↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 一章
2/46

 新生活のはじまり

 捕縛人数  49人

 依頼報酬  294000ゼル


 「なぜだおいっ」


 ショウタは依頼者兼酒場の経営者に食って掛かっていた。

 まず捕縛人数は、依頼状の想定人数よりも多い。これはまぁ良い。

 問題は依頼報酬が一人当たり六千ゼルに減額されている点だ。


 場所は、依頼の酒場。

 賊を全員捕らえた後、依頼者が店の様子を見たいと酒場の従業員を連れて飛んで来ていた。


 今は依頼者スコット氏と、ショウタ、コトミがテーブルを挟んで座ってる。

 卓上には減額済みの依頼報酬が入った金袋が置かれている。

 因みにエルフは、釘抜き片手に窓に打ち付けられた板を外していた。

 

 「それはお前らが店を壊したからに決まっているだろう」


 スコットは板を打ち付けられた窓、割れた食器類、焼け焦げた床や棚、弾痕だらけになったテーブルや壁を見てそう答えた。


 「あの、こちらからも言わせて欲しいのですが、彼らは銃を大量に所持していました。

 依頼状を書く際、銃の有無は記載する義務があり、銃を持った相手を捕縛した際は、通常一人当たり二万ゼル以上なんです。

 一人二人が隠し持っていた場合は仕方ないかもしれませんが、あそこまで大体的だと、こちらとしては増額を要求したい所なんですが–––––」

 「そんな事は知らないなぁ。

 とにかく、店を壊されたこちらとしては、賠償請求しないだけでも温情のつもりなんだけどなぁ」


 コトミの丁寧且つ事務的に繕った説明を、スコットは太々しく遮った。


 「店壊したって言っても、ほとんどあの賊の仕業なんですがねぇ」


 事実だった。

 恐慌状態になったエルフが投げた“ファイアボール”が酒樽に引火するというボヤが起きはしたが、酒樽周りの床を燃やしただけで、それ以外は賊と揉み合った際に割った皿やグラス、銃撃を避ける為に倒したテーブルくらいだ。

 板を打ち付けられた窓はもちろん、それ以外の破損は全て賊のせいだと言える。

 銃による不意打ちをされた身からすればはっきり言って必要経費だ。

 銃の存在をあらかじめ知っていれば、相応の準備をして、もっとやり方を選ぶ事も出来た。

 

 「悪いがこれからお前らが壊した店の復興をしなきゃならんのだ」


 たが、スコットは話は終わったとばかりに立ち上がり、作業にかかった。


 「おい、こっちはお前に騙されて死にかけたんだぞ」


 遂に我慢出来なくなったショウタがこちらに背を向けるスコットの肩を掴んだ。


 「乱暴ですか?ウケビトというのはガラが悪い」

 バラバラに作業をしていた他の人達が一斉にこちらを見ている。


 「やめときなよショウタ、時間の無駄だって」

 「……あぁ、そうだな」


 ショウタはスコットを突き飛ばし、金袋を取り、立ち上がった。

 作業を続けていたエルフを連れて三人は酒場を出た。

 

*(๑^. .^๑)۶ 〜

 

 「そう言えば、なんで衛士に頼まなかったんだ?」


 帰りの馬車の中で、エルフはふと気になった事を聞いた。

 あの手の乗っ取りだの人絡みの事は、言うなれば衛士案件だ。

 

 「衛士は人手が足りないし、結局お金がかかるからね。

 それに、衛士が常駐していない街なんかでは、ウケビトが一番手取り早い治安維持機構になるのよ」


 衛士とは、魔物や獣から人々を守り、罪人の捕縛や囚人の管理、裁判、他を担い、場合によっては街や国同士の戦争時の軍隊となる組織の総称だ。

 多岐に渡る仕事内容から、相応の収入があるが、ハードワーク故に成り手もあまりいない。いても代々衛士だとかいう格式を重んじる家系がほとんどだ。

 

