13:俺の経営は間違っていた件 前編
2月14日。
この日は、製菓業界が仕掛けた「愛と欲望」の収穫祭だ。
その収穫祭を、異世界でも行う。前回の恵方巻同様に、ブームを作り出すのだ。
「店長、値付けはどうしますか?」
シルヴィアが、可愛らしくラッピングされたチョコを指差す。
中身は、ダンジョンの薬草を練り込んだだけの、原価数十円のチョコだ。
「そうですね……金貨3枚(30万円)でいきましょう」
「高っ!? さすがにボッタクリすぎじゃ……」
「いいんです。私が売りつけますから。
それに、回復効果があると言えば、冒険者は背に腹は代えられません」
俺は冷徹に言い放った。
ここは魔王軍の最前線基地。客はカモ。俺は搾取する側の人間だ。
かつて、日本のブラック企業で搾取され続けた俺は、この世界では奪う側に回ると誓ったのだ。
◇◇◇
開店と同時に、客たちがやってきた。
ピンポーン…ピンポーン♪
店頭に張ってあるバレンタインのポスターをジッと見つめる『暁の獅子団』のリーダー。
「よう、店長。このチョコくれよ」
「いらっしゃいませ。そちら限定品ですので、金貨3枚になります」
「うっ……高ぇな。まあいいや、俺たちの命綱だしな。3つくれ」
彼は苦笑いしながらも、文句を言わずに金を払った。
そして、チョコを受け取ると、懐から何かを取り出した。
「あと、これやるよ」
「え?」
渡されたのは、無骨な革袋に入った「砥石」だった。
「いつも遅くまで店開けてくれてありがとな。これ、俺が愛用してる手入れ道具なんだけどよ、包丁研ぐのに使ってくれ。
店長の作るカツカレー、美味いからさ」
「あ……ありがとう、ございます……」
予想外の感謝に、俺は少し戸惑った。
彼らにとって俺は、ライフラインを握る「悪徳商人」のはずだ。なのに、なぜ?
次に現れたのは、勇者レオンだ。
彼はいつものように、くじを引きまくり、ハズレくじの山を作った後、レジに留まった。
「店長。これ」
彼がカウンターに置いたのは、ダンジョンの深層にしか咲かない「月光草」の押し花だった。
換金価値はないが、淡く光る美しい花だ。
「……勇者様、これは?」
「バレンタインだろ? 男から渡すのも変だが……いつも僕の愚痴を聞いてくれる礼だ。
この店に来ると、少しだけ『勇者』じゃなくて『ただのレオン』に戻れる気がするんだ」
勇者は照れくさそうに鼻をかいた。
「まあ、ボッタクリ価格にはムカつくけどな!
でも、それに見合う価値はあるよ、この店には」
――価値はある。
その言葉が、俺の胸にチクリと刺さった。
最後に、冥界の女帝・アナスタシアがやってきた。
「フン、貴様のような守銭奴に恵んでやるつもりはないが……部下たちがうるさくてな」
彼女は、スケルトンたちが作ったという、骨を削り出した「ボールペン」を投げ渡してきた。
「『我らの新しい職場を作ってくれた感謝です。レジ係とても楽しい』
だとさ。
……お前だけずるい……
大事に使ってやれよ!」
◇◇◇
閉店後。
俺はカウンターに並んだ「砥石」「押し花」「骨のペン」を見つめていた。
その横には、俺が売りつけた「原価数十円・売価30万円のチョコ」の売上金がある。
「……あいつら、お人好しすぎるでしょう」
俺は独り言ちた。
俺は彼らを「カモ」としか見ていなかった。
必要以上に高い値をつけ、射幸心を煽り、依存させ、骨の髄までしゃぶり尽くすつもりだった。
だが、彼らは俺を「店長」として信頼し、感謝してくれている。
この店を「オアシス」だと言ってくれた。
「……これじゃあ、まるで」
脳裏に浮かんだのは、前世の記憶。
おにぎりセールだからと普段の3倍以上の発注をさせ、大量の廃棄を生み出すSV。
急な欠員で、長時間働いているのに、打ち合わせだと言って、更に労働時間を増やすSV。
そして異世界に転移させられ、今に至る……。
利益のためなら、部下の心も顧客の信頼も踏みにじる、あの本部の連中。
今の俺は、あいつらと同じ顔をしていないか?
お前がやりたかったのはそんな店なのか?!
俺は、やっと過ちに気がついた。
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