種明かし
ウケビトは、あちこちの拠点を転々として自分が気に入った土地や、条件の良い仕事がある場所で宿を借りて拠点として活動する。
良い仕事の話が入ったり、気が向けば別の街に流れていく。
ウケビトの数が多ければ、魔物に対する街の防衛力として機能するし、ウケビトが街の外で活動し、魔物を討伐したり素材を持ち込めば、産業が活性化する。
その為、[レザルボアマギカ]をはじめとするギルドは流動性が強いウケビトを抱き込む為に様々な工夫をする。
とあるギルドは宿の宿泊費を全額負担する。またあるギルドは依頼報酬に補助を出し、ウケビトが儲かりやすいシステムを作っている。土地ならではの酒や特産品でウケビトを呼び寄せる。娼婦を安上がりに手配する、奴隷を貸与する等、下世話な手段もその街が合法と定めるならば、手段は何でもありだ。
では、この[レザルボアマギカ]はどういった手段でウケビトを呼び集めているのかというと、一番の目玉は全員が口を揃えてこの[訓練棟]だと言うだろう。
[レザルボアマギカ]のあるビルカという街は、はるか昔、魔法と化学の複合実験都市として発展して、何らかの理由で実験が行われなくなり、一度衰退した。
ギルドの建物はそのときの研究施設の跡地付近に建造されている。
行われていた研究内容は様々で、その中で特に目を引くのが死者蘇生術。
結果は、誰もが求めるような死んだ人を蘇らせるという形では失敗した。
しかし、事前に儀式魔法を施した人間が、魔法陣一定範囲内で死んだ場合に限り、不規則な時間経過で復活するという形で成功している。
事前準備さえしていれば、一定範囲内で死んでも蘇る事が出来る。と言う事だ。
[レザルボアマギカ]横にある[訓練棟]は、その魔法陣の範囲内で、一部区画を除いて、研究の効果が常に作用している。
その結果、[訓練棟]は命を掛けられる超実戦的訓練施設として、小は個人のウケビト、大は国の軍隊が日々、訓練の為に利用する一大訓練施設となり、ビルカはこの施設により、再び人が出入りして経済が活性化して行った。
今さっきまで起きていた惨劇は、こう言った背景を知る人間にとってはただの訓練、知らない人間にとってはただの地獄だった。
「お前ら嫌いだ」
「ごめんなさい」
「すまん」
しばらくして蘇ったエルフはまず、血だらけの地面に驚き、次に穴だらけになった自分の服を見て驚いた。
さらに自分を取り囲む、メリ、ケン、サック、メイズ、コバルド、ショウタ、コトミ他、自分が殺したはずの人々を見て血を吐く勢いで驚いた。
水をぶっ掛けてなんとかエルフを落ち着かせた一同は、[レザルボアマギカ]食堂にて詳細を説明した。
事の顛末を纏めるとこうだ。
*(๑^. .^๑)۶ 〜*(๑^. .^๑)۶ 〜
「中央大図書院で使った薬品類を全て[レザルボアマギカ]に請求したい」
「なら小僧を[訓練棟]でドッキリに嵌めるのに協力しな」
「「喜んで!」」
*(๑^. .^๑)۶ 〜*(๑^. .^๑)۶ 〜
誰と誰の会話かは、想像にお任せする。
その後仕掛け役を適当に募る内にどんどん人が集まって、いつの間にかバトルロイヤルに発展してしまったのだ。
「本当に最悪だ、悪い夢だったと信じて目が覚めてみたら血だらけの床の上に穴だらけのシャツだ。しかも何人か道連れにした奴らが時間差で起き上がって呪詛唱え出すんだぞ。
その上他の部屋で殺した奴らがみんな集まってくる。世界が狂ったとしか思えない」
記憶喪失故に常識感が疎いエルフからしても、死人が蘇るのは超常現象だった。
エルフは[レザルボアマギカ]食堂の隅の席で体育座りしてボソボソと恨み言を言っていた。
「クハハ、そりゃあトラウマ物だなエルフ。
俺は普通にバトルロイヤルをやるから参加しないかってメイズに誘われたんだ。
まさかそんな話になってたなんてな」
「[訓練棟]ってすごいですね」
相席したコバルドが笑い飛ばし、隣でずっと話を聞いていたグレンがそうコメントした。
青いフレームメガネの下の瞳は、エルフよりも楽しそうに笑ったコバルドの方を向いている。
