殺し合う仲間達、エルフVSショウタ
エルフとコバルドはシャッターを潜り、無事Cエリアへと辿り着いた。
「よく生き残ってたな、ショウタとコトミはどうした?」
「はぐれた、お前こそグレンと一緒じゃないんだな」
「俺一人だ」
「そうか」
完全に閉じ切ったシャッターに背中を預け、崩れるように座りエルフは荒い息を吐いた。
「あの馬面は何だったんだ、まるで勝てる気がしなかったのに、二対一になった途端動きがまるで素人だったぞ。
あと、本気で気持ち悪かった」
「スタードの事か。一対一の白兵戦、特に一騎討ちに於いては[レザルボアマギカ]を出入りするウケビトどころかビアンデ最強と言われている武人だよ。
逆に言うと集団戦は弱すぎるから出来る仕事は限られてる。
性格は……知らん」
––––––––ピンポンパンポーン『Bエリアは完全に封鎖されました。残る人数は十人、最後の一人までちゃんと殺し合いましょう』ピンポンパンポーン––––––––
「お前はオレを殺さないのか?」
エルフは今、息も絶え絶えで隙だらけだ。とても銃を持った相手に勝てる状態ではない。
「グレンが世話になったからな、今は殺さない。次会った時は容赦しない。それでいいか?」
「助かる」
コバルドが「じゃあなっ」と歩き出した。
「先手必勝!」
コバルドが曲がり角に差し掛かった辺りでそんな声がしてコバルドが吹き飛んだ。
エルフが座ったままそちらを見ると、小柄な男が拳を突き出した姿勢で立っていた。
メイズだ。
メイズが雄叫びを上げ、コバルドに殴りかかる。コバルドは銃身に氷の刃を形成し銃剣術で渡り合うが、接近戦ではメイズの方が分があるようだ。二、三発殴られて銃を奪われてしまった。
メイズはそのまま銃をへし折った。
「これが無ければお前は無力だ」
「奪われた俺が悪い」
コバルドは奪い捨てられた機巧へ一瞬目をやり、黙祷した。
「ルナールテュエ。一年にも満たない付き合いだったが感謝する。
いい機巧だった」
一瞬微妙な空気を作った後、二人は構えた。
「構えるなよ、一緒に戦った仲だ。
一撃で殺してやるよ」
「断る。俺は俺の自由を最後まで貫かせてもらう」
コバルドが両手を前に突き出し氷剣を形成した。
コバルドの適性魔法は氷、特に形成に特化している。
「「一発で終わらせる」」
ただし、メイズよりはマシだが、遠くに形成するのはめちゃくちゃ遅く、結果狭い範囲にしか形成できず、しかも、めちゃくちゃ重い。
しかし、それを補って有り余る程の勘と容赦の無さを持ち合わせていた。
急所を狙う攻撃に一切の躊躇いもなく、攻撃に対する反応も早い。
純粋な格闘のセンスではメイズに軍配が上がっていたが、それでも、コバルドは全く引かなかった。
二度、三度、組み合っては振り払うような攻防の後、メイズが氷剣を握るコバルドの腕を掴み、魔力を放出した。
感電して動きが鈍ったコバルドのガラ空きの胸部に“アームスパーク”を叩き込み、コバルドは立てなくなった。
「友よ、安らかに眠れ」
「……まだ生きてるぞ」
コバルドが身に付けているライダーコートは内側にプロテクターを仕込めるので、ちょっとやそっとの打撃は効かない。
よく見れば痙攣していて生きているのが分かるはずなのに、メイズはコバルドを前に黙祷した。
思わずツッコミを入れてしまったエルフにメイズがようやく気付いた。
「居たのかエルフ、この前の焼肉戦の続きと行くぞ」
「待て、なんでオレたちが殺し合わなければならない。この状況は異常だ、正気に戻ろう」
エルフにとってメイズは、間接的な命の恩人なのだ。
中央大図書院に囚われていたエルフが無事に救助されるのに、メイズは直接の関わりこそ無いが多少貢献している。
「今更何言ってる。
お前も既に何人も殺したんだろ、今更正論を並べ立てたって意味がないんだよ。
俺ももう、五人殺した。
ギルドで酒を交わした奴もいる。死戦で背中を預けた奴もいた……
けどな、ここに来て儀式を受けた以上、俺達はもう止まれない。
分かったら腹決めろ!」
メイズが走る。
本気の目だ、殺らなきゃ殺られる。
エルフは立ち上がり剣を抜いた。
「待て、武器は反則だ」
「殺し合いにルールはないだろっ、行くぞ」
エルフが喉を狙って放つ突きを、メイズは白刃取りで受けて見せた。
「そのまま痺れやがれ」
メイズは体表数cm程度しか魔力を行使出来ない。
