20:お客様は神様?
聖女セリアという従業員が加わり、Dマートは本店・2号店ともに盤石の体制となっていた。
この日、俺とシルヴィア、そしてセリアの三人は、在庫の補充と視察を兼ねて、中層の2号店へ訪れていた。
相変わらず2号店は大繁盛だったが、店内の一角から不穏な怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、姉ちゃん! この間ここで買ったポーション、全然効かなかったぞ! 不良品じゃねえか!」
レジ前でふんぞり返っているのは、柄の悪い3人組の冒険者だ。
ピカピカの真新しい鎧に、態度のデカさ。典型的な「親の金で装備だけ整えた貴族のボンボン」パーティである。
「……申し訳ありません。ですが、当店のポーションは全て品質検査を通った正規品ですぅ……」
2号店店長のリリスが、極上の営業スマイルを崩さずに対応しているが、男はわざとらしく声を張り上げた。
「うるせえ! 俺の仲間は危うく死にかけたんだぞ! 慰謝料として金貨100枚出せ! あと、誠意としてそこで土下座しろ!」
完全な言いがかり、いわゆるカスタマーハラスメントである。
周囲の客たちが「またあのバカ貴族か……」とヒソヒソ囁き合う。
バックヤードで様子を見ていた俺は、ため息をついてレジ前に出た。
前世のコンビニバイト時代、こういう手合いには嫌というほど遭遇してきた。
『少しでも隙を見せればつけ上がる』
『要求を飲めばエスカレートする』。
それがクレーマーの生態だ。
「いらっしゃいませ。本店の店長の相田カズヤです。リリス、下がっていなさい」
俺はリリスを背後にかばい、男たちの前に立った。
「おう、お前が責任者か! おたくの不良品のせいで――」
「お客様。お買い上げいただいたのは低級ポーションですよね?」
「あ、ああ、そうだ! 傷が全然塞がらなかったんだよ!」
「当然です」
俺はピシャリと言い放った。
「そちらのお客様、最近の探索でレベルが20を超えましたよね? HPの最大値が上がれば、固定値回復の『低級ポーション』では回復量が追いつかなくなるのは常識です。ボトルの裏面にも『レベル15以上の方には中級を推奨します』と注意書きがあります」
俺のスキルで、彼らのパーソナルデータは確認済みだ。
「なっ……! ち、小さくて読めなかったんだよ! 不親切だろ!」
「では、次はこちらの映像をご覧ください」
俺は店内に設置してある防犯カメラの映像を空中に投影した。
『おい、この弁当、虫が入ってたぞ! どう落とし前つけるんだ!』
「こちらは昨日、お客様が当店舗で起こしたクレームの映像です。……お客様ご自身が、ポケットから取り出した『ダンジョン・ゴキブリ』を弁当に混入させる瞬間が、バッチリ高画質で映っております」
「げっ……!?」
男たちの顔から一気に血の気が引いた。
「さらに、当店の食品は全て『最高レベルの浄化魔法』による品質管理を行っております。虫はおろか、細菌一匹すら存在できません。因縁をつける相手を間違えましたね」
ぐうの音も出ないほどの完全論破。
だが、クレーマーという生き物は論破されると、己の非を認めるのではなく「逆ギレ」する本能がある。
「ふ、ふざけるなあああ!!」
男が顔を真っ赤にして剣の柄に手をかけた。
「客に向かってその態度はなんだ! 俺は男爵家の三男坊だぞ! 金なら払ってやってるだろうが!
お客様は神様だろうが! 客を敬え! 今すぐ土下座して誠意を見せろォォ!!」
テンプレのような捨て台詞。
前世の俺なら、波風を立てないために、理不尽と知りながら頭を下げていたかもしれない。
だが、今の俺は、全ての責任を背負うだけの覚悟がある。
従業員を守る、Dマートの店長だ!
「……シルヴィアさん」
「はい、店長。手足の骨、何本ずつ折りますか?」
シルヴィアがニッコリと笑い、エプロンの下から鈍器を取り出した。
物理による出禁処理。それがこの世界の対処法だと思っていたのだが……
「……お待ちください、店長」
俺たちの背後から、エプロン姿のセリアがワナワナと肩を震わせながら出てきた。
彼女の全身から、怒りのあまり「神々しい後光」が漏れ出している。
「セリアさん? 貴女が出る幕では――」
「……聞こえました。今、この薄汚いチンピ……いえ、お客様は、なんとおっしゃいましたか?」
セリアは男の眼前にツカツカと歩み寄った。
「あぁ!? 『お客様は神様』だと言ったんだよ! それが商売の基本だろ!」
「……神を、騙るな!!」
セリアの声が、地を這うように低く響いた。
周囲の空気がピンと張り詰め、魔力が店内に充満する。
「神様というのはですね……!
全ての人々に慈愛を与え、自己犠牲を尊び、無償の愛で世界を包み込む絶対的な存在のことです!
自分の不注意を棚に上げ、自作自演で金をせびり、威圧的な態度で立場の弱い店員に土下座を強要するような浅ましいチンピラが……軽々しく『神』を名乗るなァァァァッ!!」
「ひぃっ!?」
本物の聖女による、ガチの神学的なお説教。
その大迫力に、男たちが後ずさる。
「貴方たちのような腐った魂は、一度綺麗に『お洗濯』する必要がありますね!
【ホーリー・ピュリファイ】!!」
セリアの両手から、強烈な浄化の光が放たれた。
それは男たちを包み込み、彼らの心の中にある「傲慢」「強欲」「虚栄心」といった邪念を、文字通り漂白剤のように洗い流していった。
「ぎゃあああああ……あ……あれ?」
光が収まった後。
そこにいたのは、剣を落とし、憑き物が落ちたように穏やかな顔になった3人の青年たちだった。
「……私、今までなんて恥ずかしいことを……」
「店員さんに横柄な態度を取るなんて、人として最低だ……」
「ごめんなさい、店長さん、店員さん。慰謝料だなんて嘘です。これまでの無礼をどうかお許しください……!」
彼らはとても綺麗な土下座をした後、
「心を入れ替えて、1階層からスライムを狩って真面目に生きていきます……」
と涙を流しながら、互いに肩を抱き合って帰っていった。
「……す、すごいですね、セリアさん」
俺はあまりの鮮やかな手口に感心してしまった。
物理ではなく、精神からの根本的な浄化。これぞ真のカスタマーサポートだ。
「はぁ、はぁ……。すみません店長。私、神様への冒涜だけは許せなくて……」
肩で息をするセリアに、俺は冷たい麦茶を差し出した。
「素晴らしい対応でした。ありがとう。リリスも、よく耐えましたね」
「うぅ……店長ぉ、怖かったですぅ……」
涙目のリリスの頭を撫でてやる。
「いいですか、皆さん。お客様は神様ではありません。当店と対等な『取引相手』です。
理不尽な要求をするクレーマーは、毅然と叩き出してください。責任は全て私が取りますから」
「「「はいっ、店長!」」」
シルヴィア、セリア、リリスの三人が、嬉しそうに声を揃えた。
従業員を理不尽から守る。それが責任者である俺の仕事だ。
クレーマーに毅然と対処し、健全な店舗運営により、俺の店は今日もがっちりと利益と信頼を積み上げていくのだった。
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