思わぬところから
小さな一歩でも、
続けていれば誰かに届く。
そのことを、
男は、まだ知らなかった。
男の畑の噂は、
少しずつ広がっていた。
「ここの野菜、おいしいよ」
そんな一言が、
また別の誰かへ伝わっていく。
男は、
そのことを知らなかった。
いつも通り畑に出て、
土を耕し、野菜を見ていた。
ある日。
見慣れない車が、
畑の前で止まった。
車から降りてきたのは、
一人の男だった。
「ここで野菜を作っている方ですか?」
「はい……そうですが」
男は、少し驚いた。
「実は、あなたの野菜の話を聞きまして」
「私の……野菜を?」
「一度、
お話を聞かせてもらえませんか?」
男は、
すぐに答えなかった。
頭に浮かんだのは、
あの日の言葉だった。
「そんな小さな畑で、何になるんだ」
男は、畑を見た。
まだ、小さい。
まだ、何も大きなことは成し遂げていない。
それでもーー
ここまで続けてきた。
男は、ゆっくり顔を上げた。
「…僕でよければ」
その頃。
あの成功した男のもとにも、
一つの話が届いていた。
「最近、あいつの野菜が
評判になっているらしいですよ」
成功した男は、
一瞬黙った。
「……あいつが?」
小さくつぶやいた。
二人の道は、
また、少しずつ近づき始めていた。
小さな評判が、
次の出会いを連れてきた。
男の人生は、
少しずつ動き始める。




