痴女との遭遇……
ミリーがパーティー用のドレスを用意すると言うと、コトミとリディアは喜んでミリーに付いて行った。
エルフとショウタも付いて行こうかと思ったが、[キャラバン]の店番しているバイトがそろそろ帰る時間なので、一足先に戻る事になった。
「ねぇお兄さん達、私と良いことしない?」
狭い路地へ入ると、背後から女の声に呼び止められた。
「悪いですけど間に合ってます」
「あぁ、労働こそ素晴らしい」
二人はそれぞれに反応して、後ろも振り向かず、歩を進めた。
「へぇ、ノワルに付いて面白い話があるんだけどなぁ」
二人は同時に振り返ったが、後ろに誰も居ない。
「こっちだよ」
今度はすぐ側で声がした。
再び振り返ると、二人の頬に指を当てられた。
相手の首の可動範囲に指を置いておき、声に反応して首を巡らせると、相手の指に自分の頬を押し付けてしまうトンぷにを見知らぬ女にされた。
「「何をする」」
「君たち息ぴったりだね。
私を呼称するときはラフラと呼んで。よろしくね」
ラフラが二人に同時に手を差し出した。
「さ、握手しよ」
「「断る」」
二人揃ってブスくれた顔をして拒否した。
目の前の女は、記憶喪失ゆえに常識感に疎いエルフの目から見ても奇抜だった。
明らかに染めたと分かるショッキングピンクの髪に、ベアトップのワンピースといった出で立ちだ。
「釣れないなぁ、まぁいいけどね。
それよりさっき面白い話をしていたよね。
ミリーとの食事会は楽しかった?」
「なんでそれを知っている?」
ラフラがベアトップワンピースの裾を翻しながら答えた。
「秘密」
「なぜミリーの事を知っている?」
「私も依頼を受けたからだよ」
ショウタがペンダントトップに手を掛けた。
警戒の姿勢だ。
「その石は如意棒の様に自在に伸び縮みする。
深呼吸一回で回復する微量とも呼べない魔力で自在に伸び縮みする夢見たいな魔石だね。
そのチェーンは誰かからの贈り物かな?」
「コトミお姉ちゃんにもらった。
俺の事は調査済みか……なにが狙いだ」
「おねえちゃんにね……ケルケラル。
まぁ、どうでもいいか。
とにかく私は私の仕事をするから、君達は君達の仕事に専念しなよ」
「断る!」
ショウタがペンダントトップを外し、真っ直ぐにラフラを目掛けて伸ばした。
伸縮の勢いも利用した突き、薙ぎ払いといった連撃を、軽いステップでひょいひょい避ける。
が、大味な攻撃で誘導した先には剣を抜いたエルフが待ち構える。
タイミングを合わせて前後から同時に相棒と剣での攻撃に、ラフラはワンピースの裾を翻して二本のグルカナイフで防いだ。
「うーん、二人の男に同時に迫られるなんて、サービスしちゃおうかな」
くるりと手首を返し、それぞれの得物を押し込む力を利用して二人を透かした。
エルフとショウタが前につんのめり、–トサッ–転倒しそうになるのを堪え、向き直って武器を構え直すと、
「ぶふぉろぁ!?」
「………………?」
再びラフラを挟んで前後に立った二人の間に立つラフラは、一糸纏わぬ姿になっていた。
着ていたベアトップワンピースが足元に落ちていた。
それだけならまだ、分からなくもない。
袖も肩紐も無い服だからアクシデントでずり落ちる事も、もしかしたらあるかもしれない。
だが、その下には普通は身に付けるだろう下着類が一切無かった。
ショウタは一時的に人類の言語を捨て、エルフはそのショウタの様子から、手を背中に隠した姿勢でエルフの正面に立ったラフラに最大限の警戒の目を向けた。
「うーん、君の反応はつまらないな。
こっちの方が面白そう」
唯一身に付けているローヒールサンダルを脱ぎながら、ショウタの方を振り返る。
