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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第二章 ホワイト企業への道

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15:四天王の来襲

 3月。

 SVを撃退してから数日。俺は宣言通り、店の価格設定をすべて適正価格に変更した。


 ポーションを銀貨2枚、おにぎりを銅貨1枚。

 その結果、最下層の市場に劇的な変化が起きた。


「いらっしゃいませ。……勇者様、またお越しですか」

「ああ……。安くなったからな、拠点のキャンプに戻るより、ここでポーションを10本まとめ買いして、上の階層の探索を継続したほうが効率がいいんだ」

 そう、安くなったことでわざわざ地上へ戻る理由がなくなったのだ。


 さらに、冒険者だけでなく、非番のスケルトンや魔王軍の兵士たちも、自分の小遣いでチキンや、雑誌を買いに来るようになった。


 そんなある日…

 店内の空気が物理的に凍結し、窓ガラスに霜が走る音が響いた。

 氷の魔力を纏い現れたのは、魔王軍四天王が一角、『氷結のヴォルグ』。


「……貴様が店長か」

 ヴォルグの声は、聞くだけで心臓が凍りそうなほど冷たい。


 彼の後ろでは、先日追い返したSVが「こいつです! 安売りをして軍の利益をドブに捨てている反逆者は!」と喚いている。


「……魔王軍にとって、利益の損失は万死に値する」

 ヴォルグが冷徹な眼差しで俺を射抜く。

「独占企業である我々が、なぜわざわざ値下げをする必要がある? 高くても客は買うだろう。貴様の行為は背任だ。

 ……申し開きはあるか?」

 俺は平然と、ストアコンピューターの画面を彼に向けた。


「ヴォルグ様。私は利益を減らしてなどいません。むしろ、拡大させています」

「……ほう? 単価を下げて、どうやって利益が増える?」


「簡単な理屈です。……以前の『ボッタクリ価格』時代のデータをご覧ください。

 客は『死ぬ直前』にしかポーションを買いませんでした。一回の探索で売れるのは平均1本。

 さらに、高すぎるせいで冒険者はすぐに地上へ帰り、魔物たちは空腹で士気が下がっていました」

 俺は、現在のデータを提示した。


「ですが、適正価格にしたことで、彼らは『この店を拠点』にし始めました。

 地上に戻る時間を惜しみ、浮いた金で『おにぎり』を買い、『おやつ』を買い、予備の『ポーション』をダースで買っていく。

 さらに、魔王軍の兵士たちも、今や食事の半分を当店の惣菜で済ませています」

 俺はグラフの「利益率」ではなく「総利益」を指差した。


「一人あたりの購入点数が、以前の20倍以上に跳ね上がりました。

 高く売って一回きりの取引で終わるより、安く売って『この店なしでは生きられない体』にする。

 ……結果、純利益は先月比で5倍を記録。在庫回転率は魔王軍全施設でナンバーワンです」


「……ッ!?」

 ヴォルグが眼鏡を押し上げ、数秒で膨大なデータを精査した。


「……完璧だ。

 在庫回転率、リピート率、廃棄ロス率。全ての指標において、現在の方が圧倒的に優れている。

 私が浅はかだったようだ。貴様は利益を捨てたのではない。

 『より大きく、長く搾り取る』ために、あえて適正価格という餌を撒いたのか」


「ご明察の通りです」

 (本当は良心に目覚めただけだが、そういうことにしておこう)

 ヴォルグは踵を返し、後ろで震えているSVを見下ろした。

「……おい」

「は、はいぃ!」


「貴様、この店長を『無能』と言ったな?」

「あ、いや、その……」

「これほどの利益を出せる有能な人材を、貴様の浅知恵で潰そうとした。

 さらに、先月までのデータを見る限り……貴様、店舗からの送金記録と本部への報告にズレがあるな?

 売上の一部を着服していたな?」


 ヴォルグが指をパチンと鳴らした。

 カチコチコチ……!


「あ、が……!?」

 一瞬だった。

 SVの身体が足元から瞬時に凍りつき、恐怖の表情を浮かべたまま、巨大な氷像へと変わった。


「無能かつ、横領犯。……解凍されるまで、倉庫で頭を冷やしておけ」

 ヴォルグは氷像を一瞥もしない。

 そして、俺に向き直り、懐から漆黒のバッジを取り出した。


「店長。貴様の経営手腕を評価する。

 今日からこの店は、SVの管轄を外れ、私の『直轄特務店舗』とする」

「……よろしいのですか?」


「構わん。貴様のやり方の方が、軍の金庫が潤うからな。

 ノルマや運営方針は全て一任する。……好きにやれ」

 ヴォルグはバッジをカウンターに置くと、レジ横にあった「新作の高級チョコ」を一つ手に取った。


「……ちなみに、これはいくらだ?」

「銀貨5枚です」

「適正だな」


 チャリン。


 ヴォルグは代金を置くと、氷像になったSVを片手で軽々と引きずりながら、店を出て行った。

 

「……期待しているぞ」

 去り際に残した言葉だけは、少しだけ温度があった気がした。


「……ふぅ。なんとかなりましたね」

 俺は大きく息を吐き、カウンターに突っ伏した。

 シルヴィアが、安堵の表情で近寄ってくる。

「すごいです店長! あの四天王を、数字だけで納得させちゃうなんて!」

「数字は嘘をつきませんからね」


 俺は、新たに手に入れた『直轄店舗』のバッジを握りしめた。

 

 SVという重石は消え、四天王のお墨付きも得た。

 これでようやく、誰にも邪魔されず、本気で「商売」ができる。


 俺は売上帳の新しいページを開いた。

 そこには、『目標:魔王城の買収』という文字が、薄くだが、確かに刻まれていた。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 毎日投稿予定です。ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。


よろしくお願いします!

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