パーティー前の一幕
コトミのシチューという思わぬ死線を潜った数日後、エルフ、ショウタ、コトミ、リディアの四人は超が付く高級ホテルのレストランに来ていた。
なんでもロズルと深い関係にあり、商談や取引に用いる場所らしく、貸切にするのに苦労しないのがこの場所が選ばれた理由らしい。
一般参加者も募りそこかしこで若い男女が語らい、一部では甘いムードが漂い始めている。
一つ変わったルールとして、全員が仮面を付けている。
なんでも、顔を見たらどうしても身分を気にするのが金持ちの性分らしく、その辺の偏見色眼鏡を外すのが目的だそうな。
だったらミリーとノワルが接触するのは難しいのではないか?と思われるだろうが、その辺はノワルが手を回しているんだろうとミリーは言っていた。
因みに案外顔さえ見られなければ落とせる自信があるのではと、コトミは一人勘繰っていた。
ショウタはショウタで「ほとんどサクラだろ。顔見たら知り合いだらけで白けるから隠してんだ」と関係者に聞かれたら怒られそうな事を言っていた。
兎も角そういう身分を気にしなくて良い様に仮面方式を採用してはいるが、こういうパーティー会場は、やっぱり女は煌びやかなドレス、男は格式高いタキシードと相場が決まっている。
コトミとリディアは、ミリーに借りたドレスを、エルフとショウタはビルに借りたタキシードを身に付けて一般客として参加した。
「あ、コトミとリディア。
二人もお見合い?」
女性用の控室に居たコトミとリディアは、グレンに呼び止められた。
「あれ?グレンちゃん。
確か十六歳以下は参加出来ないはずだけど?」
「年齢誤魔化しました。
ちょっと大人の世界を見てみたいので冒険しました。
コバルドさんに見せたら綺麗って言ってくれますよね?」
そう言ってグレンはフレアドレスをなびかせて見せた。
「グレンはコバルドにどう見て欲しいの?」
「え?」
「妹?娘?それとも恋人?」
「全部です。コバルドさんは私の全てだから」
迷いも無く即答したグレンに、コトミは驚き言い淀んだ。
「私はコバルドさんが居なかったら生きていないんです。
だから、コバルドさんが望むなら私の全てを差し出すし、許されるならコバルドさんの全てが欲しい。
だから、コバルドさんの妹で居たいし、娘でも在りたいし、恋人としてそばに立ち続けたい。
どんな形でも良いからずっと一緒に居たいし、求める全てを叶えたい。
私がコバルドさんに感じる気持ちはそんな感じです」
「凄いね、もう自分の一番を見つけられるなんて」
コトミのそばでハクシキの書を開いていたリディアが口を開いた。
「なんて、冗談ですよ。
引きましたか?」
「引かない、寧ろ羨ましいわ。
本当に苦しい時に助けてくれたのが、胸を張って「好き」だと言える相手なのが羨ましいの。
でもね、大人になろうと急ぎ足を踏むのは危険よ」
全てを失うきっかけになった本を撫でながら自分に言い聞かせる様な声でリディアが言った。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
その頃、男子更衣室でショウタ達は、ダークブルーのタキシードを着たコバルドに呼び止められていた。
「お、エルフにショウタ。
こんな所で会うとは偶然だな」
「お、コバルドか。お前モテそうなのに見合いとかするのな」
「いや、グレンがこの見合いに参加するとか言ってたから気になってな」
「確か一六歳以下は参加出来ないはずだけど?」
「いや、グレンはあれでたまにとんでもない事を仕出かすから……油断は出来ない」
額から汗を流しながらコバルドが呟いた。
「でも、参加してどうにか出来るものじゃ無いだろ。仮面付けたら本名名乗るの禁止だし」
「それでも気になったんだ。
この前女子の暴行未遂を見てしまったから尚更な」
「ほ、ほぅ……」
汗を流すのはショウタの番になってしまった。
