パーティーの闖入者
ほろ酔いでナナシと語らっていたショウタも、ノワルが部屋に入ってくるのを見ていた。
『ショウタ、そろそろ仕事が始まるから気持ちを切り替えてね』
わざわざ気を遣ったコトミからの“水伝話”に短く応答し、ナナシに向き合った。
「長々と昔話に付き合って貰ってありがとう。
連れの男がそろそろ来る頃なんだ。一度失礼させて貰う」
「連れの男とは今入ってきたあの方の事でしょうか?」
ただ、席を立つ為の口実だったのだが、ショウタはそのまま話を合わせる事にした。
「まぁ、そんな所です」
「気を付けてね。ノワルやミリーに付き纏ってる勢力は一つだけじゃないから」
「それどういう–––––」
「これ以上は乙女の秘密です。また必ずお会いしましょう」
ナナシはあっさり身を翻して、控え室の方へ向かった。
『ショウタ、あの人と離れたみたいだけど……振られた?』
「いや、少し気になる事を言われた。
それよりミリーはまだ来てないよな?」
『えぇ、そう言えば遅いわね』
「姐貴、様子を見に行ってくれないか?
エルフとリディアは会場の出入り口付近で待機してくれ」
『ショウタ?』
「なんか嫌な予感がする。
最悪荒事になるつもりでいてくれ」
『……了解。二人にも伝えておく。ショウタはどうするの?』
「俺はノワルの近くで待機する。
水伝話は直ぐ繋がる様にしててくれ」
『分かった。一旦切るね』
コトミがエルフ、リディアと何やらやり取りをした後、会場を出て行った。
それを見送った二人は、会場の出入口付近のテーブルに移動して、さり気なく辺りを警戒し始めている。
ショウタもノワルからは視界に入りにくい位置の席に陣取っていた男女グループにさり気なく溶け込んだ。
フレアドレスを身に纏った小柄な女性一人に、二人の男がやや食い気味に話しかけているグループに乱入してしまい、女性に若干の申し訳なさを感じつつ、コトミからの連絡を待った。
「悪いですけど、私ペンダントを付けた男とは話さないと決めてるんで他を当たってください」
ショウタは慌てて胸元を触り、身に付けているものがただの蝶ネクタイである事を確かめた。
「えぇ、なんでさぁ?」
男が馴れ馴れしく問う。
ショウタは今すぐこの場を離れたい衝動に駆られた。しかし、ノワル側から視界に入り難い且つ人が居ても違和感のない場所はここしか無い。
「この前女性が全裸にされて、暴行を受ける寸前まで行く事件があったんです。
犯人はまだ見つかってませんが、被害者の証言ではペンダントを付けた男が主犯だったそうです。
なのでしばらく私はペンダントを付けた男は相手にしない事にしたんです」
「おいおお、俺達を疑っているのかぁ?」
「いいえ、取り敢えず疑わしきは罰せよです。兎に角お引き取り下さい」
「なんか萎えちまったな」
「あぁ、行こうぜ」
男二人が何処かへ去って行った。
場にはフレアドレスの女性とショウタの二人が残される。
ショウタがどう間を持たせてポジションを維持しようと模索していると、“水伝話”が繋がった。
『ショウタ!大変。
控室が荒らされてる。ミリーも居ない。多分拐われたと思う。
あたしは何とか探してみる』
「なにっ!」
何か起きる予感はしていたが、会場に入るまで手出ししないと思っていた。
しかも誘拐。ノワルは普通にミリーを口説き落とすか、飲み物に薬を仕込む。もしくは強引に部屋に連れ込むくらいは想定していたが、完全に考えが甘かった。
「わかった。俺達もそっちに「きゃ––––––––!!」」
ショウタの声は、会場に響く悲鳴に遮られた。
『ショウタ?』
「会場に魔物が出た。数は……うじゃうじゃだな。
少してこずる」
『分かった。こっちは一人でいい。ショウタ、無理しないで』
コトミとの“水伝話”を切り、会場を見渡した。
ゴブリンの群れと、ウルグだ。
エルフとリディアは出入口に近い人から避難誘導を行っているが、エルフは丸腰だし、リディアに至ってはまともな戦闘手段を持っていない。
「っとと、これはお見合いどころじゃないですね」
フレアドレスの女性がマスクを外して青いフレームメガネを掛けながら独り言のように呟いた。
「グレン!」
「あれ、私の名前知ってるんですか」
ショウタもマスクを外し、ポケットから相棒を取り出した。
「あ、ショウタでしたか。そしてあちらにいるのはエルフ……二人もお見合いでしたか?
