幕引きの焼肉
リリーナが眩い光に包まれると同時に街に居た魔物は全て文字の塊となった後、姿を消した。
病室にいた人達も、正面入り口の魔物を全滅させたグレン達が合流し、無事全員助け出すことが出来た。
エルフとショウタが話し合った結果、リリーナに取り憑かれていた金髪の少女は、表向きは中央大図書院で救助された一人として扱う事にした。
流石になんの話も聞かず解放という訳にも行かず、ロジーナとしつこく詳細を知りたがったコトミとグレンに大まかな経緯を説明した後、ロジーナが身柄を預かる事になった。
街中に魔物が大量発生するという前代未聞の大事件だったのに、不思議な事に死人は一人も出ず、あの病室に居た人を例外としたら、魔物と交戦したウケビト以外には怪我人も出ていないらしい。
ロジーナが統治者に今回の件を、転移魔法がなんらかの原因で作動して、大量の魔物を外部から中央大図書院に転移した事が原因であるとし、転移魔法陣を破壊して魔物の発生を阻止したと声明を出した。
病室にいた人達はみんな、「図書院内で眠気に襲われて、気が付いたら病院に居た」と証言した。
リリーナが何かしらの魔法で、全員を眠らせてから地下に運んで血を抜いたのだろう。
大量の血を抜かれたことで貧血を始めとした不調を訴えているが、時間と共に回復するだろう。
詳細を知る人間にはロジーナから箝口令が出されたが、これで表向き事件は解決した。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
「と、言う訳で今日は私の奢りだ。
みんな、好きなだけ食いな!」
「「「オオォオオォォォ!」」」
場所は[レザルボアマギカ]食堂。
ビルカはそこそこの都市に認定されている。
[レザルボアマギカ]は当然、都市の警護が経営の絶対条件だ。
無事魔物を排除した後も、国の高官達がしつこく粗探しをして、ストレスが溜まりに溜まり、実力行使で黙らせようかと物騒な事を考えてしまったロジーナだったがそこはなんとか耐えた。
そして溜まりまくったストレスを発散ついでに箝口令を出した手前、満足に事情を説明できないウケビト達へのせめてもの労いと言う、私欲と実務を兼ね備えた宴を開いたと言う訳だ。
食堂のそこかしこでは、適当に見繕ったバーベキューコンロで大量の肉が焼かれ、滅多にお目にかかれない高級肉パッケージがどんどん空にされて行く。(中身を市場に出すにも怪しいレベルの安物とすり替えているのはロジーナと料理人達だけの秘密だ)
最初数切れ食べたビルは、肉以外にトングを伸ばし始めた。
「さすがボンボンだよ、ビル。
伊達に良いもの食って育っていないようだね」
「その呼び方やめてくださいロジーナさん」
騙されている側が馬鹿騒ぎしながら安肉を貪り合うのを離れた席で酒片手に憐みの眼を送る二人だった。
因みに酒類と、食堂で提供される通常のメニューは、料理長の猛反対を理由に偽造なしの正規の物だ。
ロジーナ個人としてはギルドの財布を守るために偽造しようと思ったのだが、少し前に入った面倒な依頼人みたいな話になっては敵わないと諦めた。
因みにエルフもビルが肉に手を付けなくなった頃、一度ロジーナの方を盛大に睨み付けた。
ロジーナが内心バレたか、口を封じる必要があるね……等と考えていると、視線をクソ安い肉に戻し、メイズと奪い合うようにトングを振り始めた。
そのエルフが付くテーブルには、他にショウタ、コトミ、グレン、コバルド、メイズの五人が卓を囲んでいた。
「エルフどうしたの?スゴい顔でロジーナさんを見てたけど……?」
「知らない方が幸せな事もあるんだ」
「それって、箝口令の事ですか。
エルフは何か知ってるんですか?」
「ちょっと違うけどまぁ、そんな所だ。
ミルクおかわり!」
「あいよっ!」
激安肉(料理人達の周到な事前加工により判別困難)を早々に見破ったエルフは、コトミとグレンからの質問をはぐらかし、ホールスタッフにミルクをおかわりした。
激安肉と見抜いても初めての焼肉に興奮して、さっきから全くトングが止まらない。
「そういや、お前ら二人はあの穴の下まで行ったんだよな。なんかヤバいのでも見たのか」
そのエルフと張り合う勢いでトングを振るメイズが、エルフとショウタの二人に視線を送った。