「お前らも気を付けろよ、なんでもペンダントを付けた男に襲われたらしいから。
コトミやリディアを守ってやれよ」
そう言い残し、コバルドは一人仮面を付けて会場へ向かった。
ショウタは自分の首に手を伸ばし、今身につけているのが、ペンダントチェーンでは無く、蝶ネクタイである事を確認した。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
お見合い会場に出たエルフ達は、事前に打ち合わせていた場所で落ち合った。
「ほぉ、豪勢なドレスだなぁ」
落ち合った女性陣を見て、ショウタは感嘆の声を上げた。
コトミは裾が控えめな薄い緑のマーメイドドレスを身に纏っていた。
元々細身で適度に体を動かす仕事をして引き締まった見事な曲線美、胸は決していやらしくならずに、それでも存在を確かにアピールしていた。
珊瑚を模った仮面で顔を隠し、耳には貝殻型のイヤリングが光る。
一方リディアはシンプルなパンツスーツスタイルだ。
黒を基調とした落ち着いた雰囲気で、長い金髪をポニーテールに纏めている。
ネックレスやブレスレット等は明るめながらシンプルで、仮面もシンプルな黒い物を選んでいて、直ぐ女性だと分かるが、どこかボーイッシュな雰囲気を漂わせている。
「ねぇ、リディア、本当にそれでよかったの?もっと可愛い形の服もあったのに」
「あんまり男の人に話しかけらたくないの。私にはこれで十分だわ。
二人も中々様になってるわよ」
「ありがとさん」
腕をグルグル回してタキシードの具合を確かめながらショウタが答えた。
因みに男性陣は全員ベネチアンマスクだ。
ハーフマスクになっていて、食事に困らないデザインの為、エルフは花より団子と、一人、料理が置かれたテーブルに視線を向けていた。
「で、ミリーは何処だ?」
「さぁ……彼女は特別室を用意されてたから、流石に女子の待合室に乗り込む様な事はしないでしょ。
合流場所は伝えてるし、真っ直ぐこっちに来るって言われてるよ。
服のデザインは聞いてるから見つけるのも苦労しないわ」
「そうですか、所でエルフ君を放っておいて大丈夫ですか?」
エルフは、一人大皿に料理を盛り付けていた。
「あいつ食欲にはやたら正直だな。
悪いリディア、一緒に行動しててくれ。何かあれば“水伝話”するから、今は普通にパーティーを楽しんで来いよ」
「わかりました」
小走りでエルフの方へ向かうリディアをショウタが手をヒラヒラと降り見送った。
「居候が増えていくな、これ以上増えても部屋がないぞ」
「ショウタは嫌?エルフとリディアを追い出したい?」
「まさか、姐貴は?」
「あたしは楽しい。
家族ってこんな感じなのかなって、あたし親無しだけどね。
まぁ、パパやママなんてのは一人もいなくて、頼りない弟妹ばかりだけど」
「そういう姐貴も結構抜けてるだろ。
その結果があの借金だ」
「う、それは言わないでよ。
それよりあたし達も何か食べましょう。参加費は出して貰えたけど、どうせなら夕飯代浮かしたほうが得だしね。
取ってくるから待ってて」
コトミも料理が置かれたテーブルに向かい、ショウタ一人で、ミリーを待つ形になった。
E.エルフ
Co.コバルド
E.「グレンが心配だったんなら、グレンに『行くな』って言えばよかったんじゃない?」
Co.「俺が一番大切にしている事は自由だ。
グレンがお見合いパーティーに行く事を望んでいるなら、心配だけを理由に止めるのは違うだろう」
E.「多分だけど、グレンは止めて欲しかったんじゃないのかな?」
E.Co.次回“ショウタ、恋に落ちる”
Co.「だとしたらグレンは愚かだ。
他者の行動で自分の価値を測ろうとするな。
己はどこまで行っても、いつであろうと己でしかない。
この世の全ての価値を己の物差しで測った方が余程充実して生きていける」
E.「その言葉、好きかも」




