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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第一章 悪徳店長

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12/27

12:この世界でも恵方巻きを根付かせる。

 2月。

 元居た世界では、小売業にとって2月は売上がさがる時期だった。

 異世界のDマートでも、それは一緒のようで極寒のダンジョンでは客足が途絶え、売上が下がる。

 そんな折、本部のSVから「特別配給」が届いた。


「おい店長。魔王城の倉庫を整理していたら出てきた『備蓄米』だ。特別に格安で卸してやるから、全部さばいておけ」

「……SV。これ、いつの米ですか?」

 ドサリと置かれた麻袋からは、、古びたぬかの臭いが漂っている。

 鑑定するまでもない。数年経った「古古米」だ。

 元の世界で食べたときにも、糠臭さを感じ、あまり美味しいと思わなかったのだが……


「文句を言うな! これもノルマだ! 廃棄すれば査定に響くぞ!」


 SVはそう言い捨てて足早に去っていった。

 残されたのは、山のような米。

 普通に炊いて弁当の米にして出せば、客からクレームが起こるかもしれない。


「……どうします、店長。これ、チャーハンにしでもしますか?」

「……そうですね。でもこれだけの量を消化するのは……、あっ!あれを試してみるか……」

 俺はニヤリと笑った。


「酢飯にすれば、古米特有の糠臭さは消えます。むしろ、水分の抜けた古米の方が酢をよく吸って、寿司には合うんです」

「すーしー……ですか?なにそれ?」

「私の国の国民食?ですかね。

 地下水脈に大量発生して困っている『マッド・クラーケン』と、『ドラゴンの赤身』も大量に残ってますね……。」


 2月のコンビニ業界の商材として思い浮かぶのが、恵方巻とバレンタインだ。

 かつて日本のコンビニ業界が、閑散期の2月に売上を作るために仕掛けた、マーケティング戦略。

 ある地方の風習を、さも「昔からの伝統」であるかのように宣伝し、全国民に太巻きを食わせたあの一大イベント。


「……シルヴィアさん。ポスター用の紙と筆を用意してください」

「へ? 何を書くんですか?」

「イベントを作ります。」


◆◆◆


 翌日。

 店の前には、禍々しい筆文字で書かれた巨大な看板が掲げられた。


【2月3日は『魔王節』! 今年の恵方は『北北西』!】

~東の国に伝わる開運の儀式~

『開運・恵方巻き』を無言で丸かじりして、願いを叶えよう!

価格:金貨1枚(約10万円)


