24:緊急事態発生!!~聖教会が数千の軍勢で「聖戦」を仕掛けてくる
中層500階層のDマート2号店。
今日も店は、冒険者たちの喧騒と、揚げたてホットスナックの香ばしい匂いに包まれていた。
「いらっしゃいませぇ❤ 本日のおすすめは『激辛バッファローチキン』ですぅ!」
2号店店長でサキュバスの、リリスが、愛嬌たっぷりに接客をする。
「リリス店長、ポーションの補充完了しました! 今日も鮮度は抜群です!」
鮮度保持担当のセリアも、すっかり店員としての板についていた。
平和な日常。
だが、その平穏は唐突に打ち破られた。
ズンズンズン……ッ!
地鳴りのような音が響き、店内の商品棚がガタガタと揺れた。
地震か? いや、違う。これは――。
「……なんだ? 外が騒がしいぞ」
客の一人が自動ドアから外を覗き込み、悲鳴を上げて腰を抜かした。
「ひ、ひぃぃぃッ!? せ、聖騎士団だ!! 聖教会の本隊が店を囲んでるぞぉぉ!!」
「「えっ!?」」
リリスとセリアが顔を見合わせ、慌てて外を確認する。
絶句した。
店の周囲360度を、白銀の鎧に身を包んだ数千の兵士たちが、蟻の這い出る隙間もないほど完全に包囲していたのだ。
先頭には、豪華な法衣を纏った高位の神官が立ち、拡声魔法で叫んでいる。
『聞け! 穢れし魔族の店に巣食う者どもよ!
我らは聖教会の威信をかけた異端殲滅部隊である!
直ちに武装解除し、囚われの聖女セリア様を解放せよ! さもなくば、この店ごと神の炎で浄化してくれる!!』
「……嘘、どうして……。こんな大軍で……」
セリアが顔を青ざめさせる。
彼女を奪還をするために、教会は本気で軍隊を動かしてきたのだ。
客たちがパニックになりかける中、リリスが震える手で自身の首にかかったペンダントを握りしめた。
カズヤオーナーから支給された、『緊急事態用・防犯スイッチ』だ。
「……セリアちゃん、下がってて。
カズヤ店長が言ってたもん。何かあったら迷わず押せって!」
ポチッ。
ジリリリリリリリリリリリリリッ!!!!
耳をつんざくような警報ベルが鳴り響いた。
同時に、店舗システムが「緊急モード」へと移行する。
『緊急事態発生。レベル5。対魔障壁を展開します』
無機質なシステム音声と共に、店の窓と入り口に、分厚いミスリル製のシャッターが高速で降りた。
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
さらに、店の周囲に半透明の多重防護結界が展開される。
「な、なんだこれは!? 結界だと!?」
外の聖騎士たちが動揺する。
これは以前、ドワーフの『黒鉄組合』と四天王メルティに共同開発させた、対城塞級の防衛システムだ。
◇◇◇
同時刻。999階層・本店。
『緊急警報! 2号店にて最高レベルの侵入者を検知!』
事務所のパトランプが赤く回転し、カズヤのスマホに通知が届いた。
俺は品出しの手を止め、端末の監視カメラ映像を確認した。
画面を埋め尽くす白銀の軍勢。
「カズヤ店長。聖教会ですね。……数千はいそうです」
隣にいたシルヴィアが、即座に戦闘態勢に入る。
エプロンを脱ぎ捨て、愛用の竜殺し用の鈍器である中華鍋と、防具を装着する。
「行きますよ、シルヴィア。うちの大切な従業員とお客様が人質に取られかけている。
……責任者として、最高の『おもてなし』をしてやらねばなりませんね」
俺たちは店内の転移魔法陣に飛び乗った。
◇◇◇
500階層。
シャッターが下ろされた2号店の前で、聖教会軍が攻撃の準備を始めていた。
「ええい、小賢しい結界を! 魔導部隊、一斉射撃でこじ開けろ!」
指揮官の号令で、数百人の魔導師が杖を構える。
だが、魔法が放たれる直前。
店の屋上に設置された転移ゲートが光り輝き、二つの影が舞い降りた。
「……いらっしゃいませ。随分と大人数でのご来店ですね」
俺とシルヴィアが、店の前の広場に降り立つ。
数千の敵意が、一斉に俺たちに向けられた。
「貴様が噂の店長か! 問答無用! 悪魔の店を破壊し、聖女様を取り戻せ!」
指揮官が剣を振り下ろす。
交渉の余地なしか。野蛮な連中だ。
「……カズヤ店長。やりますか?」
シルヴィアが殺気を放つ。彼女一人でも数百人は相手にできるだろうが、多勢に無勢だ。店を守りきれる保証はない。
「いえ。今回は『数には数を』で対抗しましょう」
俺は右手の指輪に触れた。
以前、「冥界の女帝アナスタシア」様から頂いた『死霊王の指輪』だ。
「……アナスタシア様。貴女の眷属たちの力、お借りしますよ」
俺が指輪に思いを込めると、どす黒い瘴気が地面から噴き出した。
ズズズ……ガゴォォォ……ッ!
2号店の周囲の地面がひび割れ、そこから無数の手が突き出した。
現れたのは、錆びついた古代の鎧を纏い、青白い瞳を光らせた「アンデッド騎士団」。
その数、数百。いや、千を超える。
「な、なんだと!? 死霊騎士の軍団だと!?」
「ひぃぃッ! あいつら、ただのスケルトンじゃない! 高位のアンデッドだ!」
聖騎士たちが悲鳴を上げる。
アナスタシア様の私兵団だ。そこらの雑魚モンスターとは格が違う。
彼らは整然とした動きでDマートの前に列を作り、聖教会軍に対して剣と盾を構えた。
『……我が主の店を荒らす者は、万死に値する……』
アンデッドの隊長デュラハンが、重低音で唸る。
「……警備体制は整いました、我が主」
俺は聖教会の指揮官を見据え、宣言した。
「警告します。これ以上、当店への営業妨害を続けるならば、Dマート警備隊が全力で排除します。
……さあ、クレーム対応の時間だ」
500階層の広場で、白銀の聖騎士団と、漆黒のアンデッド軍団。
二つの軍勢が、コンビニを挟んで一触即発の睨み合いを開始した。
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