21:優しさと甘さを勘違いした者には容赦しません。
2号店が軌道に乗り、リリス一人では店が回らなくなったため、俺――相田カズヤは数名の「新人アルバイト」を現地採用した。
時給は相場の倍。まかない付き。完全シフト制。
ダンジョンという過酷な環境において、Dマートの待遇は破格中の破格だ。
だが、その「ホワイトすぎる待遇」を、致命的に勘違いする輩が現れた。
「……カズヤ店長。ごめんなさい、私の指導不足ですぅ……」
ある日の閉店後。
2号店店長のリリスが、涙目でPOSレジのジャーナルを持ってきた。
「顔を上げてください、リリス店長。何があったんです?」
「現金と売上データが、金貨5枚分(約50万円)合いません。それに、在庫のポーションや高級弁当も数が足りなくて……」
「内引き(従業員による窃盗)と、レジ金の着服ですね」
俺は眉間を揉んだ。
前世のコンビニ時代にもあった。レジの「取り消しキー」を悪用して金を抜き取ったり、廃棄前の商品を勝手に食ったりするバカが。
「カズヤ店長。実はそれだけじゃないんです」
本店から応援に来ていたシルヴィアが、魔力で映像を映し出す「水晶玉」を持ってきた。
最近、中級冒険者たちの間で流行っている『魔法掲示板』の映像だ。
『うぇーい! Dマートのバイト、時給高すぎだし本店の店長来ないから楽勝~!』
『見てみろよコレ! 売り物のポーション一気飲み!』
『フライヤーの油にスライムぶち込んでみたwww』
映像の中でゲラゲラ笑っているのは、数日前に採用した中級冒険者崩れの三人組だった。
「……いわゆる『バイトテロ』ですね」
俺の声は、自分でも驚くほど冷たくなっていた。
「ひぃっ……!」
その声の温度差に、リリスがビクッと肩を震わせる。
従業員は宝だ。俺は彼らを守るためなら体を張る。
だが、それは「店と仲間に誠実であること」が大前提だ。
店の信用を失墜させ、一生懸命店を切り盛りしているリリスに泥を塗る行為は、万死に値する。
「シルヴィア、彼らの明日のシフトは?」
「明日の昼からです。三人揃って入っています」
「……好都合です。特別研修を行いましょう」
◇◇◇
翌日。
「ちーっす。おはようございまーす」
三人組が、ヘラヘラと笑いながらバックヤードに入ってきた。
だが、そこには腕を組んだシルヴィアと、静かにPOSデータを睨む俺が待ち構えていた。
「お、本店の店長さんじゃん。視察っすか?」
「ええ。貴方たちに確認したいことがありましてね」
俺は机の上に、POSデータの束と、水晶玉を叩きつけた。
「レジ金の窃盗、在庫の内引き、並びに店舗設備への悪質なイタズラ。
……言い逃れはさせませんよ。このPOSシステムは、誰が、いつ、レジを操作したか、1秒単位で全て記録していますから」
三人の顔から、スッと血の気が引いた。
「な……な、なんのことっすか! 証拠なんて……!」
「証拠なら、貴方たち自身が魔法掲示板にアップロードしているでしょう」
「げっ!?」
リーダー格の男が舌打ちをした。
「……チッ。バレたんじゃしょうがねえ。
でもよ、たかがポーション数本と、はした金だろ? こんだけ儲かってんだから、ケチケチすんなよ!」
「そうそう! ホワイト企業なんだろ? バイトのちょっとしたミスくらい、大目に見ろよ!」
悪びれるどころか、逆ギレしてきた。
本当に、人間のクズというのはどこの世界でも同じだ。
「……ホワイト企業という言葉を、随分と履き違えているようですね」
俺は冷たい目で彼らを見下ろした。
「ホワイト企業が従業員に優しいのは、真面目に働く優秀な人材を守るためです。
貴方たちのような、社会に寄生するダニを甘やかすためではない。むしろ、ダニには即座に法的措置を取るのが、真のホワイト経営ですよ」
「はっ! 法的措置だぁ? 俺たち冒険者にそんなモンが通用するかよ!」
男たちが剣を抜こうとした。
だが。
ギリィッ……!
背後に立っていたシルヴィアから、ドス黒い殺気が放たれた。
空気が重力を持ったように沈み込み、三人組は剣を抜くどころか、膝から崩れ落ちて息絶え絶えになっている。
「……カズヤ店長の慈悲に感謝することですね。私なら、四肢をもいでモンスターの餌にしているところです」
シルヴィアが冷ややかに見下ろす。
「ひぃっ……! す、すいませんでしたぁ! もう辞めます! バイト辞めますから!」
「辞める? ……ふざけないでください」
俺は一通の書類を彼らの前に突きつけた。
「貴方たちの行為で、フライヤーの油は全交換。被害額は盗まれた現金と商品で金貨30枚。さらに店の信用を落とした損害賠償として、金貨100枚を請求します」
「き、金貨130枚!? そんな大金、払えるわけねえだろ!」
「安心してください。ちゃんと働き口』は用意してありますから」
俺はニヤリと笑った。
「下請けの『黒鉄組合』が、今、ミスリル鉱山の採掘スタッフを急募していましてね。
マグマが噴き出す危険な鉱山ですが、彼らなら貴方たちを、逃げられないように徹底的に鍛え上げてくれるでしょう」
「な、なんだと……!? あのヤクザドワーフどもの所に!?」
「借金を全額返済するまで、せいぜい頑張ってください。
……連れて行け」
店の裏口から、屈強なドワーフたちが雪崩れ込んできた。
「へっへっへ……。ウチのボスの店に手ェ出すとはいい度胸じゃねえか。たっぷりしぼってやるよ」
「や、やめろーっ! 助けてくれーっ!!」
泣き叫ぶ三人組は、ドワーフたちに引きずられて鉱山へと消えていった。
◇◇◇
「……ふぅ。お騒がせしましたね、リリス店長」
「カズヤ店長……ごめんなさい。私がちゃんと見ていなかったから……」
リリスが申し訳なさそうに耳を伏せる。
「リリス店長のせいじゃありませんよ。あんな連中を採用した俺のミスです。
今後は採用面接の際に、セリアさんに『邪心がないか』の適性検査をしてもらうことにしましょう」
「はいっ! 任せてください、カズヤ店長!」
本店から応援に来ていたセリアが、誇らしげに胸を張った。
真面目に働く従業員には、最高の待遇を。
店を舐める不届き者には、一切の容赦をしない鉄槌を。
Dマートは、今日も活気に満ちて、ダンジョンの冒険者たちを迎え入れるのだった。
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