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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第二章 ホワイト企業への道

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19/27

19:聖女の初給料

 聖女セリアが『鮮度保持担当』としてDマートで働き始めて、一週間が経過した。

 彼女は相変わらず「これは潜入調査です!」と言い張っていたが、その働きぶりは完璧だった。


「店長! 本日のバックヤード清掃と、冷蔵庫の浄化終わりました! 廃棄ロスは今日もゼロです!」


「素晴らしいですね、リアさん。では、休憩にしましょう。今日のまかないはハンバーグ定食です」

 聖女セリアは、リアと言う偽名で働いている。


「は、ハンバーグ……!? あの、神の肉汁が溢れ出すという伝説の……! い、いただきますっ!」

 目を輝かせて休憩室に駆け込むセリア。


 完全に餌付けされてしまった。

 そして今日は、彼女にとって初めての「給料日」だった。(Dマートの給与は、週払いとなっております)


「お疲れ様です。これが今週分の給料です」

 俺は、銀貨と銅貨がぎっしり詰まった給料袋を彼女に手渡した。


「……えっ? お金、ですか?」

 セリアがポカンと口を開ける。

「当然でしょう。貴女の労働に対する正当な対価です。時給計算で、残業代と深夜割増もキッチリ入れてありますよ」


「労働の、対価……」

 セリアは震える手で給料袋を受け取った。

 その目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。


「私……今まで、朝から晩まで信者たちの怪我を治して、国中の浄化をして回っても……『神への奉仕に金銭など不要』って言われて、対価なんて貰ったこと、なかったのに……」


 なんというブラック企業《教会》。

 『聖女』という名誉だけを与え、衣食住の最低限すら保証せず、タダ働きさせる究極のやりがい搾取だ。


 その時だ。

 ピンポーン…ピンポーン♪

 店の自動ドアが開き、入ってきたのは、豪華な祭服に身を包み、傲慢な顔をした恰幅の良い中年男。

 その後ろには、完全武装の神殿騎士が数名控えている。


「……セリア! こんな所にいたのか!」

「ひっ!? す、枢機卿様……!」

 セリアがハンバーグを口に咥えたまま、ガタガタと震え出した。

 教会のナンバー2であり、異端審問も取り仕切る大幹部だ。


「勇者の調査に行かせたきり戻らないと思えば……なんだその浅ましい姿は!

 おい、騎士団! その愚か者を捕らえろ! 本部に引きずり戻し、三日三晩、不眠不休の浄化の儀式をさせる!」


「はっ!」

 神殿騎士の一人が乱暴に踏み込み、セリアの細い腕を力任せに掴もうとした。

 恐怖で目を閉じるセリア。


 ――だが。

 騎士の手が彼女に届くより早く、俺はセリアを背後に庇い、騎士の腕を弾き飛ばしていた。


「……なっ!?」

 驚く神殿騎士を冷たく睨みつけ、俺は低い声で告げた。

「困りますね……、うちの従業員に気安く触れないでいただけますか」

「き、貴様が魔王軍の店長か! 退け! そいつは我々教会の所有物だぞ!」

 枢機卿が顔を真っ赤にして怒鳴る。


「所有物? 備品扱いですか。……本当に、吐き気がするほどブラックですね」

 俺の脳裏に、前世の記憶がフラッシュバックする。


 熱を出して倒れそうになっても「代わりはいくらでもいる」と鼻で笑い、使い潰してきたかつての上司たち。

 目の前にいる枢機卿は、そいつらと全く同じ「腐った目」をしていた。


「騎士団! 構わん、そいつごと切り捨てろ!」

「御意!!」

 騎士の長剣が抜かれ、鋭い切っ先が俺の喉元に突きつけられる。

 少しでも動けば、首が飛ぶ距離だ。


「て、店長! 逃げてください! 私なんかのアノために……っ!」

 背後でセリアが悲鳴を上げる。

 だが、俺は一歩も引かなかった。

 両手を広げ、彼女を完全に庇う盾となる、すこしチビってるけど。


「逃げるわけがないでしょう。

 ……いいですか、枢機卿。彼女は使い捨ての道具じゃない。この店を支えてくれる、大切な『うちの従業員《宝》』だ」

 俺は剣先を突きつけられたまま、枢機卿を真っ直ぐに射抜いた。


「無給で労働を強い、尊厳を奪う貴方たちに、彼女を連れ戻す権利はない!

 私の店で働く仲間は、たとえ相手が神だろうと魔王だろうと、私がこの命に代えても守り抜く!!」

「店長……」

 セリアの目から、今度は大粒の涙がとめどなく溢れ出した。


 「聖女としての力」ではなく、「一人の人間」として自分を見て、命懸けで守ろうとしてくれる存在。

 彼女の中で、長年縛り付けられていた教会の「洗脳の鎖」が、完全に砕け散った瞬間だった。


「……ええい、ほざけ! やれッ!」

 枢機卿が叫び、騎士が俺の首めがけて剣を振り下ろそうとした――その刹那。

「……うちの店長に、剣を向けましたね?」


 ドゴォォォォン!!!


 凄まじい衝撃音が響き、俺に剣を向けていた騎士が、店の外まで綺麗に吹き飛んでいった。

 いつの間にか俺の前に立っていたシルヴィアが、エプロン姿のまま、冷ややかな銀眼で残りの騎士たちを見据えている。


「な、なっ……!? S級冒険者の『銀眼の戦乙女』!? なぜこんな所に……!」

 枢機卿が腰を抜かして後ずさる。銀眼の戦乙女の二つ名は初耳だな。


「……店長、お怪我はありませんか?」

「ええ、ありがとうシルヴィアさん。さすが警備主任、完璧なタイミングでした。」

「ふふっ。店長のあんな熱い言葉を聞いたら、傷つけさせるわけにはいきませんよ」

 圧倒的な暴力の前に、神殿騎士たちは武器を捨てて震え上がった。


「……あ、あの」

 そこへ、セリアが静かに歩み出た。

 その表情にもう迷いや恐怖はない。あるのは、一人の人間としての確かな意志だ。


「セ、セリア! お前、正気に戻ったか! 早くその売国奴たちを浄化――」

「枢機卿様。私、教会には戻りません。ここで働きます」


「なっ、血迷ったか!?」

「だって教会のベッド、硬くてカビ臭いし!

 ご飯はマズいし!

 休みもないし!

 でもここは……私が頑張った分だけ『ありがとう』って言ってくれて、お給料もくれて、私を守ってくれる『店長さん』がいるんです!」

 セリアは両手を前に突き出した。


「私、今日から『Dマートの鮮度保持担当・セリア』として生きていきます!

 教会の常識なんか、【ホーリー・ピュリファイ】です!!」


 ボッシュゥゥゥッ!!


 セリアの両手から放たれた極太の聖なるレーザーが、枢機卿の顔面を直撃した。

 殺傷能力はないが、邪心や汚れを強制的に「洗浄」する魔法だ。


「ぎゃあああああ!!」

 枢機卿は頭から煙を上げながら、這々の体でダンジョンを逃げ帰っていった。


「……やりました、店長! これでもう、追手は来ません!」

 セリアが満面の笑みで振り返る。

 完全に吹っ切れた、太陽のような笑顔だ。

「お疲れ様です、セリアさん。……素晴らしい決断でした」

「えへへ……。あ、店長! ハンバーグ冷めちゃったので、温め直してもいいですか?」

 神の奇跡を、自らの幸福と店のために使う元・聖女。


 こうして俺の店に、文字通り「神がかった」もう一人の仲間が誕生したのだった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 毎日投稿予定です。ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。


よろしくお願いします!

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