強烈すぎる人々……
「なぁ、本当に勘弁してくれねぇか?」
「話だけでも聞いてみろよ。疲れるけど得る物も有るはずだぞ」
「そんなに変な人なんですか?」
「表向きは怪しげな道具屋だが、裏の顔は機巧師。機巧師は希少な存在だ。
常に忌避される位置にいるから、自然と癖が強い人間が多くなるのが機巧師とも言われている。
さ、着いたぞ」
気乗りしないメイズと、連れて行けと駄々を捏ねたグレンを連れたコバルドは[完全か不完全か]と看板が掲げられた店に着いた。
コバルドが先頭に立ち店内に入ると、ハゲ上がった頭に、明らかに生身では無い右腕と目をした小柄な男が出迎えた。
「よく来たァ、グラセランセはもう完成してるぞォっ!」
この店の店主、ノーブルがコバルドに機巧を渡した。
それは一見ライフル銃に見えたが、銃には必ずついているはずのトリガーが無かった。それでもコバルドはむしろその出来を感心したように頷いていた。
「確かに、注文通りに作ってくれたようだな」
コバルドが奇妙な銃を受け取って、魔力を行使した。
機巧の内側に接続するように氷を形成して行く。
氷でトリガーとループレバーと呼ばれるパーツを形成して、ループレバーを前後させてみると、カシュンッと小気味のいい音がした。
「ほぉホォ、一発で作動させるか」
「仕様書通りに作ってくれて無かったらこうはいかない。見事だ。
試し撃ちは出来るか?」
「そこに的を用意しているぞォ。
使い方は、前に渡した仕様書通りだ。好きにやってみなァっ」
ノーブルが指差す方を見ると、20m程離れた場所に石柱が置かれていた。
コバルドはゆっくりと、グラセランセの具合を確かめて行った。
いわゆるレバーアクション散弾銃をベースにした作りで、一部のパーツはその都度コバルド自身の魔力で形成し、コバルドの魔力で形成した氷を弾丸として、トリガーを引く事で作動する魔石のエネルギーを使って撃ち出す機巧だ。
弾倉に氷の弾丸を形成した後、改めてループレバーを操作して、両手で構えた。
バスッ––
空気の抜けるような音が響き、氷弾が撃ち出され、石柱の真ん中に命中した。石柱は無傷だった。
「威力は大したことがないようだな」
「そりゃあ、パワーメーターを組んでるからなァっ。横を見てみろォ」
グラセランセの横には小さなメモリ刻まれたレバーが付いていた。レバーはローの位置で止まっている。
「下からロー、ミディアム、ハイ、アルティメットの順で威力が上がる。
状況で使い分けるんだなぁ」
「仕様書にはない構造だな」
「そりゃあァわしの趣味だっ!気にいらねェなら、その分割引くぞっ!」
「いや、邪魔にはならない」
改めて威力をハイにして石柱を撃つと、石柱は粉々に砕けた。
「それでェ、残りの二人は何だぁ?」
「男は約束通りの客、女は俺の連れだ」
「ほォほォっ!」
ノーブルの右腕からバシュンと音がして、ワイヤー付きの右手が射出された。
メイズの襟口を掴み、腕のワイヤーを巻き取り無理矢理メイズを自分の方へと引き寄せた。
「ほうほォ、至近距離の最高電圧だけは一級物のようだが、形成に動止も論外。典型的な欠陥魔導士だなァ」
「うぇ!?」