「……店長、これ本当にある行事なんですか?」

「さあ? 少なくとも私の故郷では、コンビニが流行らせるまでは誰も知りませんでしたよ」


 俺は、クラーケンの足を煮付け、ドラゴンの赤身を漬けにし、魔界米で太巻きを大量生産しながら答えた。

 中身はただの海鮮太巻きだ。だが、それに物語を付加することで、価値は何十倍にも跳ね上がる。


 まずは、身内から攻める。


ピンポーン……ピンポーン♪


 SVエリアマネージャーのアークデーモンが、寒そうに店に入ってきた。

「おい店長。寒いな……売上はどうだ? 客が来なくて困ってるんじゃないか?」

「いえいえ、SV。当店は『魔王節』の準備で大忙しですよ」

「まおうせつ? なんだそれは」


 俺はもっともらしく説明した。

「東方の島国に伝わる、古代の儀式です。

 この時期に、特定の具材を巻いた太巻きを、その年の恵方(今回は適当だ)を向いて、無言で一気に食べ切るのです。

 そうすれば、『出世』と『必勝』が約束されるとか」


「な、なんだと!? 出世だと!?」

 万年平社員のSVが食いついた。


「ええ。実はこれ、魔王軍の士気を高めるための『兵糧』としても最適なんです。

 全員で同じ方向を向き、無言で飯を食う。これほど統率の取れた軍事演習はありませんよ?」


「た、確かに……! よし、深層部隊の分、全品買い取ろう! 経費で落とす!」

「毎度あり! 1,000本ご予約です!」

 チョロい。

 次は、「あの方」だ。


冥界の女帝・アナスタシアを呼び出した。


「……ほう。これを食べれば『願い』が叶うのか?」

「はい。特にこの『クラーケンのコラーゲン』は、美容とアンチエイジングに効果絶大。

 さらに、部下のスケルトンたちに食べさせれば、骨密度が高まると言われています」


「骨密度……! それは重要だ。最近、あやつら骨粗鬆症気味だからな」

 スケルトンに消化器官があるのかは謎だが、女帝は納得した。

「よかろう。冥界軍団の分、5万本注文する! 支払いはこの『オリハルコンの塊』でいいか?」

「ありがとうございます!」


◆◆◆


 ピンポーン…ピンポーン♪


 勇者レオンが、ふらりと来店した。

 彼は最近、くじ引きの「ハズレ」でもらえるうまい棒を主食にしている。


「いらっしゃいませ。……お客様、最近『運気』が下がっているようですね」

「……ああ。最近、くじの当たりが出ないんだ」

「そんな貴方に朗報です」


 俺は、恵方巻のチラシを差し出した。


「このチラシに載っている恵方巻きを、『北北西』に向かって無言で食べきれば、『金運』と『ドロップ運』が爆上がりすると言われています」

「!!」

「ただし、途中で口をきくと効果が消えます。絶対に喋ってはいけません」


「……買う。言い値で買おう」

 勇者は即決した。


 彼を見ていた『暁の獅子団』のリーダーも、「俺たちもあやかるか。次のボス戦、無傷で勝ちたいしな」と、人数分を購入していった。

 その後も暁の獅子団のリーダーの伝手で、日毎に予約数が増えていく。


 上手く行き過ぎた……、予約数は52121本……。この量は俺のスキルを使っても作れる量ではない。これだけの量を、一体どうやって作るのか。


「シルヴィアさん。アナスタシア様に連絡を。

 世界一清潔な食品工場を立ち上げると伝えてください」


◇◇◇


 数時間後。

 店の裏に作った簡易的な倉庫は、異様な光景になっていた。


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ……。


 一糸乱れぬ動きで、酢飯を広げ、具を乗せ、海苔で巻いていく作業員たち。

 その正体は、冥界の女帝から借り受けたスケルトン兵団だ。


「……ほう。余の精鋭部隊を厨房で使うとはな」

 視察に来たアナスタシアが、呆れ半分、感心半分で眺めている。


「ご覧ください、アナスタシア様。彼らこそ、食品加工における究極の労働力です」

 俺は胸を張ってプレゼンした。


「人間や獣人が調理すると、どうしても『髪の毛』や『体毛』が混入するリスクがあります。

 しかし! 彼らには毛が一本もない!」


「!! な、なるほど……!」

「さらに汗もかかない!

 垢も落ちない!

 疲れを知らない!

 これほど衛生管理が徹底された工場は、この世界の何処にも存在しません!」

 実際には骨の粉が落ちるかもしれないが、まぁ、カルシウムだ。そこは黙っておく。


 アナスタシアは深く頷いた。

「うむ、よかろう。期間限定のスケルトンの派遣を許可しよう。」

「ありがとうございます。アナスタシア様、お約束のこちらを……」

 俺はこっそりアナスタシアにバレンタインの試作品を手渡した。


「新作のスイーツです。今回のお礼です。」

「ふふ、そちも分かっておるのう」

「まだ販売前ですので、極秘でお願いしますね」

「秘密は大好きじゃ」

 二人で見つめ合い、ほくそ笑む。

「二人で何やってるんですか……」

 シルヴィアには、怪訝な顔で見られていた。


◆◆◆


 そして、2月3日。

 ダンジョン最深部の広場は、異様な熱気に包まれていた。

 地平線を埋め尽くす、5万体のスケルトン軍団。

 そして、それに対峙する勇者と冒険者たち。

 普段なら殺し合うはずの両陣営が、今は武器を置き、全員が同じ方向――『北北西』を向いて整列している。

 その手には、黒々とした太巻き。


「……総員、構え!」

 アナスタシアの号令が響く。

 ザッ! 5万の骸骨が一斉に太巻きを口元へ運ぶ。


「……食せッ!!」

 ガブッ! ムシャムシャムシャ……

 カクカクカク……(骨の音)


 異様な咀嚼音だけが広場に響く。

 誰も喋らない。喋れば「願い」が逃げると信じているからだ。

 

(……くっ、冥界軍の奴ら、なんて規律だ。微動だにせず、一心不乱に噛み砕いている……! やはり強敵だ!)

 と、勇者側が戦慄し。


(……人間どもめ、我らと同じ量を顔色一つ変えずに……! なんと恐ろしい食欲!)

 と、アナスタシアも恐怖していた。


 お互いが勝手に「相手の覚悟」を読み取り、緊張感が高まる中、全員が完食した。


「……ぷはっ!」

「……食ったぞ! これで次のガチャはSSRだ!」


 ドッ、と歓声が湧き上がる。


 成し遂げた。敵味方の垣根を超えた謎の達成感と、満腹感がそこにはあった。


◇◇◇


 翌日。

 店には「願いが叶った!」という報告が相次いだ。


「店長! 今日のくじで『A賞』が出たぞ! やっぱり効果あったんだ!」(勇者)


「店長! 肌のツヤが良い気がするぞ! スケルトンの骨も白くなった!」(女帝)


「店長! 昨日の行軍(一糸乱れぬ食事)を魔王様が褒めてくださった! ボーナスが出たぞ!」(SV)


 ……まあ、全てはプラシーボ効果《思い込み》だ。

 だが、顧客が満足し、在庫がなくなり、店が儲かったのなら、それは「真実」になる。


「大成功ですね、店長」

 シルヴィアが空になった倉庫を見て微笑む。

「ええ。これで来年からは、宣伝しなくても勝手に売れますよ」


 俺は売上帳に『2月:過去最高益』と書き込んだ。


 こうして、ダンジョンには「節分には恵方巻きを食う」という謎の文化が定着した。

 それが、異世界から来たコンビニ店長の「口から出まかせ」だったと知る者は、誰もいない。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 毎日投稿予定です。ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。


よろしくお願いします!

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