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“手ブラなウケビト”  作者: タクト
 一章
12/46

 ショウタイム

 「アクアショットッ!」


 コトミが渾身の魔力を込めて“アクアショット”を射ったが、リリーナが本を開き、何らかの方法で相殺した。


 「まずい……まずいぞ」

 「ショウタ、落ち着いて。大丈夫だから」


 狼狽するショウタをコトミが宥めた。

 状況は最悪だ。強大な敵に数え切れない程の人質。

 ドラゴンゾンビを倒す事も、人質を守り切る事も一筋縄ではいかない。

 コトミは断続的に攻撃を続けるが、リリーナに全て防がれる。ドラゴンゾンビはゆっくりと歩みを進めている。


 「リリーナとドラゴンゾンビを他の人達から引き離すしかない。

 今この場でそれが出来るのはあなただけなのよ」

 「……俺だけ」


 足がすくむ。怖い。

 逃げ出したい……その考えを自覚して、そんな考えを持った自分に激しい嫌悪感を感じる。

 

 「ショウタ。アイナとの約束はどうしたの?

 あそこで寝てる人達の中にはアイナの家族もいるのよ」

 

 逃避じみた自己批判に浸っていたショウタはその言葉で目が覚めた。

 足の震えも少し治った。

 

 「ショウタ、なんとかあいつらを足止めして。

 あたしはここの人達を助ける。でも、いざとなったら他の全部を投げ捨ててもあなたを守る。

 だって大切な弟だからね」


 コトミは屈託なく笑った。

 一方ショウタはそんなコトミから目を逸らした。笑顔の眩しさの裏に見え隠れした物を見たくなかったからだ。

 逸らした視界をドラゴンゾンビに向けた後、足元を確認した。

 ドラゴンゾンビが歩みを進め、今、リリーナの横を通り過ぎる。


 「姐貴、力を貸してくれ」

 

 その言葉を受けたコトミは、嬉しそうに、同時にどこか寂しそうに頷いた。

 

 コトミの頷きを確認したショウタは魔力を行使した。


 アイナがずっと握りしめていた小石を操り、リリーナの目を狙って飛ばした。


 注意をショウタとコトミに向けていたリリーナは右目に小石を受けて、顔を抑えて俯いた。

 お守りの小石は、アイナを助ける布石として、十分に役目を果たした。

 それだけでは終わらない。

 一瞬の間も置かず相棒をアイナを拘束する二体のスケルトンに向けて撃ち、ほぼ同時に二体の頭部を吹き飛ばした。

 

 コトミもじっとしていない。

 同時に二射の“エアーボム”を射る。

 一射は、曲射弾道でアイナの背後の壁に。

 一射は、直線弾道で真っ直ぐにアイナに向かって。

 “エアーボム”で吹き飛んだアイナは真っ直ぐに背後の壁に飛び、真後ろで爆発したもう一つの“エアーボム”で吹き飛ぶ勢いを殺し、地面に倒れた。


 かなり強引な方法であるが、一時的にアイナの身が自由になる。

 だが、それだけでは足りない。

 人質たり得るのは、アイナの他にショウタとコトミの背後で未だ血を吸われ鎖で繋がれている人々がいる。

 アイナの安全も、ほんの一瞬しか確保出来ない。

 だから、足りない。

 それを補うのにショウタは自分自身を使う事にした。


 地下の土そのままの地面は、ショウタの魔法の支配下にある。

 魔法で調べてみるとこの地面は薄い上、その下にはそこそこの空洞がある事が分かった。

 空洞が実際どの程度なのかは、穴を開けて見ないと分からない。

 もしかしたら、囚われた人が下の空洞に監禁されている可能性もある。

 

 だが、短時間で敵と味方とを確実に分断するには、深さも状況も分からないこの空洞に懸けるしか無かった。

 ショウタはドラゴンゾンビが立つ地面の土を脆く崩した。


 さらに低く跳躍したショウタが、相棒を高速で撃ち込んだ。

 狙いはリリーナでもドラゴンゾンビでもスケルトンでも無い。

 脆く崩した地面の四方の壁寄りに、特に脆くしたポイントを相棒で突き壊し、辛うじて床を支えていた均衡が崩れた。


 瞬く間に亀裂が走り、轟音を響かせながら地面が崩落する。

 中心に居たリリーナとドラゴンゾンビ、スケルトン、ショウタをも崩落に巻き込み地面に沈んで行った。


 空洞はかなりの深さだったらしい。

 全幅も広く、グラディエーターの闘うコロシアムと言った様相だ。

 土砂の積もった地面に赤い線が走っている。何かの魔法陣だろうか……

 さらに前方の壁一面には、上の病室で見たような機械が設置されていたが、天井の崩落に巻き込まれて、血液を貯めたタンクが破裂して中身がぶち撒けられ、生臭いような鉄のような匂いが一面に立ち込めた。

