4:ポーション1本5万円。高いですか?
新入りのケルベロスが、店の前で「番犬」として睨みをきかせるようになって数時間。
ついに、待ちに待った瞬間が訪れた。
「店長、来ましたよ! 人間です!」
品出しをしていたシルヴィアが、小声で報告してくる。
防犯カメラのモニターには、ボロボロになった4人組の冒険者パーティが映っていた。
戦士、魔法使い、僧侶、盗賊。
テンプレ通りの構成だが、その足取りは重い。
「……あそこ、明かりが見えるぞ」
「罠じゃないか? こんな深層に店があるわけないだろ」
「でも、もう水がないのよ……行くしかないわ」
疑心暗鬼になりながらも、彼らは自動ドアの前に立った。
入口で寝そべっているケルベロスにビクつきながら、恐る恐る入店してくる。
ピンポーン……ピンポーン♪
「いらっしゃいませー」
俺は「最高の営業スマイル」で彼らを迎えた。
店内に入った瞬間、彼らの顔色が変わった。
無理もない。
空調の効いた快適な温度。
清潔な床。
そして何より、棚に並ぶ食料と水。
「す、すげぇ……本物の水だ……!」
「おい見ろよ! あそこ、ポーションが山積みになってるぞ!」
「パンだ! 柔らかいパンがある!」
地獄に仏とはこのことだろう。
彼らは商品棚に殺到しようとした。
だが、俺は冷静に【POSタブレット】で彼らの懐事情をスキャンする。
> 【顧客分析】
> パーティ名: 『暁の獅子団』(Aランク)
> 状態: 疲労困憊、物資枯渇、精神的限界。
> 所持金: 金貨3,000枚(約3億円相当)
> 特記事項:
> 過去に数々のダンジョンを踏破したエリート集団。
> プライドが高く、金遣いは荒い。「金で解決できるなら安いもの」と考えるタイプ。
>
……来た。
これぞ、魔王様が求めていた「太客」だ。
俺は心の中でガッツポーズをした。
「おい店長!レジ打ってくれ!」
リーダー格の戦士が、棚から商品を鷲掴みにしてレジに持ってきた。
さらに、サンドイッチやおにぎりも大量にカゴに入れている。
「ありがとうございます。……えー、ポーションが10本、ミネラルウォーターが5本、軽食セットが4つですね」
俺はピッ、ピッ、とレジを通していく。
そして、合計金額を告げた。
「お会計、金貨50枚(約500万円)になります」
「……は?」
戦士の動きが止まった。
後ろにいた魔法使いの女が、素っ頓狂な声を上げる。
「ご、50枚!? あんた計算間違ってない!? 街なら金貨1枚でお釣りが来る量よ!?」
「いいえ、間違っておりません」
俺はレジの画面を指差した。
「当店はダンジョン深層・特別指定区域となっております。物流コスト、危険手当、そして深夜料金が含まれた『ダンジョン価格』でのご提供となります」
「ふ、ふざけるな! そんな暴利が許されるか!」
戦士がダンッとカウンターを叩く。
「足元を見やがって! こんな詐欺店、ギルドに訴えてやる!」
予想通りの反応だ。
街の相場の50倍。普通の感覚ならブチ切れる。
だが、俺は涼しい顔で首を傾げた。
「詐欺とは心外ですね。……お客様、ここはどこだと思っておられますか?」
「ああん? ダンジョンの999層だが……」
「ええ。最寄りの街まで三週間。転移魔法も阻害される魔境の底です」
俺は、彼らの手にある「冷えた水」を指差した。
「そのお水一本をここまで運ぶのに、どれだけのコストがかかるかご存知ですか? 輸送隊の護衛費、鮮度保持の魔法石、そしてモンスターの襲撃リスク……。それら全てを考慮すれば、この価格はむしろ適正かと」
もちろん嘘だ。
商品は魔王城から転送魔法で送られてくるし、鮮度管理もシステム任せだ。
だが、彼らにそれを知る由はない。
「ぐっ……そ、それは……」
「高いとおっしゃるなら、買わなくても結構ですよ。……あと三週間、水を飲まずに地上まで戻れる体力がおありなら、ですが」
俺はニッコリと微笑み、商品を棚に戻そうとする素振りを見せた。
その瞬間、後ろにいた僧侶の少女が悲鳴を上げた。
「い、嫌ぁ! もう喉がカラカラなの! 買います! 私が買います!」
「おい、待て!」
「リーダー! 背に腹は代えられないよ! 金ならあるんだから!」
パーティ内で仲間割れが始まった。
極限状態の人間にとって、金貨などただの重い金属だ。命の水の前では紙屑に等しい。
「……チッ! わかったよ! 払えばいいんだろ!」
リーダーは革袋からジャラジャラと金貨を取り出し、トレイに叩きつけた。
