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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 一章
3/46

 横取りヤギとウルガ達


 [キャラバン]で働き始めたある日、エルフはショウタに連れられてミラハ山に来ていた。

 

 山と言っても、ビルカの北から東にかけて広がるビルホト平原にある小高い丘の事で、東門から出て、1時間もしない場所である。


 この数日[キャラバン]の客入りは上場で、薬草のストックが底を突きそうになっていた。

 今日はバイトも入ってくれているので、余裕を持ってショウタとエルフは採集に来ていたのである。

 

 「どうしようもないときは卸屋で買うんだけど、余裕があるときは出来るだけ採集する事にしてるんだ。

 元手がタダだと利益がそのまま手元に来るからな」


 そう言うとショウタはカーゴパンツのポケットから一冊のメモをエルフに手渡した。


 「それの付箋貼ってるページの薬草を重点的に探してくれ。

 一応この辺りは魔物も出るから気を付けろよ」

 「すごいな、全部手書きなんだ」


 エルフはメモを開いて聞いた。

 薬草の絵も含め、全てのページが手書きだった。

 丸々とした文字で薬草の名前や形状に匂い、効能や自生しやすい環境が書かれ、その上から癖のある字で色に関して走り書きされていた。

 

 「まぁな、昔まだ姐貴が調薬ド下手だったときに図書院通いして、図書院内の資料を片っ端から写して覚えたんだ。

 そのメモはその内のミラハ山にある薬草のリストだな。

 ほら、行くぞ」


 二人はミラハ山を歩き出した。

 ショウタにとってこの山は昔から遊び歩いた場所だ。

 薬草がよく生えるスポットや、危険な魔物がよく通る場所は大体熟知している。


 半日ほど山を歩けばそこそこに薬草が手に入った。

 二人は中腹にある草原地帯でハッカイとキソウという薬草を集めていた。

 エルフが、新たに見つけたハッカイに手を伸ばそうとすると、白い獣がそれより早く、ハッカイに食い付いた。

 目当ての薬草を盗られ獣をジッと見るエルフ。

 その獣は、70cm程の山羊のような姿だった。

 口をモシャモシャと動かしどこか満足気な顔をしている。


 気を取り直して、別の場所に生えているキソウに手を伸ばすエルフ。

 そこに追い付き、またも横取りする山羊モドキ。

 ジッと睨むエルフと、またも満足気な顔をする山羊モドキ……

 

 「おーい、こっちにマトマがあるぞ……ってあぁ、ギヤに目を付けられたか」


 その後、何度か薬草を巡る闘争を繰り広げ、横取りされる事にうんざりしたエルフの元にショウタがやってきた。

 

 「ギヤ?」

 「そ、別名横取り山羊。

 隣の芝は青いを地で行く性格で、仲間が食べようとしている草を横から掻っ攫い合う獣」


 ショウタがギヤに付いて説明しながらペンダントトップ の魔石を片手剣くらいの棒状に伸ばし、ギヤの腹を殴った。

 ギヤはそれだけで「ギギュウッ」と悲鳴を上げて逃げて行った。


 「直接人を襲う事はあんま無いから基本は無害な奴らだな。

 さ、あっち行こうぜ」


 ショウタはマトマがある崖沿いへエルフを案内した。

 マトマは解毒作用のある木の実で、独特な強い匂いがする。

 

 木の周りにはギヤが群がっていたが、山羊っぽい見た目のくせに木を登る様な事は出来なかったのか、二人は気にせずマトマを採った。手頃な大きさのマトマを採り、木から降りようとすると、「ウルゥウヴゥ」という遠吠えが聞こえた。

 遠吠えが聞こえるや、木に集まっていたギヤの群れは一目散に走り出す。

 

 「マズい、ウルグの群れだ」


 ショウタは魔石を伸ばし、地面に突き刺し固定すると、魔石に身を預け、さらに魔石を伸ばした。

 魔石が伸び上がり、それに身を預けたショウタの体を持ち上げていく。視点が10mを超えた辺りで、周囲を見渡すと、さっきまでエルフがハッカイやキソウを集めていた草原を走る灰狼の群れが見えた。


