依頼者は旧友
そんな訳で数日後、エルフ、ショウタ、コトミ、ウケビト登録をしたリディアの四人は、待ち合わせ場所に指定された料亭を訪れた。
完全個室制の高級そうな外観に、貧乏性が染み付いたショウタとコトミが怯み、エルフが好奇心の眼を開き、リディアは意外と落ち着いた様子で扉を開いた。
「コトミ、ショウタ久しぶり!来てくれてありがとう。
そちらのお二人は初めましてですね。
私が依頼人のミリーです」
「えぇ、久しぶりねミリー」
「三年ぶりくらいか」
室内には、上品なシルクのワンピースを身に纏った女性が待ち構えて、隙のない見事なお辞儀で出迎えた。
四人は着席早々にコトミが中心になって依頼内容の確認に入った。
少し面倒な話だった……
ミリーの父は元々、街医者と言うよりは一人の学者として活動していたそうだが、出資者であるロズルが出資を取り止めるのを機に、街医者として本格的に仕事を始めた。
持ち前の医療技術と学者時代に極めた再生医療術を武器に経営は上手く回り、ウケビトの嫁を貰い、その二人の間に自分が産まれた。
三人は幸せな家族だったそうだ。
事態が変わるのは二年前だ。
母が採集の仕事をした山で、ウルガが矢を受けて死んでいたのだ。
矢は心臓を貫き即死だったと。
ウルガは周辺の生態系の要であり、ウルガの死は、災厄の元となる。
ウルグの群れの統率が取れなくなり、結果ギヤを始めとする草食獣が凶暴化して農村部に甚大な被害を及ぼした。
簡単な採集クエストに参加していたのは、母と二名のウケビトだったが、直接の死因とさせる矢を使っていたのは母だった。
そのパーティーは、ウルグともウルガとも遭遇していなかったので当然否定したが、心臓を貫いたネリダが使っていた矢という物的証拠は動かしようが無く、囚監場で開かれた裁判の結果、母は死罪が課せられ、父もまた信用を失い病院に患者が来なくなり、損害賠償の為、多額の借金を背負うことになってしまった。
傷心する父に声をかける事が出来ないでいる自分の無力さが悔しかったが、そこに声を掛けたのが、ロズルだった。
借金を肩代わりする代わりに、学者時代に培った技術を本にして欲しい。
そうする事でより多くの人の命を救えると唆された父は自身の技術と知識を本に記し、ロズルに託した。
最初は一冊を要求したロズルは、その後、何度も本を要求し出した。
最愛の人と引き裂かれたショックから、気を紛らわせる先を求めていた父は、取り憑かれたように自身の持つ知識を本に記し続け、ロズルに渡した。
中には代々医療系家族として秘匿していた技術も記していた。
ミリーは父に「私が働くから借金は気にしないで、これ以上本を書かなくて良い」と言ったが、父は聞く耳を持たなかったそうだ。
「翌年の事でした。
父の技術が一人の医者に利用されたのは」
父が記した本は何処にも出版され無かったので、ただロズルの手元に貯蔵されているとミリーは思っていた。
ところがある日、完全に無くなった腕を再生した医者がいると耳にした。
そのような技術を使えるのは少なくともビルカ近郊では父だけのはずだったが、遂に本を読んだ誰かが自身のスキルにしたのだと、思った。
しかし、その後耳にする完全にも等しい再生医療は、全てたった一人の医者によって成された事を知った。
さらにその医者は、再生医療をする際に法外な額を要求している事も突き止めた。
父の知識は、全て独占されていたのだ。
確かに本を書いた父には、借金を無くすためという私欲も含まれてはいた。
だが、それ以上に多くの人を救うという言葉を受けて、それを信じたから書いたものでもあるはずだ。
断じて個人の私腹を肥やす為ではない。
「その医者の名前はノワル。
元は脳医学に強い医者だったそうです。
後で調べて分かった話なのですが、ノワルはロズルの息子でした。
そして、私が失敗させたい見合い相手でもあります。
父は学者時代の出資者であり、多額の借金を肩代わりしたロズルに多大な恩を感じているので、ロズルが急に持ち出した見合い話に非常に乗り気なのですが、私はノワルの事が非常に気に入らないので、反対の意を示しました。
しかし色々と手を回され、見合いパーティーに参加せざるを得なくなってしまいました」
「そのパーティーにあたし達も参加して、うまく失敗する様に誘導すれば良いのね?」
「その通りです。こんな依頼ですけど大丈夫ですか?」
コトミはミリーから視線を外し、三人の顔を見た。
ショウタは金銭的事情から悲壮感も露わに受ける意思を固め、エルフは頭にハテナを浮かべながら頷き、リディアは初めての依頼に緊張の顔で頷いた。
「お引き受けします」
「ありがとう。
ここでの食事は私が出しますので、今日は皆さん遠慮無く食べてね」
そう聞いた途端、頭にハテナを浮かべていたエルフが満面の笑みを浮かべながらメニュー表に手を伸ばした。
大量に注文した高級料理を前に、エルフが大はしゃぎでナイフとフォークを振るのを尻目に、ショウタとコトミは箸を取り出し、ちびちびと料理を摘んだ。
「やっぱりすごいね。
私も真似した事あるけど、そんな細い棒だけでご飯を食べるなんて無理だわ」
「あぁ、慣れたらこっちの方が早いからな」
ショウタが答えながら豆の油炒めを箸で摘んだ。
「確かコトミがジャルパ出身でショウタはこの街出身だったっけ?」
「いや、俺は元奴隷だよ。生まれがどこかも覚えてないな」
「あたしはジャルパの行商団の一人娘でそのときにこの子を拾ったのよ。
行商団とはぐれたあとに、ネリダさんにお世話になったり色々よ」
「随分苦労されたんですね……」
「そんな事ないわ。
むしろ大変なときにあなたみたいないいお友達やネリダさんていう頼りになる人のお世話にもなったからね。
今改めて、ネリダさんの代わりにお礼を言わせて、ありがとう」
そう言ってコトミが頭を下げた。
それを見たショウタも同じ様に頭を下げている。
「三人は知り合いなの?」
「昔ね、ミリーのお母さんにお世話になったの。
まだ十歳くらいだったかな、あたしとショウタがぼろ家を買って暮らし始めた頃に「子どもだけで住むなんて危ない」って言って、よく家に来てくれたの。そのときミリーとも仲良くなってね。
[レザルボアマギカ]や[キャラバン]で顔を見かける度に色々気を使ってもらって……本当にいい人だったなぁ」
「あぁ、俺もコトミお姉ちゃんも世話になりっぱなしだった」
「ショウタ、まだコトミお姉ちゃんって呼んでるんだ。最後に会ったときは姐貴じゃなかったっけ?」
「?変か」
その後、コトミとショウタとミリーは昔話に花を咲かせた。
エルフは目の前の料理に格闘し、リディアは会話にこそ参加はしなかったが、耳はしっかりと傾けながら食事をしていた。
E.エルフ
S.ショウタ
K.コトミ
E.「そういえば二人はどこで出会ったの?」
S.「どっか遠くの山道で拾われたとしか覚えてない」
K.「倒れているのを見つけたのよ。
そしたらショウタは馬車団の最終目的地が自分の住む街だって言い出して、色々あってそのまま一緒に旅に出たのよ」
K.次回“痴女との遭遇……”
E.「コトミ、痴女ってなんだ?」
K.「あたしに聞かないで、ショウタに聞いて」