「それを言っちゃいけないから箝口令だ。
そうしか言えないぞ」
「ショウタ、その肉はまだ生だよ。こっちの焼けたからほら」
「お、ありがと」
「この前も生焼け肉でお腹壊したばっかりなんだから気を付けてね」
「お……おう」
なぜかショウタは冷や汗を流していた。
コトミに細い棒二本だけで(自作し持参した箸だ)器用に摘んで受け皿に盛って貰った肉を、ショウタは同じく細い棒二本で器用に摘み、口に運ぶ。
その光景は、別のテーブルを囲んでいたウケビト達の視線に止まった。
「おう、ショウタよ。
またお姉ちゃんに世話焼いて貰ってんのか」
「お前だけずり〜ぞ」
「俺も毎日手料理を食いてえ!」
「ちょっとこっちに来い、ゆっくり語り合おうじゃねぇか」
「ちょ、待てやめろってか普段料理作ってんのは俺なんだが」
ガタイの良い三人に囲まれたショウタはコトミの視界に入りにくいテーブルへ連行されて行った。
「放っといて大丈夫か?」
特に気にした様子も無く、網の上の肉をひっくり返しながらエルフがメイズに聞いた。
「ウケビトは自由を愛するもんだ。
あちこち放浪して、適当な街でよそ様向けに用意された飯を食う。
だがな、どれだけ人のために用意した飯でも、所詮大多数の誰かのために用意された飯だ。
自分で作った飯も、所詮飢えを凌ぐ為の物でしかない。
だからたまに無性に食べたくなるもんなんだよ。
自分の為だけに作られた、皮が残った芋の入ったシチューやコゲかけた肉のステーキをな」
ショウタのように、借金まみれであっても、家持ちで帰りを待っている人間がいる人は少数派だ。
無論、毎日自分の為だけの食事を用意されている人は羨望の目で見られることもある。
実際、[キャラバン]内ではコトミが料理を作る事は無いのだが、そう言った事情は他のウケビトは知らない。
そんな事を何故か抽象的な表現で言い、何処かもう届かない場所を思い出しているような顔をしながら語るメイズを尻目に、エルフは網の上の焼き上がった肉を全て自分の皿に盛った。
「あ、てめぇ俺がキープしてた肉まで持って行きやがったな!」
「つまり、ちゃんとした住居を持ち、帰りを待つ家族がいるショウタはここでは浮いた存在なんだな」
「無視するな!」
「焦げる前に適切に処置した」
「お前がバカスカ火力出すからだろ!」
「まぁまぁ、お肉はまだあるから落ち着きなよ」
ヒートアップするメイズをコトミが自分の皿の肉を移しつつ宥めた。
因みにグレンは少し前に焼き上がったステーキ肉と、通常メニューのサラダとパンでサンドイッチを作り、さっきから酒片手にあまり食が進んでいなかったコバルドに差し出していた。
これはこれでショウタ同様に他のウケビトの反感を買いそうな状況だったが、幸か不幸かショウタが相棒を構え、それを見た悪酔したウケビト達が武器を構え出し、こちらの様子に気付いてなかった。
「あれはさすがに見過ごせないわ」
弟が複数の武装したガラの悪そうな男達に囲まれて、コトミは助けに行こうと立ち上がった。
「やめときなよコトミちゃん。あれでもじゃれあってるだけだから」
のんびりと大量の肉を網に並べながらメイズが止めた。
「あれをじゃれあい……」
コトミはいつでも立ち上がれる体制をとりながら、ショウタ達の方を見た。
「てめぇ羨ましいんだよ、俺にもねえちゃんくれよ。どうやったらあんな美人なねえちゃんもらえんだよ!」
「うるせー、もらったんじゃねぇ。
つかねえちゃん言っても義姐だ!」
「「「もっと羨ましいわ」」」
「わかんねぇ、こいつらの価値観が俺には分からん」
「毎日手料理食わせてくれるわ、甲斐甲斐しく世話してくれるわ、家持ちだわ、俺ら不安定と自由を愛するウケビトには許されざる生活水準を羨ましいと言わず何と言う」
「代わりに内蔵売るレベルの借金があるけどな」
「おう、内蔵売れや。その命を持って借金完済し弟の座を俺達に譲れ!そして、毎日俺の為だけに作ってもらう料理を喰うんだ!」
「断る!姐貴の飯を食いたきゃ命捨てる覚悟しやがれ!」
「何ぃ、おい!やっちまおうぜ」
「「おう、腕の一本覚悟しやがれ」」
三人揃ってメリケンサックで武装した男共が、ショウタに挑みかかる。
