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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第一章 悪徳店長

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4:ポーション1本5万円。高いですか?

 新入りのケルベロス(バイト)が、店の前で「番犬」として睨みをきかせるようになって数時間。


 ついに、待ちに待った瞬間が訪れた。

「店長、来ましたよ! 人間です!」

 品出しをしていたシルヴィアが、小声で報告してくる。

 防犯カメラのモニターには、ボロボロになった4人組の冒険者パーティが映っていた。


 戦士、魔法使い、僧侶、盗賊。

 テンプレ通りの構成だが、その足取りは重い。

「……あそこ、明かりが見えるぞ」

「罠じゃないか? こんな深層に店があるわけないだろ」

「でも、もう水がないのよ……行くしかないわ」

 疑心暗鬼になりながらも、彼らは自動ドアの前に立った。

 入口で寝そべっているケルベロスにビクつきながら、恐る恐る入店してくる。


 ピンポーン……ピンポーン♪


「いらっしゃいませー」

 俺は「最高の営業スマイル」で彼らを迎えた。

 店内に入った瞬間、彼らの顔色が変わった。


 無理もない。

 空調の効いた快適な温度。

 清潔な床。

 そして何より、棚に並ぶ食料と水。


「す、すげぇ……本物の水だ……!」

「おい見ろよ! あそこ、ポーションが山積みになってるぞ!」

「パンだ! 柔らかいパンがある!」

 地獄に仏とはこのことだろう。

 彼らは商品棚に殺到しようとした。

 だが、俺は冷静に【POSタブレット】で彼らの懐事情サイフをスキャンする。


> 【顧客分析】

> パーティ名: 『暁の獅子団』(Aランク)

> 状態: 疲労困憊、物資枯渇、精神的限界。

> 所持金: 金貨3,000枚(約3億円相当)

> 特記事項:

> 過去に数々のダンジョンを踏破したエリート集団。

> プライドが高く、金遣いは荒い。「金で解決できるなら安いもの」と考えるタイプ。

>


 ……来た。

 これぞ、魔王様が求めていた「太客カモ」だ。

 俺は心の中でガッツポーズをした。


「おい店長!レジ打ってくれ!」

 リーダー格の戦士が、棚から商品を鷲掴みにしてレジに持ってきた。

 さらに、サンドイッチやおにぎりも大量にカゴに入れている。


「ありがとうございます。……えー、ポーションが10本、ミネラルウォーターが5本、軽食セットが4つですね」

 俺はピッ、ピッ、とレジを通していく。

 そして、合計金額を告げた。


「お会計、金貨50枚(約500万円)になります」

「……は?」

 戦士の動きが止まった。

 後ろにいた魔法使いの女が、素っ頓狂な声を上げる。


「ご、50枚!? あんた計算間違ってない!? 街なら金貨1枚でお釣りが来る量よ!?」

「いいえ、間違っておりません」

 俺はレジの画面を指差した。

「当店はダンジョン深層・特別指定区域となっております。物流コスト、危険手当、そして深夜料金が含まれた『ダンジョン価格』でのご提供となります」

「ふ、ふざけるな! そんな暴利が許されるか!」

 戦士がダンッとカウンターを叩く。

「足元を見やがって! こんな詐欺店、ギルドに訴えてやる!」

 予想通りの反応だ。

 街の相場の50倍。普通の感覚ならブチ切れる。

 だが、俺は涼しい顔で首を傾げた。


「詐欺とは心外ですね。……お客様、ここはどこだと思っておられますか?」

「ああん? ダンジョンの999層だが……」

「ええ。最寄りの街まで三週間。転移魔法も阻害される魔境の底です」

 俺は、彼らの手にある「冷えた水」を指差した。

「そのお水一本をここまで運ぶのに、どれだけのコストがかかるかご存知ですか? 輸送隊の護衛費、鮮度保持の魔法石、そしてモンスターの襲撃リスク……。それら全てを考慮すれば、この価格はむしろ適正かと」