 一方、ウケビトは個人個人の自由が尊重される。

 仕事を受けるには、個人で依頼を募集する事もできるが、[レザルボアマギカ]ほか、多数あるギルドで斡旋してもらう方が早い。

 それぞれのギルドには、利用規約があり、魔物が街を襲撃した場合は、市民を守る為の戦力として導入されるなど、一定のルールに従う必要があるが、気に入らなければ別の街や別のギルドに行けばいいだけの話だ。

 ギルドは言うなれば傭兵を集め、街が治安の維持や自治能力を得る為のシステムなのだ。


 後日分かった事なのだが、捕らえた賊の中には、あの酒場の正規のスタッフも混ざっていた。

 

 なんでも、もともとその酒場はそこそこの売り上げがあるのだが、その収益をスコットが着服。さらに客のクレームを無関係なスタッフのせいにして有望な人間を首にし、自分に尻尾を振るスタッフを優遇。その他悪虐の限りを尽くしていたスコットに腹を立てていたところ、乗っ取りを画策。

 

 スコットの飲み物に毒物を仕込み、病院送りにし、酒場を占拠。

 スコットに怒りを覚える他のスタッフも取り込み心機一転した。賊が密売の仲介倉庫にしてしまうという誤算が起きたが彼等を客と割り切り、エルフ達が賊を捕らえるまでの期間、悪虐のスコットがいない為、伸び伸びと仕事を出来たと語っていた。


 ともかく、こうしてエルフの初仕事は一応成功の形で終了した。


 なお、今回の件でショウタとコトミは、エルフは『追い詰められると何するか分からない、要警戒』と頭に刻んだ。


*(๑^. .^๑)۶ 〜


 「とまぁ、こんな具合に要するにスコットは人間のクズだった訳だ。

 依頼者名簿のブラックリストに入れてやったよ。

 全く、不愉快な後始末を押し付けてくれたねぇ!」


 翌日の昼下がり、スコット氏のレストランの内情を含めた事の顛末をまとめ上げたギルドマスター、ロジーナが不愉快そうに声を上げた。

 白髪混じりの髪が日々の苦労を感じさせる初老の女だ。


 執務室の卓上には報酬袋がボンッと置かれ、エルフとショウタとコトミが呼び寄せられていた。


 「これが改めて奴らから取り立ててやった報酬だよ。受け取りな」

 「ウッセェババァ。テメェらが依頼の裏取りしてりゃこんな事にならなかったんだ。

 二度と奴に関わらせんなよ」


 卓上の報酬袋をショウタは乱暴に受け取った。

 そのショウタをコトミは呆れ顔で見ている。

 ショウタとロジーナは昔から仲が悪い。

 コトミがショウタに理由を聞いてみると、「本能的に嫌だ」と言い張って、目すら合わせた事が無い。

 

 「とにかく、これで話はおしまいね?

 [キャラバン]に戻っていい?仕事が残ってるの」

 「待ちな。本題はこれからだよ」

 「本題?」

 「お前ら知っての通り、この小僧は記憶喪失だ。

 今までは私らの方で面倒を見ていたが、流石に限界だ。

 かと言って一人で野に放つには、金も知識も足りなくて、騙されて身包み剥がれて野垂れ死ぬのがオチさ。

 お前らのところで引き取ってくれ」

 「はぁっ!」


 エルフとコトミを交互に顎でしゃくったロジーナにショウタが怒り声を上げた。


 「お前らが小僧の第一発見者だ。

 それに[キャラバン]は人手不足だと前にほざいていただろう。どうせ空き部屋もあるんだ。

 そこまで悪い話でもないだろう」


 「断る」 

 「お断りします」

 二人は即答した。


 「理由を聞こうじゃないか?」

 ロジーナは人の悪い笑みを浮かべた。


 「ババァ、俺達は知っての通り借金まみれだ。

 人一人養う余裕なんて無いぞ」


 借金まみれの所でコトミの顔が一瞬曇ったが、言っている事は事実なので、口を挟まず、頷く事で同意見だと示した。


 「やれやれ、人の話を最後まで聞かないクソガキだねぇ」


 ロジーナは執務机の棚から一瞬、厚みのある封筒をわざとらしくショウタとコトミの視界に入れた。

 