 「さっきから気になってたけど、その魔石なに?ショウタの魔法?」

 「このペンダントトップは相棒だ。

 魔力を込める事で長さが変わる俺の宝物。

 そんな事より急げ、ウルグが来るぞ」

 

 ウルグは、八〜二十匹の群れで動く狼で、主にギヤや、川辺に住むウーウと呼ばれる水鳥や草食の獣や魔物を獲物として襲う。

 そして、薬草採りに来た人も群れで襲い、食う事がある。

 低木くらいなら飛び付いて登るため、木の上も安全地帯とは言えない。


 木から降りた二人は遠吠えが聞こえた反対方向へ走るが、すぐ荒い息遣いと地を蹴る足音が聞こえて来た。

 

 「迎え撃つか?」

 「こんな崖沿いの不安定な場所で相手する義理も無い、とにかく走るぞ」


 この辺はショウタに地の利がある。そう判断したエルフは大人しくショウタの後ろを走った。

 走ったのだが、さっきから聞こえる遠吠えや、ギリギリ姿を見せないウルグにある不安を感じ始めた。


 「なぁ、誘導されてないか?」


 ウルグは群れで連携を取り、獲物を待ち伏せたり、目の前に現れた数体が獲物の気を引き後ろから別の仲間が襲う等、高度な狩の技術を持つ。

 そんな事は知らないエルフだが、一気に飛び掛かって来ないウルグの様子からそんな気がして来ていた。

 ショウタが立ち止まった。


 「終わった」

 

 前方には銀色の狼が灰色の狼を従えて、小高い岩場から二人を睥睨していた。


 ウルガという魔物がいる。

 複数のウルグの群れを統率管理する魔物だ。

 ウルガは一匹しか存在しない。

 ウルガのいる半径数10km圏内に、三つ以上のウルグの群れと千を超えるギヤ等の草食系の獣や魔物が生息すると言われている。


 ウルガはルビホト平原一帯の食物連鎖の要だと言われている。

 ウルガが死ぬと、生態系のバランスが崩れ、災厄が起きる為だ。

 具体的には暴走したウルグがギヤを始めとする草食獣を食べ尽くし、街まで侵攻した。

 統率が取れなくなったウルグにギヤの群れが復讐し、勝ち残ったギヤをはじめとする草食獣がビルホト平原の緑を食い尽くし、農村に侵入して深刻な食糧問題を起こした等。


 その為、ウルガに襲われた人間は逃げるか大人しく死ねとまで言われている。

 人一人の命よりも生態系崩壊による被害の方が大きい為である。

 

 今、エルフ達の目の前の銀狼は、ウルガである。

 

 グルゥヴウオォオオヴ


 ウルガが吠えた。

 いつの間にか四方を取り囲んでいたウルグが一斉に飛び掛かる。

 

 一陣を避け、二人は来た方へと走り出した。


 「進む先は殺しちゃいけないウルガ、反対方向はウルグの群れ、まだこっちの方が可能性はある」

 とショウタが言った。


 目の前のウルグを相棒を伸ばし蹴散らし走る。

 確かにおびき寄せ役の方向の方が待ち伏せ役のウルガ達より数は少ない。

 二、三匹突き飛ばすだけで包囲網は破れ、その穴を二人は抜けた。


 だが、ショウタにとっては当たり前、しかし記憶の無いエルフにとっては誤算が起きた。


 背後のウルグ達が空気の塊を吐いた。

 それは、前に酒場でコトミが使っていた“エアーショット”と同系統の魔法だった。

 ショウタは問題なく回避したが、エルフは反応出来ず、直撃こそしなかったが足を縺れさせ転倒した。


 転んだエルフが立ち上がろうとした。

 その右手は、偶然雑草を握り込む形になっていた。

 すぐそばの茂みから「ギギッ」という鳴き声がしたかと思うと、ギヤが飛び出して来て、エルフの右手に頭突きをし、偶然握り込んでいた雑草を食んだ。

 一方エルフは立ち上がる為の支点を弾かれた為、再び地面に頭を叩きつける羽目になり、さらに間の悪い事にウルグが後ろからエルフに飛びついた。


 「危ねぇ!」

 

