コバルド
アースコングが投げた巨石が飛ぶ。
“ファイアボール”で迎え撃ってみたが、壊れない。
仕方なくグレンはその場から飛び退り巨石を回避した。
回避した先にスケルトンが骨棍棒を持って待ち構えていた。
とっさに杖を構え、石突きを突き込んだ。リーチはこちらの方が長い。難なく待ち構えていたスケルトンを撃破する。
最初に張った炎のサークル内にはまだ十体程のスケルトンが居る。
その背後には先ほどから投石のみに集中するアースコングが二体と、ヒットアンドアウェイに専念するウルグ、さらには水を使った攻撃手段を持つプールヘッドがいる。
はっきり言ってジリ貧だ。
アースコングへの攻撃は全てプールヘッドの“擬似アクアショット”で妨害される。
そのプールヘッドは決して前へ出ず、アースコングに守られている。
一番脅威となるアースコングに気を取られすぎると、背後に回り込んだスケルトンやウルグに挟まれダメージを負う。
開幕に使った火柱は撃つのに時間がかかるので不意打ち以外では使えない。
生き物相手なら“ファイアボール”や“スネークファイア”で十分対応出来た。
だが、アースコングの投げる巨石は現状、全力の“ファイアウォール”でしか防御出来ない。
石拾いに専念するスケルトンも控えていて、ほぼ無制限に投げる巨石のせいで、あたりは岩だらけのボコボコの地形に変貌した。
そしてグレンが背にする中央大図書院そのものが、グレンを縛る枷になっていた。
間合いを詰めれば或いはと思い一度アースコングに特攻を仕掛けたのだが、結果は最悪だった。
土魔法に適性のあるアースコングが土鎧を作り、至近距離からの“ファイアボム”を防いだ。
ゼロ距離でも直ぐには倒しきれない。
そう悟ったが、今度はプールヘッドが積極的に攻撃に出た。
これ幸いとプールヘッドに攻撃を仕掛け、半分程落としたが、ふと背後を見るとスケルトン達が図書院に侵入したのだ。
慌てて入り口に“ファイアウォール”を張りそれ以上の侵入を防ぎ、“バーニア”を使い入り口前に再び陣取るのに、かなりの魔力を消費してしまった。
それ以降は、地道に魔力消費の少ない“ファイアボール”でなんとか持ち堪えていた。
ジャリリッ
アースコングが腕を振りかぶった。
来るッ––––––––
一つの腕から投じられた岩は一つでは無かった。投げられた途端に分散した飛礫が散弾の様にグレンに襲いかかる。
普通に軌道を見て避けるつもりだったが、飛散する飛礫は広範囲に及ぶ。
“バーニア”を併用してなんとか避けようと試みたが、アースコングはもう一体居る。
こちらの動きを読んだもう一体が同じく散弾状にした飛礫を投げた。
“ファイアウォール”では間に合わない。
“バーニア”の反動で軋む身体に鞭打ち、“ファイアボール”で迎撃して頭に当たるコースの飛礫を相殺する事には成功した。
しかしそれだけだ。無数の飛礫を撃ち落とす事など出来ず、腹部と手足に受けて倒れてしまう。
「きゃっ……」
うつ伏せに倒れた四肢に立てと命じたが、立ち上がろうとする動きは鈍く、全身から痛みが走る。
さらに遠くから銃声が聞こえて来た。
銃を持ったスケルトンがこちらに向かって来ているのだろうか。
無傷な頭を上げ、アースコングを見た。
再び振りかぶり、岩を投げようとしている。
ただの岩か、砕いた飛礫か。どちらでも構わない。もう余力が無い。
朝の魔法の修行から始まり、今日は魔法を使いっぱなしだった。
魔力がほとんど残っていないのだ。
銃声も真っ直ぐに迫ってくる。
これだけの戦力差に銃が加われば、仮に無傷だったとしても無理だ。
私は何で出来るだけこの場を動かず戦ったのだろう。
頭は諦めているのに、無意識がグレンに魔法を行使させた。
「ファイアウォール」
アースコングが投じた無数の飛礫が“ファイアウォール”に阻まれる。
グレンはエルフを一人で中に送り込み行方不明にさせ、今度はショウタとコトミに「ここを任せろ」と言ったのだ。
楽に死を選ぶなど許される事では無いと、そう自分を鼓舞した。
震える四肢に鞭打ち、なんとか立ち上がる。
目の前の魔物全てを睨み、杖を地面に打ち付けた。
「ここは……通さない」
一番の脅威はやっぱりアースコングの投石だ。あれを真っ先に何とかしたい。