「ワシの前で隠し事が出来ると思わん方がええぞォ。顧客の本音から適性から隠し事から弱味から弱点から、顧客に真に合う機巧をくれてやるのがワシの仕事なんでのォ」
入店してからまともに言葉を交わす事もなく、自分の魔法適性と弱点を正確に言い当てられたメイズは困惑を露わにした。
「……すごい人だね」
コバルドの背中にすごすごと隠れながらグレンが呟いた。
「で、そっちの嬢ちゃんは、ほうほォほぉ…………火力に難があるようじゃが、それ以外は高いバランスで纏っとるのォ。魔力量なぞ群を抜いておるわい。
それに……なるほど、面白い組み合わせじゃわい。
嬢ちゃん、その杖を見せてくれやィ」
「ど、どうぞ」
勢いの強い店主に若干引き気味なグレンが杖を差し出した。
「ほうほォ……なる程の。
魔力消費量を上げてでも、火力を上げる目的のものじゃのォ。
しかし、これの方が絶対にいいわい」
壁に掛けられた杖の一つ、大小の二つ魔石を埋め込んだ杖をグレンに差し出した。
大きい魔石には呪符が巻き付けられていた。
「こいつはヨウカ。
元々使用者の魔力を強制的に引き出すものじゃったんじゃが、癖が強すぎて誰も使いたがらんので、魔石を封印して別の魔石を入れる事でなんとかそれらしく仕上げたもんじゃい」
「欠陥品という事か?」
「そげんなもん渡すわけがないじゃろう。
お嬢ちゃん、お主の魔法は何じゃい?」
「私の火は暖炉の火です」
「そうかィそうかいっ」
グレンの答えにノーブルはどこか満足気に笑った。
「お嬢ちゃんがその在り方を忘れずに、これからも行くならばこの杖は必ず役に立つ。
本当に必要だと思ったとき、この呪符を外せばお嬢ちゃんの力になるぞィ」
「コバルドさん、どう思う?」
「ノーブルの目利きは本物だ。
騙されたと思って買ってみるか」
「コイツぁ、売り物じゃねぇ。金はいらないぞォ
安心せい」
改めて差し出された杖をグレンが受け取った。
「さて、お次は欠陥電池じゃなァ。
込み入った話をするでのォ、奥に来い」
「誰が欠陥電池だ……ちょっ、引きずるな」
「グラセランセの金はそこに置いていけやァ」
再び伸ばした右腕でメイズを捕縛したノーブルが、そのままコバルドとグレンを放置して店の奥へ行ってしまった。
「……すごい人だね」
「でも腕は確かなんだ」
残された二人はそう漏らした。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
連れ去られたメイズを放置して、二人は店を出た。
「そういえば知ってますか、コバルドさん?
今度、ロズルという富豪が仮面式のお見合いパーティーをするんだとか」
「あぁ、そんな話確かに聞いたような。全く興味ないな」
「コバルドさん好みの可愛い娘もいるかもしれませんよ?」
「俺の好みは自立心が高い女だ。そういう場所に集まるのは他者依存か強いと相場が決まってるんだよ」
「自立心ですか……
もし私が行くって言ったらどう思います?」
「んー、別にどうも思わないけど」
「もし私がいい男を見つけて来たらどうです?」
「普通におめでとうっていうな」
「むー、コバルドさん冷たい」
「俺は氷魔導士だからな」
などと世間話しつつ、歩く二人の耳に唐突に声が聞こえた。
「誰か、助けて。襲われる!犯される!