しかし、魔力で生み出された電気も普通に鉄に通電する。白刃取りでエルフの剣に触れたまま両手に魔力を込めれば、自然、鉄の剣を通電して、エルフを襲う。
「あががががが……」
エルフは奇妙な悲鳴を上げながら剣を手放した。
実を言うとメイズはそのままエルフを感電死させる事も出来たし、武器を捨てたエルフにそのまま組み付く事も出来たが、敢えてメイズはそのどちらもせず、エルフに一度間合を開ける時間を許した。
「これで拳同士の戦いだ」
奪った剣を捨てたメイズが、拳を突き出しファイティンポーズを取る。
それを見たエルフも観念し、両手を握り締めた。
メイズが一歩踏み込み、拳を真っ直ぐ繰り出す。飾りっ気も魔力も無い正拳突きだ。
顎を狙って突き出された拳をエルフは肘を突き出しブロックし、空いた手でボディブローを打つ。
メイズはブロックされた手を引き戻しながら、敢えて一歩踏み込む事で、エルフのボディブローの勢いを殺し、引手の反対でエルフの胸部に肘打ちを入れた。
両者の打撃が交わり鈍い音が響く。
エルフの肺の真上を肘が襲い、強い衝撃が走り、肺の中の空気を強引に外に吐き出されながら後退った。
一方メイズは、ボディブローの勢いを殺す事に成功し、大したダメージを負う事は無かった。
「いい反応だったが、弱いな。
二手三手先を読みながら戦え、一撃で終わる戦いなんて普通はないぞ」
メイズが肘を打ち抜いた姿勢のまま、わざわざエルフが呼吸を整える間を取りながら言った。
「素手での戦いは慣れない、剣返してくれよ」
「断る、次は魔法を入れるぞ」
メイズが拳に電気を迸らせ、開いた間合を一気に詰めた。
先程と同様の正拳突き。ただし電気の魔力を込められた拳をエルフは頭を大きく振って避け、右手で“ブロウ”放った。
初めて使った時は“ファイアボール”を握り潰し、“バーニア”で加速させるプロセスを取った“ブロウ”は、今、炎魔力を纏った拳を“バーニア”で加速させると言うプロセスにする事でより短時間での発動を可能にしていた。
メイズの顎を狙った“ブロウ”は、メイズの魔力を纏った肘に防がれた。メイズがそのまま空いた手でボディブローを打つ。
最初の攻防を真似した動きだ。エルフはさっきのメイズを真似して、一歩踏み込み、ボディブローの勢いを殺しにかかり、同時に肘打ちをもう一度顎目掛けて打った。
衝撃。
メイズのボディブローは、“アームスパーク”で強化された一撃だった。対してエルフは、魔力を使わない普通の肘打ちだった。
結果、エルフが打ち負け一方的に吹き飛ばされ、地に伏した。
「ブロウって言ったか、お前の魔法。
手先からしか使えないんじゃ、肉弾戦型魔法としちゃ弱すぎるな」
エルフは倒れたまま手をメイズに向けた。“ファイアボール”だ。何も相手に合わせて正直に殴り合う必要は無い。
威力を犠牲にして速度を優先した火球は、メイズの腕であっさり弾かれた。
エルフは身を起こしながら、“ファイアボール”を撃ち続けたが、メイズは“アームスパーク”を纏った腕で打ち払い、一歩、一歩近づいて来る。
間合いが狭まる。3m、2m……あと一歩で、拳の間合いに入る。
「どあらぁ」
「っく!?」
エルフは手先以外から使える魔法を使った。“バーニア”だ。
背中全体から推力を生み出した“バーニア”は、制御不可能な状態で急加速し、技とも言えない不恰好な体当りとなり、メイズの意表を突き、エルフ諸共メイズを吹き飛ばした。
エルフが地面を転がった先には、最初の攻防で投げ捨てられた剣が転がっていた。
「拾わせねぇぞ」
先に起き上がったメイズが駆け寄る、拾っている暇は無い。
仕方なくエルフは丸腰のまま立ち上がった。
「アームスパークッ!」
「ブロウッ!」
防御を捨てたインファイトだ。
“ブロウ”を手先にしか纏えない現状、“アームスパーク”への対処法が回避しか無い。
なら、こちらが倒れるまでに倒す。
「はっはは、いいねぇ俺好みだ。
だがなぁ、俺はボクサーじゃねぇんだわ。
足も使わせてもらうぜ」
メイズの右膝に魔力が篭る。
「ニーボルト」
「ガハァ……」
鳩尾を貫くような膝蹴りがエルフに刺さり、メイズにもたれかかるように崩折れた。
だが、地に頭を付けない。手を地面に付け体を支え、メイズの服を掴み立ち上がろうとしている。
「いいね、まだやる気かぁ?」
「……説得は諦めた」
メイズの襟口を掴み立ち上がったエルフが言った。