 もちろん嘘だ。


 商品は魔王城から転送魔法で送られてくるし、鮮度管理もシステム任せだ。

 だが、彼らにそれを知る由はない。


「ぐっ……そ、それは……」

「高いとおっしゃるなら、買わなくても結構ですよ。……あと三週間、水を飲まずに地上まで戻れる体力がおありなら、ですが」

 俺はニッコリと微笑み、商品を棚に戻そうとする素振りを見せた。

 その瞬間、後ろにいた僧侶の少女が悲鳴を上げた。


「い、嫌ぁ! もう喉がカラカラなの! 買います! 私が買います!」

「おい、待て!」

「リーダー! 背に腹は代えられないよ! 金ならあるんだから!」

 パーティ内で仲間割れが始まった。

 極限状態の人間にとって、金貨などただの重い金属だ。命の水の前では紙屑に等しい。


「……チッ! わかったよ! 払えばいいんだろ!」

 リーダーは革袋からジャラジャラと金貨を取り出し、トレイに叩きつけた。


「ありがとうございます。……あ、お客様。せっかくですので、こちらもいかがですか?」

 俺はすかさず、レジ横のホットスナックケースを指差した。

「当店自慢の『からあげちゃん(フェニックス味)』です。いま揚げたてですよ。スタミナ回復効果に加え、なんとMPも微回復します」

「なっ、MP回復だと!?」

 魔法使いが食いついた。MP枯渇は死活問題だからだ。


「おひとつ、金貨2枚ですが」

「買うわ! 4つ頂戴!」

「まいどありー」

 さらに俺は畳み掛ける。


「お客様、装備がだいぶ痛んでおられますね。……実は当店、奥の工房で『緊急修理』も承っておりますが?」

「本当か!? 俺の剣、刃こぼれが酷くて……」

「特別価格、金貨10枚で新品同様に研ぎ直しますよ。担当するのは、あちらのスタッフです」

 俺が指差した先には、イートインスペースで優雅にパフェを食べているシルヴィアがいた。

 彼女はスプーンを咥えたまま、軽く手を振る。


「……ん? おい、あの女……どこかで見たことあるぞ」

「まさか、『剣聖』シルヴィアか!?」

「なんでこんな所に!?」

 冒険者たちがどよめく。

 俺はすかさずハッタリをかます。

「彼女はこの店の『専属セキュリティ兼技術顧問』です。……お分かりですね? 当店で暴れたり、支払いを踏み倒そうとすれば、彼女と、表で寝ているケルベロスが対応することになります」

 一種の脅しだ。

 「高い」と文句を言えても、「力ずくで奪う」という選択肢を完全に潰す。


「……わ、わかった。修理も頼む」

「ありがとうございます。……あ、お会計の前に」

 俺は一枚のカードを取り出した。


「お客様、『魔王軍カード(Dポイントカード)』はお持ちですか?」

「は? なんだそれ」

「当店の会員カードです。入会費無料。お買い上げ金額に応じてポイントが貯まり、貯まったポイントは『命乞い』や『蘇生』のオプションに使えます」

「不吉なオプションだな!」

「今なら新規入会キャンペーン中で、こちらの『魔王印のポケットティッシュ』をプレゼントしております」

「いらねぇよ!」

 文句を言いながらも、彼らは結局、総額で金貨100枚(1,000万円)近くを使った。


 ポーション、食料、装備の修理、そしてイートイン使用料。

 搾り取れるだけ搾り取った。


◇◇◇


 数十分後。

 身も心も(財布も)軽くなった冒険者たちは、ふらつく足取りで店を出て行った。


「あーあ、可哀想に。今月の稼ぎが全部吹っ飛んだって顔してたな」

 シルヴィアがパフェの残りを舐めながら言う。

「何をおっしゃいます。彼らは『命』を買ったんですよ。安い買い物です」

 俺はレジの中の金貨の山を数えながら答えた。


 本日の売上、目標比500%達成。

 魔王様への上納分を引いても、かなりの黒字だ。

 俺は、端末の向こうにいるであろう魔王に報告メールを送った。


> 件名: 本日の業務報告

> 宛先: 本部(魔王城)

> 本文:

> 勇者一行(Aランク)より、資金の回収に成功しました。

> 彼らは涙を流して感謝しておりました。

> 引き続き、経済封鎖による勇者弱体化を推進します。

>

 送信ボタンを押した瞬間、俺のPOSタブレットが震えた。


 店内に設置された『顧客感知センサー』からのアラートだ。


> 【警告】

> 大軍が接近中。

> 種族: 人間?アンデッド?詳細不明

> 推定脅威度: 測定不能エラー

>


「……店長、なんかヤバいのが来るわよ」

 シルヴィアがスプーンを止め、真剣な顔になる。

 表のケルベロスも、三つの首を一斉に起こし、低い唸り声を上げている。


 自動ドアが開く。

 そこに入ってきたのは、全身を黒いローブで包んだ、小柄な人影だった。


「……ここが、噂の店か」

 その声は、鈴を転がしたように美しいが、同時に背筋が凍るような冷たさを孕んでいた。

 フードの下から覗く瞳は、深紅。


 そして、その背後には――店に入りきらないほどのアンデッドの軍勢が控えていた。


「おい、人間。……ここに『最高級のスイーツ』があると聞いたが?」


 ……どうやら、魔王軍よりもタチの悪いやつらが来てしまったらしい。

 俺は引きつった笑顔で、本日二度目の言葉を紡いだ。


「い、いらっしゃいませー……」


◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。

 次回は11時投稿予定です。


 ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。


よろしくお願いします!

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