グレンはバトルロイヤルに参加していない。
十六歳以下は利用禁止なのだ。
[訓練棟]にはフリーエリアと呼ばれる訓練に適した広場だが、魔法陣の効果範囲外になる場所が数カ所存在する。もしそこで人が死んだら蘇らない。
グレンがエルフに魔法を教えるときは、フリーエリアを利用している。
因みに事前に10秒程で終わる儀式魔法を受けなかった人が、魔法陣の効果範囲で死んでも蘇らないし、外部で傷を負った人間が、儀式を受けて[訓練棟]で死んだ場合、[訓練棟]内での傷は完治するが、外部で受けた傷は完治しないなど、気を付けなければならないルールは多い。
「そういやお前、蘇るのがやたら早かったな。ランダム性が強いけど普通は三十分は蘇生に時間がかかるのに、十分も待たなかったらしいな」
「知るか、そもそも死人が蘇るとか無いわー」
「諦めろ、今生きてるここが現実だ」
コバルドはエルフの頭を掴んで強引に上を向かせた。
さっきまで本気で命のやり取りをしていた[レザルボアマギカ]のウケビト達が、楽しそうに酒を交わしている。ある者はこっちの様子に気付いて申し訳なさそうな顔をし、ある者は指を指して愉快そうに笑い出した。
「実際本気でやり合ってみて思う所はあったろ。
お前、大して強く無いぞ」
エルフの隣の席にドカッと座りながらメイズが言った。
「調子に乗って油断してる隙に殺されたお前に言われても説得力無いだろ」
「ん、コバルド見てたのか」
「あぁ、詰めの甘いお前が俺を殺し損ねたお陰で全部見てた。
因みに最後の二人まで生き残ってたのも俺で、居た堪れない気持ちになって自殺したのがオチだ」
「……なんかダセェな。話戻すが実際どうだエルフ」
「それは実感したが、別にオレは強くなりたい訳じゃない」
「じゃあ、どうしたいんだ?」
「それは……」
エルフは自分を見返してみた。
多少の体術と魔法を使える以外カラッポだ。
記憶を失って、なし崩し的にウケビトになり、[キャラバン]に住ませてもらっているだけの浮浪者、自分はただの“手ブラなウケビト”だ。
過去の自分に何があったか気にはなるが、手がかりもない。
「おぉっ、暗い顔してやがらぁ」
別の方向で暗い雰囲気を出して考え出すエルフをメイズが愉快そうに笑った。
と、そこにスタードがやって来た。
エルフは一気に警戒態勢に切り替わり、スタードを見据えた。
「あらあらあらっ!嫌われちゃった?」
「好かれる事はしてないだろ」
「まぁ、そうね。
ところで、さっきの話考えてくれた?」
「お前について行くくらいなら、まだ薬屋で馬車馬生活の方がいいよ」
「そう。馬はいいわね。
いい男は無理強いしないものだから大人しく引いておくわ。
でもいい、これだけは覚えておいてね」
ここで、スタードは一気にエルフに歩み寄り、顎をクイッとやって自分に向き合わせた。
「自分が何者か分かって、本当に苦しくなったらいつでもあーしを頼りなさい。
あーしが絶対に悪いようにしないから」
スタードがエルフの目を覗き込んだ。
エルフは目を逸らせずに真っ直ぐに見入ってしまった。
5秒程そうやって見つめ合った後、スタードはエルフから手を離してどこかへ行った。
場に妙な空気が漂う中、コバルドが口を開いた。
「メイズ、お前に話があるんだが」
コバルドは、銃身の折れた銃を掲げながら言った。メイズの顔が凍り付く。
「わりぃ、つい熱が入っちまった。でも今あんまし金が無いんだわ。割り勘で許してくれ」
「そこは別に構わん。それよりメイズ、お前機巧利用者になる気ないか?」
Co.コバルド
G.グレン
Co.「機巧利用者とは、魔法と化学の複合武器、機巧を使う人間の事だ。
因みに機巧を作る人間は機巧師と呼ぶ。
メイズに壊された銃、“ルナールテュエ”も機巧だ」
G.「私と初めて会ったときも機巧師を探しているって言ってましたね」
Co.G.次回“本当の黒幕”
Co.「機巧は魔導士の補助輪とか呼ばれてて、作る奴も使ってる奴も未熟者の色メガネで見られるから数が少ないんだよ」




