22:イケナイ飲み物
魔王軍の財務を司る四天王・ヴォルグの直轄店舗となってから、Dマート本店はさらに業績を伸ばしていた。
特に、魔王軍の兵士たちにとって、当店の「ホットスナック」と「雑誌」は、過酷な勤務の数少ないオアシスとなっていた。
イートインスペースでは、非番のオークやスケルトンたちが、チキンをかじりながら談笑している。
平和な光景だ。
だが、その平和を打ち破る、凄まじい「闘気」が店の外から近づいてきた。
ドゴォォォォンッ!!
店の自動ドアが、両開きごと吹き飛ばされた。自動ドアの強化を検討しよう。
「……たるんどる!! 貴様ら、こんな所で油を売って何をしている!!」
土煙の中から現れたのは、身の丈3メートルを超える巨漢。
全身から灼熱の炎を立ち上らせた、ドラゴニュートの戦士だ。
「げぇっ!? し、四天王のイグニス将軍!?」
チキンを食べていたオークたちが、慌てて直立不動の姿勢をとる。
魔王軍四天王が一角、『烈火のイグニス』。
軍の実戦・訓練を統括する、超・武闘派の最高幹部だ。
「貴様ら! 最近、訓練場に顔を出さんと思えば、こんな得体の知れない店で『からあげ』などという脂の塊を食らっていただと!?
しかもなんだそのふやけた顔は! 魔王軍の牙が聞いて呆れるわ!」
イグニス将軍が咆哮すると、店内の気温が急激に跳ね上がった。
「ヴォルグの奴が『利益が出る』と持ち上げていたから黙認していたが……限界だ!
こんな軟弱な店があるから、我が軍の精鋭が堕落するのだ! 今日という今日は、店ごと灰塵に帰してくれる!」
イグニスが巨大な拳を振り上げる。
その瞬間、シルヴィアが音もなく前に出た。
「……カズヤ店長。やりますか?」
「いえ、待ってくださいシルヴィアさん」
俺は彼女を制し、怒り狂う将軍の前に歩み出た。
クレーム対応の基本は、相手の不満を見極めること、そして話を聞いてあげることだ。話の通じない相手には、速やかに退場していただいているのだが……
「いらっしゃいませ、イグニス将軍。店長のカズヤです、お初にお目にかかります。
…………
……
なるほど。兵士たちの『栄養管理』と『士気の低下』を危惧されているのですね」
「ふん! 当たり前だ! 魔王軍の強さは日々の鍛錬とストイックな精神から生まれる!
貴様の店の飯は確かに美味いが、それはただの『甘やかし』だ!」
将軍の言うことは、軍のトップとして極めて正しい。
ジャンクフードばかり食べていれば、体脂肪は増え、スタミナは落ちる。
「おっしゃる通りです。確かに、揚げ物ばかりでは戦士の体は作れません」
「分かっているなら、さっさと店を畳め!」
「ですが将軍。兵士たちに『マズい保存食』だけを食わせて、最高のパフォーマンスが出るとお思いですか?」
俺はニヤリと笑った。
「戦士に必要なのは『質の高いタンパク質』と『一瞬の起爆剤』。
……当店には、『武闘派専用のメニュー』もございますよ」
俺はセリアに目配せをし、バックヤードから「新商品」を持ってこさせた。
「将軍。これを試食してみてください」
俺がカウンターに出したのは、二つの商品。
一つ目は、どんぶり飯の上に、極厚の赤身肉と温玉、大量のブロッコリーが乗った弁当。
二つ目は、毒々しい緑色に発光する、謎の缶飲料だ。
「なんだ、これは?」
「名付けて、『マッスル・プロテイン弁当』と、『ダンジョン・エナジードリンク』です」
俺は商品の解説を始めた。
「この弁当は、高タンパク・低脂質。さらにセリアの浄化魔法で余分な毒素を完全に抜き、吸収効率を極限まで高めた『筋肉のための食事』です。
そしてこちらのドリンクは、中級ポーションをベースに、カフェインとマンドラゴラの根を限界まで濃縮した『気付け薬』です」
前世の社畜時代、俺が徹夜のプレゼン前にキメていたエナドリのファンタジー再現版だ。
「……こんなもので、戦士の体が作れるだと? ふん、小賢しい」
イグニス将軍は半信半疑ながらも、弁当の赤身肉を口に放り込み、エナジードリンクを一気に飲み干した。
ゴキュッ、ゴキュッ……プハァッ!!
その瞬間。
ドバァァァァァァッッ!!!
イグニス将軍の全身から、先程とは比較にならないほどの凄まじい闘気が、火柱となって立ち上った。
筋肉がパンプアップし、血管がドクドクと脈打つ。
「な、なんだこれはァァァッ!?
内側から力が……無限の魔力が湧き上がってくるぞ!!
それにこの肉! 噛むほどにアミノ酸が筋肉の隅々まで染み渡るのが分かる!!」
「ええ。疲労回復、集中力強化、筋力バフ付与。
これを摂取してから訓練を行えば、効率は普段の3倍に跳ね上がりますよ」
「……」
イグニス将軍は、震える手で空になったエナドリの缶を見つめた。
「カズヤ店長、と言ったな」
「はい」
「これは、量産できるのか?」
「当然です。……まとめ買いをしていただけるなら、魔王軍の全兵士に、毎日日替わりで提供するご用意があります」
イグニス将軍の目が、完全に「商談の目」に変わった。
彼もまた、軍を強くするためなら手段を選ばない合理主義者なのだ。
「……ヴォルグの奴が、貴様を高く評価する理由が分かった。
貴様はただの商人ではない。軍の兵站を根底から覆す化け物だ」
将軍は懐から、魔王軍の軍令部印が押された羊皮紙を取り出した。
「今日から貴様の店を、我が軍の専属食堂、指定強化施設に認定する。
兵士たちの食事と補給は、全て貴様に一任しよう。……経費はヴォルグにツケておけ!」
「毎度ありがとうございます。大口契約、確かに承りました」
こうして、Dマートは「財務」だけでなく「軍務」のトップをも掌握した。
俺の『魔王城買収計画』は、もはや単なる夢物語ではなく、現実のスケジュール帳に書き込まれようとしていた。
ちなみにその後、エナジードリンクに依存しすぎた兵士たちが「アレがないと戦えねえ!」とカフェイン中毒になりかけたが、それはまた別の話である。
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