「ありがとうございます。……あ、お客様。せっかくですので、こちらもいかがですか?」
俺はすかさず、レジ横のホットスナックケースを指差した。
「当店自慢の『からあげちゃん(フェニックス味)』です。いま揚げたてですよ。スタミナ回復効果に加え、なんとMPも微回復します」
「なっ、MP回復だと!?」
魔法使いが食いついた。MP枯渇は死活問題だからだ。
「おひとつ、金貨2枚ですが」
「買うわ! 4つ頂戴!」
「まいどありー」
さらに俺は畳み掛ける。
「お客様、装備がだいぶ痛んでおられますね。……実は当店、奥の工房で『緊急修理』も承っておりますが?」
「本当か!? 俺の剣、刃こぼれが酷くて……」
「特別価格、金貨10枚で新品同様に研ぎ直しますよ。担当するのは、あちらのスタッフです」
俺が指差した先には、イートインスペースで優雅にパフェを食べているシルヴィアがいた。
彼女はスプーンを咥えたまま、軽く手を振る。
「……ん? おい、あの女……どこかで見たことあるぞ」
「まさか、『剣聖』シルヴィアか!?」
「なんでこんな所に!?」
冒険者たちがどよめく。
俺はすかさずハッタリをかます。
「彼女はこの店の『専属セキュリティ兼技術顧問』です。……お分かりですね? 当店で暴れたり、支払いを踏み倒そうとすれば、彼女と、表で寝ているケルベロスが対応することになります」
一種の脅しだ。
「高い」と文句を言えても、「力ずくで奪う」という選択肢を完全に潰す。
「……わ、わかった。修理も頼む」
「ありがとうございます。……あ、お会計の前に」
俺は一枚のカードを取り出した。
「お客様、『魔王軍カード』はお持ちですか?」
「は? なんだそれ」
「当店の会員カードです。入会費無料。お買い上げ金額に応じてポイントが貯まり、貯まったポイントは『命乞い』や『蘇生』のオプションに使えます」
「不吉なオプションだな!」
「今なら新規入会キャンペーン中で、こちらの『魔王印のポケットティッシュ』をプレゼントしております」
「いらねぇよ!」
文句を言いながらも、彼らは結局、総額で金貨100枚(1,000万円)近くを使った。
ポーション、食料、装備の修理、そしてイートイン使用料。
搾り取れるだけ搾り取った。
◇◇◇
数十分後。
身も心も(財布も)軽くなった冒険者たちは、ふらつく足取りで店を出て行った。
「あーあ、可哀想に。今月の稼ぎが全部吹っ飛んだって顔してたな」
シルヴィアがパフェの残りを舐めながら言う。
「何をおっしゃいます。彼らは『命』を買ったんですよ。安い買い物です」
俺はレジの中の金貨の山を数えながら答えた。
本日の売上、目標比500%達成。
魔王様への上納分を引いても、かなりの黒字だ。
俺は、端末の向こうにいるであろう魔王に報告メールを送った。
> 件名: 本日の業務報告
> 宛先: 本部(魔王城)
> 本文:
> 勇者一行(Aランク)より、資金の回収に成功しました。
> 彼らは涙を流して感謝しておりました。
> 引き続き、経済封鎖による勇者弱体化を推進します。
>
送信ボタンを押した瞬間、俺のPOSタブレットが震えた。
店内に設置された『顧客感知センサー』からのアラートだ。
> 【警告】
> 大軍が接近中。
> 種族: 人間?アンデッド?詳細不明
> 推定脅威度: 測定不能
>
「……店長、なんかヤバいのが来るわよ」
シルヴィアがスプーンを止め、真剣な顔になる。
表のケルベロスも、三つの首を一斉に起こし、低い唸り声を上げている。
自動ドアが開く。
そこに入ってきたのは、全身を黒いローブで包んだ、小柄な人影だった。
「……ここが、噂の店か」
その声は、鈴を転がしたように美しいが、同時に背筋が凍るような冷たさを孕んでいた。
フードの下から覗く瞳は、深紅。
そして、その背後には――店に入りきらないほどのアンデッドの軍勢が控えていた。
「おい、人間。……ここに『最高級のスイーツ』があると聞いたが?」
……どうやら、魔王軍よりもタチの悪いやつらが来てしまったらしい。
俺は引きつった笑顔で、本日二度目の言葉を紡いだ。
「い、いらっしゃいませー……」
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
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次回は11時投稿予定です。
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