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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第二章 ホワイト企業への道

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23/27

23:魔女っ子の来店

 武闘派のイグニス将軍と契約を結んだことで、Dマート本店は魔王軍の兵士たちで連日賑わっていた。


 彼らは「プロテイン弁当」と「エナジードリンク」を買い求め、猛烈な勢いで訓練へと戻っていく。

 そんな体育会系の熱気に包まれる店内へ、フラフラと覚束ない足取りで入ってくる小さな影があった。


「……あぅぅ……MPが……枯渇、しました……」

 バタリ。


 大きな三角帽子に、フリルのついたローブ。手には星型のステッキ。

 絵に描いたような魔女っ子の姿をした少女が、自動ドアを抜けた直後に床へ突っ伏した。


「て、店長! お客様が倒れました!」

 品出しをしていた聖女セリアが慌てて駆け寄る。

「……ん? あの姿は……」

 レジにいたシルヴィアが、少女の顔を見て目を丸くした。


「カズヤ店長。あの方、魔王軍四天王が一角、『叡智のメルティ』です。軍の魔法開発と、結界維持を統括している最高幹部ですよ」


「……この子が?」

 俺は床に倒れている少女を観察した。

 見た目は10代半ばの可憐な魔女っ子だが、目の下にはくっきりとクマがあり、ローブは薬品やスライムの体液で汚れ、徹夜明けの研究者を体現している。


「……うぅ。エナドリ……いや、胃が死んでるから無理……。何か、温かくて……優しいものを……」

 うわ言のように呟くメルティ。


 イグニス将軍がガブ飲みしているエナジードリンクは、空腹の胃に入れると刺激が強すぎる。


「カズヤ店長、どうします? スープでも出しますか?」

「いえ、ここはしっかり炭水化物を摂らせて、魔力を補給させましょう」

 俺は売場から一つの商品をとり、レジ後ろの電子レンジで加熱を始めた。


◇◇◇


「……んんっ……いい、匂い……」

 イートインスペースのソファに寝かされていたメルティが、出汁の香りに釣られて目を覚ました。


「おはようございます、メルティ様。Dマートへようこそ」

 俺は彼女の前に、湯気を立てる丼を置いた。


「これ、は……?」

「当店の人気商品『月見うどん』です。疲れた胃腸に負担をかけない、とても優しい味の商品です。」

 コンビニでは、味の濃い商品が好まれるため、もうやめようかと思っていた商品だとは言えない……。


 メルティは震える手で箸を持ち、まずは黄金色のつゆを一口飲んだ。


「……はわぁぁぁ……っ」

 彼女の口から、魂が抜けるような声が漏れた。


 カツオと昆布の優しい出汁が、徹夜で冷え切った魔女っ子の五臓六腑に染み渡っていく。

 続けて、ツルツルとしたうどんを啜り、半熟の卵を絡めて食べる。


「美味しい……! なんだこれ、あったかいよぉ……! 研究室の冷たい魔力ゼリーとは全然違う……っ!」

 彼女はあっという間にうどんを平らげ、つゆまで最後の一滴まで飲み干した。

 くぼんでいた頬に赤みが戻り、失われていたMPが急速に回復していく。


「ふぅぅ……生き返りました……。カズヤ店長、素晴らしい魔力回復食です。助かりました」

「お粗末様でした。それにしても四天王ともあろうお方が、なぜあそこまでMPをすり減らしていたのです?」

 俺が尋ねると、メルティは三角帽子を深く被り直し、深大なるため息をついた。


「……魔王城の結界維持と、新兵器の開発で手一杯なんです。

 おまけに、研究室の魔力供給が最悪で。支給されている旧式の魔石バッテリーはすぐ容量不足になるし、そのたびに私が自分のMPを削って装置を動かしてるんです。……もう、辞めたいです……」

 なるほど。魔法開発部という名の「理系ブラック研究室」か。


 魔力が安定しないオフグリッド環境での作業は、研究者にとって最大のストレスだ。

 これは、商機!!


「メルティ様。魔力電源の容量と、安定供給でお悩みですね?」

「ええ、そうですけど……。何か解決策でも?」

「当店はコンビニですが、『最新の魔導家電』も取り扱っております」

 俺はバックヤードから、台車に乗せた大きな四角い箱型のデバイスを運んできた。

 黒とシルバーのスタイリッシュな外観。


「これは……?」

「当店イチオシの、ポータブル魔力電源『ε《イプシロン》3型』です」

 俺はデバイスのパネルを叩いて説明した。


「従来の魔石とは比べ物にならない大容量バッテリーを搭載しており、複数の魔法装置を同時に、かつ長時間稼働させることができます。

 さらに、これだけではありません」

 俺はもう一つ、平べったい黒いパネルを取り出した。


「この『160W両面受魔パネル』を接続してみてください。

 ダンジョン内に漂う微量なマナを、表面と裏面の両方から高効率で吸収し、電源に自動充電し続けます。

 これがあれば、メルティ様がご自身のMPを削って給電する必要は二度とありません」


「なっ……!? 空間のマナを両面から吸収して、自動チャージする独立電源だとぉ!?」

 メルティがガタッ!と立ち上がり、食い入るように『ε3型』を見つめた。

 研究者としての血が騒いだのだろう。ステッキで各部をコンコンと叩き、震える声で呟く。


「……ありえない。こんな高出力で安定した魔力波形、魔王軍の技術でもまだ実用化できていないのに……。

 これがあれば、長時間の魔法陣コンパイルも、休日の魔術アニメの一気見も、途中で電源が落ちる心配がない……っ!!」


「いかがですか? お値段は少し張りますが……」

「買います!! 魔導開発部の予算で、とりあえず3台! いや、5台発注します!!」

 メルティは俺の手をガシッと握りしめた。


「カズヤ店長! 貴方は魔導開発部の救世主です!

 これからは、うちの部署の機材調達も、研究員たちの夜食の手配も、ぜーんぶDマートに一任しますから!!」

「毎度ありがとうございます。末永いお取引をよろしくお願いいたします」

 俺は最高の営業スマイルで握手を返した。


 これで、魔王軍の「財務」「軍務」に続き、「魔法・技術」の根幹もDマートが握ったことになる。


「……カズヤ店長って、本当に何屋なんですか?」

 ポータブル電源を嬉しそうに台車で運んでいくメルティの後ろ姿を見送りながら、シルヴィアが呆れたように呟いた。


「コンビニですよ。……お客様のあらゆる不便を解消するね」


 実際、俺が元の世界で営業していた時にも、カプセル抽出型のコーヒーマシンなんかを売らされた事があった……。


 魔王城買収計画の進捗率は、優に70%を超えただろう。

 四天王も残るはあと一人。完全制覇の日は近い。


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