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ダンジョン最深部にコンビニが? ~金払いのいいA級パーティを「太客」に囲い込み、その売上でブラックな魔王軍を買収して、俺が新しい魔王になります~  作者: たくみ
第一章 悪徳店長

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11/27

11:魔王軍カード・ゴールド

 Dマネーの普及と、暁の獅子団や勇者レオンと言った太客により、店の売上がある程度読めるようになっていた。


 だが、安定は時に「油断」を生む。

 その日、俺はバックヤードで在庫整理をしていた。

 店内のドーム型の防犯用水晶カメラには、平和な光景が映っている。


 キーボードを、カチカチと小気味の良い音を立てて、レジ打ちをするスケルトン。

 自分の包帯をクイックルワイパーのようにして掃除するミイラ男、そしてイートインスペースで、ケルベロスのぬいぐるみを向かいの席に座らせ、ニコニコしながら新作プリンを食べている勇者レオン。

 ……平和だ。勇者も日毎に人の心を取り戻している気がする。


 ピンポーン…ピンポーン♪


 不意に、店内の空気が変わる。

 自動ドアから入ってきたのは、漆黒のドレスに身を包んだ幼女――いや、数千歳を超えるアンデッドの頂点。


 『冥界の女帝』アナスタシアだ。


「……おい、店長。どういうことだ」

 彼女はいきなり不機嫌そうに、俺を睨みつけた。


「いらっしゃいませ、アナスタシア様。……何か不備がございましたか?」

「不備ではない! 余の可愛い部下たちのことだ!」

 彼女は、レジで働いているスケルトンを指差した。


「いつまで経っても『ネクロポリス』に帰ってこぬから、心配して様子を見に来れば……なんだあの姿は! なぜ余の近衛兵が、あんな笑顔で接客をしておる!」

「ああ、彼らですか。非常に優秀ですよ」

 俺は淡々と答えた。


「24時間文句も言わず、マニュアル通りに動く。今や彼らは、貴方の命令よりも当店の勤務マニュアルを絶対遵守しています」

「な、なんだと……!? 余の支配ドミネーションより、コンビニのマニュアルが上だと言うのか……!?」

 アナスタシアがショックを受けてよろめいた。


 かつて西の大陸を滅ぼした軍団が、今では「いらっしゃいませー」と声を揃えているのだから、無理もない。


 その時。

 アナスタシアの視線が、イートインスペースの一角に止まった。

「……む? あの黄金の鎧……そこの人間、まさか勇者か?」

 彼女の深紅の瞳が細められる。

 勇者レオンは、スプーンを口に運んだまま、きょとんとしていた。


「ん? ああ……君は、冥界の女帝と名高いアナスタシア、君もプリンを食べに来たのかい?」

「貴様……! 宿敵である余の前で、なんと隙だらけな……!」


 ドォォォォン!!


 アナスタシアの背後から、漆黒の瘴気が噴き出した。

 即死魔法の詠唱が始まる。


「死ね、勇者よ! ここで貴様を葬れば、世界の戦力バランスが変わる……即ち好機!!」


「お客様! 店内での戦闘行為は固くお断りしております!」

 俺はカウンターを乗り越え、二人の間に割って入った。


「当店は中立地帯です! もし暴れるなら、内装の修繕費とクリーニング代として、金貨500枚を請求させていただきます!」

「……ご、500枚だと? ぼったくりではないか!」

「あと、出入り禁止にします!!」


「むぅ……それは……困る」

 アナスタシアは矛を収めた。

 ここを追い出されれば、あの時の甘味が楽しめなくしな。


「……フン。命拾いしたな、人間。

 店長よ、余は腹が減った。前回の約束通り、『新作』はあるのだろうな?」

「もちろんです。貴方様のために、とっておきのスイーツをご用意しました」


 俺は冷蔵ケースから、黄金色に輝く瓶を取り出した。

『不死鳥の卵を使った、濃厚焼きプリン(カラメルソース増量)』

不死鳥フェニックスの卵だと!? そんな希少な食材を……!」

「ええ。永遠の命を持つ貴方には、同じく永遠の象徴である食材がふさわしいかと」


 本当は、賞味期限切れ間近の卵をシルヴィアが大量に拾ってきただけだが。

 アナスタシアはスプーンでプリンを掬い、口へと運ぶ。


「……んんっ……❤」

 刹那。

 彼女の全身が発光した。

「熱い……! 冷たいプリンなのに、喉を通るたびに生命の炎が燃え上がるようだ!

