↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が静かに分かれはじめた日ー先に高く積み上げた者と、静かに深く根を張った者ー  作者: suu369


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/31

父が反対する理由

誰かを止める言葉には、理由がある。


けれど・・・。


その理由が正しいとは...限らない。

「父が、反対している......?」


早く成功した男は、取引先の男に聞き返した。


「そうだ。

 君たちが...組むことを、よく...思っていない」

「なぜですか?

 俺は、もう...父の名前に頼るつもりは、ありません」


その言葉に、男は、少しだけ目を細めた。


「それを...君のお父さんに直接伝えたのか?」


早く成功した男は、黙った。


まだ...伝えていなかった。


自分の中では...決めたつもりだった。


だが...


父親に向かって、

自分の言葉で話すことからは...逃げていた。


隣で聞いていた農家の男が口を開いた。


「一度、話したほうがいいんじゃないか」

「お前は、知らないんだ。

 うちの父がどんな人間か」


思わず...強い口調になった。


農家の男は、言い返さなかった。


「そうだな。俺は、知らない。

 お前が本当は、何を考えてるのかも、

  まだ...全部は、知らないよ...」


その言葉に、早く成功した男は、顔をふせた。


自分のことなのに...。


自分の気持ちさえ、うまく説明できない。


それが...悔しかった。


その日の夕方。


早く成功した男は、久しぶりに父親のもとを訪ねた。

父親は、書類から...目を離さずに言った。


「畑の男と、まだ...一緒に仕事をするつもりか?」

「......ああ」

「やめておけ」

「理由を聞かせてくれ」


父親は、そこで初めて顔を上げた。


「お前は、あの男のことを何も知らない」

「それなら、知っていけばいい」

「きれいごとを言うな」


父親の声が強くなった。


「人を信じるだけで、会社が守れると思うのか?

 信用だけで、給料が払えると思うのか?」


早く成功した男は、言葉に詰まった。


父親の言うことにも、一理あった。

人を大切にするだけでは、仕事は、続かない。


数字も必要だ。

利益も必要だ。


だが...

それでも聞きたかった。


「父さんは......あの人に何をしたんだ?」


父親の手が止まった。


長い沈黙。


やがて父親は、低い声で言った。


「昔、私は、あの男の事業を断った」

「それは、聞いた。

 でも...それだけじゃないんだろ?」


父親は、窓の外を見た。


「私は、あの男の提案を断っただけではない」


ゆっくり続けた。


「ほかの会社にも、あの男と組まないほうがいいと伝えた」


早く成功した男は、息をのんだ。


「どうして…そんなことを......」

「失敗すると思ったからだ」

「だからって…そこまでする必要があったのか!」


初めて、父親に声を荒げた。


父親は、怒らなかった。


ただ...疲れたように目を閉じた。


「......あのときの私は、失敗を恐れていたんだ」

「え?」

「自分が築いたものを失うのが怖かった。

 だから...確実なものばかり選んだ」


父親は、机の引き出しから…

一枚の古い紙を取り出した。


それは…


昔、農家の男が提出した事業計画書だった。


端には、父親の字で短い言葉が書かれていた。


「可能性は、ある。

 だが...今は、組むべきでは...ない」


父親は、その紙を見つめた。


「私は、あの男の可能性を見抜けなかったわけでは...ない」

「……じゃあ、なぜ?」


父親は、答えなかった…。


その代わり、息子に尋ねた。


「お前は、あの男と組んで何を得たい?」

「一緒に、いい商品を作りたい」

「それだけか?」

「……それだけじゃない」


早く成功した男は、拳を握った。


「昔の俺は、相手を切り捨てても...

 成功すればいいと思っていた。

  ・・今は、違う。

   俺は、、自分が何をしてきたのか…ちゃんと向き合いたい」


父親は、黙って聞いていた。


やがて…静かに言った。


「ならば、ひとつだけ教えておく」

「何を?」


父親は、古い計画書を息子に渡した。


「その男が、なぜ今まで事業を

 続けられたのか?調べてみろ」

「本人に聞けばいいだろ」

「本人に聞いても、答えないことがある」


父親の表情が曇った。


「そして...もうひとつ。

 あの男には、私たちが知らない協力者がいた」

「協力者……?」


父親は、うなずいた。


「その人物が、今もあの男を支えているのか…。どうか…。

 それを…確かめてから…決めなさい」


早く成功した男は、古い計画書を見つめた。


そこには、見覚えのない会社名が、小さく記されていた。


その会社名の横には・・・。


自分の父親の名前が、二重線で消されていた。


一方、そのころ・・・。


農家の男の畑に、一台の車が止まった。


降りてきたのは、見知らぬ女性だった。


女性は、畑を見渡し、作業していた仲間に尋ねた。


「ここに、あの人は、いますか?」

「どなたをお探しですか?」


女性は、少し迷ってから…答えた。


「昔、この畑を手放さなければならなかった男のことです」


その話を聞いた仲間の顔色が変わった。


・・・・・。


その男の名前は、農家の男自身も、

長い間、口にしていなかったからだ......。

父親が隠していた過去。


畑の男が語らなかった過去。


二人をつなぐ、まだ...見えない人物。


別々だったはずの道が…

少しずつ一本につながり…始めていた。


次回、「畑を去った男」


女性が探してるのは、いったい誰なのか?


農家の男は、なぜ…その名前を口にしなくなったのか…。


今度は、畑の男の過去が明らかになろうとしていた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。