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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第一章 悪徳店長

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3:迷惑客しか来ない店……

 SVスーパーバイザーが去ってから数分後。

 店内には、芳醇で香ばしい匂いが漂っていた。


「はふっ、はふっ……! 店長、これ凄いです! 衣がサクサクで、中のドラゴン肉がとろけますぅ……!」

 イートインスペースでは、シルヴィアが『特製ドラゴンカツサンド』を両手で掴み、リスのように頬張っている。


 俺のスキル【POSタブレット】の《ホットスナック加工機能》で作った逸品だ。

 コンビニの揚げ物特有のジャンキーな味付けと、最高級食材の暴力的な旨味。

 この二つが合わされば、S級冒険者といえども堕ちるのは一瞬である。


「ゆっくり食べてください。在庫は山ほどありま…「おかわりください!!」

「早いですね……」


 俺が苦笑しながら、追加のカツサンドを棚から取ろうとした、その時だった。

 ピンポーン…ピンポーン♪

 ズズズズズ……ッ!


 突然、店全体が激しく揺れた。地震か?

 いや、違う。

 自動ドアのセンサーが反応し続けている。

 ウィーン、ガシャン。ウィーン、ガシャン。ピンポーン…ピンポーン♪


「グルルルルゥ……」

「ガウッ! 腹減ったぞ!」

「キャン! いい匂いだ!」


 入口を無理やり押し広げて入ってきたのは、巨大な影だった。

 天井の蛍光灯に届きそうな巨体。

 黒い剛毛に覆われた体躯。

 そして何より特徴的なのは――首が三つあることだ。


 地獄の番犬、《ケルベロス》。

 このダンジョンの中層を守護するボスモンスターだ。

「なっ、ケルベロス!? なんでこんな深層に……!」


 シルヴィアが慌ててカツサンドを飲み込み、剣に手をかける。

 だが、俺は片手でそれを制した。

「待ってください、シルヴィアさん」

「でも店長! あいつは問答無用で冒険者を噛み砕く、殺戮マシーンですよ!」

「いえ、見てください。……尻尾、振ってますよ」


 ケルベロスの太い尻尾は、ブンブンと音が出るほどの勢いで振られていた。


 俺は冷静に【POSタブレット】を起動した。


> 【顧客分析】

> 顧客名: ケルベロス(三兄弟)

> 状態: 飢餓状態

> 来店動機: 上階層まで漂ってきたドラゴンステーキの匂いに釣られて来店。

> 特記事項:

> 右の首(長男): 短気。ガッツリ系の肉を所望。

> 左の首(次男): 甘えん坊。柔らかい部位を所望。

> 真ん中の首(三男): グルメ。繊細な味付けを所望。

>


 なるほど。

 要するに「面倒くさい注文オーダーをしてくる団体客」だ。

「いらっしゃいませー」

 俺は営業スマイルを貼り付け、レジカウンター越しに声をかけた。


「お客様、足元のマットで泥を拭いてからご入店ください」


「グルァ! 肉だ! あの匂いの肉をよこせ!」

 右の首が吠える。

「クゥ~ン……お腹すいたよぉ……」

 左の首が鳴く。

「フン。我輩の舌を満足させられる料理があるとは思えんがな」

 真ん中の首が鼻を鳴らす。


 三者三様の要求。

 普通の飲食店ならパニックになるところだが、俺は元コンビニ店長だ。


 「タバコの銘柄指定」と「おでんの汁多め」と「公共料金の支払い」、そして「宅配便の受付」を同時にこなすワンオペ地獄に比べれば、どうということはない。これにコピー機の使い方を訪ねるお客様が加わると地獄だった。


「ご注文を承ります。……ですがお客様、当店は『先払い』となっております」

 俺はにこやかに掌を出した。

 金を持たない客には商品は渡せない。たとえ相手が伝説の魔獣でもだ。


「グルッ? 金……?」

 ケルベロスたちが顔を見合わせる。

 やはり持っていないようだ。

 シルヴィアがここぞとばかりに剣を抜こうとする。

「店長、やっぱり排除しましょう!