 死んでいた余の味蕾みらいが、生きる喜びを叫んでおる!」

 彼女は夢中でプリンを平らげた。


 その横で、勇者も「わかる、ここのプリンうまいよな」とぬいぐるみに語りかけている。

 奇妙な連帯感だ。

 食べ終えた後。

 勇者が席を立ち、レジに向かった。


「ごちそうさま。……支払いはこれで」

 彼が出したのは、魔王軍カード(Dカード)だ。

 端末にかざす。


 バウ・ワウ・ワンッ!


「よし。ポイントも貯まったな」

 勇者は満足げに店を出て行った。

 それを見ていたアナスタシアが、俺の袖を引っ張った。


「おい、店長。なんだあの板は」

「『Dカード』です。現金をチャージして使う会員証ですよ」

「……余も欲しい」

「お作りしますか?」

「普通のはいやじゃ!」

 彼女は即座に否定した。


「あの人間と同じなど不愉快だ! 余は冥界の女帝だぞ?

 もっとこう……特別で、高貴で、支配者にふさわしいものでなければならぬ!」

 ……面倒な客だ。


 だが、これはチャンスでもある。

 俺はニヤリと笑い、バックヤードから「あるカード」を取り出した。


「ございますよ、アナスタシア様。

 選ばれたVIPのみが持つことを許される、『Dカード・ブラック』が」

 それは、漆黒のベースに、金箔でドクロのエンブレムが刻印された、厨二病全開のデザインだった。


 実は以前、シルヴィアが「カッコイイから」という理由で作った試作品だ。


「おお……! 美しい! これぞ余にふさわしい!」

「ただし、こちらは発行手数料として金貨100枚を頂きます。その代わり、ポイント還元率は通常の2倍。さらに……」

 俺は声を潜めた。

「このカードをお持ちの方のみ、特別優待サービスとして、特別なサービスが受けられます。」

「ほ、ほう……そのサービスとは?」


「店員のスケルトンたちへの『優先命令権』が与えられます」

「なっ……! 余の部下を動かすのに、金がかかるのか!?」

「彼らは今、当店の従業員ですからね。ですが、このカードがあれば混雑したレジの行列を無視して、レジ打ちをしてもらえます!」

 まぁ、うちの店で行列ができることは、ほぼないけど……


「……ぐぬぬ。商魂たくましい男よ。だが……いいだろう」

 アナスタシアは懐から、巨大な宝石を取り出し、カウンターに置いた。

「これでチャージせよ! あの勇者よりも多くな!」

「かしこまりました。……査定額、金貨5,000枚分、発行手数料を引いて4,900枚分チャージいたします」

 俺は宝石を受け取り、ブラックカードを手渡した。


「……ふふふ。見よ、この輝き」

 アナスタシアはカードを掲げ、うっとりとした表情を浮かべた。天井を見上げ、両手を広げくるくると回転する。


「これで余も『上級会員』だな。……おい、そこの骨ども!」

『ハッ!』

 レジ打ちのスケルトンたちが、ビシッと敬礼する。


「余は帰るぞ! しっかり働け! ……そして、たまには顔を見せにこい!……心配するじゃろうが…」

『ギ、ギョイ!』

 アナスタシアは満足げに、漆黒のローブを翻して去っていった。


 その手には、しっかりと新作プリンのテイクアウト袋が握られていた。


◇◇◇


「……ちょろいですね、あの女帝」

 一部始終を見ていたシルヴィアが呆れている。

「いいお客様ですよ。プライドの高い方には、それに見合った『特別感』を売ればいいんです」

 俺はレジの中に転がる巨大な宝石を磨いた。

 勇者と魔王軍、そして第三勢力の女帝。

 すべての財布の紐を、この店…いや俺が握ってやる!


「さて、そろそろクリスマスの商戦準備でも始めますか」

 ダンジョンに季節はないが、イベントにかこつけて物を売るのは小売の基本だ。

 俺は、次の集金計画を練り始めた。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 毎日18時に更新予定です。ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。


よろしくお願いします!

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