自分の身がどうなろうとも、これ以上中の人達に外の魔物の脅威が迫る事だけは絶対に阻止する。
グレンはアースコングを見据えた。
再び投石の構え、軌道は見ないで右に逃げる。
その動きを読んで無数の飛礫が飛来する。
背後の壁がズタズタになる中を、なんとか無傷で駆け抜けながら、“ファイアボール”で反撃する。
威力なんか考えない。本気で放ってもダメージにならないし、ほとんどはプールヘッドに相殺される。
それでも攻撃をされたというストレスは与えられる。
何発も何発も放ち、アースコングを挑発する。
走り続けたグレンは、中央大図書院の出入口目の前で走りを止めて、膝に両手を付いた。
走りながらの魔法の連発で息が上がる。
そのグレンへ向かって、アースコングが腕を振り抜く。巨石の投擲だ。
グレンは“バーニア”で逃げた。
グレンの横を素通りした巨石は、中央大図書院の扉を完全に破壊して出入口を防ぐ栓と化した。これで自由に動いて戦える。
“バーニア”の連発で全身に走る痛みに歯を食い縛り、一気にアースコングへ肉薄する。
「ウロボロスインフェルノ!」
炎の蛇で対象を包み込み、締め上げながら焼き殺すグレンの切り札。
一体のアースコングを捕縛し、それから外れたもう一体がこちらへ迫る。
「スネークファイアッ!」
名の通り、とぐろを巻く蛇の様に形を自在に変え、獲物を狙う火。
グレンが最も得意とする魔法であり、グレンオリジナル魔法であり、自身の最も得意とする形成の適性を強く反映させた魔法だ。
アースコングの足に炎の蛇が絡み付き、転倒させ、そのまま抑え込む。
敵はアースコングだけでは無い。
ウルグやスケルトンがこっちに迫る。
魔力がほとんど残ってない。一発も外せない……
グレンは熱源索敵魔法を行使した。
炎を熱として認識する応用で、広範囲の熱の高低を把握して、周辺の様子を探る技術。
ウルグは人と同じか少し高温、スケルトンは低温だ。
合計十三……ギリギリまで引き寄せて、今っ!
「ファイアボール!」
自身に一斉に群がる魔物を同じ数の“ファイアボール”で迎え撃ち、倒した。
銃声が一際大きくなる。
遂に来てしまったようだ。
アースコング二体はまだ生きている。
この二体を抑え込んだまま、銃を持った魔物と戦うのは難しい。
せめて、一体だけでも道連れにする。
“スネークファイア”で転ばせていたアースコングの拘束を解き、“ウロボロスインフェルノ”に閉じ込めた一体に魔力を集中させる。
「やあぁあああぁっ!」
銃を持ったスケルトンが姿を現した。
拳銃を真っ直ぐにこちらに向け––ボスッ––
そんな奇妙な銃声が響き、スケルトンがバラバラに砕けた。
「コバルドさん!」
コバルドはグレンにとって、恩人という言葉だけでは足りない男だった。
「グレン、よく持ち堪えた。
ロジーナから話は聞いている。
あとは任せろ」
散弾銃型の魔法武器、機巧を操り、自身の周りにいる魔物を撃ちながらコバルドが言った。
ボスッ––と、銃声がしてスケルトンの体が、高速の弾丸によって吹き飛ぶ。
「まだ、戦えます」
ようやく、一体目のアースコングを仕留めたが、残ったもう一体が迫る。
その前に人影が躍り出て、腕を振り抜いた。
「アームスパーク!」
メイズが腕に電気の魔力を纏わせて一撃でアースコングを殴り飛ばす。
彼は他の魔物をウケビト達に任せて一人、先に行った三人と合流しようと走っている所を、グレンを探していたコバルドに呼び止められ、一緒に中央大図書院にやって来たのだ。
コバルドの不意打ちで撒き散らした散弾に、かなりの数を倒された魔物達はその後、間もなく全滅した。
G.グレン
E.エルフ
G.「いい、エルフ。
魔法は大きく分けて、“放出”“形成”“動止”のプロセスがあります。
放出は、魔力を外部に放つプロセス。
形成は、外部に放った魔力に自在に形や硬さを持たせるプロセス。
動止は、魔力を自在に動かし、止めるプロセス。
それらの力加減やイメージ力で、魔法は様々な使い方が出来ます。
最初に教えたファイアボールは、三つのプロセスがバランスよく絡む魔法で、それを応用すれば、様々な事が出来るようになります」
E.「グレン。難しい事は分からないけど、オレは今、この壁を砕きたい。
やってみる!」
G.E.次回“ブロウ”
E.「これが今のオレに出来る全力だ」




