17:黒鉄組合の妨害
500階層に出店した『Dマート2号店』は、連日大盛況だった。
元・落ちこぼれサキュバスのリリス店長による「健全な接客」と、圧倒的な価格競争力。
中級冒険者たちは、もうボッタクリの闇市には見向きもしない。
「店長、すごいですぅ! 本日の売上、目標の200%達成ですぅ❤」
リリスが尻尾をブンブン振って報告してくる。
「いい調子だ。本店ほどの客単価ではないが、回転率が段違いだ。これなら――」
ドゴォーーン!!
その時、店の入り口でゴミ箱が蹴り飛ばされる音が響いた。
行列を作っていた冒険者たちが、怯えたように左右に開く。
「おいおいおい……。随分と派手にやってくれるじゃねえか」
現れたのは、身の丈ほどのハンマーを担いだ、厳つい男たち。
全身に刺青を入れた、ドワーフの集団だ。
「ここは俺たち『黒鉄組合』のシマだぞ?
挨拶もなしに安売りしやがって……商売の仁義ってモンを知らねえのか、あぁ?」
中層の闇市を牛耳るマフィアだ。
彼らは鍛冶師としての腕を悪用し、粗悪な武器を高値で売りつけたり、修理代をふっかけたりして暴利を貪っている。
リリスが「ひぃっ!」と怯えてカウンターの下に隠れる。
俺はため息をつきながら前に出た。
「……いらっしゃいませ。当店は全てのお客様を歓迎しますが、営業妨害なら憲兵を呼びますが?」
「ケッ! 憲兵なんぞに賄賂は回してあんだよ!
おい、この店をブっ壊して、在庫を全部奪え! 商売したけりゃ売上の5割をよこしな!」
ドワーフたちが、殺気立って店になだれ込んできた。
暴力による解決か。野蛮なことだ。
俺は隣に控えるシルヴィアに目配せをした。
彼女はエプロンの紐をキュッと締め直すと、静かに前に出た。
「……お客様。店内ではお静かにお願いします」
「あぁ? なんだこの姉ちゃ――」
ドゴォォン!!
誰も動きを見切れなかった。
先頭にいたリーダー格のドワーフが、一瞬で店の外まで弾き飛ばされていた。
シルヴィアの手には、武器ですらない、先ほどまで調理に使っていた中華鍋が握られている。
「なッ……!? アニキが一撃で!?」
「ひ、怯むな! やっちまえ!」
数人のドワーフがハンマーを振り上げるが、シルヴィアは最小限の動きで躱し、鍋の底で的確に急所を叩いていく。
カーン! ゴン! バコーン!
軽快な金属音が響き、数秒後にはドワーフの山が築かれていた。
S級冒険者相手に、街のチンピラが勝てる道理はない。
「……く、くそっ! 覚えてろよ!」
ドワーフたちは捨て台詞を吐いて逃げ出した。
◇◇◇
だが、彼らの嫌がらせはこれで終わらなかった。
翌日から、客足がピタリと止まったのだ。
「……店長、大変ですぅ。これを見てください」
リリスが泣きそうな顔で一枚のチラシを持ってきた。
【警告:Dマートの商品を持っている冒険者の装備は、今後一切修理しない】
――黒鉄組合――
「……なるほど。鍛冶師の独占権を使ったボイコットですか」
中層において、武器の破損は死に直結する。
修理を拒否されると知れば、冒険者たちは怖くてうちの店を使えない。
物理で勝てないなら経済で締める。なかなかいやらしい手だ。
「どうしますか、店長? こっちも修理サービスを始めますか?」
シルヴィアが問うが、俺は首を振った。
「いえ、技術者の養成には時間がかかります。ここは、相手と同じ土俵で戦いましょう」
俺はニヤリと笑った。
「彼らの『喉元』を締めます」
◇◇◇
数日後。
500階層のドワーフたちの工房地区で、異変が起きていた。
「おい! 酒だ! 酒を持ってこい!」
「す、すみません親方! どこにも売ってないんです!」
ドワーフにとって、酒はガソリンだ。酒がなければハンマーも振れない。
だが今、中層の酒場から全ての酒が消え失せていた。
「な、なんだと!? 闇市にもないのか!?」
「はい! 何者かが、市場に出回る酒を全て買い占めてしまったそうで……!」
さらに、悲劇は続く。
「親方! 『燃料』と『研磨剤』が入荷しません!」
「なんだと!? それがないと炉が動かせねえぞ!」
ドワーフたちがパニックに陥る中、広場のモニターに俺の姿が映し出された。
『中層のドワーフの皆様、こんにちは。Dマート店長です』
俺は画面の中で、極上の火酒「ドワーフ殺し」と、最高品質の「精製済み燃料」を積み上げて見せた。
『現在、当店ではこれらのお酒と資材を独占販売しております。
……ですが、残念ながら「黒鉄組合」の関係者様には販売をお断りしております』
「「「な、なんだとぉぉぉ!?」」」
『欲しいですか? ならば、私の店に来てください。
ただし……分かっていますよね?』
俺が物流を握っているのは500階層だけではない。
本店の999階層(希少資源の宝庫)や、地上とのパイプもある。
彼らが必要とする物資を根こそぎ押さえ、兵糧攻めにするなど造作もないことだ。
◇◇◇
1時間後。
Dマートの前には、土下座をするドワーフたちの列ができていた。
「すびませんでじだぁぁぁ!」
「酒ぇ! 酒をくれぇぇ! 手が震えて仕事にならねえ!」
「燃料がないと商売上がったりだぁ!」
リーダーの男が、涙と鼻水を流して懇願してくる。
俺は冷ややかに見下ろした。
「取引再開の条件は一つです」
俺は一通の契約書を差し出した。
「黒鉄組合は解散。今後はDマートの『修理部門(下請け)』として働いてもらいます。
修理価格はこちらが設定した適正価格。不正や手抜きは一切禁止。
……その代わり、酒と資材は安定供給してあげますよ」
「や、やります! やらせてください! 雇ってください!」
彼らは即座にサインした。
プライドよりも、目の前の酒が勝ったようだ。
「交渉成立ですね」
こうして、Dマート2号店には、新たに「格安・即日修理サービス」が加わった。
食料、ポーション、そして装備のメンテナンス。
中層における冒険者のライフラインは、完全に俺の手の中に落ちた。
「……店長、やっぱり怒らせると一番怖いのは貴方ですね」
シルヴィアが、酒に群がるドワーフたちを見て苦笑いする。
「何を言ってるんですか、シルヴィアさんという最強の用心棒が居るからこそ、私は安心して商売に専念できるのです。
それに彼らとはWin-Winの関係です。
今までは、粗悪な火酒で体を壊していたドワーフも多かったらしいのです。でも私たちの提供する火酒は、魔王軍のお墨付きです。安心して酒が飲めると喜んでいましたよ。
それに彼らも安定した仕事が得られて幸せそうです。」
ドワーフたちと冒険者たちが、店の前で、笑顔で交流している。元の世界では、店頭にたむろする若者たちには、迷惑していたものだが、今は微笑ましく感じている。
俺の心に余裕が生まれたからなのだろうか?
「て、店長!レジのヘルプお願いします!!」
「はーい、今行く!」
順風満帆に見えたDマートだったが、ついに『打倒 魔王』を掲げる王国の聖教会が動き始めていたのだった。
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