 ウルグを狙った相棒は、ウルグではなく不意に飛び出したギヤを突き飛ばした。

 突き飛ばされたギヤは、「ギギヴッ」と悲鳴?を上げ、進行方向にいたエルフに飛び掛かっているウルグに体当たりする羽目になった。


 ウルグは反応できずもろにギヤの体当たりを受けたが、すぐに切り替えて、至近距離にいるギヤに食いついた。

 後続のウルグ達もそれに加わり、成す術もなくギヤはウルグ達に喰われた。

 草食獣が複数の肉食獣に貪り食われる光景は、気持ちいいものじゃないはずなのだが、


 「正直スッとした気持ちになる自分に軽く嫌悪感を感じる。

 ていうか、あいつは横取りに命まで掛けるのか」

 「あぁ、そのドアホな性質ゆえ簡単に罠に掛かるし、肉もまぁまぁ食える。

 いい加減な店ではギヤ肉を羊肉と偽って食わせる店もあるらしいぞ」


 エルフはあの酒場で食べたラムステーキが本当に羊肉だったのかすごく不安になった。

 ショウタはショウタで何故かウルグの食事風景に合唱で祈りを捧げていた。

 

 いつまでもウルグの食事を見守っている訳にもいかない。

 エルフは今度こそ立ち上がり、再び走った。


 場所は、さっきマトマを採っていた崖沿いだ。

 そこを一際大きな空気を切る音がした。

 広義的には“エアーボム”と言われる魔法だ。

 “エアーショット”を空気の弾丸とするなら“エアーボム”は空気の爆弾だ。


 直撃は避けたものの、二人は一塊になって崖から下へ吹き飛ばされた。

 エルフは空中で身を捻り、ショウタを抱え込むと、魔法を使った。

 

 「バーニア」


 本来は跳躍、疾走時の瞬発力補助に使う魔法だが、空中での姿勢制御や、落下の衝撃緩和にも使える魔法だ。

 自由落下から、なんとか受け身を取れる程度にコントロールを取り戻し二人は崖下に落ちた。

 

 ショウタはすぐに頭上を見上げ、相棒を振り、崖の岩壁を砕き、限られた条件下でしか使えない自身の魔法を行使した。


 ショウタが操るのは岩や砂だ。

 不便な事に岩や砂を生成して操る様な事は出来ず、自然界の物を直接操る魔法。

 岩壁の破片を利用して小さな砂嵐を起こし、ウルグ達の視界を奪った。

 さらにこの辺はマトマの実の強い匂いが立ち込めている。

 

 ウルグの視覚と嗅覚を奪う事に成功した二人は難を逃れた。


*(๑^. .^๑)۶ 〜


 「大変だったね」


 無事[キャラバン]に逃げ帰った二人に事情を聞いたコトミはそうコメントし、ポケットから二枚のチケットを取り出した。


 「さっき湯屋のおばちゃんからもらったの。今日はあたし一人で大丈夫だし行って来なよ」


 店内は今、客が居ない。調薬技術のないショウタは薬草を採ってくる以上の事は出来ない。素直に甘える事にして二人は銭湯に繰り出した。


 [キャラバン]は、一階の店舗スペースと二、三階の住居スペースに分かれている。

 当然風呂もあるのだが、膝を抱えてようやく入れる狭い湯船に満足できず、ショウタとコトミはよく銭湯に通っている。


 ショウタの案内でエルフは銭湯にやって来た。

 番台にチケットを渡し、脱衣所の敷居を跨いだ。

 エルフは脱衣所に入った瞬間、10秒程視線を彷徨わせた。


 「どうした?」

 

 ショウタがバッサバッサと服を脱ぎ捨てながらエルフの様子が変だと思い聞いた。


 「ごめん、ショウタ。やっぱり帰るわ」


 もう一度低い視点で目を泳がせたエルフは脱衣所から出て行った。

 

 






 


K.「あたしはコトミよ。普段は左腕を弓に見立てて、空気中の水分や空気そのものを集めて矢のように飛ばす魔法を使っている薬屋のお姉ちゃんよ」


K.次回“中央大図書院での出会い”

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