16:二号店
魔王軍四天王・ヴォルグの直轄店舗となり、本部の制約から解き放たれた俺は、次なる一手に打って出た。
多店舗展開だ。
「店長、次は500階層に出すんですか? ここからだとかなり遠いですよ」
シルヴィアが、ダンジョンの断面図を見ながら尋ねる。
「ええ。999階のここは、客単価は高いですが客数が限られています。
ですが500階は、初級を卒業した中級冒険者が最も長く滞在する『魔の中層』。ここで物資を独占できれば、利益の桁が変わります」
500階は、ダンジョン攻略の大きな壁だ。
ここを拠点にする冒険者は数千人。彼らは常に、安くて腹持ちの良い飯と、惜しみなく使える低価格なポーションを求めている。
◇◇◇
俺とシルヴィアは、転移魔法で視察のために500階のセーフティゾーンへと向かった。
そこは、熱気と活気に満ちていたが……同時に、酷い惨状でもあった。
「さあ買った買った! ポーション、今なら金貨1枚だ!」
試しに買ってみたが、ひどい濁りと、臭いのする粗悪品だった。逆に体調を崩しそうだ。
「サービス品の干し肉! 安いよ安いよ!」
腐りかけていて、カビや変色がみられる廃棄品だ。
悪質なゴブリンの行商人や、武装したドワーフの闇市が、粗悪品を法外な値段で売りつけている。
中級冒険者たちは、悔しげに顔を歪めながらも、生き残るためにそのボッタクリ品を買わざるを得ない状況だった。
「……酷いですね、店長。私たちの商品を知ったら、みんな泣いて喜ぶでしょうね」
「ええ。ですが、問題はスタッフです。俺は999階を離れられません。信頼できて、なおかつ中層の荒くれ者たちを捌ける人材が必要です」
俺が周囲を見渡すと、路地裏のゴミ捨て場でうずくまっている一人の女がいた。
薄汚れた翼と、力なく垂れ下がった尻尾。サキュバスだ。
「……あうぅ、お腹すいた……。誰か、誘惑に乗ってよぉ……」
彼女は冒険者を誘惑して精気を吸うはずの魔物だが、あまりにガリガリに痩せ細っている。
「どうしたんですか、こんなところで」
「……え? あ、貴方、人間? ……お願い、私の誘惑に乗って……。今ならサービスで、耳元で愛の囁きを……。だから、パンを一口、ちょうだい……」
誘惑というより、もはや物乞いだ。
「彼女、『落ちこぼれのサキュバス』ですね」
シルヴィアが分析する。
「最近の冒険者は効率重視ですから。サキュバスの誘惑にかかってタイムロスするより、ポーション飲んで先に進む奴ばかりなんです。彼女たち、今や絶滅危惧種ですよ」
俺は、彼女の中に最高の接客業の素質を見た。
人の心を読み、好感度を稼ぐ。それはサキュバスの本能だ。それを「誘惑」ではなく「おもてなし」に転用したらどうなるか。
「君、名前は?」
「……リリス、です……」
「リリスさん。パンをあげる代わりに、うちの店で働きませんか?
精気を吸うのは禁止ですが、『お客様に笑顔を振りまいて、リピーターを作る』のが仕事です。たまに現物支給もありますよ!」
「……え!? 本当!? パン、食べ放題!?」
リリスの瞳に、パッと光が宿った。
「食べ放題とは言ってないが……」
◇◇◇
一ヶ月に及ぶ熾烈を極めた研修の後……
ついに500階の広場に、突如として白い清潔な建物が出現した。
『Dマート・500階層店 本日開店!!』
本店と支店をつなぐ転移魔法陣を設置しているので、本店のスケルトンを助っ人して支店へ派遣することもできる。
開店と同時に、俺は目玉商品を店頭に並べた。
「おにぎり、全品銅貨1枚! 揚げたてチキンもあります! ポーションは定価で販売中!」
周囲のボッタクリ商人が「営業妨害だ!」と怒鳴り込んでくるが、店長候補のリリスが一歩前に出る。
彼女は、店長に支給された清潔な制服をバシッと着こなし、極上の営業スマイルを浮かべた。
「いらっしゃいませぇ❤ 本日は500階層店のオープン記念ですぅ。
粗悪品を買うより、うちの『100円おにぎり』の方が、絶対に元気が出ますよぉ?」
「「「うおおおおお! 買う! 全部買うぞぉぉ!」」」
中級冒険者たちが、リリスの魅力と圧倒的な安さに釣られ、雪崩のように店に押し寄せる。
ゴブリン行商人たちは、その勢いに押されて文字通り蹴散らされていった。
「……すごい勢いですね。客数は本店の比じゃない」
来客を知らせるチャイムが鳴り止まない。その光景を見て、俺は手応えを感じた。
500階層を通る全冒険者が、俺の店の飯を食べ、俺の店のポーションを飲む。
一歩ずつ冒険者たちへ、Dマートの商品の安全性と味を周知していく。それが、俺の店のブランド価値の向上へと繋がるのだ。
まだ魔王城の買収への道は始まったばかりだ……
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