 「その封筒は?」

 「エルフを引き取ってくれる親切な方々には、依頼という体裁でささやかな謝礼金を用意していたのだが、いらないと言うなら他を当たるさ」

 「……ちなみに額は?」

 

 ロジーナが無造作に封筒をコトミに投げ渡し、コトミが中身を確認すると、目の色がみるみる変わっていく。

 「ぜひ、うちで引き取らせてもらうわ」


 「なんか、金で売られたようで釈然としないな」

 黙って成り行きを見守っていたエルフが漏らしたが、ロジーナの「偉そうに物を言える立場かい?」の一言で何も言えなくなった。


 「さて、私は仕事が立て込んでるんだ。用が終わったら早く帰りな」

 ロジーナがヤブ蚊を払うように手を振り、三人は執務室を後にした。


 「ところでさっきから出てきた[キャラバン]というのは?」

 「あぁ、あたしが経営している薬屋よ。こう見えてもあたし調薬師なの。

 ショウタが薬草の採集担当ね。接客はバイトも合わせてやり繰りしてるけど、どうしても人手が足りない事があるのよ」

 「なるほどね。家賃代わりにその店の仕事を手伝えって事?」

 「そういう事。よろしくね、エルフ」

 「こちらこそよろしく」


 エルフは二人と交互に握手を交わした。

 

*(๑^. .^๑)۶ 〜


 「ふわぁ……」


 エルフがあくびと共に起きると、日が昇り始める時間だった。

 ショウタとコトミに引き取られて三日ほど過ぎたが、日々仕事を覚える忙しさに疲れが残っていた。

 

 一度大きく伸びをした後着替えて、顔を洗いに行くと、コトミとすれ違った。

 背中の半ばまで届く黒髪をポニーテールに纏めて、味気のないシャツにスキニーパンツを合わせた動きやすい格好をしていた。

 薬屋としての仕事ときは白衣を羽織った姿でいる。


 「おはよう、ここの暮らしに慣れた?」

 「オレは記憶がないから、何もかもが新鮮だよ」

 「そうだったね。今日も頼むわよ」

 

 エルフが今暮らす場所は、[キャラバン]という薬屋の住居スペースだ。


 放置されていたボロ屋同然だった家を、十年前にここに流れ着いたコトミとショウタが買い取って、自力でなんとか住めるように改装したらしい。


 一階は、商品の展示や、調薬室、倉庫と言った店としてのスペース。二階は、リビングとキッチン、バスルーム等が配置され、三階には、部屋が四つ配置されている。


 エルフにはその内の一つが与えられ、そこで寝起きして、[キャラバン]では、薬草の仕入れや在庫管理と接客を主に担当している。

 

 洗顔を済ませたエルフがキッチンに向かうと、ショウタが三人分の朝食を用意して待っていた。

 ショウタは暗い不揃いな茶髪でエルフよりやや背が高かった。

 オーバーサイズの濃緑色のカーゴパンツにサスペンダーを付けて、上は逆に小さめなTシャツ姿だった。

 チグハグな服や髪の理由を聞けば「金がないんだ」と短く答えられた。


 当たり前のようにそろって食事を始める。

 

 できるだけ集まってご飯を食べる事。コトミのこだわりらしい。「家族は一緒に食卓を囲むものでしょう」と当然のように言う。

 記憶喪失で、家族の事すら分からないエルフには、この食事は温かかった。

 

 朝食を済ませて、店の掃除を終わらせると、[キャラバン]が営業開始した。

 

 「エルフ、この箱向こうの棚に片付けて置いて」

 「はい」

 「エルフ、薬草のストックが不足している。俺はこれから卸屋に行ってくる。その間頼むぞ」

 「おう」

 

 この街ビルカは、ウケビトの出入りが多く、さらに[レザルボアマギカ]と提携している為、客入りは非常に良い。

 商業街の表通りから少し離れた所にあるこの店は、今日も大繁盛だ。

S.「ショウタだ。伸縮自在の棒状の魔石“相棒”と、自然界の砂や岩を操る魔法を使える、薬屋の義弟だ」


S.次回“横取りヤギとウルガ達”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。