25:不殺する警備隊
Dマート2号店を包囲する数千の聖教会軍と、俺が喚び出した千の『アンデッド警備隊』が対峙していた。
「ふははは! 愚かな魔族め、自らアンデッドを喚び出すとはな!」
教会の指揮官が、勝ち誇ったように笑う。
「聖騎士団、並びに魔導部隊! 奴らに神の裁きを!
【グランド・ホーリー・レイ】!!」
数百人の神官たちが一斉に杖を掲げ、アンデッドにとって致命的な特効攻撃となる「浄化の光」が広場全体を包み込んだ。
普通の下級スケルトンやゾンビなら、一瞬で消し炭になる威力だ。
「……ふん。他愛もない。店ごと浄化されてしまえ」
指揮官が鼻で笑う。
だが、光が収まった後。
そこには、1ミリも動じることなく整列し続けるアンデッド軍団の姿があった。
「な、なんだと!? なぜ聖なる光を浴びて無事なのだ!?」
「ひぃッ!? こいつら、鎧に傷一つついてないぞ!」
聖騎士たちがパニックに陥る。
俺はため息をついて、拡声器のスイッチを入れた。
『……お客様。彼らをその辺の野良アンデッドと一緒にしないでいただきたい。
彼らは常連客である「冥界の女帝」アナスタシア様の直属の近衛兵です。
レベルが違いすぎるため、低位の浄化魔法など「そよ風」と同義ですよ』
アナスタシア様は、魔王軍ですら迂闊に手を出せない別勢力の大物だ。
その直属の死霊騎士が、人間の魔法ごときで浄化されるはずがない。
『さて、警備隊の皆さん。悪質な営業妨害です。不審者を排除してください』
俺が指輪を通して命じると、デス・ナイトたちの瞳が赤く発光した。
『……了解シタ、店長……。不審者、排除スル……』
アンデッドたちは剣を抜くのではなく、どこからともなく「漆黒の刺股」と「大盾」を取り出した。ドワーフに特注していた品だ。
「な、なんだそのふざけた武器は!? 舐めるなァ!」
聖騎士たちが斬りかかってくる。
ガキンッ!!
しかし、聖剣の斬撃は巨大な盾に呆気なく弾かれ、直後に放たれた刺股が騎士の首と胴体を壁に押さえつけた。
圧倒的な膂力。手足の関節を的確に極められ、聖騎士たちが次々と無力化されていく。
「ぐわぁぁぁッ! 離せ! バケモノめ!」
「隊長! 前衛が崩されます! 奴ら、殺す気すらない……完全に『制圧』しにきています!」
あくまで彼らは「警備員」だ。殺して死体を増やせば店の前が汚れるため、見事な不殺の制圧術を見せている。
「ええい、役立たずどもめ! アンデッドが突破できないなら、直接店を叩き潰せ!」
指揮官の号令で、後衛の魔導師たちが一斉に2号店に向けて火炎魔法を放った。
ドゴォォォォン!!
巨大な火球がシャッターに直撃する。
だが、爆炎が晴れると、そこには傷一つない半透明の結界とミスリルのシャッターがそびえ立っていた。
『警告。店舗への物理攻撃を検知。防衛システムを起動します』
システムの音声と共に、屋根の上からドワーフ製の「自動迎撃タレット」が姿を現した。
パシュシュシュシュッ!!
「ぎゃああああ!? 目が、目がぁぁぁぁ!!」
タレットから発射されたのは、銃弾ではなく超濃縮・激辛スライムの体液だ
。
顔面に激辛液を浴びた魔導師たちが、涙と鼻水を流してのたうち回る。
「……な、なんだこの店は。要塞か……!?」
指揮官が絶望に顔を歪める。
「ならば、私が直接結界を斬り裂いてくれるわ!!」
指揮官自らが、国宝級の聖なる大剣を抜き放ち、猛烈なスピードで俺とシルヴィアに突進してきた。
さすがは教会の幹部。すさまじい闘気だ。
「……カズヤ店長。私が」
「お願いします、シルヴィア」
俺が頷くと、シルヴィアが一歩前に出た。
彼女は、愛用の『竜殺しの中華鍋』を片手で構える。
「死ねぇぇぇ! 魔族の犬めぇぇ!!」
指揮官の大剣が、シルヴィアの脳天めがけて振り下ろされる。
全てを両断する、必殺の一撃。
――ガァァァァァァァァァンッッ!!!!
広場に、鐘を突いたようなけたたましい金属音が響き渡った。
「なっ……!?」
指揮官が驚愕に見開いた目の先。
国宝の大剣は、シルヴィアが片手で掲げた「底の黒ずんだ中華鍋」に受け止められ……ピキピキと亀裂を走らせていた。
「……お客様。当店では刃物の持ち込みは固くお断りしております」
シルヴィアの冷たい銀眼が、指揮官を射抜く。
「バカな!? 聖なる力が、ただの鉄ナベに負けるなど……ッ!?」
「鉄ナベではありません。これは、かつて私が古竜の頭蓋骨を砕いた、特注の調理器具です。
……お引き取りください!」
シルヴィアが中華鍋を軽く振り抜く。
ただそれだけで、凄まじい衝撃波が発生し、指揮官の体はピンボールのように跳ね飛ばされ、後方の聖騎士たちの群れに突っ込んでいった。
「指揮官殿ォォォ!?」
「ダメだ、勝てない! あの銀髪の女、化け物だぞ!!」
前衛はアンデッドに制圧され、後衛は催涙スプレーで壊滅。
さらに最強の指揮官が、エプロン姿のシルヴィアに一撃で粉砕された。
戦意を喪失した教会軍は、這々の体で後退していく。
「……ふぅ。これで一旦は退いてくれましたね」
俺はネクタイを締め直した。
防衛戦は、俺たちの完全勝利だ。
だが。
「カズヤ店長、喜んでいる場合ではありませんぅ……」
シャッターの隙間から、リリスが涙目で顔を出した。
彼女の手には、先程打ち出されたPOSレジのジャーナル(売上記録)が握られている。
「……この数時間、来客数ゼロ。売上が全くありませんぅ……」
俺はハッとして、周囲を見渡した。
教会軍は後退したが、広場の外周を完全に封鎖し、500階層への出入り口に陣取っている。
これでは、他の一般客が店に入ってこられない。
「……なるほど。力押しが通じないと見て、兵糧攻めに切り替えたわけですか」
これは不味い。
コンビニにとって、客が来ないことは死を意味する。
物理的な攻撃よりも、はるかに厄介な「経済封鎖」という名の嫌がらせ。
しかし、彼らは一つ重大な見落としをしている。
Dマートの常連客には、飯の時間を邪魔されると国を滅ぼしかねない、キレやすいVIPたちがいるということを。
「……シルヴィア。本店に連絡して、イグニス将軍の『プロテイン弁当』と、メルティ様の『最新家電』の納品状況を確認してください」
「店長……まさか」
「ええ。次なる一手は、『怒れるお客様』の召還です」
俺は、聖教会の包囲網を見つめながら、黒い笑みを浮かべた。
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