ショウタは生唾を飲みながら、完全にこちらを向くその瞬間を待った。
揺れる双丘の中心、下腹部のさらにその下にある聖域が目に入る。そう思った瞬間––––––––フッとラフラの姿が消えた。
「は?––––––––はがぁ」
何が起きたか分からないまま、ショウタの頭に衝撃が走り、気がついたら吹き飛ばされていた。
「見えると思った?残念だったね。でもやっぱりショウタ君の反応の方が面白いな」
ショウタを両手で突き飛ばした姿勢でラフラが姿を現した。
手や髪の位置が絶妙に隠すべき場所をカバーしている。
立っている位置は、さっきまでショウタが立っていた場所だった。
「透明化系の魔法か、厄介だな」
一連の動きを見ていたエルフが言った。背中を向けたラフラが持っていたのは、さっきと同じ、グルカナイフだったので少し気の抜けた感もある。
「対してエルフ君は、あんまり面白い反応じゃないな。
ひょっとして、女の裸なんて見慣れているのかな」
「いや、初めて見る。
女の身体とはそんなふうになっているんだな」
そう言いながらエルフは、剣を構えたまま、顔を赤くする事も無くラフラの姿を、全身くまなく観察した。
その眼は性的に興奮していると言うより、初めて見る動物に興奮した子どものような視線だった。
「ケルケラル。
うーん、そういう目で見られるのは初めてだな。
あんまり愉快じゃないや。君も男ならショウタ君みたいな反応しなきゃだめだよ」
ショウタが起き上がるのを確認して、ラフラは再び姿を消した。
「あの野郎、どこ消えた」
「野郎じゃない、ガールよ」
ショウタの真正面、後一歩でキス出来る程の距離に、ラフラは姿を見せた。
「うわっ、」
驚いたショウタが身を引いたが、ラフラは踏み込んでさらに距離を縮め、いつの間にかグルカナイフを手放した右手人差し指をショウタの唇に当てた。
そして、困惑したままショウタが相棒を構えるより早くラフラは再び透明化した。
「はい、残念」
今度は壁を背にゆっくり後退するショウタの真後ろに透明化したまま声をかけ、耳を甘噛みした。
「んひゃらっ」
「へー、意外と可愛い声出るんだね」
その後もショウタは相棒を空振りしては、頭を撫でられたり、わざと裸身を触れさせて動揺を誘われたりと、戦闘と言うよりは、ジャレ合いに近い何かを展開した。
一方的に遊ばれるショウタをエルフは地面に剣を突き立てた状態で、渋面をして観察していた。
「あ、ごめんね。
君の事忘れてた訳じゃ無いけど、目線があんまり好きじゃ無いからねぇ。
待ってて、仲間に入れてあげるよ」
そのエルフに気付いたラフラが一度、姿を現し、そんな事を言ってまた姿を消した。
「エ、エルフ気を付けろぉ」
色んな意味で衰弱しつつ、どこか恍惚とした顔のショウタの警告が飛ぶ。
「ドラァ!」
気合一閃、エルフは剣を真上から振り下ろした。
ラフラはその剣の延長線上に狼狽えた姿で現れた。
「へぇ、もう弱点に気付いたんだね」
「お前さっきから色々キモいんだよ」
ムッとした態度を隠さずエルフは追撃に出た。
突き、払い、袈裟切り上げ、振り下ろし。
肩の回転と手首の返しを利用した流れる連撃を、ラフラは危なげも無く左手に持ったグルカナイフで防いだ。
「ふーん、スタードに言われて少しは気にしたんだね」
「何故知っている!」
「裸のおねえさんだから」
ラフラがフッと姿を消した。
エルフは慌てず地面を見た。
些細な変化だが、地面の土の形の変化や、砂埃の舞い方。
透明化していても地に足を付ける以上、そう言った物までは誤魔化せない。
足元に注意を向けながらエルフはショウタを見た。