 無銭飲食は犯罪です!」

「お待ちください。……お客様、お支払いは『現物』でも可能ですよ」

 俺はPOSの画面に表示された、ある《エラー》を見ていた。


> 【検知】

> ケルベロスの「真ん中の首」の奥歯に、異物が挟まっています。

> 鑑定: オリハルコンの破片(純度99%)

>


 おそらく、装備の硬い冒険者を噛み砕いた時に挟まったのだろう。

 俺はカウンターから身を乗り出した。


「真ん中のお客様。……最近、奥歯が痛みませんか?」

「ぬ? ……なぜそれを。実は数日前から、ズキズキとして物が噛めぬのだ」

「当店では簡易治療も行っておりますよ?異物も当店で処分致します。」

「む? 抜いてくれるのか? ならば頼もうか……」

 交渉成立。


 俺はアイテムボックスから『業務用トング』を取り出し、カチカチと音を鳴らせながら、ケルベロスの口内へ突っ込んだ。


「はい、口を開けてー。……えいっ」

 ガチンッ。

 トングで掴み、一気に引き抜く。


 カラン、とトレイの上に落ちたのは、虹色に輝く金属片――伝説の鉱石、オリハルコンだった。


「おお……! 痛くない! スッキリしたぞ!」

 真ん中の首が目を輝かせる。


> 【売上計上】

> 品名: オリハルコンの破片

> 査定額: 金貨1000枚

>


 よし。

 これでドラゴンの原価どころか、まで稼げた。

 あとは、サービス(対価)を提供するだけだ。


「それでは、ご注文の品をご用意いたします」

 俺はPOSタブレットを操作し、《調理モード》を起動する。

 バックヤードにあるドラゴンの在庫が光に包まれ、自動的に加工されていく。

「お待たせいたしました!」


 ドン! ドン! ドン!


 カウンターに並べられたのは、三つの巨大なトレイだ。


「右のお客様には、『特盛ドラゴンカルビ弁当ニンニクマシマシ』」

「ガウッ! これだこれ! こういうのでいいんだよ!」

 右の首がガツガツと食らいつく。


「左のお客様には、『ドラゴンスープの煮込みハンバーグ』。柔らかいので噛まずに飲めますよ」

「わぁい! とろとろだぁ~!」

 左の首が舌で舐めとる。


「そして真ん中のお客様には、『ドラゴンのたたき~特製バルサミコソース仕立て~』でございます」

「ほう……。レアの赤身に酸味を効かせるとは。……うむ、悪くない。いや、絶品だ!」

 真ん中の首が目を細めて味わっている。


 店内には、三つの首が奏でる咀嚼音だけが響いていた。

 それを見ていたシルヴィアが、ポカーンと口を開けている。

「……ケルベロスを手懐けちゃった……」


「お客様満足度を上げるのも、店長の仕事ですから」

 完食まで、わずか一分。

 トレイまで舐め尽くしたケルベロスは、満足げにゲップをした。


「人間……いや、店長よ。見事な手際だった」

 真ん中の首が、敬意を込めて俺を見た。

「我輩たちは、この味に感動した。……そこでだ。一つ提案がある」

「なんでしょう?」

「我輩たちを、この店の『番犬』として雇ってくれぬか?」

 ……はい?


「ここなら毎日、この飯が食えるのだろう? ならば、中層の守護など辞めて、ここに住み込みたい。給料はいらん。賄いだけでいい」

「俺も賛成だッ!」

「ボクもー!」

 三つの首が同時に同意した。


 俺はPOSタブレットで計算する。

 ケルベロスの食費と、警備コストを天秤にかける。

 どう考えても、S級冒険者を雇うよりコスパが良い。それに、24時間営業の防犯対策としては最強だ。


「……採用です。ただし、お客様への威嚇は禁止。あと、トイレ掃除もやってもらいますよ?」

「承知した! トイレ掃除など、地獄の釜磨きに比べれば児戯に等しい!」


 こうして。

 魔王軍直営コンビニ『ダンジョン・マート』に、新たな従業員バイトが増えた。

 

 店長:元ブラック企業の社畜。

 警備員A:S級冒険者(食いしん坊のポンコツ)。

 警備員B:地獄の番犬(三つ首)。


「……あの、店長。私のポジション、奪われませんよね?」

 シルヴィアが不安そうに袖を引っ張ってくる。

「大丈夫ですよ。シルヴィアさんには『仕入れ担当』という大事な仕事がありますから」

「よかったぁ……! じゃあ、安心したらお腹が空いちゃいました!!」

 俺は苦笑しながら、POSレジを叩く。


 本日の売上、目標達成。

 従業員の士気、良好。

 防犯体制、万全。


 順調だ。順調すぎて怖い。

 そんな俺の予感は的中する。

 ケルベロスが店の前に座り込んだことで、周囲の雑魚モンスターは寄り付かなくなった。

 その代わりに。

 

 ――ケルベロスすら恐れない《魔王軍の幹部》や、《S級ランクの変人たち》が、噂を聞きつけて来店するようになってしまったのだ。


「いらっしゃいませー」

 俺の心休まる日は、まだまだ遠い。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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