9:電子マネー始めました。
本部のSVを札束でぶん殴ってから数日(妄想)……
店の売上は順調そのものだった。だが、店長の俺には一つ、気になることがあった。
それは、レジでの「会計スピード」だ。
この世界には紙幣がない。高額決済はすべて「金貨」や「銀貨」だ。
ジャラジャラと袋から出し、一枚一枚数える。
これが遅い。非常に効率が悪い。
それに、冒険者たちにとっても「現金」はリスクの塊だ。
◇◇◇
ピンポーン……ピンポーン♪
自動ドアが開き、常連となった『暁の獅子団』のリーダーが入ってきた。
だが、その様子がおかしい。
目の下に濃いクマを作り、キョロキョロと周囲を警戒している。
そして、背負っている二つの革袋が、歩くたびにジャラジャラと盛大な音を立てている。
「いらっしゃいませ。……お客様、随分とお疲れのようですね」
「ああ、店長……。全然眠れないんだ」
リーダーはカウンターに革袋をドン! と置いた。
中には、先日俺が返還した金貨と、彼らがこの数日で死に物狂いで稼いだ追加の金が入っている。
「こないだ『金食いスライム』に襲われてから、怖くてな……。寝ている間に盗まれるんじゃないか、またスライムに溶かされるんじゃないかと思うと、一睡もできねぇ。トイレに行く時も、この重い袋を背負ってるんだ」
なるほど。
現金輸送のストレスでノイローゼ気味というわけか。
これは、彼らにとっても、そして彼らに万全の状態で稼いでもらいたい俺にとっても損失だ。
「お客様。そのお悩み、当店が解決いたしますよ」
俺は一枚のカードを取り出した。
以前、彼らに渡した『魔王軍カード(ダンジョンポイントカード)』だ。
「実は本日より、新機能『チャージ』が実装されました」
「ちゃーじ……?」
「はい。お客様のその重たい現金を、このカードの中に『魔力データ』としてお預かりするのです」
俺はPOSレジの横に設置した、非接触型の読み取り機を指差した。
「使い方は簡単。ここに現金を置いて、カードをかざすだけ。
そうすれば、金貨はデータとなり、カード1枚でいつでもお買い物ができます。
もう、重たい袋を持ち歩く必要はありません」
「ほ、本当か!? でも、カードを盗まれたら終わりじゃ……」
「ご安心ください。カードには『生体認証魔法』がかかっており、本人以外は使えません。万が一紛失しても、再発行すれば残高は戻ります」
もちろん、再発行手数料はガッツリ頂くが。
「す、すげぇ……! 夢のような機能だ!」
「さらに今ならキャンペーン中! 金貨100枚チャージするごとに、『Dポイント』が5%還元されます!」
「やる! 全部チャージしてくれ!」
リーダーは迷わず、全財産である金貨3,500枚(約3億5千万円)をカウンターにぶちまけた。
前回の返還分に加え、さらに稼いできたようだ。素晴らしい労働意欲だ。
俺はレジを操作する。
読み取り機が光り、山のような金貨が瞬時に吸い込まれていく。
「バウ・ワウ・ワンッ!」
「ケ、ケルベロス?!」
番犬のケルベロスを起用した、軽快な三連咆哮のチャージ音と共に、カードの表面に『残高:3,675,000 D』という数字が浮かび上がった。
「か、軽い……!」
リーダーはカード1枚を握りしめ、感動に打ち震えていた。
「あんなに重かった金が、この薄い板一枚に……! これで安心して眠れる! 戦闘でも身軽に動けるぞ!」
「ええ。お買い物も、レジにタッチするだけです。スピーディでしょ?」
「ありがとう店長! あんたは俺たちの救世主だ!」
彼は涙を流して感謝し、早速追加でポーションと弁当を購入して帰っていった。
「バウ・ワウ・ワンッ!」という賑やかな決済音が、店内に心地よく響く。
◇◇◇
彼が去った後。
レジの中には、莫大な「現金」が残った。
シルヴィアが、不思議そうな顔でそれを眺めている。
「……店長。これ、また冒険者にお金を貸してあげたようなもんですよね? 保管の手間が増えただけじゃ……」
「違いますよ?シルヴィアさん」
俺は金貨の山を撫でながら、ニヤリと笑った。
「これは『預金』ではありません。『前受金』です」
「まえうけきん?」
「彼らは現金を、ウチでしか使えない『ポイント』に交換したんです。
つまり、この3,500枚の金貨は、もう二度と他店では使えない。未来永劫、ウチの商品を買うためだけに使われることが確定したんです」
一度チャージしてしまえば、返金は不可。彼らは残高を使い切るために、必ずまたこの店に来る。
「それに、人間というのは不思議なものでね。
財布から現金が減っていく痛みは感じても、『電子上の数字』が減る痛みには鈍感なんですよ」
カードなら、いくら使っても重さは変わらない。
「ピッ」と音がするだけで、大金が消えていく。
その気軽さが、財布の紐を緩め、消費を加速させるのだ。
「……うわぁ。やっぱり店長、魔王よりタチが悪い」
「最高の褒め言葉ですね。
さあ、これで彼らの財布の紐は破壊しました」
俺は、倉庫に隠してある「次の新商品」の箱を見やった。
「次は、この膨大なチャージ残高を、一瞬で溶かしてもらいましょうか」
準備は整った。
あとは、射幸心に飢えた冒険者たちの来店を待つだけだ。
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