未だ恍惚とした表情で佇むショウタに無言で歩み寄り、その頭部に“バーニア”で加速した拳(“ブロウ”では無い)をめり込ませた。
「ぐべら、何をする!」
「ショウタ、足元だ。魔法を使え」
「何故殴っ––––––––」
「さっさとやれ!」
「……はい」
ショウタが自身を中心に弧を描く様に砂埃を起こした。
砂埃は中心から外れたエルフの足に当たると、それを避ける様に舞った。
これで確実に居場所を特定出来る。筈なのに、砂埃は見えない何かを避けるような、不自然な動きが起きなかった。
「もう一度やれ」
「はい」
やたら機嫌が悪いエルフの命令にショウタは粛々と従った。
考えられるのは、砂埃が自身に到達する前にジャンプして避けたくらいだが、それはそれで跡が残りそうでもある。
もう一度注意して見れば居場所を割り出せる。
「逃げたのか?」
何度砂埃を起こしても、ラフラを見つけ出す事が出来なかった。
エルフは虚空に出鱈目に剣を振り回してみたが、手応えは無かった。
「アイツはノワルに雇われたの––––––––ドロァ!?」
エルフの後頭部に一瞬柔らかい感触、直後に重いなにかで殴られるような感触が走った。
「ここにいるよ。まったく、女の子に砂を掛けるなんて酷い事考えるね」
さっきまでエルフが立ってた位置にラフラが現れた。
エルフの頭にヒップバットを決めた姿勢のまま、空中に静止している。
「んな!?」
「エルフ君が命令役、お仕置き完了。
次は実行犯のお仕置き、サーチアンドホールド」
トットっと空中でスキップしながらショウタににじり寄る。
「やめろ、来るなぁ!」
相棒による怒涛の乱れ付きを、ラフラは右手で左胸に触れ、虚空から取り出したカイトシールドでガードして、強引に間合いを詰めた。
「君の漢、頂くよ」
「ギィヤァ––––––––」
漢を握り潰されたショウタの悲鳴が路地裏に響いた。
ショウタの漢のピンチを無視して起き上がったエルフが、背後からショウタごと殺る勢いで突きを放った。
一応言っとく。この辺の攻防は、ラフラ、エルフ問わず無論、わざと且つ本気である。
「ぶわぁ、お前俺ごと殺す気だっただろ」
ショウタの抗議の声を無視してエルフは虚空を睨んだ。
「さて、次はエルフ君の漢をいただくよ」
虚空からそんな声が響いた。
見えない相手を無理矢理斬ろうとしても、間合いの外に逃げられる。
“ファイアボール”は、直線か曲線にしか飛ばないし、点での攻撃では意味を為さない。
“ブロウ”も“バーニア”も同様だ。
足元だけを狙って魔力を飛ばしても、浮遊魔法を使える相手には意味が無い。
以上の理由からエルフはとある結論に達した。
「ショウタ、恨むならオレじゃ無くてあの女を恨め」
エルフは自分を中心に魔力を練り上げ、一気に外へと放出した。
炎や水、風と言った属性の魔法を使える人間に許された無差別範囲型魔法。
自分以外の周りの全てに平等にダメージを与えるその魔法は、技そのものの優秀さと使った人間への侮蔑を込めて“ボンバーマン”と呼ばれている。
エルフを中心に高熱が放たれた。
「ぐわああぁあ!?」
「んきゃああぁ!?」
無傷で怒りのオーラを立ち昇らせるエルフの隣に、火達磨になったショウタとラフラが転がった。
Ly.リディア
K.コトミ
Ly.「この薄い緑色のドレスがいいですよ。
このマーメイドタイプのドレスに……あ、この貝殻のイヤリングもいいですね」
K.「わぁ、一気に海っぽくなってきた」
Ly.「私は……これにしようかな」
K.「本当にそれでいいの?もっと可愛い形もあるよ?」
K.Ly.次回“強烈すぎる人々……”
K.「今爆発音がしなかった?」
Ly.「何も聞こえませんよ?」