“水伝話”の応用で会話をバッチリ聞いたコトミは身震いした。
「やだ、きもい……」
ちゃっかり“水伝話”を又聞きしたグレン以下略は、揃って微妙な顔をした。
「コトミ人気者だな」
記憶喪失故に理解しきれなかったエルフのコメントが微妙な空気を加速させた。
ショウタが相棒を振り回し、一人目の男をダウンさせた。
二人目の男は、漢を狙って突き込み沈黙させた。
「ボール、オア、ホール?」
「よ、寄せ悪かった。俺が悪かったよちくしょ〜」
背中を向けて走る最後の一人のケツの穴に相棒をぶち込み制圧したショウタが、どこか疲れた顔で戻ってきた。
一応言っとく、全て狙い尽くした攻撃だった。
「酒と肉ありったけ持ってこ〜い」
一連の流れを見ていたホールスタッフが関わりたくないと露骨に顔に出しながら大量の肉を持ってきた。
エルフとメイズのトングが火花を散らす網の上の戦場に、コトミの補助を受けたショウタの箸が乱入した。
「コバルドさぁん、最近ずっと一人にされて寂しかったれすよぉ」
「「!?」」
肉の奪い合いに夢中の三名を除く二名が、一斉に様子がおかしくなったグレンを見た。
手には酒のジョッキが握られている。
「グレン、お前はまだ十六歳だろ。
しかも俺の酒を……」
この国ビアンデでは、十六歳以下の飲酒は禁止されている。
「らって、ずっと人探しだって一人でどこらいっれぇ、ひっく、街に魔物が出たときも直ぐ来てくれなかったし…………
わらし、ずっとがんばってたんれすよ。どーして褒めてくれないの?
子どもだから興味ないんだったら、大人になってやるぅ」
呂律と思考回路がおかしくなったグレンはまだ半分程残っていた酒を一気飲みし、それだけでは飽き足らず、ホールスタッフから酒を引ったくり、「よせ、それ以上は危ない!」と言うコバルドの静止を無視して一気飲みした。
「うー……ひっく」
「グレン、大丈夫か?」
グレンの身を案じるコバルドをよそにグレンは顔を真っ赤にして、虚空を見つめた後、ふら〜と、コバルドの方へ倒れた。
「くっはは、何やってんだよ」
コバルドはグレンの頭を膝で受け止めて、呆れたように耳を引っ張った。
グレンは、一瞬目を開けて指の主人がコバルドだと分かると、直ぐに目を閉じて気持ち良さそうな寝息を立てて、その身をコバルドに預けた。
「慣れてる感じね、二人はどう言う関係なの?」
歳並みに色恋ネタに興味のあるコトミが、コバルドに聞いた。
「まぁ、お前らと似た様なもんだ。
放蕩者の俺が旅先でこいつに会って、なんだかんだあって一緒に旅するようになった」
コバルドはグレンに飲まれた酒の代わりに、グレンが飲み残したブラッドオレンジジュースを飲みながら答えた。
「本当にそれだけ、グレンは違うって答えそうだけど?」
「苦労はあったが、楽しくもあった。
こいつに感じる感情は一緒にいるなら構わない、それだけだよ。
これでいいか?人気者のおねえちゃん」
コトミが澄まし顔で聞くと、コバルドも澄まし顔で言い返した。
言外にこれ以上の質問は受け付けないと態度で示し、グレンが作ったサンドイッチを頬張った。
*(๑^. .^๑)۶ 〜
肉はまだたくさん残っていたが、コトミは元々食が細く、ショウタは満腹になるまで食べる事を避けていた。
[キャラバン]の仕事を中途半端なところで止めて来ていたので、いまだにトングを振るうエルフを置いて先に帰る事にした。
ガス灯が朧げに道を照らす中、コトミが口を開いた。
「ショウタ、今日は大変だったね。
ショウタが無事で本当によかったよ」
「そうだな」
ショウタは今日を振り返った。
中央大図書院でアイナと出会って、少し昔のことを思い出した。
アルコールで適度に酔っていて、つい魔が差して口を開いた。
「なぁ、姐貴。
十年前俺達は–––––」
*(๑^. .^๑)۶ 〜
一章fin.
E.エルフ
S.ショウタ
E.「なに、そのボロボロの服は?」
S.「明日必要なんだよ。
あぁ、エルフ。明日の朝あんまり食い過ぎるなよ。むしろ食べない方がいい」
E.S.次回“みなさ〜ん、殺し合いの時間です”
S.「エルフ、剣はどうした?」
E.「中央大図書院でなくしたんだ」
S.「だったら、今から買いに行こう」
E.「……ありがとう?」




