自分が何をしたか覚えてない人に主張されてもねぇ」
ロジーナがめんどくさそうに言い、リディアが不服そうに俯いた。
「勘のいい人間はリディアが中央大図書院と今回の見合い会場の両方になんらかの関わりを持っている事を察している。
そういう勘のいい面倒な奴らから守る為にも今は私に保護されるのが最善だと私は思うがねぇ」
リディアには、魔物を操る術はない事はエルフもロジーナも一応確認している。
しかし、それ以外の人間はそうとも言えない。
特に、リリーナとして魔物を使役し、中央大図書院を占拠し、街にも魔物を放った前科がある手前、リディアの身柄を渡せと第三者機関が言い出す前に、ギルド側で正式に聴取を取り、建前上無関係、念のため謹慎処分とする事で、横槍を未然に防ごうと言う考えだった。
「だが、敵はどうやってかホブゴブリンを操ってるんだろう。
本当に護衛出来るのかい?」
「ハッキリ言って厳しい。
力はあるけど、細かい技術ではこっちが辛うじて勝るように感じた。
正面から一対一ならなんとか勝てるが、人質に伏兵、不意打ちまでされたら対処し切れない」
「おまけに私とショウタは戦線を外れることになります……」
「という訳で、増員を用意してやった。
連れてきな」
執務室の入口でずっと待機していた職員に合図を送ると、扉を開き、二人の男を中に招き入れた。
「コバルド、メイズもか」
「こいつら二人は今金欠で、しかも即金が必要だ。面倒な依頼を押し付けるには打って付けさね」
その面倒な依頼を持ち込んだミリーの目の前でそんな事を言いながら、ロジーナは二人に詳細を説明した。
「あの、用意出来る依頼額はさっき提示しただけなので……あと二人増えるとなるとこの程度では申し訳ないと言いますか……」
「コトミは無報酬でも引き受けると言っていた。オレ個人も家主には賛同している」
「元々二人分だって額を仲良く四等分させてもらうさ」
「俺が求めている額には十分届く。
気にするな」
申し訳なさそうにするミリーに、エルフ、メイズ、コバルドの三人が遠慮するなと快諾の姿勢を示した。
「で、ですか……」
「なんだいミリー、確かにこいつらは金にガメツイけどその金額ははっきり言って破格だよ。
確かに危険度に不確定な部分はあるけど、護衛の依頼の相場を遥かに超えてるよ。
それともなにかい?
あんたには人数が増えると困る理由でもあるのかい?」
「いえ……」
「じゃ、決まりさ。
話が済んだらとっとと出ていきな。
客を待たせてるんだよ」
そう言ってロジーナがハエを追い払うように手を振った。
E.エルフ
S.ショウタ
E.「というわけでショウタは留守番だね。あとは任せて」
S.「そう言うがエルフ、お前も腕を撃たれてただろう?大丈夫なのか?」
S.E.次回“油断”
E.「確かに痛かったけど、もう問題ないよ」
S.「かすっただけなのか?」