 相棒を地面に突き立てて、ゆっくり降りたショウタが辺りを見渡すと、スケルトンは落下の衝撃に耐えきれずバラバラに砕けていた。

 ドラゴンゾンビとリリーナは土砂を押し除け立ち上がる所だった。

 

 分かってはいたが、あの程度では倒せない。

 もう土を操る魔力も残っていない。

 

 「貴様、よくも……よくもぉ!」

 

 リリーナが、その老いた身体からは想像も出来ないような怒声を上げた。


 「おいおい、落書き自慢を邪魔されたからってデカい声出すなよ。

 血管が切れるぞ」


 上の装置とここの機械が繋がっていて、上で吸い上げた血を下に運び、魔法陣を描き上げ起動する一歩手前だったのだろう。

 

 「殺す、貴様は殺す……コロス、コロス、コロスコロスコロス…………」


 リリーナが虚な表情で本に魔力を込めた。

 ドラゴンゾンビが鈍く光り、雄叫びを上げる。


 ドォオオオオロォアアァ––––––––

 「ショウタイムだ」


 その雄叫びに重ね、ショウタは小さく自分を奮い立たせる為に呟いた。


 ドラゴンゾンビが右前腕を大きく振り被り、欠けたり砕けたりして不揃いな爪を振り下ろす。

 大きく仰け反り回避したが、爪は地面に突き立ち、硬い床を砕き、小さなクレーターを穿った。


 パワーはヤバいが、動きは単調でスピードが無い。

 ショウタは次の攻撃にカウンターを合わせる為に、相棒を右手に収まる程度の長さに縮めた。


 ドラゴンゾンビが右前腕を戻し、今度は横薙ぎに振るわれた腕をショウタは屈んで避け、一度縮めていた相棒をガラ空きになった胴体を狙って伸ばした。

 ズブっと嫌な感触を相棒を持つ手に伝えながら、相棒は胸の中心に命中した。

 ショウタは相棒を引き戻し、追撃しようとした。が、自分の手元を中心に縮むはずの相棒が、突き立ったドラゴンゾンビの胴体部分を中心に縮んだ。

 

 言い方を変えると、ショウタがドラゴンゾンビに引き寄せられた。


 「うえっ?」

 予想外の事態に思考が停止したショウタに、ドラゴンゾンビの左前腕の鉤爪が迫る。

 寸前でショウタは相棒を捨てて、なんとかその一撃を逃れた。

 

 ドロァ–––

 

 ドラゴンゾンビが不敵に嗤う。丸腰になった人間に勝ち目があるのか?と。

 

 「カッコつけて早々に大ピンチ」


 生身でドラゴンゾンビに勝つ自信は無い。でもあの女は別だ。ドラゴンゾンビは、背後に立つリリーナという女が出したものだ。

 なら、あの女を捕らえることが出来れば勝機はある。

 そう次の作戦を定めたショウタは、下手な空手みたいな構えを取ってドラゴンゾンビの出方を窺った。

 

 天井から小石が落下し、乾いた音を立てた。

 両者が動く。


 ドラゴンゾンビが両前腕を持ち上げ、一度に叩き付けた。

 大きく後方に飛び退ったが、砕けた地面の破片がショウタを襲う。

 ショウタは両腕をクロスにして破片から身を守りつつ、反動で動きが硬直したドラゴンゾンビの隙間を走り抜け、さっきから虚な顔をして棒立ちしているリリーナの方へ走った。


 だが、ドラゴンゾンビの攻撃はこれで止まらなかった。

 翼が生えていたであろう、背中の抉られた傷痕が盛り上がり、腐肉の触手を作り出した。

 

 ドラゴンゾンビに見向きもせず、リリーナを目指していたショウタは、腐肉触手による攻撃をもろに受けてしまった。

 後ろから弾き飛ばされて、地面をバウンドしながら遠くに転がされる。


 さらにドラゴンゾンビが自身の腐った肉体を持ってその後を追い、壁にぶつかって動きが止まったショウタの体を右前腕で押さえ込んだ。

 身体中の骨から軋むような音が響き、ショウタは乾いた音のような息を吐いた。

 

 「死ね」


 ドラゴンゾンビの拘束から逃れようともがくショウタにリリーナが抑揚のない声で告げた。

G.グレン


G.「魔物の数は……まだまだ多い。

 思ったより苦しいです。なんとかしのぎ切らないと」


G.次回“コバルド”


G.「これ以上無く頼もしい応援が来そうです。

 私も、まだまだ負けませんっ!」

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