男二人に襲われてるの!!助けてー!」
「真っ昼間からなんでしょう?」
「ただ事じゃ無さそうだな」
二人は声の元へ駆け出した。
「誰かー、誰かー」
声の元に辿り着くと、既に人集りが出来ていた。
人垣の向こうに、両端を紐で縛った可愛い柄の袋の上半身に、人間の足が剥き出しで生えた何かが、壁にもたれ掛かる様に置かれていた。
足の大きさと、無駄毛の一切ない手入れされ具合から、多分女だ。
そばにはローヒールサンダルが転がっている。
声の元は、その袋の中のようだ。
「グレン、頼む」
「コバルドさん、お願い」
二人が同時にお互いに要求した。
「助けて」と言っている以上、助ける必要があるのだろうが、嫌だ。
頭の中で何かが激しく警告を鳴らす。
関わってはだめだと。
それは他の見ている人も同じな様で、お互いを見合ってはいるが、決して袋人間に近付こうとしていない。
「あ、そこに誰かいるね。
私の事助けてくれないかなぁ、この通り袋に詰められて手足を縛られてて動けないんだ」
袋人間がもぞもぞと動き、手足をバタつかせた。
確かに袋の口から覗く、後ろ手に回された両手の親指と、両足の親指を細い紐で縛られている様だ。
仕方なくコバルドは氷でナイフを形成して、手の紐を切ってやった。
袋人間は、手が自由になると両手で袋の縁を持ち下に引っ張った。
袋は下にずり落ち、上側を縛っていた紐が落ちて、ベアトップワンピースになった。
派手なショッキングピンクの髪をした女は、コバルドと目が合うと、
「この服、このまま下に下げたら見えるけど見たい?」
と聞いた。
コバルドが目を白黒させ、観衆の約半分(男共)が生唾を飲んだ。ゆっくりとワンピースを下にずり下ろし、あと少しで……という所で前にグレンが進み出た。
「何をしているんですか、年頃の女の子がはしたない!」
「あ、ツレの女の子が居たんだ。これはこれは失礼したね……」
「……なんですか?」
「……んー、なんでも。私はラフラと呼称して、よろしく〜」
ラフラを名乗る女は目の前のじっとグレンを見つめた後、その場にいる男共の視線を物ともせず、しわの寄ったスカートの裾を伸ばし、足の親指を縛る紐も解いた。
「何があったんですか?」
身体の自由を取り戻したラフラが伸びをしているのを尻目に、グレンは質問した。
「何って、二人組の男に声を掛けたら揉め事になった。
色々あって、裸見られた上に捕まって、殴られたり聞かれたくない事を無理矢理聞き出されて最後には殺されそうになったの。
私怖くなって必死に助けを呼んだんだよ。
そしたら向こうが逃げちゃった。
助けてくれてありがとう」
けろっとした表情でラフラは答えた。
途端に観衆が騒めき出す。
「……衛士呼びます?」
「別にいいよ、ただ他の女の子は一人歩きに気を付けなよ〜。
特にペンダントを付けた男にはね」
普通の女がされれば、泣き叫んで家に閉じ籠る位の事をされているにも関わらず、ラフラは馬車に泥を跳ねられた程度にしか思っていないのか飄々とした態度を崩さない。
「ペンダントを付けた男にやられたらしいな」
「こんな可愛い子になんて事を」
「同じ男として許せないな」
「女の敵よ」
観衆はお互いの首を見合い、ペンダントを付けている人を見つけると厳しい目を向けた。
「い、いや。違うよ」
たまたまペンダントを身に付けていた彼は、慌ててペンダントを外した。
「おい、これはなんの騒ぎだ」
遠くから衛士がやって来た。
「あ、衛士さん。なんかそこの女の子が男に暴行されたとか言ってるんだよ」
「道を開けなさい」
衛士がヅカヅカと人垣に割り込み、グレンとコバルドの方へやって来た。
「君かい?その割にピンピンしている様に見えるけど……」
衛士が視界に捉えたのはグレンだった。
「いえ、私じゃ無いですよ。
そこのラフラです」
「?君は男ですよね?」
「俺じゃない、そこに居るだろ」
「……お二人しか居ませんが?」
衛士がキョロキョロと視界を彷徨わせたが、観衆の中心にはグレンとコバルドしか居ない。
「あれ、確かにいたんですけど……?」
「……消えた?」
さっきまでラフラが立っていた場所には、彼女が着ていたベアトップワンピースが落ちていた。
G.グレン
Co.コバルド
G.「あのラフラとかいう人ペンダントを付けた人に襲われたと言ってましたけど身近にペンダントを付けた男性っていましたっけ?」
Co.「ショウタくらいだが……まさかな」
G.Co.次回“真相、少し遡る……”
G.「そう言えばコバルドさん、次回予告でまだ自己紹介してないですね」
Co.「今までの予告は死体状態と、機巧に付いての解説で終わってたからな。
俺はコバルドだ。氷の魔法とレバーアクションショットガン型の機巧、グラセランセを扱う魔導士、機巧利用者だ」