良い人だとは思いますけど、私の守備範囲からは外れるので他を当たってください」
「いや、悪いけど付き合ってもらうぞ。
魔物を殲滅して会場の安全を確保する」
「それは賛成です」
要らぬ誤解を解きもせずショウタは手頃な場所に現れたゴブリンに相棒を向けた。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
我先に逃げようと出入口に人が流れ込み、押し合いへし合いの大混乱が起きていた。
そして、人が密集し出した出入口付近に、魔物が目を向けるのもまた、自然な事だった。
ガルァラァ!
雄叫びを上げながら人垣に走り寄るウルグは、倒れた一人の女性を獲物に定めた。
一気に走り寄り、牙を向ける––が、牙はその女性に届く事は無かった。
「ふぅ、何事だ一体?」
女性の前に走り、刺付きの氷壁でウルグを仕留めたコバルドは困惑の声を上げた。
コバルドは一人、会場の壁沿いのテーブルに寄りかかり、酒を呑んでいた。
因みに孤高を楽しむように酒を嗜んでいた長身のイケメン(?)に声を掛けようとしていた女性はまぁまぁいた。
ホールスタッフにお代わりの確認をされ、受け答えしている間にテーブルがひっくり返る音が立て続けに起きて、最後には魔物の雄叫びと悲鳴があちこちで響くようになっていた。
「あ、あの」
「礼はいい、走れるなら会場から逃げろ」
「はいっ、あのありがとうございます」
結局お礼を言って走り出した女性の行く先では、両手に炎を纏った男と、大きな本を通行案内の旗よろしく振りながら避難誘導をしている女が居た。
コバルドは手袋のシワを引き延ばしながら、そこへの合流を目指した。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
「ブロウ」
出口に向かう人垣に迫るゴブリンを殴り飛ばす。
これで七体目。
避難は難航している。
会場からの出入口の内一つは、大量の魔物に封じられ、そこからの逃走は不可能。
残された扉は、かろうじてエルフとリディアで守っているが、魔物が出入口を通過して、外に出た人間を追わない様に防ぐので精一杯だ。
そして、動き難いドレス姿の女性陣の動きが鈍い。
「きゃああぁー」
悲鳴が響く。
スカートの裾を縺れさせて転倒した女性にゴブリンが迫る。
エルフの位置からでは間に合わない。
「はあぁ!」
肩紐を伸ばしたハクシキの書を鎖鉄球よろしく振り回したリディアの一撃が伸びる。
棍棒代わりの椅子を振りかぶっていたゴブリンの横っ面に命中したハクシキの書は、見事にゴブリンを吹っ飛ばした。
リディアはそのまま倒れた女性を立たして、引き摺るように会場の外へ連れ出した。
「そんな使い方して大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。この本表紙には鉄板が仕込んであるからそのまま鈍器として十分使えるわ」
「そ、そうか」
その本が本気を出した時に起きた事件を思い出し、脂汗を流しながらエルフは死角に回り込もうとするウルグに“ファイアボール”を撃った。
一応リディアも戦線に参加出来る事がわかった。
苦手な無手の状態で、なんとか扉を守っていると、コバルドがこちらに来た。
「エルフ。これはどういう状況だ」
「コバルド、ちょうど良かった。剣作ってくれ。
片手で振るサイズのやつ」
コバルドが、片手剣を氷で形成しエルフに渡した。
「重っ!振り抜けないっ?」
「比重は水より重い」
「それもう氷じゃないだろ」
エルフは氷剣を持って、ゴブリンに挑んだが、まともに攻撃を当てる事も出来ず、逆に棍棒代わりの椅子による一撃をもろに受けた。
「素手の方がマシだったか?」
勢いそのままにエルフに馬乗りになろうとするゴブリンに、形成した小型スパイクを突き立てながらコバルドは呟いた。
「こんなもん武器じゃない……」
エルフは早々に氷剣を使う事を諦めた。
G.グレン
S.ショウタ
G.「そういえばショウタは普段ペンダントを付けてますよね、最近婦女暴行したような記憶はありますか?」
S.「な、なんだそのピンポイントに罪歴を問うような質問は……ないに決まってるだろう」
G.「ではなぜ今必ずと言っていいほど身につけているペンダントを外しているんですか?」
S.G.次回“ホブゴブリン襲来”
S.「蝶ネクタイを付けてるからだ。頼むから疑いの目を向けるのをやめてくれ」
G.「……あやしいです」