エルフが足を振る。
足元に転がっていた剣の切先を立たせ、柄頭に足を滑り込ませて蹴り上げた。
「ぐおぉっ……」
エルフが足先で操った剣に右太ももを貫かきメイズ倒れる。
エルフは無情に剣を抜き取り、顔を引き攣らせたメイズにトドメを刺した。
……なんでなんだよぉ。
エルフは泣いていた。
友の身体を貫いた剣を抜きながら、友の血で染まった剣を拭いながら泣いていた。
メイズはもう動かない、オレが殺したから。
その隣にはコバルドが倒れている。メイズが殺した。
メイズがコバルドを殺すことを止めることも、メイズを殺さずに止める事も出来なかった。
そのエルフ自身、シャッターで閉ざされた向こう側で既に何人も人を殺している。
エルフにとって、人を殺すのは初めての経験だった。以前の酒場で斬った男は殺す気だったが、恐慌状態で正常な判断能力を失くしていた上、実際命に関わる程にはならなかった。
だが、今回は違う。
少なくとも記憶を失った時点から人を殺した経験の無いエルフは、初めて人を殺めた。
しかも少なからず縁のある人々を、[レザルボアマギカ]のウケビト達に、メイズ。
メイズは共に食卓を囲んだ仲だ。
なのに殺した。
自分が死にたく無いから……
「ここに居たかエルフ」
「ショウタ?」
ある意味、一番会いたくない相手だった。
逸れた時とは違い、エルフと似たようなボロボロの服を着ていて不揃いな長髪を乱し、顔には玉のような汗が浮かんでいる。
「コトミお姉ちゃん死んじまったよ、背後からの不意打ちでな。俺を庇って背中を刺された。
残ったのは俺とお前だけみたいだな」
言いながらショウタは首に下げたペンダントトップ を外した。
I字型の石に魔力を込めて、150cm程の棒にした。
「……ショウタ?」
「エルフ、剣を抜け」
「いやだ、もう殺したくない」
エルフの頬を風が通り過ぎ、背後の壁からガスッと音がした。
エルフの頬の横数cmを棒が走っていた。
「次は当てる」
「クソがぁ––––––––」
エルフは恐慌状態に身を委ねた。
ただ死にたくない、それだけを理由にショウタに剣を向け戦った。
剣と棒が打ち鳴らし合い、金属音を響かせて、お互いの魔法が交差する。
最後に立っていたのはエルフだった。
転がったショウタの死体には、エルフが刻んだよりも大きな傷が刻まれていた。
––––––––なんで……なんでなんだよ。
––––––––ピンポンパンポーン『生存者は二名となりました、最後の一人まで殺し合いましょう』ピンポンパンポーン––––––––
エルフの心情など知った事かと、無駄に軽快な放送が流れた。
ここに居ても仕方ない、エルフは込み上げてくる吐き気を堪えながらよろよろと歩き出した。
薄暗い廊下を歩き、割れたガラスが散らばる部屋に出た。
ガラスに反射する自分の顔は酷く醜い物だった。
「これが人殺しの顔か……」
殺人を犯したのは自分なのに、自分こそが被害者だとでも言いたげな蒼白な顔。
––––––––ピンポンパンポーン『生存者が一名となりました、おめでとうございます。生存者は至急、エントランスへお越し下さい」ピンポンパンポーン––––––––
もう一人生き残っていたのは誰だったのだろう?前の戦いで致命傷を負い自然死したのだろうか?
なんでも良い、最後まで意地汚くも生き残ったのだ。
身体を引き摺るように歩き、エルフはエントランスへ向かった。
「まさかお前が生き残るとはねぇ」
エントランスの手前でロジーナが待ち構えていた。
「ロジーナ、これはなんだ!何が起きた!?」
「悪いけど死んでもらうよ小僧」
ロジーナが手を振った。
途端に物陰に隠れていた男達が一斉に身を起こし、銃を構える。
サーチライトの赤い点が、エルフを完璧に捉えている。
「死にな」
「畜生––––––––」
“バーニア”で逃げようとしたが、無数の弾幕に逃げ場は無くエルフは死んだ。
E.エルフ
S.ショウタ
K.コトミ
Co.コバルド
G.グレン
E.動かない、まるで屍のようだ。
S.身体が斜めにばっさりの斬られている。
K.未練が無いと言いたげな満足顔だ。
Co.居た堪れない顔で高いところから飛び降りたようだ。
G.「私はコバルドさんが最後まで生き残ると思ってたのにな」
G.次回“種明かし”
G.「さて、サンドイッチ作ろっと」
Co.気のせいか動いた気がする




